ストロング・ザ・Fate "完結"   作:マッキンリー颪

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第1話

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師~」

 

 第五次聖杯戦争勃発!

 と、言うことで遠坂の凛ちゃんはサーヴァントを召喚した。

 聖杯戦争といえばサーヴァント、サーヴァントがいなければ始まらないのだから当然である。

 

 このサーヴァント召喚の儀式。

 大昔の魔術師たちの努力と工夫の結晶なだけあって、矮小な身に過ぎぬ下衆人間たる魔術師でも、身に余る大魔術を可能としてくれるわけだが、その上でさらなる利益を求めたいと思うのが人間という種の下衆なところであろう。

 聖杯戦争に参加する魔術師、彼ら彼女らは皆、ただただ過去の英雄、勇者を召喚し供に戦うというだけでは物足りなくなったらしい。

 英霊だったら何でもいい、と言っておけば良いものを、よりよい英雄を、より強い勇者を、より確実に勝利を得るための手駒を、と人の欲望はとどまることを知らない。

 

 ゆえに、ただ儀式の手順に則ってサーヴァントを召喚するような魔術師は希である。

 どいつもこいつも、自分好みの英雄を召喚したいがために、その英雄由来のアイテムを使い、ある程度やってくるサーヴァントを選ぼうということを考えている。

 

 だったら、今ここでサーヴァントを召喚しようという凛ちゃんもそうか? といえば、少し違う。

 彼女は特に英雄を呼ぶための目印となるアイテムを用意しなかった。

 

 これは、人間ごとき矮小な存在が英雄様を選り好みしようだなんてわがままを言えません、という殊勝な態度ではなく、単に期限までに用意できなかっただけなのだが。

 しかしまぁアイテムがなければ誰がやってくるかわからないが、凛ちゃんはアイテム一つ用意できないくらいのスットコドッコイだけど、自分だったら最強のサーヴァントを召喚できるという謎の自信を持って召喚の儀式に挑んでいる。

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 そして、召喚した。

 その瞬間、ズドーンとすごい爆音が響いた。

 まるで何か、超重量の物質が落下したかのような音だ。

 近所迷惑にも程がある、遠坂ハウスはやたら大きいのと、魔術的な結界を張っているおかげで音漏れしにくいようになっているのだけど。

 

「!?」

 

 音の発生源は凛ちゃんの真後ろ!

 驚いて振り向くとそこには……

 

「呼んだか?」

 

 身長3メートルに達しそうな巨人がいた。

 

 縦にも横にもでかく、分厚い肉厚を持つ剣道着に似た防具に身を包んだ大男である。

 剣道の防具に似たような鎧を身にまといながらも、タイツなのか地肌なのかわからない腕はパンパンに筋肉が詰まっていて、腕一本で凛ちゃんより質量があるんじゃないかと思えるほど。

 そんな男が、剣道の面越しでもわかるほどに血走りぎらついた目で、凛ちゃんを睨んでいる。

 

 もし凛ちゃんが犬にビビり強敵を前にしたら仮病で誤魔化そうとする、ギャグマンガの主人公のような性格だったなら盛大に漏らしているほどの威圧感ではあるが、凛ちゃんは尊大で傲慢な魔術師である。

 キリリと気を引き締めて対応する。

 

「あ、あ、あああ、あ、あなたが、わ、わわわ、わっわっわ、私の……サーヴァント……ですよね?」

 

 とはいえ怖いので態度は低めだった。

 

「グロロロー」

 

 これが歴代の聖杯戦争参加者中、最強のタッグが誕生した瞬間であった。

 

 

「え、ええと……サーヴァントとマスターの連携を確かなものにするために、私たちはお互い情報交換が必要なのだけど」

「グロロー、お前たち下等人間どもであればタッグを組む際に入念な打ち合わせも必要であろうが、完璧な実力を持つ我ら完璧超人ならばどのような条件であっても十全な力を発揮できるのでそんな打ち合わせなど必要ないのだ~」

「いや、あの、それでもちゃんとクラス名と真名、それにあなたの聖杯に託す願いを聞いておくのがマスターとしてのマナーなので」

「グロロー、ならば仕方あるまい。たまにはきさまら下等以下の下衆人間に合わせてやるのも一興というものよ」

 

 正直凛ちゃん、かなりイラッと来てるけど、我慢の子である。

 だって怖いもん。

 

(サーヴァントって全部こんなに怖いのかしら……こんな威圧感を持った英霊が7人も戦うのなら、確かに魔術師が戦いの主役になれないのも当然だわ)

 

 そしてサーヴァントという存在全てに対しちょっと勘違いしてしまう凛ちゃんであった。

 

 

「私はストロング・ザ・武道のサーヴァント……超人閻魔だ。まぁ、真の名前は他にもあるのだがお前には言う必要もあるまい」

「ストロング……え? なにそれ、イレギュラークラス? ていうか閻魔? ……え? 騙りじゃなくて? それって英霊を飛び越えて神の領域なのでは……」

「私のことは武道と呼べばいい」

「ア、ハイ」

 

 凛ちゃんは混乱している!

 

「そして聖杯に託す願い……それはな」

「ごくり」

「ない! そんなものはないのだ~! そもそも願いなどというものは自分の実力で掴み取るものよ。それを他人任せに頼ろうなどと……きさまらまさに下衆の行いと知れ~!」

「す、すみません!」

 

 武道のさらなる威圧! 凛ちゃんの混乱はさらに深まった!

 

「ま、正確に言うと私とて叶えたい望みはある……が、それを叶えるのは自力でやってこそよ! ゆえにこの聖杯戦争は一種の前哨戦、ここで下等サーヴァントどもを粛清し容易く他人の願いを叶えるなどというおごり高ぶった聖杯とやらも完全に破壊してくれるわ!」

 

 それが武道の望みであった。

 とんでもないことを言っているのだが、幸運なことに凛ちゃんは既に恐怖で気絶していたので聞いていなかった。

 

 

 

 

 そして翌日。

 前日の召喚の疲れと恐怖による気絶から正直コンディションは良くないが、実家の家訓、いついかなる時でも優雅であれという教えに従って凛ちゃんは学校に登校する。

 なかばやせ我慢に近いその行動だが、武道にとっては高評価に値した。

 

 自分の定めた掟に従う、それは己を律する完璧超人と似た所があるからだ。

 

(グロロー、もしお前が優雅さを忘れたのならば自害するのだろう、そのときはお前の最期を見取ってやろうではないか~)

 

 かなり物騒な勘違いもセットでの武道の評価だが。

 代々の遠坂家の人たちも、常に優雅さを保つようにと律することはしても、優雅さを忘れたら自害するなんてルールは持っていないというのに。


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