Summon Devil   作:ばーれい

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第50話 機械遺跡の悪魔

 バージルとアティがファナンに向かってから今に至るまで、ただ一人ゼラムに残ったポムニットは、黙々と掃除や洗濯などの家事をこなしていた。まだそれほど長くはこの聖王都にいるわけではない彼女でも、ゼラムに漂う戦いの匂いは気付かないわけはなかった。そうでなくともここ最近のゼラムの雰囲気は一年前のサイジェントに酷似しているのだ。

 

 おまけに昨日、ゼラムの騎士団は街を出ていったのだ。彼らの様子を見る限り、戦いに行くのは間違いないだろう。もちろん正式に通達されたわけではないが、それでもゼラムに住む人々は誰もが戦いが近いことを敏感に感じ取っていたのである。

 

 それでも人々が逃げようとしないのは、聖王国の最強のゼラムの騎士団のことを信頼しているということもあるが、それ以上に聖王都が戦禍を被ることはない、ここにいれば安全だと思っていたのだ。

 

 聖王国建国以来、主に旧王国からの侵攻は幾度となく繰り返されてきた。それでも戦争の被害が聖王都にまで及んだことは一度としてなかったのだ。だから今回も大丈夫だろうと勝手に思い込んでいたのだ。

 

(本当に大丈夫かな……)

 

 さすがにポムニットはゼラムが本当に安全な場所であるか、少なからず危機感を抱いており、不安に思っていたことも事実だ。それでもポムニットにゼラムから逃げるという選択肢はなかった。バージルとアティの帰ってくる場所を守らなければならないのだから。 

 

「こんにちはー」

 

 そこへ聞きなれた声が玄関の方から聞こえてきた。

 

「いらっしゃーい。何か淹れますから座って待っててください」

 

 訪ねてきたのは蒼の派閥の召喚師のミントだ。以前バージルが頼まれた仕事に同行した時に初めて会って以来、年齢が近いこともあって、友人としてよく会っているのだ。

 

 顔だけ玄関に出したポムニットは、そうミントに伝えると台所でお茶の準備をし始めた。

 

「ごめんね、急に来ちゃって……」

 

 ミントの申し訳なさそうな言葉にポムニットは「全然いいよー」と軽く答える。一人では変に物事を悪く考えてしまうため、ミントの来訪はポムニットにとってもありがたいことだったのだ。

 

 それから少ししてポムニットは、二人分のお茶を持って友人の待つテーブルまで行った。椅子に行儀よく座っていたミントは憂いを帯びた表情をしており、いつもより暗く元気がない印象を受けた。そうなった理由が気になりはしたが、とりあえずポムニットはいつも通り振舞うことにした。

 

「お待たせしました。温かいうちに飲んでくださいね」

 

「うん、ありがとう……」

 

「…………」

 

 暗い表情のまま、力のない言葉で礼を言ったミントを心配そうにポムニットは見つめる。そのまましばらくは、二人とも無言でお茶を飲む音だけが家の中に響いた。

 

「……ところで今日はどうしたんですか? いつもより元気がないように見えますけど……」

 

 ポムニットは意を決して尋ねた。もしかたら聞いてはまずいことかもしれないが、いつもは朗らかな笑顔を浮かべている友人が、似合わない暗い顔をしているとあっては放っておけなかったのだ。

 

「……実は、ちょっと不安で……」

 

 絞り出すような声でミントはそう呟いた。小さな声だったが、彼女に意識を傾けていたポムニットには十分聞き取ることできた。

 

「もしかして……、戦争に……?」

 

 今のゼラムに住んでいて、不安になるとすれば戦争に関することだろうと考えたポムニットはそう尋ねたが、ミントはそれを首を振りながら否定する。

 

「ううん、違うの。私は先輩とは違って選ばれなかったんだけど、それでも、もし悪魔が来たら残った人だけで戦わないといけないから……」

 

 確かにポムニットの言葉自体は外れていたが、ミントが不安げな様子の原因は、悪魔との戦争にあるという予想は間違いではなかったようだ。

 

 もしも戦争が聖王国側の思惑通りに進んでいれば、ミントが不安がることはなかっただろう。本来であれば今頃、ゼラムには悪魔の総数が判明して不要となった騎士たちが戻っているはずだった。そして彼女ら召集されなかった召喚師達は、万が一ゼラムが悪魔から襲撃された時には、協力して聖王都の防衛にあたる予定だったのだ。

 

 しかしそれは、もはや机上の空論に過ぎない。二人には知る由もないが、大平原で戦う聖王国の軍勢に戦力を戻す余裕など生まれなかったのだ。ただそれでも、ミントはゼラムに何かあったときには戦わなければならない。予定した戦力がこないからといって派閥総帥の命令が無効になるわけではないのだ。

 

 そもそもミントが戦いに向いていない性格だということは、以前の仕事の時にポムニットも知っていた。おまけに相手が多数の悪魔となると、はっきりいって彼女を戦わせるのは無謀だ。

 

「それならもしもの時は私も一緒に戦いますから! だから元気出して……、ね」

 

 だからポムニットはもしもの時は自分も彼女と共に戦うつもりだった。彼女自身もあまり戦いは好きではないが、それでも一年前には僅かな時間とはいえ悪魔とも戦った経験がある。それを考えれば少なくともミント一人で戦わせるよりは、危険は少ないだろう。

 

「でも……」

 

「大丈夫です! これでも私、バージルさんに鍛えられていましたから!」

 

「ええっ!? ほ、本当に!?」

 

 胸を張って言うポムニットにミントは思わず聞き返した。もっとも、彼女が驚いたのはポムニットが戦えるということではなく、あのバージルが戦い方を教えていたということだった。

 

 ミントのバージルに対する印象は、悪い人ではないけれど不愛想で冷たい人というものだった。そのため、よくポムニットは一緒に暮らせるなあ、と思っていたくらいだ。

 

 そんな彼がいくら気心の知れたポムニットが相手とはいえ、人にものを教えていたという事実は、ミントのバージルに対する印象を変えるには十分すぎるインパクトがあったようだ。

 

「ホントです! だから遠慮せずに頼っていいんですからね!」

 

 とは言うものの、ポムニットには不安なところもある。

 

 それは、まだミントに自分が半魔であると告げられずにいることだった。

 

 召喚師に限らずリィンバウムの人間は召喚獣に対する偏見が強い。差別的だと言い換えても間違いではない。

 

 それはリィンバウムがかつて、四界の者たちから侵攻を受けたことに起因するものであるため、非常に根深い問題なのだ。しかし、そうした召喚獣を呼び出し利用することによってこの世界は発展してきたため、召喚獣は差別の対象であると同時に発展に欠かせない存在であるという矛盾を抱えているのである。

 

 そうした人々の中で召喚術という力を使え、特権意識が強いのが召喚師だ。それだけに召喚獣への偏見は、一般人よりも強いものが少なくない。

 

 もちろんポムニットは、ミントがそうした類の人間ではないということは十分に分かっている。それでも出自を言わなくても済むのなら、そうしたいと考えてしまうのだ。

 

 実際、これまではそれでも全く問題はなかった。しかし、今後戦うことになるかもしれない悪魔を相手に、人の姿だけで倒すことできるとは限らない。下級悪魔以上の強さを持つ存在が相手であれば、半魔の姿にならざるを得ないだろう。

 

 それでも、結果的にミントの縁が切れようと彼女を守ってみせる。ポムニットは大切な友人のため、人知れずそう決意するのだった。

 

 

 

 

 

 同じ頃、アルミネスの森に辿り着いたハヤトたちは、ここに足を運んだことのあるマグナを先頭に森の中を進んでいた。その後ろにはアメル、クラレットの順でつき、ハヤトは一番後ろを歩いていた。

 

「静かですね……」

 

 鳥のさえずりはおろか、虫一匹すら見つけられない。そんなアルミネスの森を歩いたクラレットは、率直な感想を言った。

 

「ああ。話し声も聞こえないし、空振りの可能性もあるかもな」

 

 これだけ静かなのだ。話し声の一つも聞こえてこないところを見ると、もしかしたらこの森には誰もいないのかもしれない。

 

 そう思ったハヤトだったが、マグナは即座にその考えを否定した。

 

「いや、その可能性はないと思います」

 

 振り返った顔には緊張の色が見て取れる。そんな彼の様子を見てハヤトはもう一度周囲を警戒しながら尋ねた。

 

「なんでそう思うんだ?」

 

 その疑問に答えたのはマグナの後ろを歩くアメルだった。

 

「この森には結界があって誰も入れないようになっていたんです。……でも、それが今はもうないんです」

 

「ということは、誰かが壊したか、解除したか、ですね」

 

 クラレットがありうる可能性を挙げた。とはいえ重要なのは結界が消失した理由ではなく、誰がなんのために結界を消失させたのか、である。

 

「どっちにしろ、あまりいい予感はしないな。この先に例の召喚兵器(ゲイル)ってやつがあるんだろ?」

 

 この森に何があるかは、ここへの道中にマグナとアメルの口から聞いている。知ったからこそ召喚兵器(ゲイル)というものをその誰かに渡すわけにはいかないのである。

 

 ハヤトの質問には直接見てもらったほうがいいと考えたマグナは、若干の間をおいて正面にある建造物を指し示した。

 

「……あれです。あれが召喚兵器(ゲイル)が封印されている遺跡です」

 

 それは木々に隠れてはいるものの、明らかにリィンバウムの建築レベルを超えた建物だった。召喚兵器(ゲイル)がロレイラルの技術を応用していることから、この遺跡にもロレイラルの技術が用いられているのだろう。

 

「中に入ることはできるんですか?」

 

 一見すると入り口らしきところは見当たらない。不思議に思ったクラレットがマグナに尋ねた。

 

「この遺跡は召喚兵器(ゲイル)を造ったクレスメントやライルの一族だけ起動することができるんです」

 

 そう答えたマグナは遺跡に自分たち四人を中に入れるよう命令した。

 

 それを受けた遺跡から放たれた光が四人を包み込んだ。眩しさから一瞬閉じた瞼を開けると、そこには先ほどの森の中ではなかった。

 

(まるでゲームみたいな移動だな)

 

 それを体感したハヤトは胸中で呟いた。彼がまだ那岐宮市で普通の高校生だった頃にやっていたゲームで描かれるような移動法だったのだ。

 

 そして四人が中を調べようとした時、奥の方から声がかけられた。

 

「これはこれは、よくいらっしゃいました。歓迎しますよ」

 

「レイムさん!?」

 

 まさかここにレイムいるとは思わなかったアメルが、声を上げた。彼女の後ろにいたハヤトはサモナイトソードを構えながら、自分の横で「まさか」という表情をしているマグナに言った。

 

「マグナ、どうやらここに入るには別の方法があるみたいだぜ」

 

「そんな、どうして……?」

 

 信じられないというような表情をするマグナを見たレイムは、より一層楽しそうな笑顔を浮かべた。

 

「教えて差し上げましょうか? なに単純な話ですよ。私は遺跡の起動に必要な声紋も魔力もパスワードも、全てあなた方のご先祖からいただいたのですよ。人間の血液にはその人物の知識や魔力が溶け込んでいますからねぇ」

 

 楽しそうにレイムが言う。血を抜き取りそこから知識や魔力を抜き取るなど、普通の人間であれば嫌悪感を催すような、あまりにもおぞましいことだった。

 

「ひどい……!」

 

「惨い……惨すぎます……」

 

「ふふふふ。この『血識』というものは非常に便利なものでしてね。これを使ってガレアノたちに召喚術を使わせることができたのですよ」

 

 本来、召喚獣と誓約するには「真名」が必要となる。しかしそれは召喚師にとって非常に重要なものであるため、厳重に管理されている。それゆえ召喚術は限られた者にしか使うことはできないのだが、レイムは自らが「血識」と呼ぶ、血液から抽出した知識を配下の悪魔に与えることで召喚術を行使できるようにしたのだ。

 

「どの血もなかなかのものでしたが、やはり一番の美味はあなたのご先祖でしたよ! あはははは!」

 

「あんたは……!」

 

 怒りに満ちた視線をレイムへと送る。だが、彼を許せないのはマグナだけではなかった。

 

「なんてことを……!」

 

 元来、曲がったことが嫌いなハヤトだ。人を人とも思わないレイムを相手に怒るのは当然の流れだった。しかし二人の視線を軽く受け流したサプレスの悪魔はさらに言葉を続けた。

 

「そうそう、誓約者(リンカー)さん。あなたたちにも感謝しなければいけませんね」

 

「!?」

 

 まさかレイムが自分たちのことまで知っているとは思わなかったため、ハヤトもクラレットも驚きの表情を浮かべた。

 

「一年前に無色の派閥が行った儀式で随分と力を取り戻させていただきましたからね。……特にクラレット、派閥の一員として儀式に加担していたあなたにはより感謝しましょう。あなたのおかげで私はこの遺跡を手に入れることができたのですから! ひゃーはっはっはっはっ!」

 

 レイムの言葉は悪魔としての特性か、ナイフのように鋭くクラレットに刺さった。もう終わったはずの出来事が、今の今まで尾を引いていることを知った彼女は罪悪感に苛まれていた。

 

「や、やめて……」

 

 弱弱しく呟きながら耳を塞ぐ。それでも悪魔の笑い声はいやに響いていた。

 

「いい加減にしろよ……!」

 

 瞬間、レイムは笑い声を止め、ハヤトに視線を移した。彼からは人のものとは思えない量の魔力が感じられた。誓約者(リンカー)という称号は伊達ではないことをそれが証明している。

 

「お前はもう謝っても許さねぇ……!」

 

 サモナイトソードを構えたハヤトは、レイムとの距離を一気に詰める。

 

 クラレットはもう十分に苦しんでいる。それを何の関係もない、むしろそれで得をしてきたような奴に好き勝手に言われるのだけは、ハヤトはどうしても我慢ならなかったのだ。

 

「あは、あはははははは! さあ、誓約者(リンカー)がいかほどのものか、見せていただくとしましょう!」

 

 迫ってくるハヤトを見ながら叫んだレイムは手を上に掲げ召喚術を発動させた。

 

 現れたのは闇の力を放つ無数の武器だった。それはレイムが手を振り下ろすのに合わせ、一斉にハヤトに向かって襲い掛かった。

 

「っ! 鉄壁の機盾兵(アーマーチャンプ)!」

 

 彼を守るべくマグナは咄嗟に、両腕に強固な盾を装備した機界ロレイラルの召喚獣を召喚した。レイムが放った「ダークブリンガー」からハヤトを守るように現れた鉄壁の機盾兵(アーマーチャンプ)は放たれた武器を難なく受け止めて見せた。

 

 もちろんハヤトも何もしなかったわけではない。サモナイトソードを振ってレイムと同じように無数の剣を召喚していたのだ。「シャインセイバー」と名付けられたその光の刃は、迎え撃つべき闇の刃を失ったため、攻撃目標をその召喚主たるレイムへと変えた。

 

「助かったよ、マグナ……」

 

「はは、これなら何もしなくてもよかったかな?」

 

 ハヤトに礼にマグナは彼の横に歩きながらおどけるように返した。実際、鉄壁の機盾兵(アーマーチャンプ)を召喚しなくともハヤトはダークブリンガーを防いでいただろうことは想像に難くない。

 

「……なるほど、確かに噂に違わぬ力のようだ」

 

 シャインセイバーを食らってなお、レイムに大きなダメージは見られない。やはり悪魔という存在は人間よりもかなり頑強なようだ。

 

「それなら……!」

 

 レイムの声が聞こえた瞬間に二人は既に次の召喚獣を呼び出していた。マグナが鬼妖界の強力な毒の呪いを放つ妖怪「がしゃどくろ」を、ハヤトは強力な電気を武器とする機界の召喚獣「エレキメデス」をそれぞれ召喚した。

 

 毒と電撃による連続攻撃がレイムを襲うが、それでもこの悪魔は平然としていた。

 

「っ!」

 

 マグナは即座に剣を抜き、接近戦に持ち込むべく走った。ただでさえこちらは四人しかいない。長期戦は望むところではないのだ。それゆえに彼はこれ以上レイムに反撃させることなく、倒しきるつもりだったのだ。

 

 そして剣をレイムに叩き付けるように振り下ろす。マグナの使う剣は、ごく普通のありふれた剣ではあるが、戦闘中はほぼ常時、魔力を刀身に注ぎ込むことで、下手な名剣以上の強度を与えているのだ。

 

 腕力を活かした豪剣を使うルヴァイドと打ち合っても、剣に傷つかなかったのはこうした理由があったからだ。

 

「剣なら私に勝てるとでも思いましたか?」

 

 マグナの一撃を片手で持った剣で受け止めたレイムが笑う。使っていない方の手にはサモナイト石を握っている。召喚術を使うつもりだ。

 

「一人で勝てるとは思ってないよ!」

 

 その言葉を言い放った瞬間、ハヤトが斬りかかった。彼もマグナの意図を察して、接近戦で勝負をつけるつもりだったのだ。

 

 反射的に身を引いて誓約者(リンカー)の斬撃を回避したレイムだったが、彼らの攻撃がそれで終わったわけではない。

 

 マグナが攻めればハヤトはサポートに、ハヤトが攻めればマグナがサポートに、というように猛攻を仕掛けたのだ。

 

 本当に共に戦うのは今回が初めてかと疑うほど、ハヤトとマグナの連携は洗練されており、レイムは防戦一方であった。いかに悪魔でもリィンバウム最高とも言える比類なき魔剣を振るうハヤトと、莫大な魔力に裏付けされた剣戟と召喚術を巧みに組み合わせるマグナの前に、攻勢に転じるなど不可能だったのだ。

 

「はあっ!」

 

「ぐっ……」

 

 そしてついにレイムの剣はハヤトのサモナイトソードに弾き飛ばされた。間髪入れず、再び振り上げたサモナイトソードに魔力を集中させる。

 

「終わりだ……!」

 

 魔剣を振り下ろすと同時に集中させた魔力をレイムに向けて放った。

 

「こいつも喰らっとけ! ボルテージテンペスト!」

 

 同時にマグナが召喚術を使う。先ほどハヤトが召喚したエレキメデス以上の、雷の暴風がレイムを中心に巻き起こった。

 

「ギャアアアアッ!」

 

 レイムの悲鳴が示すように今度は手応えがあった。うまくいけばこれで倒せたかもしれないし、少なくとも手傷を与えることはできただろう。そう確信した二人は様子を見ることにした。

 

 遺跡の中は、彼らの放った一撃の威力を示すように、相当ボロボロになっていた。壁もいくつか壊れ、それが埃となって視界を遮っていたのだ。

 

 そして、それが収まったところに現れたのは、どんどん朽ちていくレイムの体だった。

 

「……勝ったんですよね?」

 

 実質二人だけで倒したのだ。まさか、こうもうまくいくとは思わなかったマグナは確認するように尋ねた。

 

「思ったよりあっけなかったけどな」

 

 剣を納めながらも笑顔でハヤトは答えた。

 

 そうしてここから出るにはどうしたものかと見回した時、警報音が周囲に響き渡った。

 

「な、なんだ……?」

 

 思い寄らない事態に困惑した四人のもとに、聞き覚えのある声がどこからともなく聞こえてきた。

 

「いい! いいですねえ、この体は! ニンゲンの体よりも遥かに素晴らしい!」

 

「レイム!? 生きていたのか……!?」

 

「おやおや、もしかしたらご存じないのですか? 悪魔はねえ、人間の負の感情を魔力に変えることができましてねぇ。つまりはどこかの誰かが始めた戦争が続いている限り、私を滅ぼすことなど不可能なんですよ」

 

 勝利を宣言するような笑い声がそこかしこから聞こえてきた。どうやらレイムは依り代となっていた人の体を捨て、この遺跡そのものを新たな依り代としたようだ。

 

「そうそう、あなた方にはまだ本当の名乗っていませんでしたね。せっかくですし、名乗りを上げるとしましょうか。……私は悪魔の王メルギトス。いや、この遺跡と融合したんですから、『機械魔メルギトス』と名乗らせていただきましょうか」

 

 新たな体を手にして勝利を確信したのか悪魔は、メルギトスという本当の名前を告げた。

 

「それに本当にこの体は素晴らしい!」

 

 そしてそのまま力を放ち遺跡全体を飲み込んでいく。

 

「みなさん、あたしの周りに、早く!」

 

 アメルの言葉に急かされ三人は彼女の周りに集まった。するとアメルの背中から光に包まれた白い羽が現れ、暖かな光が全員を包み込んだ。彼女が天使の生まれ変わりだということは聞かされていたが、こうして直にその力を見るとあらためてそれを実感した。

 

 その光が収まるころにはメルギトスもその姿を現していた。

 

「いかがですか? 私の新しい体は」

 

 もはや人の面影は全く残っておらず、魔力によって歪んだ遺跡そのものがメルギトスとなったようだ。それでも、悪魔と化したガレアノたちの姿に似た箇所から声が聞こえてくるところを見ると、そこが核らしいということはなんとなくわかった。

 

「…………」

 

 狙うべき場所を確認したハヤトとマグナは、頷き合い剣を構えた。たとえ相手が不死であろうと、逃げるという選択肢な二人にはなかった。

 

「もう逃げません、私も戦います……!」

 

 ハヤトの隣にきたクラレットも、杖を持つ手を強く握って言った。もしかしたらさきほどの戦いで、全く役に立てなかったことを悔やんでいるのかもしれない。

 

「いくら気勢を上げてもキサマらは勝てぬッ! ニンゲンがこのメルギトスに勝てるハズはないのだアァ!」

 

 圧倒的な力を見せたにもかかわらず、まだ抵抗しようする四人を見て、苛立ちが募ったのか、本性を現したメルギトスが口汚い言葉で吼えた。

 

 そしてそれを合図に戦いの第二幕が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 




とうとう50話までたどり着きましたが、まさかのバージルの出番なしの回でした。次回はちゃんと出る予定です。

次回は来週7月7日(金)午前0時に投稿予定です。

ご意見ご感想等お待ちしてます。

ありがとうございました。




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