Summon Devil   作:ばーれい

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第43話 ファナンの戦い 前編

「ふう、とりあえずこれで終わりかな」

 

 ハヤトが肩で息をしながら周囲を見回し、敵がいないことを確認すると手にしたサモナイトソードを納めた。彼が今まで戦っていたのは、ここしばらくサイジェント周辺に現れているサプレスと魔界、二種の悪魔だった。

 

 どちらも一年ほど前の無色の派閥の乱の後からよく現れるようになったのだが、最近は同時に出現する上、あまつさえ互いを敵視していないのか、連携染みた攻撃をしてくる始末だ。

 

 それでも住民の被害が極めて少ないのは、一年前の戦いを経て経験を積んだ騎士団の功績によるところが大きい。魔界の悪魔への対処もアティとバージルがまとめたものを活用し、有効な戦術を確立していた。

 

 そして一年前の戦乱を共にくぐり抜けたハヤトの仲間達はそれぞれの道を歩んでいく者が多かった。レイドやラムダは騎士団へ戻り、蒼の派閥の召喚師であるギブソンやミモザは、聖王都ゼラムで新たな任務に就いているらしい。その他にも元々の暮らしに戻った者も少なくない。

 

 少しずつ周りの環境が変化していく中、新たな誓約者(リンカー)となったハヤトはサイジェントに留まり、己の務めを果たしていた。それにはエルゴの守護者であるカイナやエスガルド、それにエスガルドと共に暮らしていたエルジンという年少の召喚師も、各地の調査といった情報収集の面で協力していた。

 

 メイトルパのエルゴの守護者であるゲルニカは、その姿から調査を行うには不向きであるため、戦闘技術に関してはいまだ未熟なハヤトの護衛も兼ねて稽古相手を務めていた。

 

「お疲れ様です、ハヤト。怪我はありませんか?」

 

「ありがとう、クラレット。大丈夫だよ」

 

 クラレットも今まで戦っていたのに自分を気にかけてくれる彼女に礼を言った。

 

「とりあえず戻ろうか、さすがに今から稽古するってわけには行かないしさ」

 

 そうして二人は並んで歩き出した。

 

 今いる場所はサイジェントの外にあるハヤトがこの世界に来た時にいた場所だった。彼がゲルニカと稽古する時はいつもこの周辺ですることにしていたのだ。

 

 ハヤトがこうした稽古をしているのは一年前の一件で自分の未熟さを痛感したからだ。あの時アティやポムニット、バージルが来ていなかったら、果たしてあの魔王を倒すことはできただろうか。クラレットを守ることができただろか。

 

 ハヤトはバージルのような絶対的な力を欲しいと思ったことはない。それでも、自分の隣を歩く大切な人を守れるくらいの力は欲しかった。

 

 そうでなくとも今のハヤトにはリィンバウムと四界の間の結界を守り、いざとなればリィンバウムへの脅威を払う役目がある。カイナ達エルゴの守護者たちも協力してくれているが、それでもあまりにも大きいものを背負っていることは間違いない。

 

 それにはクラレットも協力しており、空席だったサプレスのエルゴの守護者を務めている。それは当然、少なくない危険に晒されることを意味する。

 

 もちろんそのことは彼女自身も承知の上であり、守ってもらいたいと思ってはいないだろう。それでもハヤトがクラレットを守りたいと思っているのは、くだらないかもしれないが彼の男としてのプライドからなのである。

 

「あ、そういえば帰りに買い物を頼まれているんでした。ハヤトは先に戻っていてください」

 

 サイジェントの門まで戻ってきたときクラレットはリプレに頼まれたことを思い出したようだ。

 

「いや、手伝うよ。これでも最近は鍛えているからさ。荷物持ちくらいは任せてくれよ」

 

「もう……、ご褒美は出ませんよ」

 

 ハヤトの申し出にクラレットはそう答えたものの、顔は嬉しそうに笑っていた。そうして二人で買い物に行くことにした。

 

 リプレから頼まれたものは主に食材だった。今フラットにいるのは一時より少なくなったとはいえ、それでも大家族と言っていい人数の料理には相当の材料が必要なのだ。

 

 そうして四件ほどの店を回ると頼まれたものは全て購入できた。

 

「えっと……うん、これで全部だな」

 

 ハヤトが最後に買った調味料の種類を確認しながら言った。今日、頼まれたものは主に生鮮食品といくつかの調味料だった。その量は買い物籠二つ分になったため、ハヤトが一緒に来ていなかったら、もとより体力的にはリプレよりも劣るクラレットは持って帰るのに苦労しただろう。

 

「やっぱりこういうのを買うと冷蔵庫があればなぁ」

 

 生鮮食品でいっぱいになっている籠を見ながら呟いた。小麦粉とは違ってこの類の食品は長持ちせず、また保存する方法もないため頻繁に買いに行かなければならない。ハヤトの故郷では一家に一台が当たり前な冷蔵庫が欲しくなるのもしょうがないだろう。

 

「確かにこういうものでも保存できるのは便利ですよね」

 

 ハヤトは無色の派閥の乱の後、一度生まれ故郷に帰っている。その時にはクラレットも同行したため、彼女もその世界のことはある程度知っているのである。

 

「よし! それじゃあ早いとこ戻ろうぜ」

 

 気合を入れ直して二つの買い物籠を持ったハヤトはクラレットと共に家路を急いだ。

 

 

 

 

 

 翌日、ハヤトはフラットのアジトである孤児院でクラレットやレイド、ガゼルと話をしていた。その話題は昼前に届いたエスガルドからの手紙についてだった。

 

 手紙の内容は彼とエルジンがいるのは聖王都ゼラムや港街ファナンがある中央エルバレスタ地方でも、こちらと同じように悪魔が現れていることが書かれていた。ただ、書き方からその頻度はサイジェントよりも高いような印象を受けた。

 

 それに旧王国との戦争が始まるとの噂や召喚師の連続失踪事件など、悪魔の一件がなくとも平穏とはほど遠いようだ。

 

「俺は調べてみるべきだと思う。根拠はないけど……何か、嫌な予感がするんだ」

 

 ハヤトは率直に思ったことを伝えた。

 

「……ふむ」

 

「けどよぉ、いくら嫌な予感がするからって、今すぐみんなで行くわけには行かないぜ。今日だってエドスの奴は仕事で来られなかったしよ」

 

 レイドは少し考えているようで相槌を打っただけだが、ガゼルは調査に出かけるのにあまり乗り気ではないようだ。エドスもレイドも最近は忙しいようで長期間仕事を休むのは難しいだろう。

 

 さらにみんないなくなればフラットに残るリプレたちは誰が守るのだろうか。今はガゼルかハヤト、クラレットの誰かは必ず残るようにしているからいいものの、みんなで調査に行くとなればそれもできなくなる。

 

「なら、ここは二人に行ってもらうのはどうだ?」

 

 そう提案したレイドも内心では現段階での調査には賛成しかねていた。確かに手紙の書き方ではサイジェント以上の頻度で悪魔が現れているように受け取れるが、それとて書き方次第だ。それに実際に頻繁に現れていたとしてもそれだけではわざわざ調査に行く理由にはならない、それが正直な考えだった。

 

 しかし同時にレイドはハヤトの言葉にも賛成できる部分があった。彼も現状に不安を抱いていたのである。だからこそハヤトとクラレットの二人に行ってもらうという譲歩案を提示したのだ。

 

「俺はそれで文句ないよ」

 

「私もかまいません」

 

 ハヤトは調べに行けるのなら文句はなく、クラレットも二人で行くことには異論はなかった。

 

「……チッ、しょうがねぇな。残っててやるから行ってこいよ」

 

 大事な仲間のハヤトがそこまで行きたいというのなら、ガゼルとしても強硬に反対するつもりは毛頭なかった。むしろクラレットの代わりに自分が一緒に行ってもよかったくらいだ。

 

「……悪い、ガゼル」

 

「へ、そう思うなら手ぶらで帰って来るなよ」

 

 自分のわがままを通したことを済まなそうに謝るハヤトにガゼルは冗談めかして言った。

 

「……決まりだな。私は船の手配をしておこう、二人は出発の準備をしておいてくれ」

 

 ハヤトとクラレットが頷くのを見てレイドは部屋を出て行った。それと入れ替わりにリプレが入ってきた。もともと防音など考えられていない建物だ。彼女に先ほどの会話が聞こえていても不思議ではない。

 

「二人とも出かけるのよね、それならいろいろ準備しないと!」

 

 リプレも二人が出かけることに寂しさを感じぬわけではないが、それ以上にしっかり準備して送り出して上げたいという気持ちの方が強かった。

 

「おいおいリプレ、まだ時間はあるだろ? そんなに急いでやる必要はないって!」

 

 気が急いているリプレを宥めようとガゼルの言葉を聞いた

 

「あんたと違ってクラレットは女の子なんだからいろいろ準備が必要なのっ! それじゃクラレット、ちょっと買い物行きましょう。あ、二人とも留守番よろしくね」

 

 リプレはそう言ってクラレットを連れて出かけて行った。

 

「……大人しく待つとするか」

 

「……そうだな」

 

呆気に取られてそれを見ていたハヤトとガゼルは、やはりリプレがフラットのヒエラルキーの頂点にいることを改めて実感するのだった。

 

 

 

 

 

 同じ頃、バージルは蒼の派閥の本部でエクスと会っていた。ここしばらくはアティが来たこともあって、黒の旅団やデグレア、そして悪魔に関連することから遠ざかっていたが、今日になってようやくバージルは動き出したのだ。

 

 黒の旅団、ひいてはそれを操る者が動き出すとすればそろそろだろう。既にゼラムを守る騎士団の動きが活発になっている。これは大規模な軍事行動の兆候と言える。ファナンが狙われていることを考慮すれば、そこへの増援の派遣といったところか。

 

 黒幕が何を考えているかは不明だが、ファナンが強化されるのを待ってから戦いを挑むなど下策中の下策だ。したがってファナンを攻めるとすれば、騎士団が動き出す前ということになる。

 

「なるほど……、トライドラは陥落、次はファナンか」

 

 エクスに会ったのはそれに関連して最新の情報を得るためだった。やはり組織のトップには情報が集まるものなのだ。

 

「そういうこと。この話は金の派閥のファミィ議長から受け取った親書に書かれていたことだけど、彼女からの報告でもそれを否定するものはないね。それに聖王家にも伝えられているはずだから、間違いないと思うよ」

 

「騎士の動きが活発なのもそのためか?」

 

 バージルの確認するような言葉にエクスが答えた。

 

「だろうね。騎士団を動かすくらいだから王家も信じていると思うよ。……それに、僕たちも協力することを決めたしね」

 

 思った通りファナンが攻撃を受けるのはもう間近に迫っているようだ。

 

 トライドラを陥落させ、ファナンを狙う。これは聖王国に対する旧王国の侵攻作戦と考えれば特段おかしなものではないが、旧王国が背後で暗躍する何者かの傀儡と化している以上、別の理由があると見た方がいいだろう。

 

 黒の旅団の狙いはアメルという少女だという話だが、さすがに少女一人のために正攻法でファナンを攻める必要はない。レルム村でしたようにファナンの街中に火を放ち、その混乱に乗じて殺すなり誘拐するなりすればいい。

 

(あの娘が狙いでないとすれば、陽動か、あるいはファナンそのものが狙いか……)

 

 推測はいくらでもできるが、そもそも黒幕の目的自体分かっていないのだ。正解へと辿り着けるはずがない。

 

「そうか、邪魔したな」

 

「……ファナンに、行くつもりかい?」

 

 席を立ったバージルにエクスが声を掛けた。

 

「必要ならな」

 

 短いながらもある意味ではわかりやすい答えだった。バージルの性格なら行くつもりがないならはっきりそう答えるだろう。このような言い方をしたということは十中八九ファナンに行くつもりだろう。

 

「もし行くなら気を付けてね」

 

 社交辞令的な言葉を告げながらエクスはバージルが退室していくのを見送った。

 

 バージルのファナン行は戦い間近の街に住む人々にとってこの上ない援軍になるはずだ。彼ならどんな相手でも鎧袖一触に違いない。

 

「でも、ファミィ議長は苦労するだろうなぁ」

 

 実のところエクスはバージルの振る舞いに腹心の部下からも苦言を呈されていた。最近はそうでないにしても以前の彼は禁書の保管室に頻繁に出入りしていた。

 

 蒼の派閥は表向き政治的関与を避けているが、水面下では聖王家と密接した関係を持っている。それゆえ、表に出すわけにはいかない出来事は少なくはない。エクス自身はバージルに知られたところで言いふらすわけはないと考えているが、さすがに部下はそうはいかない。彼らは派閥そのものすら揺るがしかねない機密の漏洩を心配してエクスに苦言を呈したのだ。

 

 自分のようなものではないにしろ、バージルが関わる以上、苦労はするだろう。だからこそエクスはまだ会ったこともない金の派閥の議長に同情するのだった。

 

 

 

 

 

 それから数日が経過した頃、マグナ達一行はファナンに戻っていた。ここ最近の彼らはアメルの祖父であるアグラバインが生きていることが分かったためレルム村に会いに行った。そこで彼から聞いた話を手掛かりにアルミネスの森を訪れた結果、マグナ、トリス、ネスティ、アメルを取り巻く因縁を思い知らされたのだ。

 

 とはいえ、既に彼らの中では一応の区切りはつけたため、黒の旅団の攻勢が始まろうとしているファナンに戻ってきたというわけだ。

 

「できるならファナンの無事を確認したらすぐルヴァイドと話をしに行きたかったのにね」

 

 トリスはマグナと歩きながら言った。二人はファナンの様子を確認したらバージルから聞いたデグレアの元老院のことについて、黒の旅団の指揮官のルヴァイドに会いに行きたかったのだが、街中デグレアが攻めてくるという噂で溢れかえっており、住民は怯えきっていたのだ。

 

「仕方ないよ、さすがにこんな状況じゃ……。まずは噂の出所を探らないと」

 

 ルヴァイドとまともに話すなど、戦いなしにそれができるとは思えない。つまり少なくともあと一度は黒の旅団と戦う必要があるのだ。しかし、ファナンの街中が混乱している現状では戦いどころではない。下手をすれば暴動といったことにも発展しかねない状況だった。

 

 これではデグレアとの戦いが回避できたとしても本末転倒であるため、マグナ達はこの噂の出元を探っていたのだ。

 

「……って言ってもさぁ、手がかりも何もなしじゃどうしていいかわかんないよ」

 

 トリスが溜息を吐きながら弱音を言った。トリス達以外にデグレアのことを知っているのはファナンの街を実質的に治めている金の派閥だが、その議長であり、彼女の仲間であるミニスの母親でもあるファミィ・マーンは混乱を避けるためという理由でデグレアの情報については一切を伏せることにした。この情報規制はかなり徹底しており、派閥の幹部にすら一部を除き伝えていないため、そこから漏洩したとは考えにくかった。

 

「そうだよなぁ」

 

 トリスの言葉にはマグナも同意した。さきほどから二人で下町や中央通りなど人が多い場所を念入りに調べてみたが、それらしい人物は見かけることはできなかった。

 

 そもそもずっと同じ場所で噂を広めているとは限らないので、とにかく人海戦術で探すしかないのである。

 

 愚痴を言いつつも先ほどまでと同じように調べていたところに、ネスティが慌てた様子で走ってきた。

 

「マグナ、トリス、こんなところにいたのか! 君たちも来てくれ、噂の出所を掴んだらしい」

 

 その言葉に先程までのやる気のなさはどこへやら、二人は真剣な様子で言った。

 

「うん、すぐに行く!」

 

「他のみんなは!?」

 

 ネスティの後ろをついて行きながらマグナは疑問をぶつけた。

 

「アメルに呼びに行ってもらっている、心配するな」

 

 答えに頷きマグナ達は人を避けながらできる限り急いだ。

 

 およそ数分で目的の人物を見つけたマグナは、その人物の名前を呟いた。

 

「レイム、さん……?」

 

 まさか見知った人物だとは思わなかったようで、マグナはもちろんトリスも驚いていたが、それでもレイムが噂を広めた人物であることにどこか納得できる部分もあった。

 

 きっとそれは、バージルからレイムが強い力を持った悪魔だということを聞いたからだろう。実はあの後、レイムについて護衛獣のバルレルやハサハに尋ねてみたのだが、二人ともあまり良い印象は持っていないようだった。

 

 さすがにそれだけで敵であると断定することはマグナにはできなかったが、それでも抱いた疑念はずっと心の片隅に残っていたのだ。

 

「これはこれは、お久しぶりですね。マグナさん、トリスさん。どうかされましたか?」

 

 レイムが柔和な笑みを浮かべて微笑みかけた。それは前に会った時から変わっていないが、バージルから話を聞いた今では彼の笑顔にはどこか侮蔑の感情があるように思えてならなかった。

 

「あなたはどうしてそんな、デグレアが攻めて来るなんて話を流しているんですか?」

 

「私は真実を話しているだけですよ。吟遊詩人としてね」

 

 マグナの問いにレイムは微笑をたたえたまま答えた。戦争が近いという話をしているのに笑みを絶やさないその様は、どこか不気味ですらあった。

 

「それならあなたが悪魔だって話は?」

 

「……どこでそれを?」

 

 トリスの言葉にレイムがさきほどからずっと浮かべていた笑みを消し、能面のような表情を浮かべた。

 

「質問に答えてくれ!」

 

「…………」

 

 声を荒げたマグナにレイムは一転、無言で再び笑みを浮かべた。

 

「二人とも気を付けろ、囲まれてる!」

 

 ネスティの言葉に反応して反射的に辺りを見回した二人は、いつのまにか黒の旅団の者達に囲まれているのに気付いた。数はこちらよりずっと多く、三人ではかなり厳しい。

 

「本来、こういったことは他の者に任せるんですけどねぇ」

 

 そう言ってレイムが兵士たちに命令を下そうとした時、アメルが仲間たちを連れて戻ってきた。彼女らと合流できれば数の不利はなくなる。そこで、兵士たちが仲間に気を取られた隙を見逃さずネスティは召喚術を発動させた。

 

「コマンド・オン、ギヤ・メタル!」

 

 召喚したのは「裁断刃機(ベズソウ)」というロレイラルの召喚獣だ。作業用の機体であるため決して戦闘力は高くないが、それでも囲みを崩すだけの効果はあった。

 

「トリス、ネスを頼む!」

 

 召喚術を使って隙だらけのネスティをトリスに任せ、マグナはベズソウが攻撃を加えた場所に突っ込んでいく。携えた剣に魔力を流して強化し、鎧で守られた兵士の脇腹に全力で叩き付けた。これがバージルなら鎧ごと兵士を両断できていただろうが、マグナでは鎧を完全に斬ることはできなかった。しかしそれでも、剣と鎧がぶつかった衝撃を防ぐことはできなかったのか、兵士は意識を失い倒れこんだ。

 

 そこに囲みを解かせないとばかりに周りの兵士がフォローに入ろうとしたが、それをバルレルとレオルドが抑え込んだ。さらにマグナに遅れて走ってきたトリスとネスティを守るために、陥落したトライドラの砦の一つ、ローウェン砦の守備隊長シャムロックが走っていく。

 

「ようマグナ、今のはいい一撃だったぜ」

 

 いつのまにかマグナの隣には旅を始めた頃からの仲間であるフォルテが立った。大剣を背負い、陽気に笑っているが周囲への警戒は怠らず隙らしい隙は見せていない。

 

「助かったよ」

 

 短く礼を言ったマグナは再び剣を構えた。仲間の方に視線を向けると、強力な召喚術の準備をしていた。自分たちが合流したら放てるように準備していたのだろう。

 

「お待たせしました」

 

「よし! 派手にやってくれ!」

 

 トリス、ネスティと二人に攻撃を仕掛けていた兵士を弾き飛ばしたシャムロックがマグナ達に合流した瞬間を見計らい、フォルテが合図を送った。

 

 仲間の召喚術がほぼ同時に発動し、メイトルパの竜やサプレスの天使、シルターンの鬼などが出現し、兵士たちに攻撃を仕掛けた。それが収まると同時に今度は白兵戦を仕掛けた。

 

 既に包囲網はほぼ崩壊し、周囲は敵味方入り乱れての乱戦の様相を呈していた。

 

 その様子はまるでこれからの未来を暗示しているようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




新年度で環境が変わった方も多い4月ですが、無事に投稿できました。今後も(少なくとも今年くらいは)二週に一度の投稿ペースは守っていければいいなと思っています

さて、次回は4月23日(日)に投稿予定です。

ご意見ご感想等お待ちしてます。

その他、何かありましたらメッセージをお送りください。

ありがとうございました。

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