Summon Devil   作:ばーれい

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今回はグロテスクな表現がありますので苦手な方はご注意を。


第25話 悪魔が蔓延る街

 聖王国の西端に位置するサイジェントは豊かな水源を背景に紡績業が栄えている都市である。キルカの虫の糸からつくられる織物はとても高価で聖王都の富裕層にも人気な逸品である。そのため、このキルカの織物はこの都市の主要産業となっており、紡績都市という二つ名もここからきているのだ。

 

 しかしその反面、庶民には重税を課せられているため貧富の差が激しく、一部にはスラム街ができる始末である。おまけに最近では領主を打倒しようとする革命組織まで現れているらしい。

 

 そんなサイジェントに二人が入った時、最初に見たのは血生臭い戦闘の跡だった。辺りに飛び散っている血、血だまりに沈むもの言わぬ死体。状況から考えて悪魔によるものだろう。

 

「うぅ……」

 

 悲惨な光景から目を逸らすポムニットを尻目に、バージルは集中して周囲の魔力を探る。

 

「……随分と多いな」

 

 どうやら悪魔はサイジェントの北と西にも現れているようだ。ここにもいたことを考えると、三箇所からほぼ同時に出現したことになる。いくらこの世界が魔力が豊富にあるからといって、この頻度ははっきり言って異常だ。

 

 少なくともこの街に満ちている魔力では、これほど多くの悪魔が現れることなどありえない。現段階で原因は不明だが、折を見て調べてみることを心に決めた。

 

 とりあえずはスカーレルの所に行こうと、手紙についていた簡単な地図を頼りに住宅街の方へ足を向けた。

 

 凄惨な光景が広がっていた入口広場を抜けても、辺りにはただの一人も見当たらない。建物の中から人間の魔力は感じるので家の中で大人しくしているだけなのかもしれない。

 

「……留守か」

 

 しばらく歩いてたところで地図に書いてある家に辿り着いたが、中には誰の魔力も感じない。ドアには鍵がかかっていない様子だったが、どこかに出かけているのだろう。

 

 どうやら来るタイミングが悪かったようだ。

 

「あやつに用かな?」

 

 そこへ長い白髪に髭を生やした義足の老人が話しかけてきた。

 

「そうだ」

 

 バージルの姿を見て老人は、一瞬はっと目を見開いたが、すぐ先程と同じ調子で言った。

 

「……今の時間なら向こうの『告発の剣』亭という酒場にいるはずじゃろう。急ぎなら行ってみるといい」

 

「どうします。行ってみますか?」

 

「そうだな、行くとしよう」

 

 スカーレルがの居場所が分かった以上、このまま待ち続けるのは時間の無駄だ。とりあえず老人が示した酒場に行ってみることにした。

 

「ありがとうございます、おじいさん」

 

 ポムニットがぺこりとお辞儀した。老人は微笑をたたえながら頷く。

 

 そんな中バージルは誰にも聞こえないほど小さな声でぽつりと呟いた。

 

「やはり衰えたか……」

 

 バージルには老人との面識があった。老人はかつて島に上陸した無色の派閥の軍勢の中にいたウィゼルという男であった。

 

 ウィゼルとはその時に剣を交えた。上陸した軍勢の中でも突出した力を持っており、バージルもそれなりの力を持って戦い彼の足を斬り落としたのだ。

 

 結局、ウィゼルとはそれっきりではあったが、もしあの後も順調に成長していれば、足の欠損など大した問題ではないほどになっていたかもしれないが、今のウィゼルに以前ほどの力は感じられなかった。やはり時の流れには勝てないようだ。

 

 それこそが悪魔との最大の違いなのだろう。

 

 

 

 

 

 ウィゼルに教えられた酒場は繁華街にあった。繁華街と言っても現在は悪魔が現れているため、家に帰ろうとする人、家族とはぐれてしまった人が溢れ、混乱と狂騒に包まれている。

 

 そのため普段なら買い物する人が集う露店も商売あがったりと店を閉めている。それは二人が目指す「告発の剣」亭でも同じだった。明かりは消え、店の中からも声は一切聞こえない。傍から見れば閉店どころか潰れてしまった酒場とも見えるかもしれない。

 

 しかしバージルは迷うことなく扉を開け、中に入っていく。

 

「悪いけど今は……あら、久しぶりね~!」

 

 その声と共にバージルを迎えたのは、このサイジェントへ来る原因を作ったスカーレルその人だった。カウンターに座りながら酒の入ったグラスを置いた彼は二人をカウンターに座るように促した。

 

「それにしてもよくここが分かったわね。鍵は開けておいたからウチで待ってると思ったんだけど」

 

 そう言いつつ手際よく酒を棚から取り出し。調理台でカクテルを作っていく。そして出来上がったものをバージルに差し出した。

 

「あのジジイに教えられてな」

 

「あら、運がいいわね。あの人、一人ではあまり外に出ないのに。……あ、そっちのあなたはお酒にする? ジュースにする?」

 

「へ? あ、ジュースで……」

 

 急に話を振られたポムニットが驚きながら答えると、スカーレルは果実ジュースをグラスへ注いだ。

 

「はい、どうぞ。ポムニットちゃん」

 

 教えてもいない自分の名を呼ばれたポムニットは尋ねた。

 

「……あの、どうして名前知ってるんですか?」

 

「ふふ、ソノラからの手紙に書いてあったのよ、妹みたいな子ができたってね。……あ、もう知ってると思うけどアタシはスカーレル。昔はカイル一家の後見人をしていてね、バージルや先生とあの島で生活したこともあったのよ」

 

「そ、そうだったんですか……」

 

 ポムニットがスカーレルについて知っているのは、バージルやアティ、ヤード、カイル一家の共通の友人であるということだけだった。カイル一家の後見人であったことはまだしも、かつては島にいたこともあるという話には驚いた。

 

「それで、本題だが」

 

「もう、相変わらずねぇ、あなたは……」

 

「……エルゴの守護者について何か知らないか?」

 

 それからバージルはメイメイとの話の結果、サイジェントの周辺にいると言われる、エルゴの守護者と会うためにここまで来たことを伝えた。

 

「ごめんなさい、エルゴの守護者なんて初めて聞いたわ。……でもこの街の周りには色々な場所があって、もしかしたらてがかりはくらいあるかもね」

 

 冗談っぽく笑いながら言う。

 

「案内はできるか?」

 

 場所を教えてもらい自分だけで行くという選択肢もあるが、やはり間違いないのは土地勘があるスカーレルに案内してもらうことだ。

 

「案内するのは構わないけど、今すぐってわけにはいかないわね」

 

 スカーレルは今も暇そうに酒を飲んでるだけに見えるが、何か事情があるようだった。

 

「なぜだ?」

 

「この街では悪魔が頻繁に現れているの。もちろん、今もそう……でも住民を守る騎士団はその多くが城の警備に回されていて悪魔の対応までは手が回らないのよ。だから代わりに戦っている子たちがいるの」

 

 サイジェントの統治はすべて、城に住む領主から委任された召喚師が執り行っている。それゆえ統治を行う上で「頭脳」となる城に防衛戦力を多く割り振ること自体は、危機管理の観点から考えても決して間違いではない。しかし、そこに騎士団の戦力の大半を充てるのは明らかにバランスを欠いた配置だった。

 

「お前は戦っていないようだな」

 

 スカーレルは元暗殺者であり、島では悪魔と戦闘したこともある人間だ。いくらそれから齢を重ねたからといって、そんな奴が戦わないのは不思議に思えた。

 

「ふふ、そうね、アタシもいい歳だし。……だからお留守番でちょうどいいのよ。それに、ここにいた方がいろいろと見えるものもあるしね」

 

「その言い方だとこの店にいるものが戦っているということか」

 

「ご明察。その通りよ」

 

 要はスカーレルは相談役のような立場にあるようだ。カイル一家にいた時も似たような立ち位置にいたため決して不自然ではない。

 

「昔は領主を倒すなんて物騒な事考えてたみたいだけど、さすがにこんな状況じゃあそんなこと言ってられないみたい。……そんなだから、申し訳ないけどこの一件が片付くまでは街を離れるわけにはいかないの」

 

「……どうせアティが来るまではここから離れられん、待つとしよう」

 

 島に帰るのはアティと合流してからということは事前に決めていたのだ。これにはバージルも合意していたため、文句は言えない。

 

「それならあなたも協力してくれると助かるんだけどね」

 

「……気が向いたらな」

 

 そうは言うが実際、ただじっと待っているのも退屈であるため、退屈しのぎに悪魔を狩るのも一興だろう。

 

「ふふ、助かるわ」

 

 スカーレルはまるでそうくると思ってたと言わんばかりの笑顔を浮かべた。

 

「……俺は戻るぞ、家は空いているんだろう」

 

 考えを読まれたようで面白くなかったが、とりあえずバージルは荷物を置くためスカーレルの家に戻ることにした。

 

「ええ、いくつか部屋は空いてるから好きに使っていいわ」

 

「わかった」

 

 答えながら席を立ったバージルを見て、ポムニットは急いでジュースを飲み込んで言った。

 

「わ、私も戻ります。ごちそうさまでした!」

 

「そんな慌てなくても大丈夫よ……あ」

 

 店を出ていく二人を見ながらスカーレルは、空いた部屋の掃除をしていなかったことを思い出した。

 

 その後、部屋を掃除するためにポムニットが大活躍したことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 肉体を持って他の世界に出現することのできない悪魔は、その世界にあるものに取り憑き力の受け皿にする。この受け皿になるものは様々な種類がある。例えば人形や仮面になることもあるし、砂や血といった個体ですらないものでも受け皿になりえるのだ。

 

 そして悪魔は時折、人間に取り憑くこともある。悪魔に憑かれた人間は意識すら奪われ、ただ悪魔の意識の下、破壊と殺戮を繰り返すだけの存在となるのだ。

 

 このような悪魔に憑かれる人間は、子供や病人、老人など精神力の弱い者が比較的多い。悪魔としても容易く支配できるほうがいいのだろう。

 

 今回サイジェントに現れたのはそうした悪魔だった。人間に取り憑き手当たり次第に暴れ回り破壊と殺戮の限りを尽くしているのだ。

 

 それに対処したのは「フラット」という孤児達のチームだった。ただ、孤児達のチームと言っても最近では、様々な腕利きの者達が加入したらしくその戦闘力は騎士団にも引けをとらない。

 

 だが、彼らは優しすぎた。見た目はただの人間と変わらない悪魔憑きを殺せなかったのだ。そうは言っても、この点でフラットを責めることはできないだろう。現時点においてリィンバウムでは、悪魔に憑かれた人間を元に戻す方法がないことを理解していないのだ。

 

 元に戻せないのなら殺すしかない。ある意味ではそれが悪魔憑かれた人間を唯一救う方法なのかもしれない。少なくとも殺されれば大切なものを殺めることはないのだから。

 

 しかし、それをフラットを担う若者に強いるのは余りにも酷な話だ。いくら強くとも彼らは軍人ではなく、ただこの街を守るために戦っているだけの一般人なのだ。

 

「そんな……」

 

 そのフラットのリーダーであるハヤトという少年は目の前で繰り広げられる光景をただ茫然と見ていた。

 

 ハヤトはリィンバウムの人間ではない。名もなき世界から召喚されたのだ。向こうの世界では何の力も持たない普通の高校生だったが、召喚された影響か、儀式や呪文を必要としない召喚術が使えるようになっており、その他にも力が体から溢れるように感じていた。

 

 知り合いが誰一人いない世界ではあるが、幸いにもフラットの仲間達を得ることができ、この街を取り巻く多くの問題にも、持ち前の前向きな性格で懸命に取り組み、次々とそれらを乗り越えてきた。

 

 そして先日まで抱えていた革命組織「アキュート」との対立も、数日前から街に現れるようになった悪魔への対処で協力していく過程で少しずつ解消に向かっていたのだ。

 

 そんな中、現れたのが悪魔に取り憑かれた者達だった。だが、悪魔憑きがいくら人間離れした力を持っていても、既にフラットは悪魔と何回か交戦した経験があったため、対処は難しいことではなかった。

 

 次第に悪魔憑きを追い詰めた時、大きな声が響いた。それは悪魔に憑かれた人の子供のものだった。やめて、お父さんをいじめないで、そんな悲痛な声を無視することができるほど、彼らは非情ではなかった。今回悪魔の対応に出た者もみな若いメンバーであったことも攻撃を止めた理由の一つだろう。

 

 だが、彼らの攻勢が終わる瞬間を待っていたように、悪魔憑きは逃げるように飛び退き、声を上げた子供を抱えて路地の中へ消えていった。

 

 まだ力を残していたことと、子供を攫って行ったことに焦りを感じながらフラットは急いで後を追った。

 

 そして路地を抜けた先の小さな広場で彼らが見たのは地獄だった。

 

 そこにいたであろう人々が容赦なく悪魔に殺されていたのだ。石畳が真っ赤に染まり、流れたばかりであろう血がハヤトの足元まで広がってきた。

 

 彼らが追っていた悪魔憑きは背を向け、もぞもぞと手を動かしている。だがそれにも飽きたのか、手に持っていたそれをハヤト達の方へ放り投げた。

 

 びじゃっという嫌な音と共に血だまりの中へ落ちた、サッカーボールほどの大きさのそれは少し転がって、止まった。

 

「あ……あ……」

 

 それは攫われた子供の首だった。

 

 最期の瞬間に感じた恐怖か、痛みか、その顔は口を大きく開けながら歪んでいた。

 

 いくらハヤトが大きな力を持っているとしても、つい先日まで平和の中で暮らしてきた十七歳、子供に過ぎない。そんな彼にこの光景は信じられなかった。

 

 しかし、靴に染みてくる血の感覚、血の匂いが、逃れられない現実だと証明していた。

 

 いつのまにか悪魔憑きは新しいおもちゃを見つけたように、にたにたと人間にはできないような笑みを浮かべながら彼らを見ていた。そして奇声を上げながら飛びかかった。

 

 いつものフラットの面々なら全く問題にならない攻撃だっただろう。あるいは凄惨な戦場を経験した兵士でもいれば対応できたかもしれない。しかしこの世の地獄を見せられた彼らにできたのは、それをただ茫然と眺めていることだけだった。

 

 ところが落ちてきたのは、豪雨のような血の雨と四つに分かれた悪魔憑きの体だった。そして彼らの先に音もなく着地したのは周囲に広がる赤い血とは対照的な青いコートを着た男、バージルだった。

 

 閻魔刀に付着した血を振り払い、鞘に納めたバージルはハヤト達のことなど眼中にもないのか、振り返りもせずこの場から去っていった。

 

 後に残された者達は、ただそれを眺めるだけだった。

 

 

 

 

 

 悪魔憑きを始末したバージルは、スカーレルの家へと戻っていた。既に街中から悪魔の気配は消え失せており、サイジェントは仮初のの平穏を取り戻していた。

 

「あ、おかえりなさい!」

 

 ポムニットが笑顔で出迎えた。この街を訪れた次の日、バージルは悪魔が湧いて出る原因を探るために出かけていたのだ。

 

「あの、どうでした? 悪魔が現れる原因、調べてたんですよね」

 

「悪くはない。大方の目星はついた」

 

 その言葉に嘘はない。バージルは調査の過程で二度ほど悪魔と交戦していた。無論、どちらも殲滅しているが、それは大きな手掛かりになったのだ。

 

 戦った悪魔は一度目が下級悪魔の群れ、二度目は悪魔憑きが一体だった。このうち悪魔憑きに関しては、一般的な出現方法で現れたため大した手掛かりにはならないのだが、もう一方の下級悪魔の群れにはこの一連の騒ぎの原因を探るヒントがあった。

 

 現れた下級悪魔は肉体を持っていたのだ。

 

 力が非常に脆弱な虫けら程度の悪魔なら、肉体を持ったままこちらへ来られるだろうが、普通の下級悪魔であれば境界を越えることができず、そのために依り代が必要になるのだ。

 

 ただ、地獄門や人の手で召喚されるのなら話は別だ。これらの方法なら境界を無視できるため、肉体を持ってくることも難しくない。

 

 それに、人はしばしば魔に魅入られる。

 

 かつてバージルは魔の力を求め、人の身を捨てた男と行動を共にしたことがある。人は決して魔を恐れるだけの存在でないことを彼は知っていたのだ。

 

 この世界にもそういう者がいるのかもしれない。悪魔の力を知ったからこそ、それを手にしようとする愚か者が。

 

「街の人も随分怯えてるみたいですし、早く元に戻るといいですね」

 

 この街に現れる悪魔の数は、ゼラムなどの大都市よりも遥かに多い。ゼラムはこの街より面積は広いが、悪魔が現れる数も回数も少ないため、昼夜問わず騎士の部隊を巡回させることでき、被害を最小限に抑えていた。

 

 しかし、サイジェントではそうはいかない。結局、街中の監視を強化し、悪魔を発見してから必要な戦力を派遣するという従来の治安維持と同様の方法をとっていた。これなら戦力の絶対数が少なくとも広範囲をカバーできるが、その分現地に到着するまで時間がかかり、結果的に被害が大きくなる傾向にあった。

 

「いずれはそうなる」

 

 ただし元に戻すのが自分とは限らない。バージルが原因を断定させる前に、フラットや騎士団が先に解決する可能性もあるのだ。

 

 とは言え、誰が解決するかなど重要な事ではない。バージルがこの状況に首を突っ込んでいるのは、暇つぶしの意味合いが強いのだ。

 

「はいっ!」

 

 ポムニットが安心したように返事をした。バージルがそう言った以上、それは確定的な未来であるとポムニットは信じていた。

 

「ただいま~」

 

 そこへスカーレルが帰ってきた。「告発の剣」亭も本来の主が戻ってきたのだろう。

 

「おかえりなさい、スカーレルさん。もうすぐご飯できますから待っててくださいね」

 

 夕食の準備に戻りながら伝える。ポムニットはただ泊めてもらうのも悪いと、料理や掃除など家事全般を引き受けたのだ。もともと島にいた時もやっていたことなので苦ではなかった。

 

 スカーレルは既にテーブルに座っていたバージルの向かいに腰掛けた。

 

「早速、悪魔のこと調べてるみたいね、もう話題になってるわよ」

 

 片肘をつきながら言う。バージルは悪魔との戦いを堂々と行っていたため、誰かに見られていたことは十分にありえる。特に悪魔憑きとの時は、戦うために追いかけてきたであろう者達の前で切り捨てたのだ。話題になっても無理はない。

 

「なら、邪魔はするなと言っておけ」

 

 バージルとしては誰が悪魔と戦っても一向に構いはしない。しかし、いくら相手が弱い人間であっても、自分の邪魔をされるのは好ましい事ではないのだ。

 

「あら? そんなことを言うってことは手掛かりがつかめたのかしら?」

 

「もう目星はついたみたいですよ」

 

 ポムニットは料理を運びながら、自分のことのように嬉々として答えた。

 

「さすがねえ、この分じゃそのうち解決しちゃうかしら?」

 

「まだ推測の段階だ、確証はない」

 

「これまでは手がかり一つなかったんだから、全然いいわ。……それに終わりが見えてくるとやる気も出てくるものなのよ」

 

「そうですよ!」

 

 その言葉通り、先の見通しがつけばそこに向けて頑張ろうと希望が生まれやる気も出てくるが、終わりが見えなければ不安や恐怖が蔓延することになるのだ。

 

 事実、悪魔による犠牲者が増えていくように、住民の間には確実に恐怖と不安が伝染していた。もちろん彼らは自分達を害そうとする者の正体が悪魔であることは知らない。

 

 しかし、人は本能的に闇を恐れるもの。闇の世界、魔界の住人である悪魔を人々が恐れるのは自然なのだ。

 

 今、サイジェントの街は悪魔の齎す絶望で覆われようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




第25話いかがだったでしょうか。

ちなみに1のストーリーはアキュートの問題が解決したあたりからです。

ご意見ご感想お待ちしております。

ありがとうございました。

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