Summon Devil   作:ばーれい

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第129話 帝都奪還作戦 中編

 ミコトとカイから、それぞれ異なった感情を含んだ視線を受けるシャリマは口角を上げながら口を開いた。

 

「やっぱり私のもとに戻ってきたのね。それに内なる力にも目覚めている……本当に素晴らしいわ!」

 

 喜び声を震わせるシャリマだが、その喜びはミコトに会えたことによるものではなく、自らの思想、技術が結実したことによる自画自賛や自己陶酔からくるものであることは、ほとんど面識のないネロにも容易く見て取れた。

 

「やれやれ、技術屋ってのはこんなのばかりなのかね……」

 

 周囲の状況より自らの関心事を優先するシャリマから、ネロはかつてのフォルトゥナ技術局の長のことを思い出して辟易した。言葉は通じているのに話が通じないこの手の輩は苦手なのだ。

 

 とはいえ、そんなことを呟いている間にも警戒は怠らない。まだ戦う力を残しているだろうレイやオルドレイク、シャリマは言うに及ばず、既に消耗しているソルや戦意を喪失していそうなカシスやキールに対しても同様だった。

 

「シャリマさん……どうして――」

 

「ミコト、悪いがゆっくり話はできそうにない」

 

 そんな中ミコトがシャリマに言葉をかけようとしたとき、それを遮るようにカイが彼を庇うように前に出た。シャリマにばかり意識が向いていたミコトは気付かなかったが、先ほどまで何も手にしていなかったレイの手に一振りの剣が握られていた。

 

「役立たず共め……」

 

 ネロに、かすり傷はおろか消耗させることもできなかったソルをはじめとするオルドレイクの息子たちをレイは忌々しげに睨んだ。この場にネロさえいなければ即刻斬り捨てていたに違いない。

 

「人のせいにしているようじゃ底が知れるな、あんた」

 

 レッドクイーンを肩に乗せながら言う。ネロ自身の実力は肌で知っていただろうに、ただ闇雲に攻撃を命じたのではこうなるのは火を見るより明らかだ。にもかかわらず責任転嫁するのは、指揮官として失格だろう。ほんの数時間前まで優秀な指揮官であるアズリアと行動をともにしていただけに余計にそう感じたのだ。

 

 そんなネロの言葉を挑発と受け取ったレイは怒りに顔を歪ませながら剣の柄をさらに強く握った。

 

 だがその時、周囲に轟音を響き渡りそれと同時に大きく地面が揺れだした。その揺れは普通の人間なら立っていられないほどであり、さほど頑丈ではない建物も倒壊して危険もあるだろう。おまけにどこから土埃まで舞い上がってくる始末、とても戦いどころではなかった。

 

「ちっ……」

 

 舌打ちをしたネロはレッドクイーンを背中にしまい込み、ミコトとカイを両腕に抱えて一跳びでこの場から離れた。

 

 ネロ自身はこの揺れの影響をほぼ受けず行動できたように、普通の人間でなければ現状でも問題なく戦闘を継続できるだろう。特にたった今相対していたやオルドレイク、シャリマは悪魔の力を感じさせる存在である以上、なおさらだ。それに対してミコトとカイはどちらかと言えば普通の人間に近い。ミコトは力に目覚めた言うものの、まだ日が浅く感覚としてはほぼ変わっていないだろう。

 

 こんな状態の上、土埃で満足な視界も確保できない状況では二人は自分の命を守ることも難しいだろう、そう判断してのことだった。無論、これまで話していたように二人のことなど気にせず戦うという選択肢もあったのだが、それを選べないのがネロという男なのだ。

 

 そうして二人を抱えたネロが着地したのは、先ほどまでいた場所から相当に距離が離れている建物の屋根の上だった。距離だけで言えばまだレイ達を目視できる場所だが、土埃によりその姿を確認することはできなかった。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「…………」

 

 揺れが収まっていく中で、ネロが自らをここまで運んだ理由を悟ったミコトが礼を言うが、ネロは言葉を返さない。レイ達のいたところとは異なる方向を見上げていたのだ。それもいつになく鋭く真剣な表情で。

 

「なんだよ……これ……」

 

 その反応を不思議に思ったミコトが彼の見ている方に視線を向けると、そこにはほんの少し前には影も形もなかった巨大な塔のような円筒型の建造物がそびえ立っていた。ミコトの育った那岐宮市には那岐宮スカイブレードという展望台がついた電波塔があるが、それよりも遥かに高く直径も大きい。

 

 辛うじて見える頂上のさらに直上の空はまるで渦潮のように荒れ狂い、その中心にはぽっかりと穴が開き、普段の空とは違う禍々しい空間が覗いていた。それはかつてリィンバウムと繋がっていたとされる、四界とは異なる世界であることは誰の目にも明らかだった。

 

「こ、これは……一体なんだというんだ……!」

 

 自分の常識範囲外のことが目の前で起きていることに思考が追いつかないカイは普段の彼らしくなく、頭に浮かんだことをそのまま口に出していた。だが、まだこの塔の出現に端を発した事象は終わってはいなかった。

 

 空に開いた穴から石像のような白い巨人が現れたのである。

 

「あれは……!」

 

 それを見たネロが顔を歪める。その姿はかつて魔剣教団が建造した「神」と称する巨大なスパーダ像とほぼ同じだったのである。違いとしては魔剣教団のものが頭部や胸部や手足に魔力を放つ青い宝石のようなものを何個も埋め込んでいたのに対し、今現れたものにはそういったものが一つとしてなかった。

 

「とんでもねえもんを作りやがって、どこのクソッタレの仕業だ……」

 

 目の前に現れた白い巨人は明らかにフォルトゥナの神を模して造られた悪魔に違いなかった。しかもその完成度は魔剣教団のものより上に思える。魔剣教団の神がいくつもの悪魔の細胞を培養して外殻を作り、魔心炉と呼ばれる心臓部から魔力を供給するという構造なのに対し、この神には魔心炉のような機関は存在していなかったのだ。

 

「悪いがお前らの面倒を見れるのはここまでだ。俺はあのデカブツの相手をするからさっさと逃げるんだな。あの将軍さんにもそう伝えてくれ」

 

 現れた神がゆっくりと降下してくるのを見ながらネロはミコトとカイに伝えた。ネロ自身この神に己が負けるとは思ってはいない。だが、同時にこれまで戦ってきた相手の中でも相当に手強い相手であるだろうし、あの巨体だ。短時間で勝負がつくとは思えなかった。それは当然周囲への被害も甚大なものとなることとイコールでもある。そうなればもはや帝都奪還どころではないのだ。

 

「……わかった、必ず伝えよう。ミコト、行こう」

 

「……うん」

 

 塔から降り立とうとして白い巨人の姿を見ればネロの言うことはもっともである。まだ帝都まで来た目的は達成していないが、ここネロの言葉に従うべきだと判断したようだ。

 

 そうして自分のもとから去っていく二人を見送ったネロは再度神に視線を向ける。相手もネロを敵と見定めたのかネロを見下ろすように空中で静止していた。

 

 相手の強さから考えて何も遠慮する必要はない。

 

「さあ、出し惜しみはなしだ!」

 

 言葉と共に力を解放したネロが神へ向かって跳んだ。

 

 

 

 

 

 強大な魔力を持つ神の出現は、帝都から遠く離れたラウスブルグにいるバージルにも容易にも感知できた。

 

「……動いたか」

 

 ラウスブルグの空中庭園、そのテラスからバージルは穏やかな海を眺めていた。水平線の彼方に位置する帝都から繋がっているだろう魔界に座して機を伺ってきただろう魔帝ムンドゥスが行動を起こした悟ったのだ。

 

 そしてバージルは踵を返し、空中庭園の中央にまで戻る。そこには数年前にダンテから託されたフォースエッジが浮かんでいた。

 

「…………」

 

 そして無言のまま、首にかけた己のアミュレットと懐にしまい込んでいたダンテのアミュレットを取り出した。この二つのアミュレットを一つにすることでフォースエッジに封じられた力を解放し、父の名を冠する魔剣スパーダへと変じさせるための鍵となるのである。

 

 バージルはまず、アミュレットを完全な姿、パーフェクトアミュレットにするべく――。

 

「……いや、まだだな」

 

 すんでのところでバージルは考えを変えた。魔剣スパーダは魔帝を二度に渡って封印した極めて強力な魔剣だ。だが、封印されたとうのムンドゥスにとっては忌むべき魔剣に他ならない。他に父スパーダが振るった魔剣はリベリオンと閻魔刀も存在するが、それらと比較しても段違いに警戒されるのは間違いない。

 

 それだけに今魔剣スパーダを復活させれば、ムンドゥスがどんな行動に出るか想像がつかない。現時点ではほぼバージルの想定通りに事が運んではいるが、魔剣スパーダを蘇らせてもそれが続くかは判断がつかないのだ。

 

 今しがたリィンバウムに送り込んだ悪魔を切り捨て、再び機を伺うならまだいい。バージルにとって最悪なのはムンドゥスが魔界からの侵攻を防ぐ結界を力ずくで完全に破壊し、無制限に悪魔を送り込んでくることだ。バージルがいる以上、最終的にはムンドゥスを含めた悪魔をすべて殲滅できるとしても、それまでにリィンバウムの人々が受ける被害は計り知れないだろう。そしてそれはアティも望みはしないだろう。

 

 もっとも、これはムンドゥスにとっても悪手だ。そんなことをすればいくら魔帝とはいえ相応に消耗するし、遮るものがなくなれば消耗から回復する前にバージルと戦闘になるのも避けられず、その結果、良くて再封印、最悪なら完全な消滅すらありえるからだ。

 

 無論バージルとて、それは理解している。だがそれでもムンドゥスがその手段をとらないという確証がない以上、慎重にならざるを得ない。

 

「…………」

 

 無言のまま二つのアミュレットをしまう。これを再び取り出すときこそ魔剣スパーダが復活する時だ。

 

 バージルはフォースエッジ眺めながら静かにその時を待っていた。

 

 

 

 

 

 帝都ウルゴーラから繋がった魔界の一角に現在、魔界を支配する悪魔、魔帝ムンドゥスが座していた。

 

(スパーダの血族か……忌々しい)

 

 自身が送り込んだ巨大な悪魔が、かつて自身を封印したスパーダの血族と戦っているのを、魔術を用いて眺めていた。送り込んだ悪魔は、かつて裏切った片腕であるスパーダを神と崇める人間達が造り上げた人造の悪魔をもとに作られたものだ。

 

 だが、悪魔の総本山魔界を支配するムンドゥスが造り上げただけあり、その完成度はオリジナルを遥かに超える。オリジナルの構造は、かつて魔帝が若き頃のダンテとバージルを殺すために生み出そうと試行錯誤を重ねていた「黒騎士」と呼ばれる悪魔と似ていた。

 

 しかし黒騎士が、ムンドゥスが作り出した悪魔を素体に、魔界の名工マキャヴェリが鍛え上げた鎧を纏ったものであるのに対し、神と称されたオリジナルは外殻という名の鎧を大量の魔力を用いて直接動かすという構造だったのだ。それは人間が操るためのやむを得ないものだとムンドゥスも理解していたが、それでも人間の矮小さを嘲笑せずにはいられなかった。

 

 唯一評価できる点はその姿が人の姿をとったスパーダに似ていたことだ。スパーダが守った人間を、スパーダを模した兵器を用いて支配しようとしたことは実に皮肉なもので、人間の愚かさを改めて理解したのだった。

 

 こうしてムンドゥスが造り出した新たな神は、「黒騎士」の拡大発展型のようなものとなった。一体の強大な大悪魔を素体とし、外殻も再生力を通常の悪魔とほぼ遜色がないまでに強化した。魔心炉がなくなったことにより、そこから体の各所へ魔力を中継し行き渡らせる機能を持った青い宝石状の機関はなくなったものの、外観は魔剣教団が造り出したものと同じだった。

 

 これは、オリジナルと同じく人間を守るために戦ったスパーダの姿を模した悪魔を、自らのために戦わせることで裏切ったスパーダへの皮肉としたかったからだ。

 

 完成した神は魔帝が作り上げた悪魔の中でも屈指の戦闘力を誇る傑作と言っていい出来だった。そしてその悪魔が今、ネロと言う名のスパーダの血族と戦っている。バージルの息子であるその男はムンドゥスの傑作とほぼ互角の戦いを繰り広げている。

 

 力ではネロが有利、防御力では圧倒的にこちらが上、機動性では小さく小回りが利くため向こうに分があるが、こちらの巨体から繰り出す攻撃で補うことは可能と言うところだ。ネロの攻撃は持ち前の強靭な外殻で受け止めてはいるものの、こちらの攻撃も全て躱されるか、同程度の威力を持つ攻撃で無効化されており、千日手の様相を呈していた。

 

 ここで問題なのはネロが、まだ完全に悪魔の力に覚醒しているとは言えないのにもかかわらずこの有様であるため、何かのきっかけで力に目覚めでもしたらこの均衡が崩れかねなかった。

 

 できることならこの場で殺してしまうべきだが、ムンドゥスが出向くわけにはいかない。そうなればあの世界で目を光らせているだろうバージルと戦うことになってしまうからだ。

 

 現時点において、ムンドゥスはバージル確実に勝てるとは思っていない。

 

 かつて一度だけバージルはリィンバウムで真の力を解放したことがある。それは魔界にいたムンドゥスにも感じ取ることができるほど巨大な力だった。その時でさえかつてのスパーダ以上ではないかと思えるほどの力だったのだ。今はさらに力も増しているだろうことは容易に想像できる以上、計画が成就するまでは直接戦闘は避けなければないのだ。

 

 ならば、と魔帝は考えを巡らせる。今とれる手段は大別して二つだ。一つは配下の大悪魔を加勢に向かわせること、もう一つはこのまま傍観に徹することだ。

 

 一つ目はムンドゥスの望みを叶えられそうな選択肢ではあるが、そもそも送り込める悪魔に限界がある。あの戦いに介入できるだけの戦闘力を有している悪魔は、魔帝ムンドゥスの配下といえども最高幹部クラスの四体しかいない。その上、彼らにはムンドゥス自らが命じた任務がある。それ一体でも欠ければ不確定要素を残すような性質の任務であるため、誰かを増援に動かすことには避けたいところだ。

 

 ならば傍観に徹するしかないのだが、それで送り込んだ悪魔どころか計画の要である、かの世界と魔界を繋げるテメンニグルを壊されるようなことになれば最悪だ。

 

 テメンニグルは維持さえできれば、何の制限もなく魔界から悪魔を送り込むことができる。かつては人間界で魔の力に魅入られた人間が作り上げたことがあり、最終的にはスパーダの手で封印されたのだ。ここで重要なのは人間の手で作ることができるという点だ。テメンニグルや地獄門をはじめとして魔界との繋がりを作ることができるものはいくつかある。だが、その中の多くは悪魔の力を用いなければならないものや魔界と人間界でそれぞれ準備が必要なものばかりである。

 

 そんな中テメンニグルは建造にこそ多大な労力がかかるが、魔界からのアプローチは不要であるため、今回のムンドゥスの計画に要として組み込まれることとなり、幾年も前から帝国の人間を操り密かに建造させてきたのである。そして支配下の中で最も強大な悪魔を送り込んだのもテメンニグルを守らせるためなのだ。

 

 とはいえ、現在のところはネロの目的も不明であるし、互角の攻防が続いているのであれば今少し状況を見ても問題はないだろうと判断し、ムンドゥスは両者の戦いに意識を集中させた。

 

 

 

 

 

 神が大きく振りかぶった拳を力に任せて振り下ろしてくるのを、ネロは同じく力をもって迎え撃った。

 

「Try this!」

 

 右腕の悪魔の腕(デビルブリンガー)から浮き上がるように現れた巨大な腕が、神が振り下ろした拳と激突する。瞬間、激突で生じたエネルギーが大きな衝撃波と轟音になり、周囲に拡散していった。

 

 そして神もその衝撃に耐えきれなかったのか、仰け反りながら後退する。体を損傷した様子はなく、まだ空中に浮かんでいるものの、大きな隙をさらけ出したのだ。

 

「Crash!」

 

 ネロはその隙を逃さず上空に飛び上がると、再び悪魔の腕(デビルブリンガー)で胸を殴りつける。その威力によって中空にあった神は、大きな地響きとともに地面に降り立つことを余儀なくされた。

 

 ネロも反動で神から少し離れた場所へ着地したものの、その顔はクリーンヒットを当てたにしては明るいものではなかった。

 

「それにしても頑丈な奴だ……」

 

 辟易した様子でネロが呟く。今ので悪魔の腕(デビルブリンガー)による攻撃は三度直撃させたことになるが、あの巨体にはいまだ大きなダメージが入ったようには見えない。今も地面に落としたとはいえ、倒れ伏したわけではないのだ。だが、悪魔の腕(デビルブリンガー)以外による攻撃では埒が明かないのは目に見えている。

 

 いかに改造を施したとはいえ、元がハンドガンのブルーローズではあの頑強な外殻を貫通させることは難しく、レッドクイーンの斬撃は一応通用するものの、相手があの巨体では効果は薄いと言わざるを得なかった。

 

「持久戦だな、こりゃ……」

 

 こちらの攻撃も有効打にならないものの、相手の攻撃もまたネロにとっては避けやすいものばかりだ。よほど油断していないかぎり直撃をもらうことはない。よって勝敗はネロが有効打を与える前に神が攻撃を当てることができるかにかかっているが、現状、どちらもすぐにできるとは言い難かった。

 

「だが、こうなりゃ徹底的にやってやるよ!」

 

「ネロ!」

 

 闘志を滾らせ飛び出そうとしたところに、ネロの名を呼ぶ声が聞こえた。声のする方へ振り返るとそこにいたのは魔剣紅の暴君(キルスレス)を抜剣したイスラだった。

 

「作戦は中止になった、君も急いで退くんだ!」

 

「見てわかんねぇのか! それどころじゃねぇんだよ!」

 

 彼もアズリアの命を受けてきているだけなのは分かってはいたが、ネロは叫んだ。あの巨大な悪魔を野放しにしてはどんな被害が出るか分かったものではない。

 

「帝都の住民も可能な限り共に逃がしている、ここに残っても意味はないんだ!」

 

「だったら追ってこれねぇように、ここで食い止めなきゃなんねぇだろ!」

 

 当初は帝都自体の制圧奪還が目標だったが、状況の変化を受けてアズリアが作戦を変更したようだ。そもそも帝都奪還作戦の目的が不当な扱いを受けている帝国の国民の解放なのだから目的の変更ではなく、方法の変更なのだろう。無論、ネロにも文句はないが、帝都の人々を連れて撤退する道を選んだ以上、悪魔の追撃は絶対に阻止しなければならない。

 

 だからこそ、最大の脅威であるあの白い巨人を足止めする必要があるのだ。

 

「だからって――!」

 

 だが、そういうネロの言い分に対し、イスラが言い返そうとしたとき、先ほど現れた巨大な塔の頂上付近が光を放った。驚いた二人がその方向に目を向けるとあの神がこちらに現れた魔界と接続点となる穴の周囲に、四つの円形の魔法陣が形成されていた。だが、穴が地面に対し水平に現れたのに対し、魔法陣は地面に対し垂直な形で穴の四方に配置されるように現れたのだ。

 

 そして、魔法陣はその中心点から変容していき、最初に現れた穴と同じように空とは異なる別な景色が見えてきた。おまけに四つの魔法陣それぞれが別の空間と繋がっているようでどれも魔界とは異なる景色が見えていた。

 

 そしてその魔法陣が変容しきったの合図に、最初に現れた魔界と繋がっている穴から四体の強大な力を持つ悪魔が現れ、それぞれ異なる魔法陣の先の空間へ入っていった。

 

「ちっ……!」

 

 ネロは反射的にブルーローズを構えるが、発砲する前に悪魔は姿を消していた。あの先の空間がどこに繋がっているのかはわからないが、その先に消えて行った悪魔は決して友好的な目的のために行ったのではないだろう。

 

 その悪魔達が消えたすぐ後、今度は下級悪魔の群れが雲霞の如く現れた。先にトレイユを襲ったメフィストのような飛行能力を持つ悪魔もいれば、フロストやアビスと言った飛行能力を持たない悪魔を多く含まれている。

 

「あっちは……まずい……!」

 

 悪魔の群れの動きを見ていたイスラが言葉を漏らした。現れた悪魔の八割ほどは先の大悪魔を追っていき、残りの二割が地上めがけて落下してきていた。大悪魔の向かった先とここで戦力を等分に分けたというところだろうが、ちょうど今しがた戦う力を持たない者達と共に帝都から撤退を始めたばかりなのだ。

 

 軍の部隊だけならまだ何とかなるかもしれないが、人々を守りながらではかなり厳しい戦いとなるだろう。

 

「仕方ねぇ、戻るぞ!」

 

 ネロも状況の深刻さは理解していたようで、あの神との戦いは放棄することにしたようだ。もっとも、相手が向かってくるなら戦わざるをえないだろうが。

 

 その言葉に頷き、イスラは彼と共に踵を返し部隊を指揮している姉のもとへと走る。そんな様子を白い巨人は何もせずに見送り、与えられたこの塔の防衛を果たすべく再び空中に戻って行った。

 

 こうしてアズリアの率いる帝国軍が始めた帝都ウルゴーラ奪回を目的とした作戦は、一部住民の救出することはできたものの肝心の帝都は奪還できぬまま撤退戦へ移行していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 




なんとか今年中の投稿ができました。

最近は何かと忙しいので、次回は2~3月の投稿を予定しています。

ご意見ご感想評価等お待ちしております。

ありがとうございました。

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