やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。 作:AIthe
ISの設定の件ですが、このように変えました。
・360度視界→通常視界+敵座標データ
・自動ロックオン機能→視界内に限定
・ハイパーセンサー→ハイパーセンサーの性能差を設定
今のところこんな感じです。これからも設定が変わるかもしれませんが、よろしくお願いします。
ずどーん!という大きな音と共に俺は落k‥‥着地した。俺は落下などしていない、頭から着地したんだよ(半ギレ)。飛べないとか先に言えよ。飛べないISとかただの豚じゃないですか‥‥‥
「だ、大丈夫ですの?」
「ああ‥‥よいしょっと。」
両手で身体を起こし、アリーナの土を踏みしめる。このISの駆動音のみが、アリーナに響き渡る。
「この前の事ですが、ご家族を馬鹿にした発言‥‥非礼を詫びますわ。」
「はっ、なんとでも言ってろ。」
「ですが、それとこの試合は別ですわ!」
人の話聞いてないだろこいつ。なんか校長先生の話みたいなの始まっちゃったよ。
俺は金髪クロワッサンを無視してシステムコンソールを開き、兵装を確認する。
‥‥ライフル以外現在ロック中か。まあ、二丁あるしそこまで問題じゃない‥‥‥か?元々地上で戦うつもりだったしな。
「って聞いておりますの!?」
「いや全然、早く試合始めるぞ。」
両手にライフルを呼び出し、ざわざわというアリーナ内の一定量以下の騒音をハイパーセンサーでカットする。腰を落とし、臨戦態勢に入る。ざわざわしてると集中できないからな。決してカイジじゃない。小指切り落としたりしないから。
「試合、開始。」
アナウンスと共に両機が動き出し、俺はライフルを、相手はレーザーライフルを構える。互いの第一射が衝突。炸裂し、爆発する。ブースターが利かないのでその場で走り出し、彼女に対して個人間秘匿通信を開く。
「セシリア・オルコット。お前が入学した時の話、覚えているか?」
「な、なんのことですの?」
右足で大きく地面を踏み、ブレーキをかける。地面に向けてデタラメにライフルを連射し、砂煙を巻き起こす。これで、あいつから直接こちらを視認する事は出来ない。ハイパーセンサーで敵の位置がわかるとはいえ、所詮データ上の座標だ。座標さえ分かれば狙い撃てるなどという机上論は、機動戦であるISの戦闘において通じる事はない。
「ブルー・ティアーズ!」
「おいおい、俺の事を無視するなよ。覚えているのかって聞いてるだろ?」
「なんの事だかわかりませんわ!」
だが、机上論で通じる例外もある。それは、敵が止まっている時だ。
ブルー・ティアーズには致命的な欠点がある。それは、ビットを操作している時に本人が動けないというものだ。最新の動画でも、隠してはいるがそれを確認する事ができた。
青いビットが動いたのを確認し、データ上の座標に向けて片方のライフルを連射し、もう片方を地面に向けて乱射しながら再び走り出す。
「くっ、こちらが見えていますの!?」
「話ぶっちぎってんじゃねえぞ。お前、日本を敵に回すような発言をした事、自覚しているよな?」
「そ、その件につきましてはしっかり謝罪をしましたのよ!」
「だからって、やってない事にはならねえよな?」
砂埃の中、灰色の装甲に青い光が掠める。見えないといえど、ビット四基から虱潰しに狙われればこの機体もすぐに落ちる。だから、俺のするべき事は───
「俺の家族を馬鹿にした。つまり、お前はその事を全く反省していない。」
「そんな事───!!」
「いや、あるね‥‥‥なぁ、セシリア・オルコット───」
俺は甘く、蠱惑的に囁く。その声は、獲物を飲み込む蛇のように彼女を絡め取る。
「───それを愛しの織斑一夏が知ったら、どう思うかな?」
「っ!?」
───今だ!
俺は動きの鈍くなったビットに向け正確な一撃を打ち込む。蜂の巣になったビットが地面に落ち、別の砂煙を巻き起こす。
ビットが強敵なら、それから落とせばいい。動くものを狙えないなら、止めさせればいい。
ビットというのは脳で操っているものだ。なら、その根元を揺らしてやればどうという事はない。
なら、彼女が見るからに想いを寄せている織斑弟に関してのOHANASHIをするだけだ。ぼっちの観察スキル舐めんな。
金髪クロワッサンが代表候補生って気付かなかった話はしないで下さい‥‥‥‥
その毒は、ゆっくりと彼女に侵食する。嬲るように、甚振るように。
「確実に、お前は嫌われるだろうな。」
「い、一夏さんはそんな人じゃありませんわ!」
「本当か?なら、本人に話してみるといい。」
マガジンを手動で変え、あちこちに砂煙を起こしながらアリーナ内を駆け回る。こんな戦法一度しか通じないだろう。が、俺はその一度を勝ち抜けばいい。どんなに姑息だろうと、勝てば何の問題もない。戦いにずるいもセコい何もないのだから。
「もしお前が織斑一夏に嫌われたのなら、クラスのみんなも同じようにお前を嫌うだろうな。そしたらお前は、“また”一人だ。」
「な、なんなんですの!あ、あなたは!?」
こいつは元々‥‥‥今もなのだが、相当にプライドの高い人間だった事は容易に想像ができる。なら、そのプライドはどこから発生した?
努力?才能?地位?名誉?
それを一つに絞る事はできない。何故なら、その全てが彼女のプライドに関わっているからだ。
彼女は生まれながらに、オルコット家という“地位”を持っている。そこまではISと嗜む程度の生活を送っていたそうだが、元々“才能”はあったらしい。
そして、丁度彼女が代表候補生になる前に、彼女の両親が事故で亡くなり、親族もいないためにオルコット家は一人になったそうだ。そして、長年の努力と共に代表候補生として専用機を貰うという“名誉”を獲得した。
一見、これはただの輝かしき歴史に見えるだろう。だが、「歴史は勝者が紡ぐもの」という考え方がある事を世間は知っているのだろうか?
歴史というものを英語にすると、historyとなる。hisとstoryが合体した言葉である事は想像が付く。
もし、もしの話だ。例えば俺が世界最強のIS操縦者になる未来があったとしよう。更に仮定して、ここでセシリア・オルコットを倒せたとする。未来に俺の歴史が紡がれ、語られる時、それは英雄譚のように語られ、「俺がセシリア・オルコットを言葉で動揺させ、ミスを誘った」などという俺という人間が姑息に見える、マイナスとなる内容は基本的には書かれないだろう。
つまりそういう事なのだ。彼(勝者)に都合よく、いいところだけを切り取った話(story)が歴史というものだ。
話が大きく逸れてしまったが、これは彼女の歴史にも通じる事だ。上で話したセシリア・オルコットの人生についてはイギリスのISを専門に特集する記事から見つけたものだが、国からすれば彼女の弱みを見せるわけにはいかない。だから、「両親が死んで一人になったにも関わらず、努力をして専用機を勝ち取った少女」という美談風に整えた記事を書く。それは歴史と同じように、彼女の弱みを隠して書いているのだ。
では、この記事からどういう弱みが読み取れるのか?
まず、彼女は名家の人間だ。オルコット家というのはそこそこ名が広いらしい。
そして、彼女には両親がいない。
この二つを足して考えると、特に権力も持たない“地位”だけのか弱い少女を、他の権力者が放置するだろうか?答えは否だ。どうやってその魔の手から逃れたかは知らないが、オルコット家が未だに健在ということや、今の態度から見ても確実に彼女は“一人”でその危機を脱したといえよう。
もしかしたら、タイミング的にも代表候補生になった事が関係しているのかもしれない。
二つ目に、彼女が代表候補生で専用機持ちという事だ。“才能”より代表候補生になる人間は少なくない。
だが、専用機持ちとなれば話は大きく変わってくる。彼女は“努力”し、ライバルを蹴落としながら上に這い上がったから、専用機(名誉)を獲得したのだ。
俺からすれば、そういう“努力”のできる人間は素直に尊敬できるが、他の人間もそうかといえば違うだろう。彼女の事を僻み、蔑み、恨む者さえ出てくるだろう。そうなれば、彼女は自然と孤立する。学校でも同じ事が言えるのではないか。例えば、雪ノ下とか。
つまり、彼女はいろんな意味で“一人”だったのだ。俺や雪ノ下のような友達がいない“ぼっち”ではなく、家族すらいない人間なのだ。
人間は本質的に一人を怖がる。俺だって小町という存在があるし、雪ノ下は‥‥雪ノ下にもそういうものがあるだろう。
だが、彼女にはそれがない。だからこそ、彼女はプライドという壁で自分を守った。
生まれ持った“地位”と“才能”を誇り、“努力”を続け、“名誉”である専用機を振りかざす。これが、誇り高き「セシリア・オルコット」という人間の正しき姿であり、弱点でもあるのだ。
だから、そのプライドを崩してやればいい。今が一人でないと言うのなら、一人になる恐怖を思い出させてやればいい。
「一人ぼっちは寂しいよな?もう、一人になりたくはないよな?」
「いや‥‥やめて‥‥‥‥」
再び止まったビットを弾数で撃ち抜く。俺は心の中で小さくガッツポーズをし、彼女本体にライフルを向ける。
だが、物事はそう簡単には上手く行くものではない。何事にも例外は存在するのだ。
「ああああっ!私は!私はもう一人じゃありませんわ!私には皆さんが、一夏さんがおりますの!」
思ったよりも復帰が早かった。流石は代表候補生。学生とはいえ、メンタルも並みのものではない。内心舌を打ちながら、再々に走り出す。
だが、それは俺にも言える事なのだ。
俺は自分への例外を想定していなかった。
不恰好なISは突然動きを止め、応答を停止する。
「っ!?動かねぇ!?」
「よし!隙だらけですわ!」
───そして、俺の世界が“黒”に染まった。
───2───
比企谷くんがピンチです。変なISが出てきたと思えば、突然ISが止まってしまいました。そのまま動けなかったらオルコットさんに蜂の巣にされてしまいます。
その場で膝をつくその姿は見るだけで自分が情けなくなります。
私は何にもできない。あんな誓いを立てておいて、ただ比企谷くんの足を引っ張って、一人で悔やんで、泣いて───
だから、私はそんな自分が嫌いです。今だって、もう一人の私は彼が負けてしまうと思っている。実際そうなのかもしれないけど、そんな事を思っちゃいけないんです。
───私にしかできない事。そんなものはないと、昨日は思っていました。でも、今この瞬間だけなら、私にだってできる事があります。
「がんばれ!」
周囲の目が一斉にこちらに向きます。怖い、怖い。言わなきゃよかった。そんな後悔を心の隅に押し込めて、私は叫び続けます。
世間体の為に話を合わせていただけのクラスメイトたちと、私が応援している比企谷くん。どっちが大事かなんて一目瞭然です。
勇気がでないなら、やってから後悔すればいい。比企谷くんに謝らなきゃいけないと悔やんでいるなら、それも纏めて吐き出しちゃえばいい。
比企谷くんからすれば私の自己満足なもので、自分勝手なものかもしれないけど、私は今精一杯叫んでいます。だから、だから───
「がんばれ!比企谷くん!」
───頑張って。この想い、きっと届いて。
───3───
「くそっ!」
身体に力を入れても、ISは全く反応しない。真っ暗な世界は、そのままゆっくりと、ゆっくりと俺の心を蝕む。
ここまで頑張ってきたんだ。なんで今、なんでこのタイミングで不調が起きるんだ‥‥運が悪いとしか言えん。くそっ‥‥‥‥
全てが無駄になった事を悟り、俺は徐々に身体の力を抜いてゆく。
やっぱり、俺が努力しても何の意味もなかった。結局、俺は努力をしたところで負ける。そう、これは予定通りなんだ。代表候補生に勝てる訳がない。俺は何も間違っちゃいない。これは全て予定通りの話だったろ?
俺は俺に言い聞かせる。自分自身を
傷つけぬよう、嘘で塗り固められた牢獄で自分を守る為に。
全部嘘なんだ。俺も、由比ヶ浜も、あのルームメイトも。
多分、俺はこの戦いで「信じたかったものの正しさ」を自分自身に認められたかったんだ。
俺はあの二人の優しさを、嘘だと認めたくなかったんだ。だから、自分自身の正しさを証明しようとした。
だが、やはりそんなものは欺瞞でしかなかった。
所詮、比企谷八幡は比企谷八幡のまま変わる事は無い。家族以外の誰かを信じる事もなければ、好んで誰かに話しかけに行く訳でもない。目を腐らせたまま今まで通りに生きて、変わらない平凡な毎日を過ごすだけだ。それの何が悪い?平凡ということは悪いことじゃないはずだ。そうだろう?
未だに抵抗を続ける自分自身に言い聞かせる。
「諦めろ」「無理だ」「できっこない」「終わったんだ」「もう頑張る必要はない」
数々の甘い言葉が俺を包み込む。
俺は自身の誘惑に従い、そのまま瞼を閉じようとして───
「────!」
「っ!ハイパーセンサーが!?」
外からの声。一定下の騒音はカットしていた筈だ。それを越える程の大きさの音が、ハイパーセンサーが起動しているという事実を伝え、諦めようとしていた俺の意識を覚醒させる。目の前が真っ暗で通信系統がどうなっているのかわからないが、確実にハイパーセンサーだけは起動している。
俺は全神経を集中し、その音に耳を傾ける。
「がんばれ!比企谷くん!」
その声は今思い出したくない人間ベスト3に入る、あのルームメイトのものだ。こんな大声を出して大丈夫なのか?こんなにもこっぱずかしい事をするなんて、なかなか勇気のあるやつだ。
フッと息を吐き、俺の口に笑みが零れる。
───そうだ。俺は何をやっている?家族を馬鹿にされたことを仕返すんだろ?少なくとも一人、ここに応援してくれるやつがいる。俺はその思いに応える義務があるんじゃないのか?うだうだ言ってて頑張らないで後悔するのなら、やって後悔したほうがマシだろ?
「うおおおおお!!!」
力を込め、身体を捩る。が、虚しくもISは動かない。
それでも、俺は諦めない。この一瞬だけでも、誰かの“優しさ”に縋ってもいいだろう。信じるなら、今しかない。自分を信じろ。他人を信じろ。
この一瞬だけでも、この想いに答えろ!
───I'm your sword.───
突如、俺の目の前に緑色の文字が踊る。
───I'm your shield.───
‥‥‥どういう事だ?
───I'm your wings.───
「お前‥‥‥IS‥‥なのか?」
俺の言葉に呼応するように、緑色の光が次の言葉を紡ぐ。
───Do you,you can wield the power for your rightness?───
俺自身の正しさ‥‥‥か。
俺は常に正しい事をしているつもりだ。それを誰かが否定する事は出来ないし、俺が他人の正しさを否定するつもりもない。だが、俺の正しさと他人の正しさぶつかる時、俺はどうするだろうか?
答えは、俺自身が一番よく知っている。それは───
「───“分からない”、だろ?」
その回答に満足したかのように、緑色の文字が霧散する。
正しい人間なんてこの世にいない。人間は、不完全だからこそ人間なのだ。自身の正しさだの思っているものが本当に自身の望むものかといえば、それは別の話だ。
なら、俺は俺なりの回答を出す。分からないなりに、答えに手を伸ばし続ける。間違いながら、俺は進んでゆく。
それが俺の答えなのだから。
「system all green.」
真っ黒な世界に亀裂が走る。
「“first shift” set up complete.」
世界は崩壊し、白い輝きを放つ。
「Please choose your preferred language.」
「ジャパニーズだ。」
「───言語選択。No.52は標準言語を日本語に変更します。」
世界が鮮やかさを取り戻して、俺の意識が段々と鋭くなってゆく。
「名証変更。これより、No.52は【浮舟】と名乗ります。」
凍りついたように動かなかった手足に感覚が戻る。
「【浮舟】、起動します。」
悪いが、勝たせてもらうぞ‥‥セシリア・オルコット。
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