やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。   作:AIthe

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前話の書き直し、というより完全改訂版です。
もともとこっちにする予定だったのですが、ヒロイックなISの方がいいかなーと思いまして‥‥‥‥

やっぱり、自分の好きなように書く事にしました。

前話は明日には削除します。


それでも、比企谷八幡と相川清香は間違いながらも近づく

画面の向こうの現状が私には理解しきれなかった。跪き、動かなくなったISが突如として眩い光を放ち始め、その形を変えてゆく。

多分、あの光は一次移行のものだろう。だが、一次移行にしてはあまりにも機体のデザインが変わり過ぎていた。

 

黒漆に塗り潰された厚い装甲。

先程よりも重量感の増した脚部。

安定した腰部。

大きさをそのまま、更に尖鋭的になった胸部。

丸みを帯びた肩部。

五角形の何かが取り付けられた左腕。

砲口のないカノンが取り付けられた右腕。

そして、胸部と完全に接合した機能的とはいえないデザインの頭部。その蒼いラインアイは獲物を待つ猛獣のように淡い光を放っていた。

背部に浮く折れた翼のような非固定部位が痛みにもがき苦しむように動き始め、蒼炎の如き光を撒き散らす。

 

「なんですか‥‥‥あれは?」

「あれが【源氏物語】が選び出した、比企谷くんの本質だ。」

 

ニヤニヤと笑う社長が、自慢気に解説を始める。

 

「あの子───正確にはあの子達、かな?まあ、あの子でいっか。あの子には全ての設計図のデータが含まれているんだよねー。だから、一次移行の時はその全データ内から比企谷くんに合ったものを組み合わせてできているんだよー。だからね、あの姿は比企谷くんの本質を表してるってわけ。」

「比企谷の本質‥‥‥‥」

 

もしこの胡散臭い社長の言う事が本当なら、比企谷の精神はどうなっているのか。この分厚い装甲こそが、比企谷の本当の姿だというのか?あの飢えた獣のような姿が、本当に私の知っている比企谷の姿なのか?もし仮にそうなのだとしたら。比企谷、お前はどんな獣を心の中に飼っているんだ?

 

「でも僕もびっくりだよ。こんなピーキーな機体に仕上がるなんてねー。あ、そろそろ次の仕事があるから帰るね。」

「‥‥‥さっきの言葉、どういう意味ですか?」

 

踵を返した社長に問う。

あのコアが比企谷にしか反応しない。それはコアの選り好みレベルの問題ではなく、極めて例外的な事案となり得る。ここで聞かず、どこで聞くというのか。

 

「そのままの意味だよ。こっちとしてもよく分かってないからね。ま、比企谷くんに賭けてみて正解だったよ。あの機体、とっても面白そうだしねー。」

 

振り返らずに、社長は管制室を立ち去って行った。

私は一人取り残されこれからの事を思い、ふぅ、と溜息を吐くのであった。

 

───2───

 

視界に映る全てが色鮮やかだ。

手足の先まで鋭い、しゃんとした感覚がある。

さっきまでとは違う、世界全体が俺と繋がったような感覚。

このIS───【浮舟】が、まるで自分自身になったかのような気分だ。不安や心配は全部吹き飛び、今は妙な安心感だけが残っている。

 

‥‥‥いける。

俺は上を見上げ、こちらにレーザーライフルを向けている少女を注視する。豆鉄砲を食らったという表現が正しい、まさに“今私驚いています”という顔をしている。

 

「現在所有する全システムのロック解除を確認。【藤壷】、起動します。」

 

右腕を侵食する程の大きさのカノン砲後部ジェネレータから蒼い光が漏れ、冷却装置がカパカパと動く。

 

「【藤壷】の起動を確認。続いて【若紫】、起動します。」

 

背部の折翼型のユニットがガバッと動き始め、展開する。八つのブースターが点火し、蒼く燃え盛る翼を取り戻す。

 

「【若紫】の起動を確認。続いて【六条】の起動、確認。【朝顔】の起動、確認。【葵】の起動、確認。全兵装の起動を確認しました。【浮舟】、システムを機動戦闘モードに移行。」

 

【浮舟】は飛べない。宇宙用に作られた筈のISの中では異質な存在であるし、飛べないとなればそれ相応に不利なのだ。だが、こいつにはそれをカバーしうるほどの能力がある。

 

「待たせて悪いな、続きをしようか。セシリア・オルコット。」

「最初はどうなるかと思いましたが‥‥望むところですわ!」

 

彼女の持つレーザーライフルから光が放たれる。燃え盛る翼が大きく煌き、爆風を巻き起こしながら高速で回避する。

 

「は、早い!?」

 

【浮舟】は“空”を完全に捨てた代わりに、地上での移動速度がダンチだ。防御力も高く、単純な機体性能だったらどのISにも負けないだろう。動けるデブというやつだ。

 

「1st code:Assault rifle!」

 

砲口に見えたカノンの先端が光を放ち、二対のレールが姿を見せる。右腕を上げ、レールから幾つもの青白い光を放つ。が、これは完全に腕の差で、全く当たらない。流石は代表候補生だ。

 

「そんな動きではっ!」

 

彼女の呼び声で二つに減ったビットが宙を舞い始め、合計三方向からの集中砲火を食らう。装甲が軽く焦げ、漆のような黒の中に別の黒が混じる。

追撃を加えようとする彼女に向け、俺は声を振り絞って大きく叫ぶ。

 

「【朝顔】!」

 

左腕に取り付けられた正五角形の一角一角が展開し、エネルギーシールドを生み出す。薙ぐ風にして腕を振り、レーザーを防ぎ、そして弾く。

 

「なっ!ブルー・ティアーズが!?」

 

光と鏡の関係のように、いとも簡単にレーザーが弾き飛ぶ。弾き飛んだそれはビットに直撃し、黒い煙を立てて撃沈する。残り一つとなったビットは退散し、空を支配し続ける彼女の元へと戻る。

 

「2nd code:Sniper rifle!」

 

レールが青い粒子となり、霧散する。同時に長いレールが四本出現し、カノンに接続する。地面に接しそうな程に長いそれを構え、発射する。細い閃光が空を駆ける。

 

「くうっ!」

 

辛うじて避けられる。このスナイパーはアサルトライフルに比べて威力が高く、弾速も早い。だが次弾装填が遅く、銃身が大きいので使いにくい。個人的には連写の効くアサルトライフルの方がいい。

 

「Final code:【桐壺】!」

「【桐壺】、スタンバイ開始。全特殊補助兵装を展開します。」

 

その武装の名を叫ぶと同時に、砲身だけでなく右腕全体が輝きを放つ。

 

「全システム統制を【浮舟】より【桐壺】に委託。システムを掃撃モードに移行します。」

 

スナイパーの三倍はある巨大な砲身が、その姿を顕現する。大量のコードが他パーツと接続し、右肩まですっぽりと覆い込む。両足裏のパイルドライバが地面へと突き刺さり、ジェネレータがガタガタと震え出す。

腰部から支脚が展開され、安定した体制を保つ。

 

「全エネルギーラインを直結。供給を開始。」

 

ジェネレータより供給される過負荷なエネルギーがコードより漏れ始め、ノイズのように蒼い稲妻を発生させる。

 

「ジェネレータの超過駆動を確認。」

 

冷却装置が真っ赤に染まり、それを覆っていたカバーが完全に吹き飛ぶ。

 

「ライフリング、回転開始。」

 

とうとう砲口から光が溢れ始める。

 

「シークエンスを完了。発射可能です。」

 

自身が砲台になったつもりで、右腕を空に向け掲げる。砲身が少女を捉え、圧縮した光が機体を包み込む。

 

「trigger!」

 

コールと共に、圧倒的な破壊が宿る“蒼”が放たれる。空が割れ、アリーナのシールドが紙屑のように吹き飛ぶ。空気が焼け、熱気がアリーナ内を包む。

空を引き裂いていた光はゆっくりと収束し、消える。

 

これぞこの【桐壺】の真髄。直線上の全てを消し去る、超長距離掃撃砲。

IS相手なら確実に絶対防御を発動させる、一撃必殺の兵器。

 

だが、この武装には致命的な弱点がある。

 

「危なかった‥‥‥ですわ。」

「外れちゃったのかよ‥‥‥‥」

 

打った後、暫く動けないのだ。一分くらい。

 

あっ(察し)。

 

───3───

 

みんなの予想通り負けちまったよ小町。諦めたらそこで試合終了だけど諦めないで頑張っても終了しちゃいました。てへっ☆

あの金髪クロワッサンに無双され、ボロボロになったISを引き摺りおうち‥‥‥じゃなくて寮に帰ろうとしている俺の前に、鬼教官が立ちはだかった。

 

今からラスボス戦だそうです。SUN値減るわ。

 

「比企谷、あの最後に使ったやつは禁止だ。」

「マジっすか?」

「危険過ぎる。理由は以上だ。」

 

「お疲れ」とか「頑張ったな」とか、そういう優しい言葉はありませんでした。べっ別に、期待なんてしてないんだからね!

 

「今回の戦い、余り評価されるものではない。」

「‥‥‥‥‥」

 

そんなことは知っている。

他人の弱みに付け込むのは、教師の立場からすれば“正々堂々”とは言えないだろう。

 

「だがな。」

「?」

 

織斑先生は語気を強める。

 

「その努力は認めてやろう。精進しろよ、比企谷。」

「‥‥‥うっす。」

 

俺の肩を叩き、織斑先生はアリーナに消えて行った。

褒められる事自体、悪い気分はしない。ただ、それに裏があるのではないかと疑ってしまうだけだ。

今の言葉の真意を見極めている俺の肩を、また別の人が叩く。

 

「比企谷くんお疲れ!」

「お、おう。相‥‥‥まあいいや。」

「相川だって!覚えてよー!」

 

ぷっぷくぷーっと頬を膨らませる。わー、あざといなぁ(棒)。

 

「あのでっかいの凄かったね!SF映画かと思ったよ!」

「俺もそう思ったよ。ははっ、ワロス。」

 

あー、あるあr‥‥‥ねーよ。実際打つと反動だけで死ねるから。パイルドライバー地面に打ち込んでるのに反動がヤバい。捨て身タックルとか比じゃない。がんじょう欲しいれす。

 

「‥‥‥ねえ、比企谷くん。」

「お、おう?」

 

突然真面目な声色に変わる。夏にしては涼しげな風が俺達を包み込む。

 

「私と、友達になってくれないかな?」

 

息が詰まる。今の一言は色々な意味で唐突すぎた。風が止み、梅雨明けのジメジメとした不快感が込み上げてくる。

一度大きく深呼吸し、きっぱりと告げる。

 

「悪い、俺とお前の関係はそういうものじゃない。」

「‥‥‥‥‥」

 

そう、俺とこいつはただのルームメイトで、それ以上でもそれ以下でもない。それは、最初から変わらないのだ。

 

「そっか。ならそれでもいいや。多分、比企谷くんのいう“友達”と私の“友達”は違うし。今はルームメイトで我慢してあげる。」

 

裏のない屈託の笑顔に、思わず俺はたじろぐ。

そのまま彼女は、俺を置いて先に走っってゆく。石畳の音が軽快に鳴り響く。

 

「でも───」

 

そして、その場で立ち止まる。

 

「───いつかは、ね?」

 

夕日に照らされた彼女の顔は、どこか赤かった気がした。

俺も、不思議と悪い気はしなかった。

 

夕日が綺麗だな、と、久しぶりに素直に思えた。

 




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