ラウラとの日々   作:ふろうもの

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ラウラと夏祭り

 暑い、と思わず声が漏れた。季節は夏真っ盛りの八月のことである。

 

「暑いな……嫁よ……」

 

 日本の夏は暑い。この地で十数年過ごしてきた俺でさえ、未だにこのジメジメとした暑さに耐えられないのだから、ほんの一年前に日本に来たばかりのラウラが順応できるはずもなく。

 もっとも、部屋の冷房はガンガンに利かせているのだが、それでも暑く感じるのは窓の外で元気一杯に(つがい)を求める蝉の鳴き声の影響か、それともベッドで背中合わせに座っているラウラの体温が高いせいか、どちらかはわからない。が、多分前者だろう。

 俺とラウラ、お互いに離れるという選択肢は、ない。

 この一年でいろんなことがあった。思い出したいことも思い出したくないことも、色々と。それでも俺はラウラと一緒に居ることを選んだことに後悔はない。

 ベッドに投げ出している左手を、ラウラの右手がそっと包み込んできた。

 ラウラの体温はやはり、高い。でも嫌じゃない。

 このまま部屋でだらだら過ごすのも悪くはないのだが、折角の夏季休暇、ラウラとどこかに出かけたいと思うのは俺にとっては自然なことだ。どこか行こうか、とラウラに質問すれば。

 

「嫁とならどこへでも行けるぞ、私は」

 

 という一直線に心に響くような言葉で返してくれるのが、またラウラの可愛いところだ。

 そういうのが一番困るんだけどな、と思わず苦笑する。

 でも、ずっと一緒に居たいと言ってくれるのは正直に言って嬉しい。

 ここまでストレートに好意をぶつけてくれるのも、ラウラだからに違いない。

 俺は本当に幸せ者である。

 こうして毎日の幸せを噛み締めている時、ラウラが何かを思いついた様にそうだ、と声を上げた。

 

「今日、学園から近い神社で夏祭りがあるらしい。行ってみないか?」

 

 そう、誘われた。で、俺の中に断るという選択肢などある筈もなく、じゃあ早速と織斑先生のところへ二人外出許可届を取りに行くことにするのだった。

 もちろん、手は繋いだままである。

 例え外がどんなに暑かろうとも、この手だけは離したくない。

 

 

 暑いな、と愚痴をこぼしながらシャツの襟で仰ぐ。Tシャツに短パン、それにサンダルといった如何にも祭りを冷やかしにきた(あん)ちゃんと言った風貌で、俺はラウラを待っていた。

 ラウラは祭りに行くとどこからか聞きつけたのほほんさんこと布仏さんに掴まって、どこかへと連れていかれてしまったのである。だから俺が一足先に来ることになった。

 こう見えてもISは待機状態のまま、携帯しているが、俺のISの待機状態が何なのかは機密情報保護法に引っかかるのでここでは伏せておくが、見た目ほど油断はしていない。

 そもそも俺の視界に入らないだけでS(シークレット)P(サービス)が何十人と人混みに紛れ込んでいるのだ。本当に、IS操縦者というものは希少価値のある存在なのだと痛感する。

 

「よ、嫁よ……待たせたな!」

 

 まったくだ、と言う憎まれ口を叩く前に、俺の口から漏れ出たのは、ほぅという溜息にも似た悩ましい空気だけだった。それはそうである、いつもとは違うラウラがそこに居たからだ。

 長い銀色の髪の毛は黒のリボンでツインテールに括られて、黒を基調としながらも桃色のラインが十字に入った浴衣をフリルのワンポイントが入った紅色の帯で締めているその姿。可愛いと言う他ない。のほほんさんのアレンジなのだろうか、帯の上に更に薄紫のリボンを巻くことでラウラの可愛さがより引き立っている。

 それは、のほほんさんが、とわかりきった質問をラウラにすると、ラウラは顔を真っ赤にしながら。

 

「そうだ」

 

 と、短く答えた。これは後でのほほんさんにお礼を言わなければいけないな、と思いつつ、今言うべき一番の言葉を思い出して、正直に答えた。

 可愛いよ、と。

 

「そ、そうか!? 可愛いか!?」

 

 ぱぁっと、浴衣の生地にもあるように花咲く笑顔を見せてくれるラウラは本当に可愛い。

 思わず抱きしめたくなるくらいだが、公衆の面前だからそれは控えた。

 ただ、手だけをそっと伸ばして、下駄は歩きづらいだろうから、繋ごうか、と言うと。

 

「うん……」

 

 と、ラウラは赤くなった顔を伏せながらおずおずと俺の手と自分の手を繋いだ。

 

 

 ラウラに綿あめをねだられ、焼きそばをねだられ、リンゴ飴をねだられ、と。

 初めて見る食べ物の数々に眼を輝かせるラウラとの食い道楽の夏祭りを送っていた俺たちだったが、一滴の雨粒が俺の脳天に直撃した。

 もしかして一雨来るだろうかと見上げてみれば、ポツリポツリと俺の頬を叩きだす雨粒の数々。これは強くなりそうだとラウラの手を引いてみれば、ブチリという嫌な音。

 見ればラウラの下駄の鼻緒が切れてしまっている。

 

「あっ……布仏から借りた下駄なのに……」

 

 大丈夫、のほほんさんもわかってくれるさ、とラウラを慰めていると、なんだかもやもやと不吉な予感がするな、と思えば一気に本降りになった雨が俺たちに襲いかかった。

 大変だ、早く木陰に、とラウラをおぶってでも連れて行こうとしたが、ラウラは泣いていた。

 そんなラウラを無理にどうこうできる俺ではない、ただ努めて優しく。

 どうしたのかと、聞いてみた。

 

「うぅ……ひっく、せ、せっかく、せっかく、布仏にも手伝って貰って、ひっ、浴衣もかり、借りてきたのに、ひっ、汚してしまったことが本当に申し訳なくてぇぇぇ!」

 

 ああ、ラウラはこんなにも自分を着飾らせてくれた友達のことを想っているのだな、と思うと俺は降りしきる冷たい雨とは違って暖かい気持ちでいっぱいになった。

 その思いが伝わりますようにと、俺はラウラを真正面から抱きしめた。

 大丈夫、のほほんさんはわかってくれる。俺の為にありがとう。

 頭を撫で、背中をポンポンとあやす様に叩いてやると、ラウラもだんだん泣き止んできた。

 天の神様も少しは懲りてくれたのか、ラウラが泣き止むように合わせて雨の降り方も大人しくなってきた。しかし、この夏祭りのメインイベントである納涼花火は中止である、という無慈悲なアナウンスが流れてくる。

 俺の腕の中で雨の寒さに震えるラウラに、今日は帰ろうか、と声を掛けるとラウラはゆっくりと首を縦に振った。じゃあ、と俺が立ち上がった時、大変なことに気付いた。

 

 ――ラウラは、下着を着けていない?

 

 その旨をラウラに聞いてみると。

 

「? 浴衣の下は何も着ないのがルールなのだろう? クラリッサもそう言っていたぞ」

 

 クラリッサさん、ラウラと付き合う時には本当にお世話になりましたが、貴女は本当に余計な知識をラウラに植え付け過ぎです。今の時代に浴衣の下に下着を着けぬ乙女もいないだろう。

 薄く透けて見える、ラウラの小さくとも柔らかいものの頂点にある突起した桃色の部分が俺の官能を刺激するが、こんな姿のラウラを他の男になど見せたくない。

 浅ましい独占欲も俄かに湧いてくる。

 俺はしゃがんでラウラに背中を向けると。

 学園までおんぶするから、ラウラは下駄を持っていてくれ、と言った。

 ラウラは小さく頷くと、俺の背中にその小さな身体を預けてくれた。

 

「その……嫁よ。重かったらちゃんと言ってくれていいのだぞ?」

 

 そんなことないよ。と可愛らしい問いをするラウラに答える俺だったが、理性はだいぶ限界に近付いていた。それもそうだろう。ラウラがこんなにも近いのだ。

 シャツが背中にべったりと張り付いて気持ち悪いが、その背中にはラウラの小さくとも柔らかな膨らみが二つも押し付けられている。遠慮なく俺に身体を預けてくるものだから全力で俺に当たるのである。

 そして身体が冷えたことによる生理反応であろう、先程少し見てしまったラウラの桃色の突起の感触も、背中に二つ感じてしまうのである。

 これはヤバい。理性が薄れていく。

 

 

 結局IS学園寮に辿り着くまでの道中はほとんど覚えていない。ただ、ラウラが言うには途中からずっと上の空だったようで、寂しかったとまで言われてしまった。

 寮のラウラの部屋の前で俺は本当にごめん、と謝るがラウラには。

 

「ふん。絶対に許さないからな!」

 

 と、可愛く怒られてしまった。

 では如何しましょうか、お姫様。とおどけて謝ってみると、ラウラは俺の手をぎゅっと握って。

 

「一緒に……お風呂に入ったてくれたら、許す」

 

 と、頬を赤らめ俯き頬を膨らませながら言ってくるのだから、俺は二つ返事で答えるものの。

 

「不純異性交遊は許さんと言っただろう」

 

 と、いつの間にか現れた千冬さんに思いっきり殴られてしまったのであった。




ジメジメした梅雨は嫌ですね、これは超不定期更新なので早過ぎる季節ネタもよくやります。
夏祭り詐欺なのは、アニメで既に映像になっているのでやりませんでした。
謹んでお詫び申し上げます。

今回は『セシリア・ダイアリー』を執筆されている若谷鶏之助様と、Twitterのとある方のネタのお陰で今作は完成しました。
この場を借りてお礼を申し上げます、本当にありがとうございました。

オリ主です、決して一夏ではありません。
無論、主人公はラウラが好きな貴方かもしれません。

hisashi様、誤字脱字報告ありがとうございます。

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