冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
……どうしてこうなった。
確かにミスリルの鎖から解放され、
内部の状況が分からず、敵の戦闘力も高いと予想されるため、腕の立つ冒険者達と少なからず彼らを知っている俺がパーティを組むのは実に合理的だろう。
「それでは打ち合わせを始めるよ」
だが──
「おいフィン、何で蛇野郎がここにいるんだ?」
「彼はスパイ達と因縁があるらしいんだ。相手は相当の手練れだと考えられる。実際、【ガネーシャ・ファミリア】を中心としたパーティが撤退させられているからね。情報は少しでも欲しいんだ」
「……けっ。何でもいいけどよ、足引っ張んじゃねえぞ」
「アッハイ」
誰が【ロキ・ファミリア】の精鋭陣とパーティを組まされると予想できようか?
現在、俺は
てっきり【ヘルメス・ファミリア】で動くと思っていたのであまりの驚きに思考回路が停止している。比較的親しいとは言え、かの【ロキ・ファミリア】の、しかも精鋭陣とパーティを組むなんて……光栄にも程がある。
「しかしフィンよ。スパイどもはそんなに強いのか?」
正常に頭が働いていなくても話は進んでいく。ガレスさんの問いにフィンさんは首を振った。
「撤退してきた【ガネーシャ・ファミリア】によると、彼らは3階層に降りた途端、『キラー・アント』に襲われたらしい」
「『キラー・アント』? 3階層にか?」
「うん」
『キラー・アント』は7階層から出現するモンスターだ。3階層に出るのはおかしい。しかもおかしいのはそれだけじゃない。
「でもそれって変ですよね。『キラー・アント』程度でしたら【ガネーシャ・ファミリア】が撤退する状況に追い込まれるはずがありません」
ティオネさんの発言に心の中で頷く。
『キラー・アント』は厄介なモンスターだが、所詮はLv.1だ。オラリオでも有数の派閥である【ガネーシャ・ファミリア】が負けるはずがない。
「ああ、普通ならそうだろう。ただし【ガネーシャ・ファミリア】の交戦した『キラー・アント』は………………体長が通常のものの5倍はあったらしい」
「ご、5倍!?」
信じられないと言うようにティオナさんが叫ぶ。フィンさんはさらに補足を続ける。
「しかもフェロモンで仲間を呼んでいるらしく、既に通路は『キラー・アント』で埋め尽くされている、とのことだ。……全てが巨大な、ね」
一瞬、その光景を想像する。見慣れたダンジョンの3階層。通常の『キラー・アント』でさえも仲間を呼んだ時には通路やルームが埋め尽くされるのだ。その5倍となると……。
ブルリと体が震えた。
「トキ、モンスターを強化するようなスキルを持った人物を知らないかい?」
フィンさんの声に意識を現実に戻し、該当するであろう人物を答える。
「恐らくですが、ソロンという
「……なぜ断言できるんだい?」
「先日、俺は彼が使役しているであろう動物に攻撃を受けました。……魔法で」
「動物が魔法を使う? いったいどういう……まさかっ」
疑問を口にしたリヴェリアさんがある答えにたどり着く。多分俺と同じものを想像したのだろう。
「自らが使役している動物やモンスターに『恩恵』を与える。それが、俺が予測したソロンのスキルです」
「人間が、『恩恵』を与える……!?」
驚きの声を漏らすラウルさんに首肯する。出発前ヘルメス様に、犬や猫みたいな動物に『恩恵』を与えられるか聞いてみた。答えは、できないことはないが普通はしない、とのこと。そう言った生物は人間よりも寿命が圧倒的に短く、与えても面白くない、らしい。
「もちろん動物を強化する、というスキルの可能性もあります。ですが使う魔法が違ったり、身体能力に差があったりという点からそう推測しました」
「そうか……。そのソロンという人物の特徴は?」
「性別は男。特徴としては
「それは……」
……言いたいことはわかる。だが詳しいことを話している時間はない。
「ソロン自身はそこまで強くないと思いますので、できれば生け捕りでお願いします」
「わかった。他に注意する人物はいるかな?」
「主格であるスヴェイルを除けば二人。一人はサーバ・マクール。
ピクリとフィンさんが反応するのがわかった。それを意識の隅に留めつつ話を続ける。
「特に一対一なら俺よりも強いです。ですがスヴェイルの事を毛嫌いしているので、奴を処理すれば話し合いに応じてくれると思います」
「わかった」
「二人目はレゴス・ドラウ。エルフの男性で、一般市民を操る洗脳魔法という魔法を使います」
「洗脳魔法……そんな魔法が……」
「こちらは完全にスヴェイルに心酔しているので、説得はまず無理でしょう。というよりも、スパイ側のエルフは基本スヴェイルを慕っているので、こちらの言葉に耳を貸さないと思います」
「……頭が痛い話だな」
リヴェリアさんが眉をひそめる。レフィーヤも難しそうな顔をしていた。
「この二人は組織の中核でもあります。彼らを押さえることができれば、確保もしやすくなると思います」
「わかった。全員、今の話を頭に留めておいてくれ。それじゃあ行こう」
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エルフの少女、レフィーヤは複雑な気持ちで、隣を歩く己の恋人を見る。 その顔はいままでに見たこともないくらい険しいものだった。
一緒にパーティを組めるのは嬉しい。だけど今回の件は彼の過去と深く関わっているものだ。そんな表情になるのも無理はないだろう。
けど、できればそんな顔をしてほしくない。それがレフィーヤの本音だった。
「トキ、気負い過ぎよ。少し肩の力を抜きなさい」
レフィーヤの心境を知ってかティオネがトキに注意を呼び掛ける。
「……ああ。すいません。皆さんとパーティを組むというのでなんか力が入っちゃって」
「そう? ま、いつも通りで構わないわ」
「はい」
深呼吸した彼は確かに無駄な力が抜けていた。それに安心したレフィーヤはほっと息を吐く。
それからまもなく、2階層から3階層に続く階段の手前でトキがパーティに停止を呼び掛ける。
「下がどうなっているか確認してきます。降りた瞬間に不意打ちされる、という事態は避けたいので」
「わかった。ラウル、君も行ってくれ」
「団長、私も行きます」
「わかった、三人とも気を付けて」
前衛にトキとラウル、後衛にレフィーヤという布陣で階段を降りる。道中、トキは【インフィニット・アビス】と【ケリュケイオン】を詠唱する。
「鼻歌混じりに『並行詠唱』する、っていうのはどうかと思いますっす」
「あ、すいません。やっぱり皆さんと組めて嬉しい、というのがあるんで」
……どうやらトキは自分が所属していた組織について、あまり気にしていないようだ。日中何かあったのだろう。
階層に降りる手前で止まる。トキが顔だけ覗かせ……すぐに引っ込めた。
「どうしたの?」
「……でっかい『キラー・アント』が気持ち悪いくらい大群でいた」
好奇心にかられ、ラウルと並んで顔を覗かせる。
通路の先に巨大な赤い光がうごめいているのが見えた。目を凝らせばそれが『キラー・アント』の眼光だとわかる。目測で4~5
ふと、1体の『キラー・アント』と眼が合った……気がする。悪寒が走った。急いで顔を引っ込める。
「……気持ち悪いくらいいたね」
「……気持ち悪いくらいいたっす」
「でしょう?」
3人とも体を震わせた後、どうするかという話になる。
「とりあえずフィンさん達を呼んで来ましょう」
「そうですね」
『キィァ!』
「……どうやら見つかったみたいです」
直ぐ様3人とも武器を構える。
「レフィーヤ、フィンさん達を呼んで来てくれ!」
「わかった!」
「ラウルさん、抑えますよ!」
「了解っす!」
レフィーヤは階段を駆け上がり始め、トキとラウルは己の武器で迫ってくる『キラー・アント』を迎撃する。
トキが短刀を甲殻に走らせるが、薄く切るだけに終わる。
「それなら!」
今度は甲殻の隙間を狙い、短刀を振る。『キラー・アント』は断末魔の悲鳴を上げた。
「ラウルさん、どうやら大きさに対して殻の硬度も上がっているみたいです!」
「そうみたいっすね!」
『キラー・アント』はその鉤爪で壁や天井に張り付き、縦横無尽に襲いかかってくる。
「トキ、死体を残しちゃダメっす! 身動きがとれなくなるっすよ!」
「はい!」
ラウルの指摘に狙いを『魔石』に絞るトキ。短刀で切り裂き、影でほふっていくが……対処が追い付かない。
「ラウル、トキ無事か!?」
「フィンさん!」
「助かったっす!」
後ろから聞こえた援軍の声。それと同時に二人を4つの影が追い越した。
「うわっ何これ!?」
「いくらなんでも多すぎでしょう!?」
「文句言ってる暇があったら手を動かせバカゾネスども!」
第一級冒険者達が次々と『キラー・アント』を倒していく中、フィンの指示が飛ぶ。
「全員死体を残すな! 動けなくなるぞ!」
「ちっ面倒くせぇな!」
「ラウル、あの『キラー・アント』の
「推定Lv.2ってとこっす。ちょうど『樹木の迷宮』の昆虫モンスターと同じくらいだと思うっす」
「わかった。今後のためにも殲滅する必要があるな」
「あんなのLv.1じゃ対処できませんからね」
息を吐きながら、彼らは黒いモンスターの軍団に飛び込む。
獅子人のルビ(振り仮名)は適当に考えました。原作で出た場合、すぐに修正します。また、もっといいものがあったら教えて下さい。
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