冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
今回の話、【ロキ・ファミリア】を参戦させるか悩みましたが、レフィーヤがヒロインですので、参戦させることにしました。レフィーヤがヒロインですので。
レフィーヤside
手に持つ羽ペンで文字を書き、しばらく考えてからそれを消す。そしてまた文字を書いていく。さっきから……いや、数日前からこの作業を繰り返している。
ペンを置いて、書庫から借りてきた本を手に取る。ページをめくって内容を読むが、参考になりそうなものは見つからない。持っている本を置き、別の本を手に取る。
「レフィーヤ、朝食できたよー」
4冊目の本を手に取ったところで声をかけられた。部屋の時計を見てみると、作業を開始してから随分と時間が経っていた。
「はい、今行きます」
椅子から立ち上がり、グッと伸びをして長時間座って固まった体をほぐす。
「すいません、朝食の支度を手伝わないで……」
ここ数日、私はいつもより早く起きているが、作業に集中しすぎて朝食の支度を手伝っていなかった。
「いいよいいよ。何か一生懸命やってるし、邪魔しないようにしてるんだから」
謝る私にルームメイトの彼女は笑顔で答えてくれた。
食堂に着くと既に配膳が終わっていた。席を探すと、運良くアイズさんの隣が空いていたのでそこへ座る。
「おはようごさいます、アイズさん」
「……おはよう、レフィーヤ」
アイズさんに挨拶してから朝食を食べ始める。しかしその間でも頭に浮かぶのはさっきの作業のことだ。いい考えが浮かばず、悶々としながらパンを口に運ぶ。
「ねえねえ、レフィーヤ」
そうしていると逆隣に座っているティオナさんから声が飛んできた。
「何ですか?」
「この間から何かしてるみたいだけど、何してるの?」
ティオナさんの質問に、アイズさんがコクコクと首を振る。どうやらアイズさんも気にしていてくれたらしい。特に隠す必要もないので今している作業について話す。
「ちょっと、魔法を──」
「……? レフィーヤはもう魔法を3つ修得してるよね?」
私の回答にアイズさんが首を傾げる。
【ステイタス】に刻むことができる魔法は最大3つまで。そして私は【アルクス・レイ】、【ヒュゼレイド・ファラーリカ】、【エルフ・リング】の3つを既に刻んでいる。
「いえ、自分で魔法を作ってまして……」
しかしそれにも抜け道がある。それが、魔法を自作することだ。自分で術式を考え組み上げれば、【ステイタス】に刻んでいなくても魔法が使える。
私は【エルフ・リング】によって別の人の魔法を使うことができるが、使える魔法はエルフのもの限定であるし、最初に【エルフ・リング】を唱えなければならない。そのため、どうしても行使までに時間がかかる。
そこで、戦略の幅を広げることも兼ねて新しい魔法を自作しようとしていた。
「レフィーヤ魔法作ってるの!?」
私が続けた言葉にティオナさんが驚愕の声を上げた。大きな声だったので、食堂にいる全員の視線が集まる。
「えっと、はい」
その事に恥ずかしくなりながらもティオナさんの言葉に頷く。おおぉ、というどよめきが聞こえた。
「なるほど。最近本を部屋に持ち込んで何かしていると思っていたが、魔法を自作していたのか」
するとリヴェリア様が話に入ってこられた。
「だがレフィーヤ、自力で魔法を製作する、というのは非常に困難なことだ」
「はい、わかっています」
今でこそ魔法は、『神の恩恵』によって当人の才能と知識を蓄えることにより、発現する可能性が高くなっている。しかし『恩恵』がなかった『古代』の冒険者達は、長い年月をかけて魔法の術式を組み上げ、行使していた。
「それに魔法の開発は既に1度経験しているので、大変さは身に染みていますから」
その言葉にリヴェリア様が固まった。いや、周りを見渡すと食堂にいる全員が固まっていた。
「レフィーヤ、お前は既に自作の魔法を持っているのか!?」
「? はい」
突然驚愕の声を上げたリヴェリア様のご様子に首を傾げつつ、肯定する。
2年と少し前。トキと、とりとめない話をしているとふと『古代』の冒険者達が自分達で魔法を作り上げたことが話題に上がった。それについていろいろと話している内に自分達もやってみよう、というのがきっかけだ。
「でもその魔法、私は1回も見てない……」
「あたしも!」
アイズさんとティオナさんの指摘に頬をかく。
トキと協力してなんとか魔法は完成した。内容は超短文詠唱の攻撃魔法だ。しかし完成した魔法を試してみたところ様々な問題点が見つかった。
まず威力が弱い。当時Lv.2だった私が使用したところ、10階層のオークをなんとか倒せるくらいの威力だった。恐らく今のレベルだと『中層』域のモンスターに通用するかどうか程度の威力だと思う。
次に燃費が悪い。感覚だけど1発で【アルクス・レイ】と同じくらい
「ですから作った魔法を使うよりも【アルクス・レイ】を使った方が皆さんのお役に立てるので、皆さんの前で使ったことはありませんね」
作った魔法を使わない理由を説明すると、話を聞いていた皆さんが何とも言えないような顔をする。
「それは……自作した魔法に意味があるのか?」
「短期間で作った魔法ですし、その時の目的は魔法を作ることだったので、攻略で使うような魔法は目指していませんでしたから」
怪訝そうなリヴェリア様に苦笑しながら答える。まあ短期間と言っても2ヶ月ほどかかったけど。
それにあの魔法はトキと一緒に考えて作り上げた思い出の魔法だ。使い勝手は関係ない。
「じゃあさ、その魔法見せてよ!」
「え、今からですか?」
「うん!」
ティオナさんからの提案に頭を悩ませる。この後も魔法製作の作業に戻りたいのだけど……。
「私も、見てみたい」
「今から行きましょう」
ティオナさんに便乗するアイズさんに私は提案を受け入れた。そうだ、作業もちょっと根を詰めすぎていたし、気分転換に外に出よう。
「決まりだな。それでは各々準備ができたら中庭に集合しよう」
リヴェリア様の一言に話を聞いていたであろう皆さんが立ち上がり、食堂を出ていった。……え? こんなに付いて来るんですか? 言っておきますけど本当に大した魔法じゃないですよ?
結局、付いてくるのはアイズさんやリヴェリア様を含めた10人ほどとなった。
「あ、レフィーヤ。さっきトキが来てたぞ」
正門から出ると見張りをしていた団員に声をかけられた。
「トキが? どんな用事だったんですか?」
「ただの噂話をしにきただけだったぞ。確か……最近、夜中に怪しい集団が目撃されているから注意してくれ、って話だった」
「……怪しい集団?」
……おかしい。具体的に、どこがおかしいかはわからないけど、トキの行動に違和感を感じた。
「それっていつのことですか?」
「確か……日の出前だったかな?」
……そんな早朝に、噂話をするためだけにわざわざここまで来た? 普通に考えればおかしな行動だ。
ということはトキはその集団について何かを知っている? そしてその存在を私達に警告しに来た? 【
……どうやらトキは
こっそりとため息をついて、私は見張りの団員にお礼を言ってその場を後にした。
魔法を見せるので、一応ダンジョンに行こう、ということになりバベルに向かって進んでいると、だんだんと周囲が騒がしく……否、ざわついていた。
「何かあったのかな?」
周囲の様子にティオナさんが辺りをキョロキョロする。私もつられて顔を動かすと見知った冒険者達を見かけた。トキのお店によく来る冒険者達だ。
「ちょっと聞いてきます」
ついてきた皆さんに断りを入れ、冒険者達に近づいて声をかける。
「すみません、何かあったんですか?」
「ん? 何だ知らないのか……って、【
……声をかけただけなのにとても驚かれた。以前二つ名で恐怖されていたティオナさんの気持ちが少しだけわかった。
「【シャドー・デビル】の家が火事になったんだってよ‼」
しかしそんな暗い気持ちは冒険者の口から出た言葉に一瞬で吹き飛んだ。
「火、事?」
この人は、今、何て言った? 火事? どこが? 【シャドー・デビル】?
それってトキの家が燃えたってこと?
「っ!?」
気づいた時には駆け出していた。
「おい、レフィーヤ、どこへ行く!?」
「こんなの前にもなかったっけ!?」
中央広場を通り過ぎ、東のメインストリートへ。しばらく進んで角を二つほど曲がると、見慣れた家の前にギルド職員が立っていて、家を封鎖していた。
封鎖されている手前で立ち止まり、家の状態を観察する。
家は全焼しておらず、原型を留めていた。だけどいくつかの部屋が焼け落ちていた。
焼け跡はある場所から広がっていた。あの場所は……キッチン?
「すいません、ちょっといいですか!?」
封鎖の見張りをしていたギルド職員に声をかける。私がこの家の住人の関係者だと伝えるとギルド職員の人は火事について教えてくれた。
「
「発火元がキッチンであることから、その可能性が高いと思われます」
「そうですか……」
もう一度家の状態を見てみる。
トキは貴重品等をこの家に置いていない。そういったものは全部彼の影の中に保管している。
だけど思い出は別だ。トキはこの家で3年間暮らしていた。その間、多くの人がここを訪れてきた。その度に思い出が出来てきた。
私もこの家にはよく来ていた。特にキッチンは私がよく利用していた。食器や調理器具なんかはトキと一緒に選んだものばかりだった。
「それで、トキはどこですか?」
涙をこらえ、トキの居場所を聞く。きっとトキもつらい筈だ。こんな時こそ一緒にいてあげなきゃ。
「それが見当たらないんです」
「……え?」
見当たらない? 自分の家が火事になったのに?
「周辺の住人によると、火事の当初はいたらしいんです。何せ彼自身が魔法で火を消したようなので」
……おかしい。おかし過ぎる。
「火事が起こったのはいつのことですか?」
「日の出の二時間前くらいだそうですよ」
つまりトキは家が火事になって、その火を消し、その後『黄昏の館』に来て見張りの団員に噂話をした……。
明らかにおかしい。
発火元がキッチンだったことからその時間に料理をしていたことになる。また周辺住人に目撃されていることからトキは料理を中断し、外に出たことになる。
何で料理を中断して外に出たのか? どうして家が燃えたにも関わらず【ロキ・ファミリア】のホームまで来たのか?
考えれば考えるほどいくつもの疑問が湧いてくる。駄目だ情報が足りない。
「お、追いついた!」
「レフィーヤ、一体どうした? ……っ、これはっ」
「ここって彼氏君の家だよね!? うわっ、燃えちゃってる!?」
とりあえずトキを探そう。他に彼が行きそうな場所は……。
再び駆け出す。
「え、また!?」
「レフィーヤ、どこへ行く!?」
「【ヘルメス・ファミリア】のホームです!」
後ろからかかるリヴェリア様の声に反射的に返事をしつつ、私は【ヘルメス・ファミリア】のホームへと向かった。
「すみません、トキはいますか!?」
石造りの館に着くと同時に見張りをしていた【ヘルメス・ファミリア】の団員に尋ねてみる。
彼らは、突然目の前で止まった私に戸惑っていたが、すぐに首を横に振った。
ここでもない……。となると後は……。
「【
次の行き先を考えていると後ろから声をかけられた。振り返ると【
「あの、トキを見ていませんか!?」
「ど、どうしたのですか!?」
「答えてください!」
「き、昨日の午後に会って以来ですが……」
つまりアスフィさんは火事以前にトキと会っている!
「その時の様子は!?」
「様子、ですか? 特に変わったところはなかったですが……」
トキとアスフィさんの付き合いは長い。その彼女が言うのだから本当なのだろう。
「【
……確かに、気が動転して頭が回らなかったが、この案件は私一人では荷が重すぎる。事情を話して協力してもらおう。
「実は──」
今までの出来事と私の考えを一通り話すと、アスフィさんはため息を吐きながら口を開いた。
「……どうやら今回の事件はトキを中心として動いているようですね」
「はい」
「しかもあの子の性格から言って一人で解決しようとしているのでしょう」
「……確かに」
トキは自分の事になると人を頼ろうとしない。今までは小さい問題ばかりだったし、トキの能力でなんとかなってきたが、今回は規模が違う。
「とりあえずトキを捕まえましょう。動ける団員を全て捜索に回します」
「私は引き続き、トキが行きそうな場所を当たってみます」
「情報の交換も定期的に行いましょう。とりあえず正午になったらまたここへ」
「わかりました」
私が頷くとアスフィさんはホームの中へ入っていった。
「さて私も行こう」
「レフィーヤ!」
足を動かそうとした瞬間、遠くから声をかけられた。見てみるとリヴェリア様達がこちらに走って来ている。…………あ。
「まったく、あちこち振り回してくれたものだな」
「す、すいませんっ‼」
追いついたリヴェリア様に開口一番に小言を言われる。さっきまでトキのことで頭がいっぱいだったからすっかりリヴェリア様達のことを忘れていた。
「それで何があったのだ?」
「実は──」
先程アスフィさんに話した内容をリヴェリア様達にも話すと、リヴェリア様は少し考えた後、私に協力する、とおっしゃってくれた。
「但し派閥を巻き込むわけにはいかない。ここにいるものだけでことに当たる。皆もそれでいいか?」
「はーい!」
ティオナさんが元気よく返事をし、アイズさんがコクリと頷く。
『ここらで【シャドー・デビル】に恩を売っておくのもいいよな』
『いや、うちの【ファミリア】、けっこう向こうに借りがあるから実質返済になるかなー?』
他の皆さんもどうやら協力してくれるようだ。
「ありがとうございます!」
私達はその後、複数に別れてオラリオに散らばっていった。
まさかの主人公不在回。この裏でトキが何をしていたかは後々書いて行こうと思います。
今回出てきた自作魔法による【ステイタス】外の魔法は一応オリジナル設定です。というのも原作だとその辺詳しく書かれていないので、一応オリジナルにしておきます。
ご意見、ご感想お待ちしております。また、アンケートの方もよろしくお願いします。是非お願いします。