冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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今回で戦争遊戯編は終了です。


動き出す影

「ん~終わった終わった」

 

 両腕を頭の上で組み、体を伸ばす。疲弊している、とは言えないがある程度疲労を感じているのは確かだ。

 

「ま、個人的にはもう少しやってもよかったかなー?」

 

 そんな事を呟いていると後ろでヴェルフと命さんが何やらこそこそと話をしていた。

 

「……ヴェルフ殿」

 

「何だ?」

 

「今回の戦い、我々は必要だったのでしょうか?」

 

「……言うな。確かにあいつ一人で十分だったんじゃないか、って何回も思ったが、とりあえず俺達も少しばかりは勝利に貢献しただろ?」

 

「……そうですね」

 

 ……そっとしておこう。ここで俺が下手に言葉をかけても、かえって二人を傷つけかねない。

 

 二人の話から気を逸らし、ベルとリリを探す。ベル達は少し離れたところで話をしていた。ベルがリリの前で屈み、二人とも眩しい程の笑顔で何やら会話をしている。

 

 これは邪魔をしてはいけないな。まあ、帰りの馬車の中ででも何を話したのかからかって……じゃなくて聞いてみよう。

 

「ベルー、先に街に戻ってるからなー」

 

 少し遠くからベルに声をかける。ベルはこっちを見た後、手を振って答えた。

 

 ヴェルフと命さんに声をかけると、二人もちょうどそう思っていたとのことなので、並んで街に戻る。

 

 ……それにしても、今回の騒動で俺はまともに動くことができなかった。それは仕方がないことだろう。俺とベルは所属している【ファミリア】が違う。もともと冒険者になったのが偶々一緒だったということから行動を共にしているだけだ。

 

 むしろ今回は運が良かった方だ。形はどうあれ、騒動の解決に携わることができたのだから。だけど毎回こういう幸運に恵まれる訳じゃない。

 

 ……裏の方にも手を出し始めた方がいいかもしれないな。

 

 今まで意識的に避けていた世界。1度は足を洗った場所。そこにもう一度足を踏み入れることを決意する。と言っても昔みたいに暗殺をする訳ではなく、そちらの方の情報にも手を出してみよう、というだけだ。

 

 臆病になったもんだな、と自虐の笑みを浮かべる。昔は何もなかった。だけど今は、家族、友人、知り合い……何より恋人。この手には収まりきらない程の物を手に入れてしまった。それを失うのが、とても怖い。

 

 ……こんな時、俺の憧憬の人ならどうするだろう? ……考えるまでもなかったな。どんなものでも圧倒的な力で受け止め、跳ね返し、叩き潰す。俺にはない力でどんな状況でも覆すだろう。

 

 俺にはマネできない。当然だ、俺はあの人じゃない。だから俺は俺のやり方で俺の守りたいものを守る。そのためにもっと強くなろう。

 

 決意を胸に拳を握り、空を見上げる。惚れ惚れするほど綺麗な空だった。

 

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 戦争遊戯(ウォーゲーム)を終えた俺達は、ギルドが用意した馬車で1日かけてオラリオに帰還した。凱旋する俺達をオラリオの人達は笑顔と歓声で出迎えてくれ、俺達はぎこちない笑顔でそれに応えた。

 

 ベル達と別れた後、ヘルメス様や【ファミリア】のみんなに(知っていると思うが)勝利の報告をし、今回お世話になった【ロキ・ファミリア】の方達に挨拶しようと『黄昏の館』に向かう途中、俺を待ち受けていたのは階層主討伐(ボールスさんから)のお誘い。

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)から帰って来たばかりだし、断ろうとしたがそんなことお構い無し、とのことで強制連行。18階層に着いたのが帰って来た夜のことで、朝一番に対ゴライアス戦。1度倒している相手だし、今回は人数もそこそこいたので特に苦戦することなく撃破。

 

 ……だけどそこから分け前の争い。俺は依頼されてやって来たのにそんなことは関係ない、と言われさすがにカチンときた。乱暴な冒険者を言葉で丸め込むのは少々手間なので、彼らの流儀、競売(せり)に参加。結果、ゴライアスの魔石の入手に成功。

 

 その後、地上に戻るパーティに同行させてもらい、魔石を換金。その足で『黄昏の館』に向かう。リヴェリアさんに【レア・ラーヴァテイン】の事を聞かれたり、何故かレフィーヤに冷たい目で見られたりといろいろ大変だった。

 

 なぜか戦争遊戯(ウォーゲーム)をしている時よりも、その後の方が疲れたというおかしな日となった。

 

 そうそう戦争遊戯(ウォーゲーム)の後始末だが、ヘスティア様はアポロン様に全財産の没収、【アポロン・ファミリア】の解散、そしてアポロン様の無期限のオラリオ追放を言い渡した。……どうやらたいそうご立腹だったようだ。頭のツインテールを荒ぶらせながら、顔をひきつらせるアポロン様に裁きを下すヘスティア様のご様子が浮かぶ。

 

 そんなこんなで、【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)は幕を閉じた。

 

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 カツカツカツ、と足音が響く。音の主は闇色のローブで全身を覆った人物だった。

 

 ローブの人物は灯りに照らされた空間に入ると、一直線にある人物の元へ向かう。その人物はローブの人物に背を向けていて、何やら作業をしていた。

 

「ただいま戻りました──────()()

 

 ローブの主の声は若い男のものだった。男の声に気づいた人物が振り返る。その人物は、以前トキと接触したトキの育て親、先生と呼ばれる男であった。

 

「おかえり。ご苦労様、レゴス」

 

 先生がそう声をかけると、レゴスと呼ばれたローブの男の纏う空気が和らぐ。

 

「それで、どうだったトキは?」

 

 トキ、という言葉にレゴスの雰囲気が剣呑なものになる。1回深呼吸してから彼は自分が見てきた遊戯(ゲーム)の様子を報告する。その報告を聞いた先生は顔に笑みを浮かべた。

 

「ハハハハハ、やはり私の目に狂いはなかった!」

 

 その目は狂気の色に染まっていた。

 

「やはりあの子だ。あの子こそが私の願望を叶えてくれる、私の最高傑作だ!」

 

 先生は振り返ると止めていた作業を仕上げる。そこにいたのはレゴスと同じローブを来た()()()()()。先生がトキの胸に触れ、何かを呟く。そして、トキは覚醒した。

 

「ふむ、まあこんなものか。王国(ラキア)からの依頼もあるから、そろそろ動くとしよう。レゴス、皆を集めてきてくれ」

 

「わかりました」

 

 レゴスは一礼すると再び闇の中に姿を消した。

 

「ようやくだ。ようやく君を取り戻せるよ、トキ」

 

 目の前にいるトキの頬を撫でながら、先生はここにはいないトキに語りかける。よく見ると、彼と同じ空間にはトキと同じ顔をした者達がさらに数人いた。

 

「さあ、君と私の遊戯(ゲーム)を始めよう!」

 

 天を仰ぎながら、先生は高らかに宣言した。




という訳で、次章はまさかのオリジナル回&いつだったか張った複線の回収となります。色街編を予想させた方、残念でした。また楽しみにされていた方、申し訳ありません。

ですが、この辺で入れておかないとやる時がないんです! どうかご理解下さい!

まあ、でも次回は番外編なんですけどね。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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