冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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ふと小説情報を見るとUAが30,000突破、お気に入りも2200以上。いつの間に……。

これからもこの作品とトキをよろしくお願いします。


蹂躙

 トキの至近距離からの長文詠唱魔法によって、奥行きがある城壁にぽっかりと風穴が空く。粉塵が舞い、城壁を構成していたレンガがガラガラと崩れる。

 

 開戦直後の奇襲。破壊された城壁。これにより、近くにいた【アポロン・ファミリア】の団員は、一瞬その動きを止めてしまった。

 そこへ粉塵の中からトキが姿を現した。突如現れたトキに面食らう冒険者達。そんな彼らにトキは【ケリュケイオン】を振る。鳩尾(みぞおち)(あご)、首筋をそれぞれ打ち、意識を刈り取る。

 

 さらに近くに階段を見つけると、それを駆け上り城壁の上に出る。

 

「くらえ!」

 

 待ち構えていた弓使い(アーチャー)二人が矢を放つ。これほどまでの至近距離ならばどんな素人でも外すことはまずありえない。

 だが、それでも矢はトキに当たらない。

 

「う、嘘だろ!?」

 

 混乱する二人にトキは杖を振るい、その意識を刈り取る。そのまま周囲を見渡すとそこから東門の方へと駆けていった。

 

 

 

「はあ……」

 

 トキの戦闘の一部始終を見ていた小人族(パルゥム)ルアン……に化けているリリは思わずため息をついた。

 

 そもそも何故リリが(ルアン)の姿で既に城の中にいるのか。それは4日前、古城跡地に向かう本物のルアンを捕らえ、リリが彼女の魔法、【シンダー・エラ】で彼と入れ換わったからだ。

 

 それにより敵陣の中で諜報活動を行い、昨日の物資搬入の際にヴェルフ達と合流。そこで情報を渡したのだが……その夜、到着したトキが、あろうことか城に侵入し、リリに接触してきたのだ。突然のことで慌てるリリをトキはなだめ、作戦の細かな変更を提案した。

 

『作戦自体に変更はない。けど俺が囮になる時、外じゃなくて中でやりたいんだ』

 

 最初は意味がわからなかったが、とりあえず了承し、今、その理由を知った。つまりトキは囮をやりながら他の団員を全て倒すつもりだ。そのためには城壁に登れない外よりも、階段がある中の方が都合がいい。

 

 無茶苦茶だが、何故か彼ならば本当に出来てしまう気がする、とリリは思った。

 

 現在リリの姿は、トキが城壁を破壊したことにより起こった粉塵で見えなくなっている。これならば、オラリオで観戦している観客達にも、リリが裏切っているとまだわからないだろう。だからこそ、ため息なんてついたのだ。

 

 気を取り直し演技を再開。トキの狙いを理解したリリは、その望みを叶えるべく、行動を開始する。

 

 

 

 城壁の上の弓使い(アーチャー)が矢を射る。しかしトキにはかすりもしない。驚いた弓使い(アーチャー)をトキが当て身で気絶させる。

 

 トキが矢に当たらない理由。それは彼が耳に付けている耳飾り(イヤリング)にあった。それは冒険者用装身具(アクセサリー)なのだが、普通のものではない。

 

万能者(ペルセウス)】アスフィ・アル・アンドロメダが作った『矢避けの加護』が宿った冒険者用装身具(アクセサリー)である。矢限定ではあるがどんな距離から射られたものでも当たらないというものだ。アスフィの【神秘】のアビリティだからこそ作れたものだった。

 

 ちなみに彼が身に纏っている戦闘衣(バトル・クロス)もアスフィの手製である。彼がLv.3になった祝いの品として渡されたものだ。【ヘルメス・ファミリア】として出場しているので、トキは今回こちらを身に纏っている。

 

 崩れ落ちた弓使い(アーチャー)の奥から魔導士が魔法を放つ。トキはそれを崩れ落ちた弓使い(アーチャー)の襟元を掴み盾にすることで防いだ。

 

「そ、そんなのありかよ!?」

 

 驚愕する魔導士にお返しとばかりに先程放ってきた魔法を模倣。魔導士を倒す。ここで【ケリュケイオン】の回数がなくなるが、直ぐ様詠唱し、杖を再び握る。

 

「いたぞ、あそこだ!」

 

 城壁の下に【アポロン・ファミリア】の団員達が集まっていた。彼らはすぐ近くの階段に向かっていた。

 それを見たトキは城壁から飛び降りると、下にいた獣人を下敷きにして着地、突然の事で戸惑っている団員達に向け、杖を振る。

 

 瞬く間に四人を倒したトキに、階段を上っていた団員が気づき、こちらに戻ってくる。トキは下敷きにした獣人を掴むとこちらに向かってくる団員に投擲。体勢が崩れたところにすかさず杖を振る。

 

 全員が気絶したことを確認すると1つ息を吐いた。

 

「【アポロン・ファミリア】の団員数はおそよ110人……。大将のヒュアキントスと玉座の近衛の数を除くとちょうど100人くらい……」

 

 ぼそりと呟くトキの顔には笑みが浮かんでいた。

 

「残り、90人弱!」

 

 さらなる敵を求めて再び駆け出す。

 

 

 

 

 再び城壁に上ったトキは、とりあえず東門を目指していた。リリから事前に聞いた情報によると、そこが一番、人が集まっている場所とのことである。

 

 すると、前方から30人ほどの冒険者の集団が向かってきた。

 

 その集団に対し、短文詠唱の魔法を行使。先頭の冒険者の足を止める。先頭が止まったことにより、後続の冒険者達が先頭にぶつかる。ルアンに化けたリリに錯乱させられ、責め立てるように駆り出された冒険者達は、集団が戦うには狭い城壁の上へとまんまとおびき出されていた。

 

 立ち往生する冒険者達の足元を縫うようにトキは駆け抜けると、最後尾にいた魔導士達の意識を奪い、短文詠唱の魔法を集団にぶつける。

 

「なっ、後ろから!?」

 

「誰か裏切ったのか!?」

 

【ケリュケイオン】を詠唱しながら、再び集団の中に飛び込むと、今度は冒険者達の死角から小突くような攻撃をする。すると途端に仲間割れが発生した。

 

「がっ! てめえ、今俺のこと殴っただろ!?」

 

「はあ!? んなことしてねぇよ!」

 

「おい、俺を斬ったの誰だ!?」

 

 口々に喧嘩を始め、乱闘まで起こす集団から抜けると、走っている最中に詠唱していた長文詠唱の魔法を行使。まとめて集団を吹き飛ばした。

 

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『これはすごーい!? 【ヘスティア・ファミリア】、まさかの短期決戦でしょうか!?』

 

 オラリオでは興奮した人々の歓声が上がり、実況も白熱した展開に拡声器を握りしめていた。

 

『それにしても助っ人の【シャドー・デビル】、強い! 【アポロン・ファミリア】の団員達を瞬く間に倒していきます! 城内を駆ける姿は、まさに生け贄を求めてさ迷う悪魔そのものだー! ガネーシャ様、何か一言!』

 

『俺が、ガネーシャだ!』

 

『はい、ありがとうございましたァ‼』

 

 一方、バベルでも神々の驚愕した声が上がっていた。

 

『つ、強すぎだろ!?』

『あれ、完全にLv.2じゃないだろ、ヘルメス!?』

 

「いやいや何言ってるのさ。混乱する相手の隙をついているだけで特別なことはしてないよ。あの子は強いんじゃなくて、上手いんだ」

 

『ていうか何種類の魔法を持ってんだよ!? 絶対3つ以上使ってるだろ!?』

 

「ハハハ、それについてはひ・み・つ」

 

『『『『『ウ、ウゼェー!』』』』』

 

 やんややんやと盛り上がる神々を尻目にアポロンも、リリと共に作戦を考えたヘスティアも驚愕の表情を顕にする。『鏡』に映るトキは敵を見つけると即座に接近。迎え撃つ相手を歯牙にもかけず倒し、城を駆け回る。

 

  (もう、あの子1人でいいんじゃないかな……?)

 

 ヘスティアはそんな事を考え始めていた。

 

 

 

 

 目の前のエルフの小隊長を倒したトキは、今度は敵の大将がいる玉座の塔へ向けて走る。既に50人以上の敵を倒した彼は次の作戦に移行する。

 

 トキが向かう先に深紫色の光剣が現れ、地面に突き立った。命の魔法【フツノミタマ】による重力の檻だ。

 

 魔法の効果範囲ギリギリで停止したトキは懐から精神力回復薬(マジック・ポーション) を取り出すと【ケリュケイオン】を構え、詠唱を開始する。

 

「【間もなく、焔は放たれる】」

 

 その脳裏にあるのは24階層での光景。動けない自分を庇い、必死に食人花と戦う先輩達の背と、翡翠色の魔法円(マジック・サークル)を展開し、歌う少女(おもいびと)の姿。この戦いを見ている先達に、自分を育ててくれた主神に、自分を慕ってくれた少女に、今の自分を見せるためにトキは最強の魔導士に挑戦する。

 

「【忍び寄る戦火、免れぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む。至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火】」

 

【ケリュケイオン】の模倣はトキのイメージによってその威力が変動する。本物に近ければ近いほど威力が上がり、範囲も大きくなる。

 トキがこの魔法を見たのは1度きり。だがそれでも彼の脳裏には鮮明にその魔法が刻まれていた。

 

「【汝は業火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

 沸き起こる魔力に重力の檻に捕らわれていた冒険者達が驚きを表す。

 

「【焼きつくせ、スルトの剣──我が名はアールヴ】」

 

 そして遅まきながら気がついた。自分達を捕らえていた重力の檻が解除されていることに。詠唱をしている少年の横に、自分達を魔法で閉じ込めていた少女が立っていることに。

 

「【レア・ラーヴァテイン】‼」

 

 次々と立ち上る火柱。最強の魔導士が持つ超長文詠唱の魔法に、【アポロン・ファミリア】の団員達が絶叫する。

 

 炎が消えた頃には全ての団員が倒れ、気を失っていた。トキは杖を下ろすとふぅ、と息を吐いた。

 

「あの、大丈夫なのでしょうか……?」

 

 横にいる命が彼に声をかける。目の前に広がるのは死屍累々。地面は焦げ、人は時折ピクリと痙攣するだけだ。

 

「このままだと何人かは死にますね」

 

「ええ!?」

 

「いや、【魔導】のアビリティがないとはいえ、超長文詠唱なんて使ったら【ステイタス】が低い人は死にますよ。でも大丈夫です、こんな時のために高等回復薬(ハイ・ポーション)を用意してありますから」

 

 そう言うとトキは本当に死にそうな冒険者だけに高等回復薬(ハイ・ポーション)をかけて、それ以外は放置した。

 

「これでよし。今倒したのが1、2、3……13人か。とりあえずリリと合流しましょうか」

 

「は、はいっ‼」

 

「……あの、何でそんなに顔を強ばらせているんですか?」

 

 トキの所業に若干引いた命。そんな彼女の視線を受けながら、トキは再び城内へ向かう。


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