冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

74 / 98
地獄の訓練

 訓練4日目。本来なら仕事があるのだが、今は戦争遊戯(ウォーゲーム)のために訓練優先だ。

 

 俺も集団戦にある程度慣れ、ラウルさん達の連携も上手くなった。所々処理できなくなり、つい影で迎撃してしまう場面もあり、いかに自分がこのスキルに頼ってきたかを身に染みて感じた頃。

 

 俺は……そのスキルをフル活用し、目の前の相手を迎撃していた。

 

 褐色のスラリとした足が迫る。眼前まで迫るそれを顔に当たるギリギリのところで反応し、避けながら影で防ぐ。

 

「ちっ」

 

 相手は小さく舌打ちするが、それに構ってる暇もなく拳が迫る。当たれば確実に死に至らしめられるそれを、全身の筋肉を駆使してかわす。

 

「……すごいっすね」

「ああ。僕もこれほどとは思わなかったよ」

「あの動き……どうやら彼のスキルには能力を一時的に高めるものがあるようだな。でなければ、あのティオネと渡り合える筈がない」

「ふむ、フィンよ。次はワシがあの小僧とスモウをしてもよいか?」

「……そうだね、僕も彼の実力に興味が出てきたよ」

 

 不穏な会話があちらでされているような気がするが、気にしている余裕はない。

 

 横から隠そうともしない殺気。倒れるように体を反らす。一秒後、先程まで頭があったところに強烈な蹴りが繰り出された。

 

「ちょっとベート! 邪魔!」

「うっせーぞ、バカゾネス! てめえこそ邪魔すんじゃねえ!」

 

 なんとか俺が生きていられるのは、単にこの二人が連携してこないから。もしされていたら13回は既に死んでいるだろう。

 

 体中から汗をかき、内心も汗だくになりながらケンカをする二人を見る。どうしてこうなったのか、それは数時間前に遡る。

 

 

 

 訓練が始まってから4日目の今日。物資を買いに行っていた人達によると、戦争遊戯(ウォーゲーム)の詳細が決まったらしい。

 

【アポロン・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)。形式は『攻城戦』。戦いの舞台はオラリオ東南にある『シュリーム古城跡地』。……一瞬シュークリームと見間違えたのは内緒だ。

 

『シュリーム古城跡地』は元々盗賊の住処になっていると記憶していたのだが……どこかの【ファミリア】に討伐でもされたのか?

 

 移動の時間も考えると今日が訓練最終日となる。それを聞いた(ベートさん)がついに爆発した。

 

「おい、蛇野郎。今日くらい俺と本気で戦え」

 

 有無を言わせない口調に最初に噛みついたのは、俺ではなくティオネさんだった。

 

「ちょっとベート、それじゃあ訓練にならないでしょう!?」

 

 だが、次のベートさんの言葉がいけなかった。

 

「けっ、テメエなんぞこいつが本気を出したら、手も足もでないくせに」

 

 カチンときたティオネさんは、急遽俺と模擬戦をやることに。加減された拳を影を纏った手で受け止めた。

 

果て無き深淵(インフィニット・アビス)】ともっとも相性がいいのは、ティオネさんみたいなアマゾネスだ。露出が多い彼女達は手や足に防具を着けるということがほとんどない。

 

 さらにスキルによって強化されたアビリティにより受け止めることはできた。……けれども痛かった。

 

 いくら影を纏ったといっても、本人の技術は消せはしない。ティオネさんの加減されたとは言え腰が入った拳は【ステイタス】を無効化し、影で軽減させて、それでもなお痛かった。

 

 さすが第一級冒険者、と思っていると。

 

「なるほど、ベートの言ってたこともあながち嘘じゃないみたいね」

 

 一撃を受け止められたことによりティオネさんのスイッチが入った。そこから怒濤のラッシュ。

 さすがに正面から受け止めるなんてことはできず、影で逸らしたりかわしたりしていると、ベートさんに横やりを入れられた。

 

「ベート、邪魔しないで!?」

「ふざけんな! こいつと戦うのは俺だ!!」

 

 そこから、不本意ながら三つ巴の戦いが始まったのである。

 

 

 

 

『肩の力を抜いて。腕だけで先導(リード)しないように』

『……難しい』

『ダンスには決まったリズムはありますが、貴族とかでなければ相手の目を見て判断しなさい』

『……目?』

『そうです。ダンスは駆け引きと同じです。相手を観察し、次にどう動くのか予測するのです』

『……それならできる』

『けっこう。では続けますよ』

 

 

 

 

「はっ!」

 

 二つ同時に来た攻撃を全力で誘導し、相殺させる。二人が互いの攻撃の痛みに硬直する隙を突き、距離を取る。

 

 今のは5年くらい前の記憶だ。ちょうどアスフィさんと打ち解け始めた頃、ヘルメス様に言われてダンスの練習をしていた時の記憶。

 なるほど、あれが走馬灯か。……全然洒落になってない。というか走馬灯を見るってどんだけ追い詰められているんだよ、俺。

 

「フィンさん! そろそろ二人を止めてください!」

「……ん? ああそうだね。もういいかな。二人ともそこまでだ」

「はい、団長!」

 

 フィンさんの言葉にティオネさんが素直に従う。さすが想い人、まさに鶴の一声だ。

 

「け、嫌だねっ!」

 

 そしてやはりこの人は従わなかった。フィンさんの言葉を無視し再び俺に迫ってくる。迎撃しようと構える俺とベートさんの間にガレスさんが割り込んだ。

 

「なっ!?」

 

 そのままの勢いで突っ込むベートさん。腕を振りかぶるガレスさん。そして次の瞬間、ものすごい音と共にベートさんが吹き飛んだ。ゴロゴロと転がるベートさんはルームの壁に当たりようやく止まった。

 

「あ、ありがとうございました、ガレスさん」

「いや、気にすることはない」

 

 にこやかに話すガレスさんの後ろからラウルさん達が現れ、なにやら俺とガレスさんを中心に円を描いていく。

 

「……あの、ガレスさん。これは?」

「お主はスモウを知っておるか?」

「……ええ、極東で行われる組打ちの1つで、昔は神事や祭の際に行われていたものだとか」

「ほお、そうなのか。ワシはロキから聞いただけなのじゃがな」

 

 ガレスさんと話している間にも円は着々と描かれていった。そう今ちょうど話しているスモウを行うリングのような。

 

「あの、ガレスさん?」

「今からスモウする」

「……誰と誰がですか?」

「ワシとお主がじゃ」

 

 嫌な予感的中。今すぐ逃げ出したい。本当、切実に。

 

「ガレス、あまり苛めないでくれよ」

 

 横からフィンさんの咎める言葉が発せられる。助かった!

 

「君の後は、僕が彼の相手をするんだから」

 

 ただの死刑宣告でした。

 

  その後、ガレスさんとスモウを取りあっさりと負け。フィンさんと模擬戦をやり、これまたボロボロに負け。止めとばかりにリヴェリアさんと魔法戦をやるという、【ロキ・ファミリア】最大幹部と戯れるという他の冒険者にとっては夢のような体験をした。

 もっとも、心身ともにボロボロになった俺は、終わった後にすぐにレフィーヤに泣きつき、幹部の皆さんはレフィーヤに怒られるという珍しい光景が広がった訳だが。

 

  ------------------

 

 その晩、【ロキ・ファミリア】にて団員の【ステイタス】更新が一斉に行われた。

 中堅陣を始めとするメンバーはそこそこ【ステイタス】が伸びており、下級冒険者にいたっては【ランクアップ】する者までいた。

 

 しかし、やらされるロキからしたらたまったものではない。ひたすら【ステイタス】を更新し続けるロキは、その日初めてトキを恨んだ。




今回、トキの回想に出ているアスフィとの思い出はいつか番外編でキチンとやります。ですのでリクエストをくださったエルエルフ様、ご安心ください。

ご意見、ご感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。