冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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投稿初日以来の連投。まあ、クオリティはそこまで高くありません。


縛りプレイ

「どうしてこうなった……」

 

 目の前の光景にぽつりと呟く。

 

 今俺がいるのはダンジョンの11階層。正規ルートから外れたかなり広いルームだ。そこまではいい。

 目の前にいるのは武器を構える冒険者達。その数、30人ほど。さらに少し離れたところにフィンさんを始めとする【ロキ・ファミリア】の幹部の方々。さらにその後ろには【ロキ・ファミリア】の下級冒険者や第三級冒険者の人達。

 

 そう、今目の前にいるのは【ロキ・ファミリア】の冒険者。その中堅陣営。Lv.3やLv.4を中心とした人達だ。

 

「相手はただのLv.2じゃないっす。技や駆け引きはあっちの方が上。皆、階層主(モンスターレックス)が相手だと思って戦うっす!」

 

『おう!』

 

「いやいやいや! やめてください!」

 

 指揮をしているラウルさんに抗議するが、どうやら聞いてもらえないようだ。

 

 向かってくる冒険者達に悪態をついた後、その群れに突っ込んでいく。

 

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 どうしてこうなったのか。事の発端は昨日まで遡る。

 

 昨日、臨時の神会(デナトゥス)が開催され、【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)の形式が話し合われた。

 

 その際、ヘルメス様が約束通り俺の参加をこぎ着けてくれた。ただし、【アポロン・ファミリア】の団長との戦闘は禁止、とのこと。

 思うところがなかったわけではないが、そちらはベルに譲ろうと納得した。

 

 俺が驚愕したのはそれからだ。何とヘルメス様は俺に縛りを言い渡した。

 

果て無き深淵(インフィニット・アビス)』の使用の禁止。これがヘルメス様から言われた縛りである。

 

 ……まあ、ヘルメス様の言い分もわからないわけではない。何でも戦争遊戯(ウォーゲーム)はその戦いをオラリオ中に中継するとのこと。そんな中でスキルや魔法を使いまくったら、【ステイタス】の隠蔽もない。

 

 幸いにも、俺は一対多の戦いはそこまで苦手ではない。しかし、【アポロン・ファミリア】の構成人数は100人を超える。さすがにそんな人数を正面から、しかも対多数戦の切り札である『果て無き深淵(インフィニット・アビス)』の使用を禁止された状態でなんて無理だ。

 

 とりあえず抗議したが、やはり取り合ってもらえず渋々その条件を受け入れた。確かに【アポロン・ファミリア】の構成員のほとんどはLv.2。対して俺はLv.3だ。数が多いからと言っても格下であるわけだから、本気を出さずに戦うことは、これからヘルメス様の【ファミリア】において必要となるスキルだろう。

 

 けれどせめて特訓しよう、と考えてアスフィさん達に頼もうとすると、もう特訓相手が決まっているとのこと。

 

その翌日、つまり今日。ホームの前にティオネさんが迎えに来てくれた。……え? と固まる俺を引きずり、ティオネさんはダンジョンへ直行。このルームまで案内してくれた。

 

 そこにはフィンさんを始めとする【ロキ・ファミリア】の方々がいて、話を聞くと、昨日ロキ様から俺の特訓に付き合うように言われたとか。

  ついでに中堅陣の強化も兼ねるそうで、俺は最初、ラウルさん率いる【ロキ・ファミリア】中堅陣営10人と戦い……勝ってしまった。

 

 まあ、10人程度なら『果て無き深淵(インフィニット・アビス)』を使わなくても勝てたのだが……そこから、【ロキ・ファミリア】の人達に火をつけてしまった。

 

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「ラウル、さっきなぜ負けたか、わかるかい?」

「……正直、相手はLv.2だって侮ってたっす」

「そうだね。彼は恐ろしく上手い。【ステイタス】ではこちらが勝っているだろうけど、それを埋める技術が彼にはある。少なくとも僕達、第一級冒険者に匹敵するだろう」

「そ、そんなにっすか!?」

「ああ。相手はただのLv.2じゃない、その事を頭に入れてもう一度やってくれ」

「はいっす!」

 

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 という訳で2回目。迫る剣をかわし、その剣を持つ手を捻って落とさせる。使い手を蹴り飛ばし、横から来ていた槍使いと衝突させる。

 背後の短刀使いの攻撃を先程の剣で弾き、顎に拳を打ち上げ、気絶させる。あの黒いゴライアス戦でもそうだったが、【ランクアップ】した所為か以前にも増して視野が広くなった。

 

 Lv.4が混じっているからか、【挑戦者(フラルクス)】の効果によって上昇したアビリティにより、なんとか成功した。

 

「前衛、避けるっす!」

 

 俺を取り囲んでいた冒険者が一斉に離れる。直後、様々な魔法が俺を目掛けて飛んできた。

 俺はそれを……逃げようとした冒険者の襟を掴んで盾にした。

 

「「なっ!?」」

 

 盾にされた冒険者はどうやら死んではいないようだ。すみません、と一言謝りそのまま投擲。固まる魔導士にぶつかる。

 

 さらに【ケリュケイオン】を詠唱。先程飛んできた魔法の1つを模倣する。

 

 15分後。【ロキ・ファミリア】中堅陣、再び全滅。

 

 

 

 

「さて、反省会だ」

 

 ボロボロになったトキを治療するレフィーヤを除いた先程のメンバーがフィン達の前に集まっていた。

 

「ラウル、今回の敗因は?」

「……団員が魔法の盾にされたことに驚いたこと、さらに魔法をコピーされたことによる動揺で起きた、指揮の乱れに付け込まれたことっす」

「そうだね。それにしてもあの魔法はどういうものなのだろうか? リヴェリア、君はどう思う?」

「そうだな……彼が放った魔法は私達の団員が放ったものと比べ、威力や速度が劣っているように思えた。【ステイタス】の差を考えても、だ」

「つまり、彼の魔法はレフィーヤの召喚魔法とは違うもの、ということかい?」

「ああ。発動条件はわからないが、レフィーヤの『エルフ・リング』よりも条件が低い分、威力も低いのだろう」

「わかりましたっす。その事を踏まえてもう一度挑戦してみます!」

 

 気合いを入れ直し、トキに駆けていく【ロキ・ファミリア】のメンバー。

 

「やれやれ、これではどちらの訓練かわからんのう」

「いいじゃないか、彼には悪いけど団員が強くなるための相手になってもらおう。……ところでベート、さっきから彼を睨んでいるようだけど、何かあるのかい?」

「けっ、何でもねーよ」

「言って置くけど、僕達はこの訓練には参加しない。さすがにこの中に僕達が入っては訓練ではなくなってしまうからね」

「……ああ、そうだな」

 

 フィン達の目の前でトキとラウル達がぶつかる。トキを取り囲むラウル達に対し、トキは先程の白く透き通った杖でその攻撃を捌く。

 

「ふむ、どうやら彼は杖術もできるようだな」

「だがあれでは捌ききれないだろう。……後で私が教えておこう」

「頼むよリヴェリア」

 

 その後、ラウル達との戦闘に加え、リヴェリアによる杖術の指導も追加されたトキは、その日動けなくなるまでボロボロになった。

 なお、ラウル達と交代でトキと戦った冒険者の何人かが、後日【ランクアップ】していたことを付け加えておく。




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