冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
という訳で神会回。予定を切り詰めてお送りします。
リリを【ソーマ・ファミリア】から
仮病を使って時間を稼ごうとしたのだが、それは何故かヘルメスに止められた。
他の神達は1日待たされた分、退屈させられたのだが、まあ1日だけだし、という意見も多く、あまりもめ事は起きず会は始まった。
「我々が勝ったら、ベル・クラネルをもらう」
ヘスティアとアポロン、
「そこだけははっきりとさせておく。後で聞き苦しい言い訳を並べられても煩わしいのでね。ヘスティアが勝者になった暁には、要求は何でも呑もう」
ヘスティアが押し黙る中、議事録を取る書記の神がその内容を明文化する。
そして話は勝負形式に移っていく。
「一対一、【ファミリア】の代表者の一騎討ちでケリをつけようじゃないか」
ヘスティアが対面に座するアポロンに向かって発言する。
「闘技場を使って観衆のもと、決闘を行うんだ。これが一番盛り上がるやり方だろう?」
と言うよりもヘスティアにしてみれば、それしか勝てそうな勝負形式がない。昨日、リリが加入したとは言え【ヘスティア・ファミリア】の構成人数は二人。万が一複数戦になった場合、勝ち目はほぼない。
ヘスティアの意見をミアハとタケミカヅチが支持する。さらに円卓につく神々がちらほらと賛同する。
『どうするんだ、アポロ~ン』
『相手は
『格上の敵、しかも一騎討ちには滅法強いかもな~』
一方、敵でも味方でもない神々から押し黙るアポロンに向けやじが飛ぶ。
「【ファミリア】の団員が少ないのは、ヘスティア、今日まで積極的に勧誘してこなかった君の怠慢だ」
しかしアポロンは予想していたかのようにヘスティアの意見に反論する。
「子の数が少ないという君の泣き言に、我々が合わせる道理はないな」
笑みを浮かべるアポロンに対し、ヘスティアはぐぬぬっ、と呻く、
「ここは公平に、くじで決めようじゃないか」
結局ヘスティアは反論することができず、このアポロンの提案が認められた。
円卓につく神々が
ほどなくして、くじが完成した。だが誰が引くかで揉めた。
「アポロンの息がかかったやつ等は信用できないな」
「……それはこちらも同じこと。ミアハやタケミカヅチ達には自重を願おう」
ヘスティアとアポロンの視線が円卓を見渡す。
「ヘルメス」
ヘスティアがヘルメスの名を上げる。ヘルメスは基本中立を気取っているので問題ないと判断した。
「いや、ヘルメスにも遠慮してもらおう」
しかしまたもやアポロンによってその発言は却下された。ヘスティアが驚いて目を見開く。
「どうしてだい?」
「ヘルメスは先日、君を庇ったじゃないか。今回限りはヘルメスも信用できない」
「……ま、そうだね」
「じゃあロキ」
「じゃあって何やねん」
「ロキも駄目だ。私の開いた『宴』でヘルメスの子に少なからぬ思いを抱いているようだからな」
「お、想いって何やねんっ! べ、別にうちはトキの事なんかどうとも……」
『はいはい、ツンデレツンデレ』
「おい、そこ! 誰がツンデレや!」
その後も様々な神の名が上げられていくが、全てヘルメスに横やりを入れられた。眷族、あるいは神自身がトキと関わりを持っていたからだ。
『おい、お前のところ【シャドー・デビル】と知り合ってたのかよ』
『昨日聞いてみたら相談に乗ってもらったことがあるんだとさ。全然知らなかったぜ』
『俺のとこの子なんて恋愛相談持ちかけて、今の彼女と上手くいったらしい』
『『『『『【シャドー・デビル】マジぱねぇ』』』』』
中々くじを引くものが決まらない。そんな時、ヘルメスが手を上げた。
「
「……まあ、それでいいだろう」
「……このままだと日が暮れそうだしね」
「決まりだな。それじゃあお願いできるかな――フレイヤ様」
ヘルメスの言葉に円卓につく神々が凍りつく。一方、名を上げられたフレイヤも驚いていた。
「私でいいのかしら?」
「と言うよりも、他に引くやつがいないんだ。頼むよ」
「わかったわ。二人もそれで構わないかしら?」
「……いいだろう」
「……わかった」
フレイヤが立ち上がろうとし、箱に一番近い神が慌てて立ち上がり召使いのごとく、フレイヤの元へくじ箱を持っていく。その様子に微笑むフレイヤ。その神はたちまち鼻の下を伸ばした。
フレイヤの白い指が箱に伸び、スッと1枚の羊皮紙が引かれる。
神々が固唾を飲む中、フレイヤは書かれた内容を見ると小さく微笑んだ。そして紙に書かれた内容を公開する。
『攻城戦』。フレイヤの引いた紙にはそう書かれていた。
ドンッッ!! とヘスティアの拳が円卓に叩きつけられる。
「フハハハハハハハハハハハハッ!? これほどまでに神聖かつ公平なくじの決定だ、異論は認められないぞ!」
アポロンの高笑いが恨めしい。
攻城戦。守るにしても攻めるにしても多くの人員が必要となる。これはアポロンが書いたものだった。
「たった一人で城を防衛するのは不可能だろう。攻めはヘスティアに譲るとしよう」
アポロンは、にやけながらヘスティアに攻撃側を譲る。
しかし、本来城攻めというのは攻めるよりも守る方が圧倒的に有利だ。城攻めをする時、通常は守る人員に対して攻める側は3倍の人員が必要となる、と言われるほどに。
ヘスティアが真っ赤になりながら奥歯を噛み締めていると、ヘルメスが口を挟んだ。
「アポロン、1つ提案がある」
「提案?」
「オレの子、トキをヘスティア側として参加させることはできないかな?」
あまりに直球の言葉にアポロンはポカンとしていた。
「君がヘスティアに今回の
あまりの言い分にアポロンは呆れた。
「そんな事認められる訳がないだろう。これは私とヘスティアの
「そこはほら、天界からの神友の頼みとしてさ」
「ふん、取り合う必要はないな」
顔を背け、ヘルメスの申し出を却下するアポロン。一方、他の神達は疑問に思っていた。ヘルメスってこんなに強引だったっけ? と。
「参ったなー」
ヘルメスは頭をかきながらアポロンを見る。
「そうなると、
その言葉にアポロンが反応した。
「……どういうことだ?」
「言葉通りの意味さ。
得意げに笑うヘルメスはさらに言葉を続ける。
「あの子、トキは今すごく殺気立っている。今はオレとの約束で大人しくしているけど、もし参加できないとなると……最悪、【アポロン・ファミリア】全員を殺してしまうかもしれない」
「ふん、はったりだな」
「あの子は1年前、オレの『恩恵』なしで1つの【ファミリア】を闇討ちで壊滅させたんだ。そんな子が今や『恩恵』を受け、Lv.2にまでなったんだ。十分可能性はあると思うけど?」
ヘルメスの言葉にアポロンは絶句する。天界からの付き合いだからこそわかる。ヘルメスは嘘をついていない、と。
「な、ならば君が押さえつければいいだろうっ。君の子だろう!」
「あの子を押さえつけるとなると、少々骨なんだ。まずあの子は神威が効きにくい。それこそ全開でやって言うことを聞かせられるかどうかだ」
楽しそうに子供自慢をするヘルメスの言葉に、円卓につく神々は絶句する。神威が効きづらい子供。嘘だ、とは言えなかった。何せあのフレイヤの『魅了』が効かなかった子だ。
「さらにオレの他の子で押さえようとすれば、少なからず被害が出る。自分の子達が争うくらいなら、オレは傍観に徹するよ」
アポロンの顔が次第に赤くなっていく。
「1年前、あの子は怒りに任せて1つの【ファミリア】を闇討ちで潰した。確かあそこの規模は今の【アポロン・ファミリア】よりも少し小さい程度だったと思うけど?」
「何だか今日のヘルメス、妙に強引じゃないかい?」
ヘルメスの言葉にヘスティアは隣のミアハに耳打ちする。
「そうであるな」
「恐らくあいつ、自分の子がコケにされて怒ってるんだよ」
ヘスティアの問いかけにミアハが相槌を打ち、タケミカヅチが正解を言う。
「怒ってる?」
「顔は笑ってるが目が完全に怒ってる。俺も初めて見たぜ」
武人であるタケミカヅチは人の観察が得意だ。その人を観察することで次にどのような行動をとるか、今何を考えているか、おおよその事がわかる。
タケミカヅチとヘルメスの仲は決して親しいものとは言えない。ヘルメスがタケミカヅチで遊ぶ程度だ。だがそれでも少なからず付き合いがあり、その優れた観察眼がヘルメスの変化を捉えた。
「これでも頷かないか……ならしょうがない。参加させるに当たって条件を出そう」
「条件?」
「トキと君のところの団長、【
「なっ!?」
「もし交戦した場合は……ヘスティアの負けでいいかい?」
ちらりとヘスティアを見る。
「……いいよ。もしトキ君がアポロンのところの団長と戦ったらボクの負けでいい。本来、助っ人っていうのはそういうものだろう?」
ヘスティアは先程のヘルメスの発言により自分に仮病を使わせない理由がわかった。トキの
「なあアポロン、何でそんなに警戒する必要があんのや?」
さらに援護が飛ぶ。
「さっきからヘルメスが言うとるやないか。【シャドー・デビル】は
さらに周りからもロキの意見に賛同する声が上がる。何と、アポロンの手が回っている者達からもだ。
『たかがLv.2がたった一人だろ?』
『今回は闇討ちできないんだからさ』
「……いいだろう」
完全に場を敵に回したアポロンは怒りに震えながら声を絞り出す。
「【シャドー・デビル】の参加を認める! ただしヒュアキントスとの交戦は禁止、また、
「ならボクのところに襲撃があった場合、アポロン達の負けでいいよね?」
「構わん! ヘルメス、これで満足か!?」
「ああ、ありがとうアポロン! やはり持つべきものは神友だな!」
白々しく笑顔を浮かべるヘルメスをアポロンは睨み付ける。
「ここまでヘルメスの要求を呑んだのだ、助っ人はその【シャドー・デビル】のみで構わないな?」
「……うん、構わないさ」
その後細かい日程をギルドと話そう、というロキの発言により
期待してるぜ、という声がヘルメスに送られる中、アポロンは部屋を出るまで睨み付けていた。
その場に残ったのはヘスティアを始め、ヘルメス、ミアハ、タケミカヅチ、ロキだけだった。
「すまないね、ヘスティア。無理を言っちゃって」
「いや、気にすることはないよ。トキ君には世話になってるし、昨日も助けてもらった。むしろ借りっぱなしさ」
「ロキもさっきはありがとう」
「構わへん。それに……トキの実力を知りたいっちゅー思いもあるしな」
「あー、そうか……。中継されるんだもんな……」
ヘルメスは腕を組み、考え事をする。
「そうだな……。アポロンのところに本気を出す必要もないし、ちょっと縛りを入れてみようかな?」
「し、縛り!?」
「ま、ええんとちゃう? どうせ被害に遭うのはドチビだけなんやし」
ヘルメスの発言にヘスティアが文句を言うが取り合うつもりはないようだ。
「そうと決まれば、さっそく帰ってアスフィと相談しよう。特訓も必要だな」
「……なあ、ヘルメス?」
ちらちらと上目使いでヘルメスを見上げるロキが口を開く。
「トキの特訓、うちの子にやらせてもらえへんか?」
……実は原作だと助っ人の部分はトキではなく、リューが入るのです。何が言いたいのかと言うと……全国のリューファンの皆様、リューの活躍の場面を取ってしまい、申し訳ありません!
ご意見、ご感想お待ちしております。