冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
ヘスティア様の
「最初に確認しておきたいことがある」
集まった全員の顔を見渡し、口を開く。
「この中で破壊力がある魔法を使えるやつはいるか?」
「いや、俺は使えない。お前らは?」
俺の問いにヴェルフが否定し、その視線を【タケミカヅチ・ファミリア】のメンバーに移す。
「俺達の中にもそういう者はいない」
「そうですか……。ナァーザさんは?」
「私も無理」
「となると……ヴェルフ、無礼を承知で尋ねるが、今すぐに使える『魔剣』はあるか?」
その質問にヴェルフはピクリと眉を動かしたが、文句を言わずに答えてくれた。
「……ねぇな。昨日の段階で言ってくれれば1本は作れたかもしれないが」
「それは俺のミスだな。気に触ること言って悪かったな」
「いや問題ない」
「となると作戦はプランBだな。じゃあ皆、これを見てくれ」
そう言って懐から取り出したのは1枚の羊皮紙。
「これは?」
「リリが捕らえられている、【ソーマ・ファミリア】の酒蔵の見取り図だ」
その言葉に皆が驚愕する。
「ほ、本当に1日で調べてきたのかい!?」
皆の意見を代表するようにヘスティア様が声を上げる。
「賭けでしたけどね。まあ分の悪い賭けではなかったですけど」
【ソーマ・ファミリア】の施設はそう多くない。その中で人を監禁できそうな場所は、ホームとこの酒蔵のみ。だがホームはあまり機能しておらず、人を閉じ込めるのであれば酒蔵だと睨んでいた。
まあ当てが外れた場合盛大に恥をかくことになるのだが、当たってよかった。
「この酒蔵の地下に牢屋がある。その1つにリリは監禁されていた」
「されていたって……まるで見てきたような口振りだな」
「ああ、実際に見てきた」
『……はあ!?』
「どうやってだい!?」
「すいません、そこは企業秘密です」
まあ、言ってしまえば『ハデス・ヘッド』をかぶって『
「話を進めるぞ。見ての通りこの酒蔵にはいくつか出入り口があるが、正面を除いてどこも狭く、乗り込んで戦闘をするには狭すぎる」
「トキ殿がもう一度忍び込んで、リリ殿を密かに拐ってくるのではダメなのですか?」
命さんが先程の俺の発言を思い出したのか、そんな疑問を投げかけてくる。
「それだと根本的な解決にならない。今回の作戦の第1目標はリリの奪還だが、第2目標はリリを【ソーマ・ファミリア】から解放すること。ただ連れ出しただけだとまた連れ戻される可能性があるからな」
「さっきの破壊力がある魔法ってのは?」
今度は桜花さんだ。
「この人数で乗り込むにはどうしても正面から入るしかない。だが破壊力のある魔法なら壁を破壊して乗り込むことができる。相手の意表もつけるしな」
「でもそれならお前がやればいいんじゃねえか?」
ヴェルフが尋ねてくる。俺の魔法【ケリュケイオン】なら確かに可能だろう。
「……悪いが俺は今回、表立っての協力はできない」
「な、何でだよ!?」
「ヘルメス様に止められているからだ。ここで俺が出張ると【ヘルメス・ファミリア】全体に迷惑がかかる恐れがある」
「……そうか」
「すまない……」
頷いてくれるヴェルフに謝罪する。
「き、気にする必要はないさ! 君はサポーター君の居場所をこんなにも早く見つけてくれた、それだけでボク達は十分助かってる!」
「……そうだな。ヘスティア様のおっしゃる通りだ。お前にばかりおんぶにだっこじゃ気が済まないからな」
「……ありがとう。話を戻すぞ。そこで、突入のルートは自然と正面からになる。ホームが手薄な分警備の人数は多いが、昨日の騒動の所為か妙に浮き足立ってる。今なら混乱に乗じてリリを奪還できるだろう」
「わかった」
「リリを奪還した後は、ソーマ様へリリの
「任せてくれ!」
「酒蔵は『ダイダロス通り』の近くにあります。これがその周辺の地図です」
ヘスティア様に2枚の地図を渡す。ヘスティア様は受け取った地図を見て何度か頷いた。
「協力ありがとう。後はボク達に任せてくれ」
「肝心なところでお役に立てず、申し訳ありません」
「さっきも言ったけど気にしないでくれ。それじゃあ皆、行こう!」
『はい!』
ヘスティア様を先頭にその場から去っていくヴェルフ達。
彼等の姿が見えなくなった後、周りに誰もいないことを確認した俺は影から『ハデス・ヘッド』を装着する。
俺は今回、協力することができない、
『
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オラリオ東南部、『ダイダロス通り』近くの【ソーマ・ファミリア】の酒蔵にて、ヘスティア様率いるリリ奪還チームと【ソーマ・ファミリア】の団員がしのぎを削っていた。
技や駆け引きでは【タケミカヅチ・ファミリア】やヴェルフ、ナァーザさんの方が上手だが、【ソーマ・ファミリア】側はホームを空けている分、人数が多い。
その戦闘の横を通りすぎ、最短ルートで地下牢へ向かう。すると、地下牢までもうすぐというところでリリ本人がいた。
リリは壁に取り付けられている明かり取り窓に飛び付いていた。壁の向こう側ではヴェルフ達が戦闘している。
「リリは大丈夫ですから、早く逃げてください!?」
リリが鉄格子を握り締めながら叫ぶ。
「そうはいかない!! 君を連れ帰るまで、ボク達はここにいる!」
壁の向こう側からヘスティア様の叫び声が聞こえた。
「どうしてっ!? もうご迷惑をおかけしたくなかったから、ヘスティア様達を巻き込みたくなかったから、だからリリは……っ!」
「ボク達は、アポロン達と
ヘスティア様の叫びにリリが息を飲んだ。
「詳しいことはまだ決まっていない、でもどんな形式でも君の力が必要だ!!」
過去の
「ベル君は勝つために、今は一人で頑張ってる!
ヘスティア様の叫びを聞いているリリの泣きそうな顔には疑問の感情が見て取れた。この
「勝つには君がいないと駄目なんだっ、君じゃないと駄目なんだ!」
そんな事はお構い無しと言わんばかりにヘスティア様は叫ぶ。
「お願いだ、ボク達を──────ベル君を助けてくれ!!」
その言葉を聞いたリリは、窓から顔を剥がすと全力で走り出した。
それを追いかける。リリの走った後にはキラキラと光る雫が舞っていた。
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酒蔵を駆け巡ったリリは上に続く階段を見つけると、それを駆け上がる。
2階は1階と違い、全体的に幅広く開放感がある。
階段を登りきったリリはなおも走る。リリが走る方向に、先日忍び込んだ俺は心当たりがあった。この先にあるのはさらに上へと続く階段。さらにその先には、【ソーマ・ファミリア】の主神、ソーマ様の部屋がある。どうやらリリはそこを目指しているようだ。
「どこに行く、アーデ?」
突然廊下の窓が割られ、そこから一人のヒューマンが現れた。俺は昨日の調査でその男について知っていた。
【ソーマ・ファミリア】の団長、ザニス・ルストラ。Lv.2の第三級冒険者。二つ名は【
リリは1度振り返った後、走る速度を速める。ザニスはリリを追おうと駆け出す。
レベルの差もあり、すぐに追い付かれるリリ。ザニスの手がリリに触れようとした瞬間、俺はザニスの顔を蹴り飛ばしていた。
「があっ!?」
突如吹き飛んだザニスに驚愕するリリ。しかしこれを好機と読み取り、再び駆け出す。
「ま、待てっ!」
ザニスが立ち上がり、駆け出そうとした瞬間、今度はその腹に拳を叩き込み、上段回し蹴りでザニスを吹き飛ばす。
訳がわからないザニスは腰の剣を抜き、構える。しかしそんな事は関係ない。
今ここにいるのは俺とザニスだけ。リリにも何が起こったかわからないだろうから、俺の存在を知ることができるのは現在ザニスだけだ。
つまり、こいつを黙らせれば何も問題ない。
いつもなら一撃で意識を刈り取るのだが、【アポロン・ファミリア】の策に嵌まり、昨日ベルがピンチの時に何もできなかった所為か、思ったよりもフラストレーションが溜まっていたようだ。
ザニスの剣を蹴り飛ばし、その勢いを利用して後ろ回し蹴りを食らわせる。
ただでは寝かさない。ストレス発散のサンドバッグにさせてもらおう。
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ザニスで遊んだ後、ドワーフの人が彼を連行し、さらにしばらくしてからヘスティア様達が上がってきた。どうやら戦いは終わったようなので、誰にも気づかれないうちに酒蔵を脱出する。
酒蔵から離れたら、適当なところで誰も見ていないことを確認し、『
これでリリの件は片付いた。後は頼みますよ、ヘルメス様。
書いていて思ったこと。
『透明状態』になり、全力で走るリリ(幼女)の後を追いかけるトキ……。あれ、これって……わ、ちょ、何をするっ。やめ-
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