冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
それでは作者の言い訳からどうぞ。
「まさか、使うとは思わなかったな……」
封筒を閉じ、悪魔の翼のエンブレムの
この封蝋は1年前にヘルメス様が俺の噂に悪ノリし、アスフィさんに作らせたものだ。何でも【デビル】だから悪魔の翼だとか。
昨晩、ヘルメス様はヘスティア様が断ったにも関わらず、俺を『
さらに昨晩のやり取りから、アポロン様は策を巡らせるが、アドリブに弱いという事が判明した。まあ、そうでもなければヘルメス様に丸め込まれたりはしないだろう。
一晩寝て、頭もだいぶ冷えたようだ。今日は仕事なのでダンジョンには行かない。さすがの【アポロン・ファミリア】も昨日の今日で騒ぎを起こしたりしないだろう。
手紙を影の中にしまい、開店させようと看板を持って外へ出る。
すると何やら外が騒がしい。不思議に思っていると中央広場のほうからレフィーヤが走ってきた。
「レフィーヤ、いったい何があったんだ?」
「ベ、ベルが……【ヘスティア・ファミリア】が【アポロン・ファミリア】に襲われてる!」
「何っ!?」
「私は団長から介入するな、って言われてるけどせめてトキに知らせようと──」
「ありがとう!」
看板を投げ捨てるように置き、西のメインストリートを目指し走る。中央広場を通り過ぎると魔法らしき爆発が見えてくる。そこまで最短ルートで行こうと、建物の屋根に跳び移る。
「トキ、待ちなさい」
そこで声をかけられた。振り向くとヘルメス様とアスフィさんがいた。
「手出しをするな」
ヘルメス様の言葉に頭が真っ白になる。
「何故ですか!?」
「今手出しをするのはまずい。下手をすれば派閥を巻き込むことになってしまう」
ヘルメス様に言われ、歯を噛み締める。
1年前の【ファミリア】壊滅の時、俺はまだヘルメス様から正式に『恩恵』を授かっておらず、最悪の場合切り捨てられる状況だった。
だが今では『恩恵』を授かり、【ヘルメス・ファミリア】の正式な団員となった。ただでさえ昨晩、中立を気取るヘルメス様がスタンスを曲げて弁明してくれたのに、これ以上は迷惑をかけられない。
「なら──」
「言っておくけど
『
「君は次期団長だ。今は好きにさせているけど、そのうち色々と制限がつく。それを今学んでくれ」
それに、とヘルメス様は言葉を続ける。
「オレは、いやオレだけじゃない。アスフィや他のみんなだって君にいなくなって欲しくないんだ。悪いとは思うが今は耐えてくれ」
「……はい」
ヘルメス様に対する返事は、自分で意識したわけでもないのにかなり掠れた声だった。
その後、ヘルメス様達と一緒にベルの様子を観察する。ヘスティア様を庇いながら必死に逃げ回るベルの姿を見ていると、何もできない自分に腹が立つ。
怒りで顔が歪む。体が震える。奥歯を痛いほど噛み、両手を握りつぶす程に拳を握る。
その時、【アポロン・ファミリア】の団員達が今いる屋根の近くに現れる。
「おい、貴様! いったいなんのつもりだ!?」
そいつらのリーダーと思われるエルフが尋ねてくる。
「何の事だ?」
口から出た声は思いの外、低いものだった。
「とぼけるな! その殺気は一体なんだ!?」
「リッソス、こいつ【シャドー・デビル】だ!」
「と言うことは、【リトル・ルーキー】の仲間か!」
次から次へと【アポロン・ファミリア】の団員達が駆けつけ、武器を構える。ヘルメス様を守ろうとアスフィさんも短剣を抜く。
「私達は戦うつもりはありません。武器を納めてください」
「はったりだな。そんなこと誰が信用するか!」
アスフィさんの言葉も一蹴し、今にもこちらに襲いかかってきそうになる。
「……俺達はただ観戦しているだけだ」
既に取り囲まれ、逃げ場はない状況。だがそんな状況でも俺は武器を抜かなかった。
「だがそちらから襲いかかってくるというのなら──」
無意識に溢れ出ていた殺気を、リーダーと思われるエルフに向ける。
「殺すぞ?」
それだけでエルフは腰を抜かした。手に持つ短剣が震えている。
「いやー済まないね。今、彼はものすごく殺気立ってるんだ」
そんな中、ヘルメス様がきわめて明るい声で【アポロン・ファミリア】の団員に呼び掛ける。
「本当にオレ達はこの騒動を観戦しているだけさ! こっちから手を出すことはない!」
大袈裟な身振りで【アポロン・ファミリア】の団員達を説得する姿は何かの芝居のようだ。
「だけど彼が言ったように手を出されると……このヘルメスの派閥とまず戦争することになるけど……どうする?」
その言葉に【アポロン・ファミリア】の団員がざわめく。
【ヘルメス・ファミリア】は中堅派閥だ。しかし構成人数も決して少ないわけでもなく、さらに【
「ほ、本当に手を出さないんだな?」
「ああ、本当に本当さ! そこは安心してくれ!」
「……わかった。その言葉を信じよう」
そう言ってエルフが他の団員に立たせてもらった後、【アポロン・ファミリア】の団員達はベルを追うために去っていった。
「よく我慢してくれた」
「……これで約束を破ったら本当にどうなるかわかりませんよ?」
「大丈夫だ、任せてくれ!」
ヘルメス様を睨んだ後、再びベルの方へ視線を送る。ベル達は今までとは明らかに違う方向に移動していた。
「そろそろかな? アスフィ、トキ追いかけるよ」
「はい」
「……了解」
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ベル達が向かった先にあったものは【アポロン・ファミリア】のホームだった。
ヘスティア様が門番を押し退け、敷地内に入る。石造りの屋敷の前には襲撃を警戒していたかのように大勢の団員が待ち構えていた。さらにアポロン様が屋敷から出てくる。
ヘスティア様はアポロン様に伴っていた
『上等だっ! 受けて立ってやる、
遠くにいても聞こえる大声で宣言した。
『ここに神双方の合意はなった──諸君、
続けてアポロン様が高らかに叫ぶ。
『いぇええええええええええええええええええッ!!』
するといつの間に隠れていたのか、屋敷のいたるところから神々が現れる。
そんな中、俺はチラリとヘルメス様を見る。ヘルメス様が頷くと、直ぐ様ベルに向かって駆け出す。
ベルの元にたどり着くと、ヴェルフが何やらベルとヘスティアに話をしていた。
「ベルッ!」
「っ、トキ!?」
こちらに気づいたベルに駆け寄る。
「すまない」
「ううん、トキにはトキの事情があるもん」
やはりベルは俺達が見ていることに気がついていた。
「ベル、これを」
影から今朝書いた手紙を取り出す。
「これは?」
「アイズさんへの紹介状だ。無下にはされないはずだ、役立ててくれ」
俺の言葉にベル達が目を見開く。
「お前はこうなるってわかってたのか?」
「俺じゃなくてヘルメス様が、だな。保険のために書いておいたんだ。まさかこんなに早く使うことになるとは思わなかったけど」
ヴェルフの問いかけに顔を険しくしながら答える。
「そうだ。トキ、リリが【ソーマ・ファミリア】に連れ去られたんだっ!」
「何だと!?」
道理でリリがいないはずだ。
「わかった。ヴェルフ、明日お前の工房の前に協力してくれそうな人を集めてくれ」
「かまわないが……どうするんだ?」
「今日中にリリの居場所を突き止めて、明日取り返しに行く」
「なっ!?」
その言葉にヘスティア様が瞠目する。
「……わかった。リリのこと頼んだよ」
「任せろ」
ベルと拳をぶつける。ベルはそのまま走り去っていった。
「じゃあヴェルフ、頼んだ」
「いいけどよ、当てはあるのか?」
「まあな」
【ソーマ・ファミリア】についてはリリの件が解決した後から調べていた。
調べた中で、他所から施設を借りずに人を監禁できそうな場所は2ヶ所。【ソーマ・ファミリア】のホームともう1つである。しかしホームは実質機能していないことから、可能性が高いのはもう1つの方だ。
俺はアスフィさんの元へ急いだ。アスフィさんの
最近、感想が増えてきてここ二日ほど嬉しい悲鳴を上げております。これからもこの作品をよろしくお願いします。
ご意見、ご感想お待ちしております。