冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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本編に戻ります。


Shall we dance?

「──なかなか面白いこと言うなぁ」

 

 俺とオッタルさんのやり取りによって誰もが口をつぐんでいた時、不意にその声が響いた。振り向くとそこにはロキ様と、薄い緑色のドレスを着たアイズさんがいた。

 

「ロキ!?」

「よぉードチビー。ドレス着れるようになったんやなー。めっちゃ背伸びしとるようで笑えるわー」

「お久し振りです、ロキ様」

「ん、久しぶりや」

 

 ロキ様に一礼する。

 

「いつの間に来たんだよ、君は!? 音もなく現れるんじゃない!」

「うっさいわボケー!! 意気揚々と会場入りしたらあの腐れおっぱいに全部持ってかれたんじゃー!?」

 

 ……すいません、オッタルさんに注目していて気づきませんでした。

 

 ふとベルの様子を見てみる。やはりと言っていいのかアイズさんに見惚れていた。アイズさんも着なれないドレスを身に纏っている所為か顔を伏せている。あ、顔を上げたアイズさんとベルの目があった。再びうつむくアイズさん。そのままロキ様の影に隠れた。……なんだろうすごくかわいい。

 

「……えいッ」

「いたいっ!?」

 

 あ、嫉妬したヘスティア様がベルの太ももをつねった。

 

「ふーん、その少年がドチビの眷族()か……」

 

 ロキ様はベルに近づき、その姿をジロジロと観察する。そして。

 

「何だかぱっと冴えんなぁ。うちのアイズたんとは天地との差や!」

 

 ベルに強烈な攻撃。ふらりとベルの体が揺れた。

 

「前のように直接言い争っても勝てないと知って、今度は眷族(こども)自慢かい!? あーやだやだっ、浅はかで見苦しい!」

「──あァん?」

 

 ビキッ、とロキ様の額に青筋が走る。

 

「そもそもそっちのヴァレン何某よりボクのベル君の方がよっぽど可愛いね! 兎みたいで愛嬌がある!!」

「笑わすなボケェ!! うちのアイズたんの方が実力もかっこよさも百万倍上や!?」

 

 そこから始まる眷族自慢。それを見た俺はというと……素早くベルに近づき、その肩を叩く。

 

「俺が時間を稼ぐ。アイズさんと話してこい」

「え、ええぇ!?」

「さっさと行けっ」

 

 背中を押し、自らは2柱の女神の口論の間に入る。

 

「お止めください、お二人とも」

「ちょ、何をするんだいトキ君!!」

「せやせや! そこの分からず屋にアイズたんの魅力をわからせてやるんや!」

「こっちこそ、ベル君がいかに可愛いかその無乳にわからせてやるんだ!」

「だれが無乳やと!?」

 

 俺を挟んで再び口論を始めようとする女神達。

 

「落ち着いてください。その程度で怒っていては神としての器が知れてしまいますよ?」

「「あァん?」」

 

 怒りの矛先がこちらを向いた。女神達が口を開く前にさらに言葉を続ける。

 

「お二人がいかに自らの眷族を愛しているかは自明の理。であるならば、相手の言う言葉などに異を返さない方がより器の大きな女神、となるでしょう」

「器の大きい……」

「女神……」

 

 お互いに視線を合わせるロキ様とヘスティア様。

 

「ふん、今日のところはこれで勘弁してやろう。なんせ僕は器の大きい女神だからね!」

「ハッ、それはこっちの台詞や。まあ、うちの方がより器が大きいから、ドチビが何をゆーてもまったく気にならんけどな!」

 

 ふいっ、と顔を逸らす女神達。これで喧嘩は避けられた。

 

『何、だと……!』

『あのロリ巨乳とロキ無乳の喧嘩を』

『止めた、だと!?』

『【シャドー・デビル】、恐るべし』

 

 ……何でだろう。ただ喧嘩を止めただけなのに、こう、いたたまれない気持ちになるのは。

 

「しかし、ロキ様」

「ん? なんや?」

「先程から気になっていたのですが、何故男性用の礼装なのですか?」

 

 ロキ様の姿はタキシードであった。ドレスを着たアイズさんと一緒にいると主従が逆転しているかのようだ。

 

「何や、からかっとるんか?」

「いえ、そういう気持ちは全く」

「……まあ、ええやろ。ちゅーか分かるやろ? うちみたいなもんがドレスを着ても似合わへんのは」

 

 やけくそ気味に言うロキ様。しかし、俺はそうは思わなかった。

 

「そうですか? ロキ様もドレスを着たらお似合いになると思いますが?」

 

『……はあ?』

 

 あれ、何で会場全体で同じ反応なんだろう?

 

「正気か、自分?」

「正気ですよ。というかドレスが似合わない女性はいません。もしロキ様のドレス姿が似合わないと思われるのであれば、それは見る者の目がないのか、ドレスがロキ様に合わなかったのでしょう。個人的には赤いドレスなんかがお似合いになると思いますが?」

「……ファイたんみたいなやつか?」

 

 ファイたん? と頭に疑問が浮かぶが、すぐにヘファイストス様だと気づく。ヘファイストス様のドレスは紅玉(ルビー)のような光沢のあるドレスだった。

 

「いえ、ヘファイストス様の紅玉(ルビー)のように輝く色ではなく、冬の家を温める炎のようなドレスです」

「……さよか。トキがそこまで言うんやったら今度機会があったら着てみるわ」

 

 恥ずかしそうにそっぽを向くロキ様。

 

『……おい、誰だよあの可愛い生き物』

『確か……ロキ?』

『……やべぇ今俺、不覚にもトキメキかけた……。末期かな……?』

 

 外野が何か言っている。そこでふと、悪戯心が芽生えた。

 

「我が主神は自分が幼い頃に言ってくれました。女性とは紅玉(ルビー)緑玉(エメラルド)のような違いはあれど、皆等しく美しい、と」

「ぶふっ!」

「お、おい、トキ!?」

 

『『『『『クッセェー!?』』』』』

 

 タケミカヅチ様が吹き出し、ヘルメス様が驚愕の声を上げる。直後たちまちヘルメス様に神々が殺到する。

 

『おいヘルメス、そんなこと言ってたのか!?』

『くさい、くさすぎるぞ!?』

 

「いや、待ってくれっ! あれはあの子が勝手に……」

 

『おいおい言い逃れするつもりかよ!』

 

 慌てふためくヘルメス様の様子に口端を釣り上げる。その後、足元から影を伸ばし、ベルの靴を叩く。ちらりとそちらを見るとベルは意図を察してくれたのか、アイズさんから離れていった。

 

「それではロキ様。また後程」

「あ、う、うん」

 

 身をひるがえし、ベルに近づく。

 

「……いいの、あれ?」

「後でフォローに行く。それよりもどうだった?」

「えっと、うん。ちょっと話せた。ありがとう」

「そうか」

 

 それだけ話し、ベルから離れる。いざ、神々の群れの中へ。

 

  ------------------

 

 神々と交流を深め、勧誘を断り続けて2時間程が過ぎた。どこからともなく流麗な音楽が流れ始める。

 

「トキ、オレは少し外すから誰かと踊ってきなさい」

 

 ヘルメス様はそう言うと給仕に何か言って、グラスを受けとり窓際へ移動していく。その先には……ベルがいた。

 どうやらヘルメス様はベルの事が気になっているらしいし、俺も目当ての人を探そう。

 

 顔を巡らせると目当ての神物(じんぶつ)はすぐに見つかった。人を避けつつ、真っ直ぐに近づく。片手を差し出し、頭を垂れる。

 

「女神よ、私と一曲踊って頂けませんか?」

 

 手を差し出された女神、ロキ様はキョトンとした顔をしていた。さらに周囲から驚きの声が上がる。

 

「え、いや、え?」

「踊って頂けませんか?」

 

 キョロキョロとロキ様は辺りを見渡した後、恐る恐る手を握った。その手を握り返し、広場の中央に移動する。手を握っている反対側の手をロキ様の腰へ回すと、ロキ様も俺の肩に手を置く。そして、曲に合わせて踊り始める。

 

「……なあ、なんでうちなんや?」

「踊ってみたかったから、ではいけませんか?」

「……まあ、別にええけど……」

 

 顔をうつむかせるロキ様を先導(リード)する。

 

「……なんや自分、慣れてへんか?」

「ええ、まあ。【ファミリア】の先輩にスパルタで教えてもらいましたから」

 

 トキ・オーティクス

 舞踏Lv.4

 アスフィ仕込みのダンス。初心者でも上手く先導(リード)することができる。

 

「そういうロキ様は慣れていないご様子ですか……?」

「……ダンスなんか、男役ならともかく、女役なんて踊ったことあらへん」

「では、私がロキ様と初めて踊った、ということですか?」

「……まあ、そうなるなあ」

「それは光栄ですね」

 

 道化師(トリックスター)と呼ばれるロキ様をからかいながらしばらく踊っていると、見知った男女が踊っているのが見えた。

 顔を真っ赤にしているベルと、表情は乏しいが照れているアイズさんだ。ちらりと広間の端に目をやるとヘルメス様がヘスティア様を押さえ込んでいた。

 

 何となく察してベル達から離れる。

 

『──うおおおおおおおおおおっ!! こらあロキィッッ!! 何を悠長に踊っているんだあああああああああっ!! 早く二人を止めろおおおおおおおおおお!!』

 

 しかしそんなヘルメス様を掻い潜り、ヘスティア様の絶叫が響く。

 

「はあ? ドチビ何言うて……うおおおおおおおおおおっ!? アイズたん、何をやっとるんやー!?」

 

 ヘスティア様の叫びに、ロキ様もベルとアイズさんが踊っていることに気がつく。離れようとするロキ様の手を強く握り、腰に当てる手にさらに力を入れる。

 

「ダメですよ、ロキ様」

「な、何するんや!?」

「今貴方は俺と踊っているんです。他の事に気をとられないでください」

「な、な、な!?」

「踊り終わるまで、この手は離しませんよ?」

 

 顔を近づけ囁くように言葉を発する。それからロキ様は大人しく俺に先導(リード)され、踊り続けてくれた。




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