冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
これからも頑張りますので、どうかこの作品とトキのことをよろしくお願いします。
酒場の一件から翌日。今日は仕事がある日なのだが……朝から二日酔いによる頭痛でまともに動けなかった。それでもなんとか【ヘルメス・ファミリア】のホームから自宅まで戻り、店を開ける。
「トキ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。ちょっと頭痛が痛いだけだから」
「……普通頭痛が痛いとは言わないよ?」
「いや、ただのボケなんだけど……」
レフィーヤに心配されるほど顔色が悪いらしい。
そして追い打ちをかけるようにたくさんの神々が店を訪ねてきた。……そういえば俺もベルほどではないがあのアイズさんの【ランクアップ】記録を塗り替えたことになってるんだよな……。
なんとか午前中をしのぎきり、少し早めの昼食を取る。その間に入ってくるような神には、耳元でその神に関する特ダネを囁いてお帰りいただいた。
「トキ、邪魔するぞ!」
レフィーヤと昼食を取っているとヘルメス様が来た。……さすがに自分の主神を追い返す訳にはいかないな。
「おや、レフィーヤちゃん。こんにちは」
「こ、こんにちは」
「ヘルメス様、何か用事ですか?」
「そうなんだ! これを見てくれ!」
そう言ってヘルメス様が懐から取り出したのは1通の手紙。封は既に切られているがその封蝋を見て絶句する。それには弓矢と太陽のエンブレムが刻まれていた。
とりあえず言いたいことを飲み込んで中の手紙を見てみる。内容はアポロン様主催の『神の宴』への招待状。
「あの、ヘルメス様。これを見て俺にどうしろと?」
「決まっているだろう! 君がオレと一緒に行くんだ!」
「……やっぱり」
ため息をつく俺の様子にレフィーヤがキョトンとした顔をする。
「何でトキがヘルメス様と『神の宴』に参加するのですか? 『宴』は神々だけで行われるものでは?」
「いや今回の『宴』は少し趣向を凝らしているようでね」
レフィーヤの疑問に対し、ヘルメスは笑顔のまま答える。
「招待状によると今回の『宴』は眷族1名を引き連れるのが参加条件なんだ」
「へぇ~」
「いや、あのヘルメス様?」
一人納得しているレフィーヤを尻目に俺はヘルメス様に反論する。
「正直あまり覚えていないのですが、昨日俺は【アポロン・ファミリア】と揉め事を起こしたのですが……」
そう、記憶が曖昧だが昨日『
「さすがに出席しないのは相手の顔に泥を塗ることになりますが、【ヘルメス・ファミリア】は俺だけではありませんし、誰か他の人を連れていってください」
というかこういう時はアスフィさんがヘルメス様のお供をしているので、俺に声がかかるとは思っていなかった。
「トキ、君の言い分はよくわかった」
そんな俺の言葉を聞いてヘルメス様は何度か頷いた。
「だが断る!」
その上で断られた。
「あのヘルメス様。すいません、二日酔いで頭が痛いので大声を出さないでください」
「ん? ああすまない」
咳払いをし、気を取り直したヘルメス様は再び胸を張る。
「確かにこういう行事の時はアスフィを連れていくのがオレの常だった。しかし。そのアスフィに負けないくらいオレは君が自慢なんだ」
その真摯な眼差しに思わずたじろいだ。
「それに前回の
「だったらその期待を裏切ってください」
「いや、ここはあえてその期待に応えよう。というかオレが君を自慢したい」
「本音はそこですか」
駄目だ。神の意見を覆すなんて俺の技量ではできない。チラッとレフィーヤを見て助け船を頼む。
「そこでレフィーヤちゃんとこれから君の礼装を見に行こうと思うんだけど。どうだい、レフィーヤちゃん?」
「トキの礼装……」
ヘルメス様の一言によりレフィーヤが妄想の世界に行ってしまった。くそっ、先を越された!
「……いい。はい、ヘルメス様。是非ともお供させて頂きます」
「話は決まった。という訳で行くぞ、トキ!」
「あの、俺まだ店が……」
「パッと行ってパッと帰ってくればいいさ。さあ行くぞ」
その後、昼食を片付け、看板をしまいヘルメス様とレフィーヤと一緒に礼装を見に行った。結果、オシャレ好きのエルフ女性、レフィーヤによって夕方まで礼装を見る羽目になった。
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2日後。馬車を操作しながら地図に書かれていた『神の宴』の会場にたどり着く。影で作り出した馬を止め、その馬を消す。馬車の扉を開け、一礼。中からヘルメス様が出てくる。
「運転ご苦労様」
「いえ、それほどではありません」
トキ・オーティクス
騎乗・運転Lv.3
馬など主な動物や乗り物を操る事ができる。モンスターでも調教された低レベルのものであれば可能。
ヘルメス様が降りきったのを確認し、馬車を影の中に収納する。周りの神や同伴の冒険者、他の馬車の御者がギョッと驚く。……本当は普通に高級馬車に乗ってくる予定だったんだ。でもヘルメス様がそっちの方が面白いからって。
「何をぶつぶつ言っているんだい?」
「いえ、何でもありません」
すぐに顔を元に戻し、ヘルメス様の後に続く。今回の『神の宴』の会場は北のメインストリート界隈にある高級住宅街の中に建っているギルドの管理する施設だ。
通常『神の宴』を行う時はその主神の【ファミリア】のホームではなく、こういった貸し出しの施設を利用する。でないと情報の秘匿やらなんやらあったものではないからな。ちなみに【ガネーシャ・ファミリア】の主神ガネーシャ様はホームである『アイアム・ガネーシャ』という建物で『神の宴』を執り行うらしいが、あれは例外である。
外装は豪華な宮殿というのが一番わかりやすいだろうか。高級住宅街に建っているだけあってうちのホームとは見た目から違うなー、とぼんやり思いながら玄関をくぐる。
中も外装に負けず劣らず豪華であった。開放感のあるホールに入るとまず目に飛び込んで来るのは壁際に建てられている
大階段を上り、二階の大広間へ。天井にはシャンデリア型の魔石灯が広間を照らし、多くの長テーブルの上にはいかにも高級そうな料理がところ狭しと並んでいる。背の長い窓の外はバルコニーになっているようだ。
「お、いたいた」
ヘルメス様の後を追っていると見慣れた人物達が集まっていた。
「やぁやぁ、集まっているようだね! オレも混ぜてくれよ!」
「あ、ヘルメス」
集団の中の一人、マリンブルーのドレスを着たヘスティア様がこちらに気づいた。東洋の礼装を着ている男神、タケミカヅチ様がげっ、と嫌そうな顔をされる。ヘルメス様、いったい何をしてきたんですか?
「ヘルメス様、とりあえずもっと声を下げてください」
今回俺はアスフィさんからヘルメス様の事を頼まれている。少々厳しくいこう。
「何でお前がこっちに来るんだ。今まで大した付き合いもなかったろうに」
「おいおいタケミカヅチ、ともに団結してことに当たったばかりじゃないか! オレだけ仲間外れにしないでくれよ!」
そう言うとヘルメス様はタケミカヅチ様の脇を抜け、正装したベル達をからかい……もとい褒め始める。
「まったく……」
「タケミカヅチ様」
今のうちに挨拶しておこう、と思い俺はタケミカヅチ様に向き直る。
「ん?」
「お初にお目にかかります。【ヘルメス・ファミリア】所属、第三級冒険者トキ・オーティクスと申します。先日は危ない所を眷族の方々に救っていただきました。本当にありがとうございました」
そう言って一礼する。
「ああ、気にするな。元を言えば俺達の所為だからな」
「それでも助けていただいたことには変わりありません」
「……本当にヘルメスのところのやつは主神と違ってできたやつばかりだな」
「お褒めに預り光栄です」
ふと見るとヘルメス様がドレスを着た命さんの指にキスをしていた。それを見たタケミカヅチ様はヘルメス様に近づき、その頭部を殴った。俺もアスフィさんに言われたことを思い出し、つま先で蹴りを放つ。
「ぐあっ。トキ、なんで君まで……」
「アスフィさんにヘルメス様が女性に色目を使ったら容赦なく蹴っていいと言われているので」
「くそ、アスフィめ……」
その様子にご満悦のタケミカヅチ様。本当にどんなことをしたらこんなに毛嫌いされるんだろうか?
崩れ落ちたヘルメス様を立たせ、周りを見てみる。どうやら大分人が増えてきていたみたいだ。
『──諸君、今日はよく足を運んでくれた!』
大広間の奥から声が響き渡った。目線をそちらにやれば、その先にいるのは1柱の男神だった。日の光のように輝く金髪。その頭の上には緑葉にあしらわれた月桂冠の冠。おそらくあの方がアポロン様だろう。
『今回は私の一存で趣向を変えてみたが、気にいってもらえただろうか? 日々可愛がっている者達を着飾り、こうして我々の宴に連れ出すのもまた一興だろう! 多くの同族、そして愛する子供達の顔を見れて私自身喜ばしい限りだ。──今宵は新しき出会いに恵まれる、そんな予感すらする』
アポロン様の挨拶を聞き流しつつ、来賓の顔を確認する。……見たことある方が3分の1、というところか。これを機会に新たな人脈の開拓をしてみても良いかもしれない。……いや、【ファミリア】のスタンスに反しない程度に、だよ?
『今日の夜は長い。上質な酒も、食も振る舞おう。ぜひ楽しんでいってくれ!』
アポロン様の言葉に男神を中心とした人達から歓声が上がる。……どうやら挨拶が終わったみたいだ。
給仕役の団員の人にジュースを頼む。……いや、さすがに酒は当分いらない。
ふと見るとヘルメス様はタケミカヅチ様や女神1柱、男神1柱と会話をしていた。そっと近づき挨拶する機会を待つ。
「お、トキ。ちょうどよかった。ヘファイストス、ミアハ、彼がオレの自慢の子だ。タケミカヅチはさっき話してたよな?」
「ああ」
神達の視線が集まる。
「お初にお目にかかります、ヘファイストス様、ミアハ様。【ヘルメス・ファミリア】所属、第三級冒険者トキ・オーティクスと申します。以後お見知りおきを」
「へー、この子が噂の【シャドー・デビル】か。私はヘファイストス。よろしく」
「ヘルメスとは違い礼儀正しい子であるな。私はミアハ。よろしく頼む」
お二人と握手を交わす。
「時にトキよ、
「はい、存じております。先日、ディアンケヒト様がミアハ様に一杯食わされたと、愚痴りにきました」
「そうか」
「ありがたいお言葉ですが、私は既に
「メルクリウスのところか。あそこは変わり種が多かったな」
「はい、メルクリウス様も店によく来られて相談をしていかれたりします」
「ふむ、そうか。そういうことなら仕方がないな」
「まことに申し訳ありません」
「いや、気にする必要はない」
そう言って微笑むミアハ様に一礼し、今度はヘファイストス様に向き直る。
「ヘファイストス様、いつも眷族であるスミスさんとヴェルフに大変お世話になっております」
「こっちこそ、スミスをはじめとする複数の子達が世話になっているわ。ありがとう。それよりも後ろの子が貴方と話したがってるわよ?」
ヘファイストス様に言われて振り向くとベルがいた。礼装に身を包んだベルはいつもと雰囲気が違って見える。……単に緊張しているのかもしれないが。
「よ、ベル」
「うん。それしてもやっぱりトキはすごいね」
「うん?」
「神様達を前にしているのに平然と話してるんだもん」
「まあこれも経験だな。ヘルメス様やアスフィさんに連れられてこういったパーティーは初めてじゃないからな」
「そうなんだ~」
ベルは今度は命さんに向き直る。
「あの、命さん。18階層ではありがとうございました。沢山助けてもらって……」
「い、いえっ。自分は何も……ベル殿こそ、お見事でした。あのような事態に陥っても果敢に階層主へ挑み、最後にはご自身の手で決着まで……恥ずかしながら、あの光景には心が浮き立ってしまいました」
「あ、あれは僕一人の力じゃないというか、一人じゃ何もできなかったというか……」
「まあまあ二人とも。命さんのお陰で俺達は助かったようなものだし、ベルのお陰で階層主を倒せたのは事実だろ? そんなに謙遜することないと思うが?」
俺の言葉にキョトンとした二人は顔を見合わせると同時に笑みをこぼした。
「……ベル殿、トキ殿。何かありましたら、いつでも声をおかけください。微力ながら助太刀します」
「命さん……」
「桜花殿も千草殿も、ベル殿やトキ殿達の力になりたいと願っています。無論、自分も」
「えっと、それじゃあ……命さん達も何か困ったことがあったら、呼んでください。力を貸しますから」
「……うちの主神がそちらの主神に迷惑をかけているようだからな。その分俺も力を貸すよ。特に情報に関してだったらけっこう強いから、何かあったら聞いてくれ」
命さんから差し出された手を握り返しながら言葉を紡ぐ。悪い人ではないし、こういう関係も悪くない。
「伝聞ですが、お二人の成長には目を見張るものがあると聞き及んでいます。何か強くなる秘訣はあるのですか?」
「ベルは改造人間、私お手製のヤバイ薬を飲んで、日々
「嘘言わないでくださいよ!?」
命さんの疑問に答えたのはベルではなく
「初めまして【ヘルメス・ファミリア】のトキ・オーティクスです」
「【ミアハ・ファミリア】のナァーザ・エリスイス。よろしく。ところで……」
「あ、すいません、
「……そう。……ちっ」
……今この人さりげなく舌打ちしたな。
「ええ、ですからお詫びといっては何ですが【ミアハ・ファミリア】の
「店?」
「ええ。多種多様な方々が来るので売れ行きに貢献できると思います」
「……貴方、いい人ね」
「いえいえ」
笑いながら握手を交わす。
その後、ベルに会場のことについて聞かれたので答えた。するとベルは、
「すいません……アポロン様ってどんなお方なんですか?」
とヘルメス様に尋ねた。
「ん、気になるのかい、ベル君?」
「はい」
「面白いやつだよ。オレは天界から付き合いがあるけど、見ていて飽きない。他の神々からは笑い種にもされている。とにかく色恋沙汰の話題につきないやつでね。冒険者でもないのに、【
キョトンとするベル。俺も多分同じような顔をしているだろう。
「恋愛に熱い神、ってことさ。なぁ、ヘスティア?」
「知らないよっ!」
いつの間にか食事をしていたヘスティア様にヘルメス様が笑いかける。そんなヘスティア様の様子は……何だか不機嫌?
「なあ、ベル」
「なんでも神様はアポロン様のことが苦手らしいんだ」
「へー」
「後はそうだな……執念深い」
「え?」
ベルが疑問の声を発した直後、大広間の入り口の方がざわめきだした。
「おっと……大物の登場だ」
気づいたら6000文字突破。いや、これでも切りがよさそうなところを選んだのですが……。
ご意見、ご感想お待ちしております。