冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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気づけばこの小説を投稿し始めてから二ヶ月。早いものですね~。というか毎日更新とかサボり癖のある作者にしてはすごい偉業だと思います。……相変わらず文章スキルは向上しませんが。

それでは黒ゴライアス、決着です。


英雄の誕生への序章

 ゴライアスまでの距離、およそ100M(メドル)を漆黒の影が地を這うように疾走していた。

 

「【さあ、舞台の幕を上げよう】」

 

 同時に行使される『並行詠唱』。トキの体から膨大な魔力が膨れ上がる。

 

「【この手に杖を。ありとあらゆる魔法を産み出す魔法の杖を】」

 

 しかしそれは並々ならぬことであった。既にトキは【果て無き深淵(インフィニット・アビス)】の魔法を唱えている。その上でさらに魔法を唱えることは、左右の手で別々の事を行うのと同じ事だ。

 

「【ああ我が神よ。もし叶うならば】」

 

 それでもトキはそれを実行する。後ろから聞こえてくるゴォン、ゴォォン、という大鐘楼(グランドベル)を聞きながら、その音に応えようと自分の限界を超える。

 

「【かの日見た光景を。この身に余る栄光を】」

 

 トキの手に白く透き通る杖が現れる。その先端には()()の羽がつけられていた。

 

「【()()の奇跡を起こしたまえ】!」

 

 前方のゴライアスを睨み、魔法の名を口にする。

 

「【ケリュケイオン】!」

 

 さらにトキは己の身を弾丸に置き換え、ゴライアスに向けて跳躍する。ゴライアスはベルを敵と認識し、その巨体を跳ねさせるように走っている。正面からぶつかれば今度こそ死んでしまうだろう。

 

 アスフィとリューから悲鳴に似た絶叫が響く。

 

「【盾となれ、破邪の聖杯(さかずき)】!」

 

 突撃するトキは超短文詠唱で迎撃する。杖の羽が1枚散る。

 

「【ディオ・グレイル】!!」

 

 現れたのは直径3Mほどの純白の盾。あらゆる攻撃を弾く盾はしかし本来の使い方をしても意味がない。そこでトキは盾を生み出す座標を自分との相対距離1Mとした。その結果。

 

 ドオォン! という音と共にゴライアスの巨体を弾き飛ばす。

 魔法でできた盾を用いたシールドバッシュ。助走距離が必要であるがLv.3の敏捷による加速を利用したその効果は絶大だ。

 

「【この身は深淵に満ちている】」

 

 さらにトキは『杖』を行使する。

 

【ケリュケイオン】の詠唱式は【ランクアップ】の時に変わっていた。試してはいなかったが、トキにはなんとなく効果がわかっていた。

 

「【触れるものは漆黒に染まり。写るものは宵闇に堕ちる】」

 

 即ち模倣数の増加。【ランクアップ】が関係しているのかわからないが、出現した『杖』の羽の数は増えていた。

 

「【漆黒の都、新月の月。我はさ迷う殺戮者】」

 

 そしてもう1つの模倣でトキは自らの魔法を行使する。即ち、【果て無き深淵(インフィニット・アビス)】の重ね掛け。

 2枚目の羽が散る。

 

「【顕現せよ、断罪の力】!」

 

 その模倣は自らのものであるが故に限り無く本物に近い再現となる。

 

「【インフィニット・アビス】!!」

 

 トキの足元から4匹の巨蛇が現れる。巨蛇はゴライアスの四肢に絡み付き、その動きを力付くで封じた。

 

「オーティクスさん、合わせなさい!」

 

 着地と同時にリューが脇を駆けていく。その意図を一瞬で理解するとトキはゴライアスのバランスを崩しにかかる。

 同時にリューがゴライアスの膝裏を木刀で強打した。

 

 ゴライアスは人型のモンスターだ。そして人はもともと重心が高い。さらにトキのシールドバッシュにより体勢を崩されている。そこにリューの強打によって足を完全に掬われた。

 

 轟音を立て尻餅を付く巨人。その目には驚愕の色がはっきりと映っていた。

 

『グッ──オオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』

 

 ここぞとばかりに攻撃するリューとアスフィを払いのけようと、立ち上がろうとするゴライアス。しかしトキの巨蛇が四肢に絡み付き、思うように動けない。

 

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に(ちりば)む無限の星々】」

 

 だめ押しとばかりにリューの詠唱が響く。

 

「【愚かな我が声に応じ、今一度星火(せいか)の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】」

 

 高速戦闘をしながらの『並行詠唱』。それはトキのような産まれ持った才能ではなく、【疾風】と言われたリューの冒険者としての実力であった。

 

「トキ殿!」

 

 ゴライアスを封じ込めているトキの耳に少女の声が聞こえてきた。

 

「そこから離れてください!」

 

 そういいながら彼女は詠唱を開始した。

 

「【掛けまくも(かしこ)き、 いかなるものも打ち破る我が武神(かみ)よ、尊き天よりの導きよ。卑小のこの身に巍然(ぎぜん)たる御身の神力を】」

 

 その歌を聞きトキは後方に飛ぶ。その瞬間ゴライアスが立ち上がろうと四肢に力を込めた。

 

「寝てろ、デカブツッ!」

 

 しかしそれをトキが許さない。巨蛇を操りその動きを封じる。再び地に落ちる巨人。

 

「【来たれ、さすらう風、流浪の旅人(ともがら)。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】!」

 

 そこにリューの魔法が炸裂した。

 

「【ルミノス・ウィンド】!!」

 

 緑風を纏った無数の大光球がリューの周囲から生まれ、次々とゴライアスに直撃する。大光球はゴライアスの硬い体皮を撃ち破り、巨人の体を削っていく。

 

『アアアアアア────────────ッッ!!』

 

 しかし、調子に乗るなとばかりに強引に立ち上がろうとする。その瞬間的なパワーにトキの表情が歪み、次第に巨人の体が持ち上がっていく。そして、足を踏みしめ立ち上がった直後。

 

「【天より(いた)り、地を統べよ──神武闘征】!!」

 

 少女の魔法が完成した。

 

「【フツノミタマ】!!」

 

 ゴライアスの真上に巨大な光剣が出現する。同時にその足元にも魔方陣が現れる。光剣がゴライアスを通り抜け、地面に突き立った瞬間、重力による檻が生まれた。

 

『~~~~~~~~~~~ッッ!?』

 

 ゴライアスの体が再び沈む。更にもう好きにさせるか、とトキの巨蛇がさらにその体を締め付ける。

 

「ぐ、ぅぅぅぅぅぅ……!?」

 

 しかしそれでもゴライアスは立ち上がろうと巨体に力を込める。

 

「大人しく──してやがれェェ!!」

 

 トキの影からさらに巨蛇が現れ、ゴライアスの真上からその体を叩いた。重力の檻によって加速したその体当たりはゴライアスを完全に封じ込めた。さらに巨蛇はゴライアスの首に巻き付く。

 

 それでなんとか拮抗。トキと命の全力の魔法によりゴライアスは封じ込められた。

 

「お前等ァ! 死にたくなかったらどけぇえええええええええ!!」

 

 そして後ろから聞こえてくるヴェルフの咆哮と炎が暴れる音。

 

「命さん、ヴェルフが通り過ぎたら魔法を解除してください!」

 

「──ぐ、わかりました!」

 

 一瞬のためらいの後、命はトキの指示に頷いた。

 

「ヴェルフ、任せるぞ!」

 

「ああ!」

 

 ヴェルフがトキと命を追い越す。それと同時に二人が魔法を解除した。

 重力の檻と巨蛇の拘束から開放されたゴライアスが勢いよく立ち上がる。そこに、ヴェルフの咆哮が轟いた。

 

火月(かづき)ぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 ヴェルフの手に握られた長剣から轟炎が迸る。その炎はゴライアスの巨体を一瞬にして包み込みその体を焼く。

 

『────────────アァァァァ!?』

 

 ゴライアスの体から赤い粒子が迸る。だが追い付かない。あらゆる傷を治すはずの再生能力をヴェルフによって作り出された魔剣が凌駕した。

 

「あれが、『クロッゾの魔剣』……!」

「超える!? 正式魔法(オリジナル)を!?」

 

 リューとアスフィの驚愕の声を耳にする中、ヴェルフは静かに砕けた刀身に詫びた。

 

 そして。

 

「3分だ」

 

 トキが1歩横にずれる。

 

「みんな、道を開けろぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

 ヘスティアの叫びに誰もが道を開ける。

 

 そして……トキのすぐ近くをベルが通り抜けた。

 

 ──決めろ。

 

 ──うん。

 

 言葉も視線もいらなかった。ベルが走り抜けた後を遅れて風が追いかける。それを背中に感じながらトキは親友の行く末を見つめる。

 

 ベルとゴライアスとの距離が瞬く間に埋まる。そして。

 

「あああああああああああああああああああッッ‼」

 

 ベルの一撃が振るわれた。純白の光が全ての者の視界を埋めつくし、轟音が耳を襲う。その光景をしかしトキは目を逸らさずに見つめていた。

 

 そして光が晴れた先では、決着がついていた。

 

 ゴライアスは完全にその体を消し飛ばされており、体のパーツが散り散りに転がっている。あの一撃でも残った巨大な魔石は、しかしピキリと音を立てて二つに割れた。

 

「……消し飛ばし、やがった」

 

 ばたりとベルが崩れ落ちる。ゴライアスの体のパーツが灰となり、その一角にドロップアイテム『ゴライアスの硬皮』がポツリと残された。

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 歓声が上がった。階層を揺るがすのではないかというほどの歓声が響く。

 崩れ落ちたベルの周りに仲間を始めとする大勢の人が集まる。

 

 トキもそれに加わろうとし……体が崩れた。ゴライアスを倒した安堵により限界を超えて酷使された体についに力が入らなくなった。

 

 地面に倒れこむ……前にアスフィがその体を支えた。

 

「あ、ありがとうございます、アスフィさん────」

 

 アスフィの顔を見てトキの表情が凍った。

 アスフィは笑顔を浮かべていた。これまでの6年間、見たこともないほどの笑顔だった。しかし……その目はまったくと言っていいほど笑っていなかった。

 

「あ、あの、アスフィさん?」

「……後で話があります」

 

 どこからが主神の笑い声が聞こえるような気がする。しかし、そんな事はどうでもよかった。

 

 トキは先程のゴライアスよりも今のアスフィの方が怖かった。




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