冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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『豊穣の女主人』

 太陽が今まさに西の空に沈もうという時間。俺はぽつんと、1人ある店の前で立っていた。『豊穣の女主人』。ドワーフの女性が店主をやっている冒険者の間では人気の酒場だ。人気の理由はいくつかあるがまあ、それは今のところ置いておこう。

 

 なぜ、俺がここに立っているかというと……

 

「お、来た来た。おーい、ベルー!」

「あ、トキ!」

 

 と、まあベルを待っていただけだ。

 

「ごめん、待たせた?」

「いや、そんなに待ってない」

 

 一言二言話しながら店に入る。すると……

 

「あ、ベルさん!」

 

 ヒューマンのウエイトレスが近づいてきた。

 

「…………やってきました」

「いらっしゃいませ! ……あれ、トキさん?」

「こんばんは、シルさん」

「あれ? 二人は知り合いなの?」

「まあ、何回か来たことはあるな」

 

 するとシルさんは澄んだ声を張り上げた。

 

「お客様2名はいりまーす!」

 

 シルさんの後に体を縮こませたベルが続き、その後ろを俺が続く。と、いうかベル、目立ちたくないんだろうけどそんな態勢だと逆に目立つぞ?

 

「では、こちらにどうぞ」

「は、はい……」

 

 案内されたのは店の隅のカウンター席だった。角の席にベルが座り、そのすぐ近くの席に俺が座る。

 

「アンタがシルのお客さんかい? ははっ、冒険者のくせに可愛い顔してるねぇ!」

 

 席についたところで店主のミアさんに声をかけられた。

 

「何でもアタシ達に悲鳴を上げさせるほど大食漢なんだそうじゃないか! じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を使ってってくれよぉ!」

「ぶっ!」

 

 おもいっきり吹いた。ベルを見る。びっくりした顔をして、ばっと背後にいるシルさんを見る。あ、シルさんが目を逸らした。

 

「ちょっと、僕いつから大食漢になったんですか!?僕自身初耳ですよ!?」

「……えへへ」

「えへへ、じゃねー!?」

 

 い、いかん、ここでベルを笑ったら可愛そうだ。肩を揺らし、必死に笑いを押し殺す。

 

「その、ミアお母さんに知り合った方をお呼びしたいから、たっくさん振る舞ってあげて、と伝えたら……尾ひれがついてあんな話になってしまって」

 

「絶対に故意じゃないですか!?」

「私、応援してますからっ」

「まずは誤解をといてよ!?」

「や、やっぱむり。あははははは!!」

「僕絶対大食いなんてしませんよ!? ただでさえうちの【ファミリア】は貧乏なんですから!」

 

「……お腹が空いて力がでないー……朝ごはんを、食べられなかったせいだー」

「止めてくださいよ棒読み!? ていうか、汚いですよ!?」

「あははははは、ははははは!!」

「ていうか、トキは笑いすぎ!」

 

 いやー、お腹痛い。こんなに笑ったのは久しぶりかもしれない。

 

「あーおかしかった。まあ、ベル。いざとなったら俺のへそくり使うから好きなだけ食べていいぞ」

「……まあ、頑張ってみるけどさ」

 

 本当に女性に弱いなお前。

 

 それから俺達は次々出てくる料理を楽しんだ。ベルはシルさんとおしゃべりしていたが、まあ邪魔するのも野暮だからミアさんに近況の報告などをした。

 

 すると……

 

『……おい』

『おお、えれえ上玉ッ』

『馬鹿、ちげえよ。エンブレムを見ろ』

『……げっ』

 

 突然店がざわつき出した。何事かと思って振り返ってみる。そこにはあの【ロキ・ファミリア】の一同がいた。

 

 ベルはしばらく【ロキ・ファミリア】……というかヴァレンシュタインさんを見ていたが真っ赤になってカウンターに伏せた。

 

「……ベルさーん?」

 

 シルさんが声をかけているが、構っている余裕はなさそうだ。

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん! 今日は宴や! 飲めぇ!!」

 

 主神であるロキ様のもと、【ロキ・ファミリア】の宴が始まった。

 

「【ロキ・ファミリア】さんはうちのお得意様なんです。彼等の主神であるロキ様に、私達のお店がいたく気に入られてしまって」

 

 まあ、俺もこのお店を知ったのは【ロキ・ファミリア】の友人からだけど。

 

 それからベルは目を皿のようにしてヴァレンシュタインさんを見つめていた。まるで夢心地のような表情に先程とは違う意味で笑みがこぼれる。

 

 宴が半ばに差し掛かったころ、ヴァレンシュタインさんのはす向かいの狼人(ウェアウルフ)が声を張り上げた。

 

「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

「あの話……?」

 

 ヴァレンシュタインさんは心あたりがないのか首を傾げる。

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス! 最後の1匹、お前が5階層で始末しただろ!? そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎どもの!」

 

 突然、頭に冷水をかけられた錯覚に襲われた。

 

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐに集団で逃げ出していった?」

「それそれ! 奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよっ、俺達が泡食って追いかけていったやつ!こっちは帰りの途中で疲れていたのによ~」

 

 耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。しかし、なぜか腕は動かない。

 

「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせぇ冒険者(ガキ)どもが! 抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ! 1人は立ち向かおうとしてたんだが、もう1人は可哀想なくらい震え上がっちまって、顔をひきつらせてやんの!」

 

 身体中が火であぶられたように熱くなる。

 

「ふむぅ? それで、その冒険者どうしたん? 助かったん?」

「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」

「……」

 

 ヴァレンシュタインさんは……答えない。

 

「それでその震えてた方、あのくっせー牛の血を全身に浴びて……真っ赤なトマトみたいになっちまったんだよ!」

「うわぁ……」

「アイズ、あれ狙ったんだよな? そうだよな? 頼むからそうと言ってくれ……!」

「……そんなこと、ないです」

「それにだぜ? そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまってっ……もう1人にも逃げるように走り去られて……ぶくくっ! うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのおっ!」

 

 どっと笑いに包まれる店内。その反対側にいる自分たちは大きな壁に隔たれているような気がして。

 

「しかしまぁ久々にあんな情けねぇヤツラを目にしちまって、胸糞悪くなったな。1人は泣くし、もう1人は実力も考えないで立ち向かおうとするし」

「……あらぁ~」

「ほんとざまぁねぇよな。ったく、実力がわからないくせに立ち向かおうとするわ、あげくのはてに泣きわめくわ。そんなことするんじゃ最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての。ドン引きだぜ、なぁアイズ?」

 

  今すぐあの口を塞ぎたい。けどなぜかそれができない。

 

「ああいうヤツラがいるから俺達の品位が下がるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ」

 

 だんだんと周囲の、音が消えていく中、あの狼人(ウェアウルフ)の声だけが不思議と耳の中に入ってくる。

 

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねぇヤツラを擁護して何になるってんだ?」

「それはてめえの失敗をてめえで誤魔化すための、ただの自己満足だろ? ゴミをゴミって言って何が悪い」

「アイズはどう思うよ? 自分の目の前で震え上がるだけの情けねぇ野郎どもを。あれが俺達と同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。……じゃあ、質問を変えるぜ? あのガキどもと俺、ツガイにするなら誰がいい?」

「ほら、アイズ、選べよ。雌のお前はどのの雄に尻尾振って、どの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」

「……じゃあ何か、お前はあのガキどもに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」

「はっ、そんな筈ねえよなぁ。自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしてる雑魚野郎に、第一級冒険者(お前)の隣に立つ資格なんてありはしねぇ」

 

 

「雑魚じゃあ、第一級冒険者(アイズ・ヴァレンシュタイン)には釣り合わねえ」

 

 

 

 ガタンッと、椅子が倒れる音がした。視界の隅でベル(白い何か)が横切っていく。

 

「ベルさん!?」

 

 追いかけていくシルさんを端にとらえつつ、影からお金を出す。

 

「ミアさん、これお勘定。あいつの分も」

「いいよ、あんたの分だけで」

「いや、もともと俺が払うことになっていたからさ」

 

 渋々ミアさんは()()()()()()()()を受け取ってくれた。立ち上がって踵を返し、走り出したい気持ちを抑え、早歩きで店を横切る。と……

 

「待って!!」

 

  服の袖を捕まれた。振り返って見ると……

 

「……レフィーヤ」

 

  俺の友人、レフィーヤ・ウィリディスがいた。




ぐっ、ギリギリで登場させられた……。というかこれでもいつもより3倍くらい長い。というか話が全然進まない。もう少し全体的に長くしてもいいのかな?

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