冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
天井にある水晶の光が、木の葉に遮られながら僅かに顔にあたる。太陽のような暖かさはないが穏やかな光は、それだけで自然と心が安らぐ。近くには川があるのか、水が流れる音が耳を通り抜けていく。
──平和だ……。
13階層からこの18階層への強行軍、階層主、ゴライアスの撃破。それによって俺の体はボロボロだった。正直自分でもよく生きていたと思う。
リヴェリアさんやレフィーヤをはじめとする【ロキ・ファミリア】の人達のお陰で骨折や打撲はなんとか完治した。しかし
そんな訳でヘルメス様やアスフィさんがリヴィラの街に行っているにも関わらず、俺は【ロキ・ファミリア】の野営地で留守番することになった。
だがテントの中で寝たきりというのも退屈だ。そこでレフィーヤを誘って近くの森でのんびりすることにした。
この18階層はダンジョンの中であるにも関わらず、草原や森林などの大自然がある豊かな階層だ。時々モンスターが来るのを除けば。
そんなこの階層に付けられた通称が『
そして俺は今、そんな自然の中でレフィーヤに膝枕をしてもらっている。もう一度言おう。レフィーヤに 膝 枕 を し て も ら っ て い る!
妖精と言われるエルフの美少女の膝枕である。……もう死んでもいいかもしれない。
更に時折髪を撫でるレフィーヤの指がこう……なんとも言えない心地よさがあるのだ。まさに夢心地である。
街に行くベルが申し訳なさそうな顔をしていたが……うん、やっぱり留守番で正解だった。
「ねぇ、トキ?」
あまりの心地よさに眠気を感じていると、レフィーヤに声をかけられた。
「何だ?」
「トキはゴライアスを倒したんだよね?」
「まあな」
と言ってもスキルがなければ動くことすら出来なかっただろうし、レフィーヤの魔法を記憶してなかったらあの巨大ハルペーを作るだけの時間も作れなかった。もっと言えば【ケリュケイオン】が発現していなければ倒せていなかった。
全ては幸運。あらゆる経験を凌駕すると言われる幸運に俺は助けられたと言っても過言ではない。戦いにおいて運を味方につけられる人間は強い。そういう意味ではベルの運のつきようは天に愛されていると言っても過言ではないだろう。
「じゃあ、さ。トキは今レベルいくつなの?」
その言葉に少し黙ってしまう。レベルだけならばギルドに【ランクアップ】を申告すれば多くの人に知られる。しかし【ヘルメス・ファミリア】の多くはレベルを偽っている。ヘルメス様の
そう言われれば、今の俺の状況は【ファミリア】の方針とはあっていないと思う。レフィーヤという恋人によって【ロキ・ファミリア】という大きな派閥と強い繋がりができた。もし敵対している【フレイヤ・ファミリア】に目をつけられたら、【ヘルメス・ファミリア】は間違いなく潰れる。
そのことをヘルメス様に言ったら、
「大丈夫、フレイヤ様にはオレがご機嫌はとっておくし、いざとなったらロキに泣きつくからっ!」
とウインクされた。……なんか本当に申し訳ないです。
そんな訳で【
「今朝更新してLv.3になった」
俺はまたランクアップした。冒険者になってちょうど2ヶ月。異例のスピードである。いくら経験が豊富といっても普通では絶対に無理だ。
冒険者になってからの事を思い浮かべてみると……うん、10回以上は死にかけてるな。主にベートさんのせいで。
そう思うと俺は本当に恵まれていると実感した。死にかけていた所をヘルメス様に拾われ、様々なことを経験させてもらい、オラリオでレフィーヤに出会い、冒険者になってからベルに出会った。
もし1つでもかけていたら俺はとっくに死んでいた。そのことだけは感謝している。
「そっか」
俺の発言にレフィーヤは驚きもせず、ただ目を細めるだけだった。
「何も言わないのか?」
「トキだもん。何があっても不思議じゃないよ」
「それは褒めてるのか?」
「褒めてるよ」
ちなみに発展アビリティは『精癒』をとった。ふと気になったからレフィーヤにこのアビリティの事を聞いたら発現条件は長年の魔法の連続行使らしい。まあ短い生涯でずっと魔力を使い続けてきたから納得がいった。
レフィーヤに【ステイタス】のことは話しちゃ駄目だよ? と言われたのでお前だから話したんだ、と答えておいた。恋人として、なによりレフィーヤの人柄を信頼しての言葉だった。
そのことに照れたレフィーヤの顔はとても可愛かった。
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しばらく穏やかな時間を過ごしていると複数の声が聞こえてきた。声は皆、女性の声だった。
「あれ? レフィーヤ?」
「こんなところで何してるの?」
「あ、ティオナさん、ティオネさん」
木々の向こうからティオナさんとティオネさんがやってきた。さらにその後ろからヘスティア様やリリ、命さんと千草さん、アスフィさんもいる。他にも【ロキ・ファミリア】の女性団員が何名かいた。
「おや、トキ。キャンプにいないと思っていたらここにいたのですか」
アスフィさんが声をかけてきたので起き上がる。
「こんにちはアスフィさん。皆さんお揃いでどうしたのですか?」
「これから近くに水浴びに行くんだよ」
「よかったらレフィーヤも一緒に行かない?」
やはりこの近くには川なり湖なりの水源があったのか。
「えっと、私は……」
ちらりとこちらを向くレフィーヤに頷く。
「行ってきなよ。俺にばかり付き合わせたら悪いし」
「じゃあお言葉に甘えて……」
「なんなら彼氏君も一緒にくればいいんだよ!」
「やめてください。殺されます」
アスフィさんとかレフィーヤに。
これ以上の追撃を避けるため、俺は足早に野営地の方へ向かった。
野営地に着くとちょうどヘルメス様とベルが一緒にいた。
「やあトキ。どこに行ってたんだい?」
「ちょっと森で森林浴を」
「そうか。オレ達はこの後用事があるんだが、よかったら一緒に行かないかい?」
その顔を見て察する。覗きだな、と。
昔、ヘルメス様に教わったことがある。覗きとは男のロマン。麗しい女性達の開放的な姿を目に収めようとするのは男として当然である、と。
確かにその通りだろう。←洗脳済みby作者
俺も覗きたい。むしろ覗かないのは逆に女性に失礼ではないか、と幼い日の俺はヘルメス様と語った。
しかし。しかしだ。今の俺には恋人がいる。覗きをするというのは彼女に対する裏切りだ。浮気といっても過言ではないだろう。故に俺は行かない。
しかし。ここでヘルメス様を止めるのは男として、そして子として間違っている。故に。
「いえ、今日は調子が悪いのでテントで休んでます」
見逃すことにした。ヘルメス様は察してくれたのか、ベルを連れて森に向かった。すれ違い様にベルの肩をポンと叩く。ベルはキョトンとした顔をしていた。
キャンプに戻った俺はテントに戻ろうとした。そこに……あの人がやってきた。正確には走ってきた。
溜め息をつきながら影を操作。『精癒』のお陰である程度は回復した
体を捻りその攻撃をかわす。
「さっきからどうも臭せえと思ったらなんでテメエがここにいる、蛇野郎」
「いろいろあったんですよ、ベートさん」
分身が消え、一人に戻った
それに対し、俺の表情は晴れない。今この状態でベートさんを相手にするのは無理だ。
そのことをベートさんも見抜いているだろう。そしてこの好機を逃さないつもりだ。
俺が生き残る方法はただ1つ。殺される前にフィンさんに泣きつく!
「行くぞ、オラァ!」
「ごめんこうむります!」
その後、俺達は二人仲良くフィンさんやガレスさんに説教された。解せぬ。
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