冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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さあ、ゴライアス戦やっていきますよ!


冒険

 巨人の拳がモンスターの群れを吹き飛ばす。推定Lv.4の階層主の拳に宙を舞うモンスター達。

 

 そんな中をトキが這うように移動していた。

 いくらスキルの効果で体力が回復し、【ステイタス】が強化されたと言ってもゴライアスとモンスターの群れ、両方を同時に相手取るのはさすがに無理だ。

 そこでわざとモンスターの群れに突っ込み、それを追うゴライアスによってモンスターの群れを倒してもらおうという考えである。

 またこれだけ密集していればモンスターの攻撃が他のモンスターに当たり、そのまま乱戦になると考えた上での行動だった。

 

「【さあ、舞台の幕を上げよう】!」

 

 ヘルハウンドの火炎放射をミノタウロスを盾にし防ぐ。虎型モンスター『ライガーファング』の爪を誘導し、後ろに迫っていたライガーファングと同士討ちさせる。

 

「【この手に杖を。ありとあらゆる奇跡を産み出す魔法の杖を】」

 

 息つく暇もない状況の中、トキは新たな魔法を行使していた。使いどころが難しく、戦闘には不向きな魔法。それでもこの状況ではこれが最善だと考えてその歌を紡ぐ。

 

「【ああ我が神よ。もし叶うならば】」

 

 ゴライアスの拳をかわす。それだけで20近くのモンスターが吹き飛ばされた。一撃でも食らえばたちまち戦闘不能になるだろう。それでもトキは挑戦をやめない。

 

「【かの日見た光景を。この身に余る栄光を】」

 

 トキの手には1本の杖が握られていた。白く透き通っていて、その先端には1枚の羽がつけられていた。【果て無き深淵(インフィニット・アビス)】がトキの魂の漆黒の部分を司る魔法ならば、この魔法はトキの魂の透明な部分を司る魔法だ。

 

「【一度の奇跡を起こしたまえ】!」

 

 詠唱が完成する。

 

「【ケリュケイオン】!」

 

  歌の一番が終わった。

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏の前に(うず)を巻け】」

 

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 模倣魔法、ケリュケイオン。記憶にある魔法を真似るトキのレアマジック。

 見たことがある、詠唱を覚えている、という比較的低い難易度で複数の魔法を放つことができる魔法。

 そしてトキが歌う歌は、最愛の女性が彼に歌ったラブソング。怪物祭(モンスターフィリア)の時、食人花の攻撃を捌いている際に聴こえてきた歌。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地】」

 

 トキはモンスターの群れを抜け、ゴライアスの足元をくぐる。咄嗟のことにゴライアスは反応仕切れず、モンスター達はパニック状態で、トキを追う個体は一体もいなかった。

 

「【吹雪け、三度の厳冬──我が名はアールヴ】!」

 

 杖の羽が散る。そして、トキの想像(魔法)が放たれた。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 三条の吹雪がゴライアスとモンスターを襲う。大気を凍てつかせると言われる吹雪はあっという間にモンスター達の命を奪い、氷像へ変えた。さらに凍りついた大気がそれ以上の侵入者を許さないと言わんばかりにルームの入り口を塞いでいる。

 

 その氷の壁の内側にはこちらに振り返り、トキを襲おうとしたゴライアスの氷像が立っていた。

 

 それを見たトキは……精神疲弊(マインドダウン)で飛びそうな意識を根性で起こし、高等精神力回復薬(ハイ・マジック・ポーション)を3本一気に飲み干す。

 

 そして、

 

「【この身は深淵に満ちている】」

 

 再び詠唱開始。

 

「【触れるものは漆黒に染まり、写るものは宵闇に堕ちる】」

 

 ゴライアスはまだ生きていた。

 トキの魔法はあくまで模倣魔法。どんなに上手くできても本物ではない。最強の魔導師(リヴェリア・リヨス・アールヴ)の魔法でも、本物ではないそれではゴライアスは倒せなかった。

 

「【常夜の都、新月の月。我はさ迷う殺戮者】」

 

 それはトキも承知の上だった。元よりダメでもともと。本命は長年の相棒。全精神力(マインド)を注ぎ込んだチャージ攻撃。吹雪はその時間を稼ぐためと他のモンスターの足止め。いかに模倣と言っても能力ブーストされたトキが放った吹雪で作られた氷壁はLv.2のモンスターでは突破できない。

 

「【顕現せよ、断罪の力】」

 

 静かに魔法を紡ぐ。

 

「【インフィニット・アビス】」

 

 しかし何も起こらなかった。いや、表面上は変化がなかった。

 

 トキは静かに手を開く。そこに黒い影が集まり始めた。影は1つの形、巨大なハルペーの形を作っていく。

 

 以前巨大花を相手にした時の巨蛇ではゴライアスは倒しきれない。正確には倒しきる前にトキの体力が尽きる。

 そこでトキは巨大なハルペーの形に影を集め、それをチャージ。膨大な魔力で首を刈る作戦だ。

 

 洞窟状のダンジョンを静寂が支配する。まるで時が止まったかのような空気が18階層手前のルームに漂う。

 

 1分、2分、3分と過ぎ、やがて。

 

 ピキッ、と氷像に罅が入った。まるでモンスターが産まれる時のようにピキッ、ピキッと音は次第に大きくなる。

 

 そして、氷像が砕ける。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

 ゴライアスが吼えた。身動きを封じられたことに怒りを覚えたのかトキに向けて鉄槌を振りかぶる。

 一方、トキは音もなく疾走。ゴライアスに向かって駆ける。

 

 ゴライアスの視界に赤い影が跳ぶのが見えた。それに向かって拳を突き出す。拳は容易く影を吹き飛ばし……ゴライアスはそれに目を見張った。

 

 今、ゴライアスが吹き飛ばしたのは『サラマンダー・ウール』。しかし着ていた本人がいなかった。

 この時、ゴライアスは完全にトキを見失っていた。

 

 その背後。トキは氷壁を用いた三角跳びでゴライアスの顔の位置まで跳んでいた。『サラマンダー・ウール』を囮にし、ゴライアスの意識を完全に外したトキは静かに巨大ハルペーを振るう。

 

 能力ブースト、さらに発展アビリティ『暗殺』の能力補正。それにより巨大ハルペーはするりとゴライアスの首を刈った。

 

 ゴライアスが()(じろ)ぎする。その頭がズルリとスライドしていく。それと同時に体が崩れていき、瞬間、灰となった。

 

 膨大な量の灰が降り積もる中、トキは地面にバタリと落下した。

 

 スキルの効果がなくなり限界以上にまで酷使された体は既に言うことを聞かなかった。さらに全精神力(マインド)を注いだことにより意識が遠退く。

 

 それでもトキは必死に体を引きずる。腕だけで前に進む。

 

 (帰、るんだ……!)

 

 薄れ行く意識の中、もがく様に18階層に続く穴を目指す。

 

 (生きて、帰るんだ……!)

 

 必死に手を前に伸ばし…………パタリと地面に落ちた。




いかがだったでしょうか? 作詞的には満足です。

最後のゴライアスに止めを刺すシーンはヘルメスのアルゴス殺しを元にしました。
一応アニメしか見ていない人のために補足。通常のゴライアスに再生能力はありません。なので首を飛ばしただけで倒せます。

たくさんのリクエスト、ありがとうこざいました。一気には無理ですが徐々に応えていきたいと思います。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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