冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
コツコツと足音が洞窟のような構造をしたダンジョンに響く。
俺はベルに肩を貸してもらいながら周囲の警戒をしていた。この中でもっとも体に負担が少ないのはこの階層に来たことのある俺だ。そのため、
18階層を目指すと言って結構時間が経っているが、見たところまだ深刻な疲労の症状を見せるメンバーはいなかった。
「っ……リリスケ、この臭いはどうにかならないのかっ」
ふとヴェルフが背後にいるリリに半目で訴える。
「我慢してください……トキ様が持たなければリリ達の誰かが持たなければならなかったのですから」
ヴェルフの言い分にリリも半目で言い返す。
俺が持っている-正確には触手に引っ掛けている-ヴェルフが言うところの『臭い』の元、『
このアイテムはリリやベルが懇意にしている【ミアハ・ファミリア】という派閥に作ってもらったらしい。
「ああ、あの二大たら
「……何、二大たら神って?」
「オラリオを代表する女性をたらし込める2柱の神様のことさ。なんでも貧乏のくせにイケメンとか言われている」
「……へー」
「俺としてはイケメンだから貧乏なんだと思う。イケメン過ぎてなんでも善意でやるから見返りを求めない。だから支出ばかり増えて収入が少ないんだと思う」
「……うん、だいたい合ってる」
……ちなみにこのアイテム、最初にリリが取り出した時すごく欲しくなった。主にムカつく狼用に。
うん、こんな小話もパーティの雰囲気を和らげる緩衝材になるな。それならいろいろストックがあるから少しずつ話していこう。
「……!」
その時前方に気配。数は3。大きさは……おそらく子牛程度。
「ベル、前方からモンスター。数は3。おそらくヘルハウンドだ」
「っ!?」
全員が息を飲んだ。そして言った通りヘルハウンドが3体、前方の通路から現れた。
今いる通路は1本道で脇道はない。『サラマンダー・ウール』がまだ無事だとは言え、下手をすれば全滅だ。
ヘルハウンドは臭いが届かない約30
「俺が影で攻撃する。ベル、その間に距離を詰めて──」
「いや、ここは俺に任せてくれ」
俺の指示にヴェルフが声を重ねてきた。何をするつもりだと、視線を移す。
ヴェルフは片腕をヘルハウンドに突きだし、詠唱した。
「【燃えつきろ、外法の業──ウィル・オ・ウィスプ】」
瞬間、ヘルハウンド達が内部から爆破された。
「
リリが驚愕の声を上げる。
「成功したか……」
「ヴェ、ヴェルフ、今のはっ?」
「俺の魔法は特殊らしくてな。一定の魔力反応を切っ掛けにして、爆発させるらしい。モンスターで試したことは今までなかったんだが……」
……今不吉な言葉が聞こえた。
「モンスターでってことは、人で試した……実験したことはあるのか?」
「……スミスのやつに頼んだ。1週間くらい口を利いてくれなかったが、飯奢ったら許してくれたぜ」
ベルと顔を見合わせる。……俺達に同じ事ができるだろうか? ……できそうだな。
アイコンタクトで会話し、なんとなく理解する。それでもこういう親友の話というのは聞いていると羨ましくなるものだ。
「取り合えずヴェルフ、
「トキ様はあそこの【ファミリア】の商品を使っているのですか?」
「そこの主神がお得意様なんだ。新商品の試作品とか【ファミリア】の勧誘とかで月に1回は顔を合わせてる」
「お前本当、顔広いな」
「ヘルメス様の教えは伊達じゃないのさ」
どんな相手にも上手く立ち回り、決して敵を作らない。気まぐれな風のような振る舞いは俺の憧れだ。
「そう言えばさ、トキの主神のヘルメス様ってどんな方なの?」
ふとベルがそんな質問を投げかけてくる。どうやらパーティの雰囲気を和らげる為のフリらしい。
「ああ、それはな──」
そこから俺は様々な事を話した。ヘルメス様のこと。旅の思い出。オラリオに来てからの出来事。思い出せば無数に話の種が出てくる。
孤立無援。アイテムも多いとは言えない。それでも諦めない。
「あった……」
索敵に意識を割いていた俺にベルの呟きが聞こえる。見ると曲がり角の先に縦穴があった。全員で覗き込むと下にはこの階層とは違う地面が確かに見えた。
「行くぞ」
頷き合い、縦穴に飛び込む。影をクッションのように展開し、落下の衝撃を和らげた。
辺りを見回せば、先程のとは違う岩盤の洞窟が広がっている。記憶を辿り、その特徴が16階層のものだと認識する。
「後、2階層だ。全員踏ん張れよ」
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16階層に降りてしばらくして、ふと先程まであった臭いが途切れた。
「臭い袋が、なくなりました……」
リリの消えそうな声が洞窟に響きわたるような錯覚に陥る。
……絶望はしていられない。臭い袋がなくなった今、これまで以上にペースを上げて縦穴を探さなければ。そう言おうとした時だった。
ドンッ、ドンッ、と通路の奥から何かが地面を踏みしめる音が聞こえた。
目を移すとそこにいたのは……2Mを超える大型モンスター、ミノタウロスだった。
『ヴォオオオオオオオオオオオオッッ!!』
ミノタウロスが
そんな中、俺は、折れた足の痛みを無視し、スタートを切った。
ほぼ同時に横から
一瞬のアイコンタクトの後、短刀を手に出現させ、ミノタウロスの両腕を斬り飛ばす。すかさずベルが魔石のある位置に《ヘスティア・ナイフ》を突き刺す。たったそれだけでミノタウロスは断末魔の悲鳴を上げ、消滅した。
一瞬の出来事にヴェルフ達のが呆然とするなか、俺達は未だ警戒を解いていなかった。通路のさらに先、吐き気を催すほどの数のミノタウロスがこちらに向かっていた。
その数、16。
「トキ、20秒お願い」
そんな中でも俺達は冷静だった。
「10秒で構わん。12体は俺が片付ける」
「わかった」
ゴン、と拳をぶつけ合う。
ベルとのコンビネーション。ベルのチャージ時間を俺が稼ぐというオーソドックスな作戦。
ベルの手にリン、リンと光の粒が踊る。それを目の端で見つつ、影を走らせた。
鋭く尖った触手は猛烈な速度でミノタウロスの胸に迫り、その分厚い胸筋を貫く。
断末魔の声を上げて倒れるミノタウロスを他所に後続4体がこちらに迫る。それを、ベルが迎撃した。
きっかり10秒。先程倒したミノタウロスの
そして……それを静かに振り下ろした。
目が眩むような光の奔流。その純白の光にミノタウロス達が飲み込まれ、消滅した。
ベルに駆け寄り、影から
このスキルが判明した次の日から俺達はこのスキルを研究した。
ベルのスキルは強力だ。しかしそれがノーリスクで撃てる訳がない。最大チャージ時間は3分。代償は体力と
もう一度あれに来られたら全滅だな。ベルに肩を貸し、立ち上がる。その肩を返された。見ると疲労しながらベルは不敵な笑みを浮かべていた。
生意気な奴め、と笑顔で返しながら通路を進んでいった。
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