冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

53 / 98
今回も短いです。


捜索隊

【ヘルメス・ファミリア】ホームにて【ファミリア】の主神であるヘルメスは自らの子、トキが製作したベル・クラネルに関する資料を読んでいた。

 先程彼は『豊穣の女主人』に行き、シルにベル・クラネルについて聞きに行ったものの見事に追い返されてしまった。アスフィから聞いた冒険者達の間で話されている噂も信憑性に欠けていた。

 

(ま、あんまり期待はしてなかったけど)

 

 だが自分の眷族であるトキは主神であるヘスティアを除けばベル・クラネルに一番近い存在だ。今は姿が見えないがきっとベル・クラネルと一緒にダンジョンに潜っているのだろう。アスフィの情報の中に『サラマンダー・ウール』を購入したとあったし、中層に行っているのだろう。

 

 ベル・クラネルの育て親である大老(ゼウス)は彼は英雄の器ではないと言っていた。だがヘルメスは信じていなかった。あの大老(ゼウス)の【ファミリア】から生まれた子、さらに自分の眷族と共にいる子だ。器でなくとも見所はあると思っている。

 

「それにしても、やっぱりトキの資料は見やすいなー。お、これがアスフィが言ってたやつか。スキルだったのか……。うん、やっぱりおもしろい」

「ヘルメス様!!」

 

 その時、部屋の扉が勢いよく開かれアスフィが入ってきた。彼女は珍しく急いでいたのか息が乱れていた。

 

「ど、どうした、アスフィ?」

「これを!!」

 

 そう言ってアスフィが1枚の羊皮紙を見せる。それはギルドが発注した冒険者依頼(クエスト)の依頼書だった。

 

「これがどうした……っ!?」

 

 その内容を読みヘルメスは息を飲む。その内容は、ベル・クラネルのパーティの捜索。

 そこから導き出されるのは……トキも一緒にいるという可能性。

 

「アスフィ、トキは!?」

 

 珍しく声を荒らす主神にアスフィは冷静になろうと深呼吸する。

 

「昨日はホームに帰ってきていないそうです」

 

 ヘルメスは咄嗟に自分が与えた恩恵の数を確認する。数は……減っていない。つまりトキはまだ生きている。

 

「今動ける子は何人いるっ?」

「……ほとんどの団員が出払っており、とてもではないですが私達だけでは救助隊を組織できません」

「くそっ」

 

 アスフィの報告にヘルメスは悪態をつく。

 しばらく考えた後、勢いよく立ち上がった。

 

「ヘスティアと合流する。ついてこい」

「はい」

 

 ヘルメスもアスフィも努めて冷静であろうとする。しかしその顔には焦りの表情が見え隠れしていた。

 

  ------------------

 

 冒険者依頼(クエスト)に書かれている招集場所は【ミアハ・ファミリア】のホームである『青の薬舗』であった。既に日は傾いており、夕闇が東の空から迫っていた。

 

 ヘルメスはここに来るまでにだいぶ頭が冷えていた。だがそれでも胸の奥にある焦燥は消えない。

 大きく深呼吸した後、中の様子を聞くために聞き耳を立てる。

 

 ……どうやらタケミカヅチのところの子が発端のようだ。まあそんな事はどうでもいい。取り敢えずヘスティア達は捜索隊を組織できたが、まだ人数が足りないようだ。

 

 タイミングを見計らい、勢いよく扉を開ける。

 

「オレも協力するよ、ヘスティア!」

 

 ヘルメスの登場に中にいる全員が目を見張った。

 

「ヘルメス!? 何しに来た!」

 

 突如現れたヘルメスにタケミカヅチが声を張り上げる。

 

「ご挨拶だなぁ、タケミカヅチ。神友のピンチに駆けつけたに決まってるじゃないか」

 

 極めていつも通りに振る舞う。いつもの足取りでヘスティアに近づき、アスフィもそれに続く。

 

「やぁ、ヘスティア。久しぶり」

「ヘルメス……どうしてここに?」

 

 ヘルメスはアスフィからもらった冒険者依頼(クエスト)の依頼書を懐から取り出す。ひらひらと揺らし、ヘスティアに見せつけた。

 

「困っているんだろう?」

 

 だがそんなヘルメスの様子がおかしいことをタケミカヅチは見逃さなかった。

 

「……ヘルメス、お前何でそんなに焦っている」

 

 図星を突かれたヘルメスは一瞬、ピクリと反応する。タケミカヅチに向き直る。

 

「ははは、おかしな事を聞くな、タケミカヅチ。ベル君がダンジョンに行ったのは昨日なんだろ? なるべく急いだほうがいいに決まっているじゃないか」

「それにしたって焦りすぎだ。お前、何が目的だ」

 

『青の薬舗』にいる全員の視線がヘルメスに注がれる。

 ヘルメスは1度息を吐くとその表情を引き締めた。

 

「まあ、ベル君を助けたい、っていうのはおまけみたいなものさ」

「何だと?」

「オレの目的は、トキの捜索だ」

「……そうか、トキ君は君のところの子だったね」

 

 突如雰囲気が変わったヘルメスに驚きながらもヘスティアは彼の言葉に納得した。

 

「あの子はオレのお気に入り、オレが育て上げた子だ。絶対に助けたい」

 

 再び、ヘルメスはヘスティアに向き直った。

 

「だからヘスティア、協力させてくれ」

「……わかった、お願いするよ、ヘルメス」

 

 そう言われたヘルメスは顔に再び笑みを張り付ける。

 

「ああ、任されたよ!」

 

 誰も文句は言わなかった。それほどまでにヘルメスの神意は本物だった。

 

「けどヘルメス、あんたの派閥って、確かLv.2の構成員がほとんどじゃなかったかしら?」

「ああ、ヘファイストスの言うとおりだ。生憎他の団員は出払っているけど、今回はアスフィを連れていく! うちのエースだ、安心してくれ!」

 

 主神の勝手な言い種だが、アスフィは今回だけはため息をつかなかった。

 

 それからヘスティア達が方針を決めていく中、アスフィはふと先程のヘルメスの言葉に疑問を抱いた。

 

「ヘルメス様……先程、私を『連れていく』とおっしゃっていましたが、まさか……」

「ああ、オレも同行する」

「なっ!? 神がダンジョンにもぐるのは禁止事項ではないのですかっ」

「迂闊な真似をするのが不味い、っていうだけさ。何、ギルドに気づかれない内に行ってさっさと帰ってくればいい。言っただろう? オレはトキを助けたい、って」

「ぐっ、それは、そうですが……」

 

 同じ思いであるアスフィは主神の言い分に言い返せなかった。

 

「オレのお守りを頼んだぞ、アスフィ?」

 

 その後、なんだかんだでヘスティアも同行することになり、ヘルメスはある人物に助っ人を頼むため、『青の薬舗』を後にした。

 

 




リューさんの件はカットします。原作通りになるので。

……最近、スランプなのか全然書けません。申し訳ありません。できるだけ早く立ち直りたいと思います。

ご意見、ご感想お待ちしております。また、アンケートの方もよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。