冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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今回は少し短いです。


生き残るために

 縦穴から落ちてから数分が経っていた。ベルに肩を支えてもらい、光源が乏しいダンジョンを進む。

 幸いなことにモンスターの気配はない。だが先程の撤退で全員がかなり疲労しており、今モンスターに襲われたら全滅の可能性は高い。

 

 そんな中俺は影から紙と魔法具(マジックアイテム)であるペンを取り出し、触手を操り地図作成(マッピング)していた。

 

「ほんと、トキってなんでもできるね……」

「……ヘルメス様が旅好きだからな。よく怪しい遺跡とか連れてってもらったのさ」

 

 地図作成(マッピング)により少しでも効率的に上を目指そうとしていた。

 

 ……だが、地図作成(マッピング)をしている最中にあることが頭をよぎった。それを認めたくない思いで必死に地図作成(マッピング)した地図から遠征前に記憶した14階層のどの位置にいるか割り出そうとする。

 

 そしてまた行き止まりにたどり着いた。

 完全に迷っていた。ダンジョンにおいて一番避けなければならない事態である。

 皆の顔を見る。ここまで何度か行き止まりにあたったがその度に表情が曇っていく。

 

「1度、落ち着きましょう」

 

 するとリリが大きな深呼吸をし、提案した。その行為に倣い俺も深呼吸する。新鮮とは言えないが新しい空気を吸ったことにより幾分か気が紛れる。

 ダンジョンの行き止まりの一角で俺達は座り込み、円になる。ここからの進行は俺がやることになった。

 

「じゃあまずは治療用アイテムの確認だ。皆、どれくらい残っている?」

「リリは回復薬(ポーション)が4、解毒剤が2です」

「俺は何も残っちゃいない」

「僕はまだ、レッグホルスターに回復薬(ポーション)がいくつか。トキは?」

回復薬(ポーション)が4、解毒回復薬(ポーション)が3、後精神力回復薬(マジック・ポーション)が3、高等精神力回復薬(ハイ・マジック・ポーション)が3残ってる」

 

 俺の言葉に皆が絶句する。疑う目に対して実際に影から実物を取り出し、証明する。

 

「あれ、これは?」

 

 ベルが持ち上げたのは回復薬(ポーション)瓶に薄い色の液体が入ったものだった。

 

「ああ、それは俺が趣味で作った回復薬(ポーション)もどきだ。市販の回復薬(ポーション)の3割くらいしか効果がない」

 

 調薬Lv.1

 回復薬(ポーション)もどきが作れる。もどきなのであまり効果は高くない。

 

「んじゃ次に武器の確認だ。俺の武器は全部無事。投げナイフのストックは13本だな」

「リリのボウガンも無事です。矢はそこまで残っていませんが」

「俺も大刀は無事だ。ベルは……大剣とバックラーをなくしたか」

「う、うん」

 

 ……やはり袋小路であることからか、皆の表情が固い。それもそうだ。もし今モンスターが生まれたら逃げ場がない。

 とりあえず腰の短刀の鞘を添え木代わりに足を縛る。これで先程よりもましになるだろう。

 

「でも、ナイフはどっちも無事」

「『サラマンダー・ウール』も健在ですね」

「わかった。とりあえずリリ、そっちのバックパックから必要なものだけを出してこっちに入れてくれ」

 

 言いながら取り出したのはリリが背負うよりも二回りほど小さいバッグパック。俺がリリと出会うまで使っていたものだ。

 

 リリはバックパックを下ろし、アイテムを選別していく。

 

「リリは作業しながら聞いてくれ。とりあえずアイテムも武器もまだあるが戦闘する余裕はない。基本的には逃げる。これでいいな?」

 

 しっかりと3人とも頷いてくれた。そして、ずっと思っていたことを口にする。

 

「全員落ち着いて聞いてくれ。この階層、おそらく15階層だ」

 

 その言葉にベルとヴェルフが絶句する。リリはやはりといった表情だ。

 

「リリは気づいていたか」

「はい。縦穴から落ちた時間、階層の特徴、通路の幅や光源、迷宮の難解さから。トキ様は?」

「……1回、【ファミリア】の先輩達と一緒に来たことがある」

 

 混乱する頭の中、必死に記憶を辿り、その結論をついに認める。

 

「これから取れる選択は2つ。1つは上層への階段を探す。もう1つは……18階層に降りる」

 

 その提案にベルとヴェルフが再び絶句した。

 

「18階層はダンジョンに数層ある、モンスターが産まれない階層だ。そこなら一先ず安全は確保できる」

「ちょ、ちょっと待って。この階層からも生きて帰れるのかわからないのに、これ以上下の階層へ向かうなんて……」

「縦穴を利用する。中層に無数に存在する縦穴を利用すれば1つしかない上の階層への階段を見つけるより効率良く下に下れる」

「階層主は、どうする? 17階層だろう、例の化物(デカブツ)がいるのは」

「2週間前に【ロキ・ファミリア】が遠征に出発している。階層主であるゴライアスが出現するのは18階層へ続く連絡路の前だと【ファミリア】の先輩達から聞いたことがある。いつもゴライアスがいるときは倒すって【ロキ・ファミリア】の知り合いから聞いた」

 

 ひと呼吸つく。

 

「ゴライアスの産まれるインターバルは2週間前後。今ならギリギリで間に合う筈だ」

「正気か、お前……?」

 

 ヴェルフから呻くような疑問が投げかけられる。

 

「……と言っても俺はこんな足だからな。お前らの足手まといになる。だから最終決定はベル、お前に任せる」

 

  その言葉にベルは汗を一気に吹き出した。

 

「ま、待って、このパーティのリーダーはトキでしょ?」

「何言ってんだ、このパーティはベル、お前が中心になって集まったパーティだ」

「僕を、中心に?」

「リリはお前に救われなきゃここにはいなかった。ヴェルフはお前と契約したからここにいる。……俺は、お前と出会わなければここにはいなかった」

「ベル様、リリは全てベル様に委ねます」

「俺もだ。どっちをどうしようと、お前を恨みはしない」

 

 リリとヴェルフの言葉にさらに顔色を悪くするベル。ここからでもベルの心臓の音が聞こえてきそうだ。

 

「大丈夫だ」

 

 だからこそ、親友として声をかける。

 

「どんな道を進もうと俺が全力でカバーする。リリも、ヴェルフもだ」

 

 俺の言葉に二人が頷いた。

 それを見て、ベルの表情が引き締まり……唇がゆっくりと動いた。

 

「進もう」




次は神様side。果たしてヘルメス達がとのように動くのか。お楽しみに。

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