冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
やっぱり表現の問題なんでしょうか?
まあ、本編には全然関係ない話でした。m(。_。)m
右手に持った3本の投げナイフを右方向のアルミラージに投擲。力のアビリティにより勢いを増したナイフは3体のアルミラージの胸の中央、魔石がある位置に当たり、即座に灰にする。
「トキ様、左方向からアルミラージ2!」
「俺が処理するっ!」
さらに投げナイフを出現させ、投擲。さらに近くのアルミラージを左手に持った短刀で仕留める。
「息つく暇もない、ってな!」
「無駄口を叩かないでください! 一番大変なのは指示を出しながら戦っているトキ様なのですから!」
「本当、トキって同じヒューマンなのかときどき疑わしくなるよっ!」
軽口を叩きながら、しかし必死の形相でベルがアルミラージを戦闘不能にする。
俺達は想定された最悪の事態、モンスターに囲まれるという状況に陥った。不幸中の幸いか、囲んでいるモンスターはアルミラージのみ。だがしきりに増援が来ており俺も後衛から中衛に上がっている。
「ヴェルフ、伏せろ!」
言った瞬間に投げナイフを投擲する。
「うおっ!?」
伏せたヴェルフの上を投げナイフが通過し、彼に飛びかかろうとしていたアルミラージを灰に変える。
──今ので投げナイフのストックが半分を切った。
内心毒づきながらパーティの様子を見る。
リリは後衛であることもあり、まだ体力のほうは問題ない。ベルは一番動いているが、Lv.2になったお陰か少し怪しい程度だ。
問題はヴェルフだ。汗を滴し、肩で息をしている。ヴェルフの【ステイタス】は敏捷を除きアルミラージと同等かそれ以上だ。
だがアルミラージはその連携の上手さによりLv.2にカテゴライズされている。その連携を受け続けているのだ。彼が一番体力の消耗が激しい。
一か八かスキルで一掃しよう、そう思った時だった。
視界の隅を見たことのある集団が通り過ぎた。東洋の服をモチーフとした
──そんな事を考えている場合じゃないっ。
今の行動の意味に俺は遅まきながら気がついた。
「-!? いけません、押し付けられました!」
「え……?」
「リリ達は囮にされました! すぐにモンスターがやって来ます!」
彼らの行動の意味を同じく理解していたリリが警告の声を上げる。
次の瞬間、通路から交戦している数を上回るモンスター達が押し寄せてきた。最悪なことにアルミラージだけでなくヘルハウンドも複数体確認できる。
他のパーティを犠牲にするという行為ではあるが、自分達が生き残るために度々行われる。むしろこういった作戦を使用しないと中層からは生き残れない。
それを実行した【タケミカヅチ・ファミリア】のリーダーに感心する。
──ま、そんな場合じゃないけどな。
押し付けられたことにより、パーティがより一層混乱する。
「落ち着けっ!」
これを切り抜けられず何がヘルメス様の眷族か!
皆を一喝し、パニックになるのを防ぐ。
「撤退するぞ! リリ、ルートを指示しろ! ベルは先行して退路を作れ!
「「「了解!」」」
リリが通路を指示し、ベルが前衛に上がりモンスターの群れに穴を開ける。
なんとか通路に逃げ込んだがやはりリリが一番遅れ、今にも追い付かれそうになる。
ベルが後ろを気にしながら走る。
「ベル、前だけ向いてろ。後ろは俺に任せろ」
先の通路を頭に入れ、反転。後ろ向きに走りながら追ってくるモンスターの魔石をスキルで貫く。
「……ねぇ、トキって本当に人間?」
「そこまで疑うかよ……」
走りながらこちらに迫ってくるヘルハウンド4体をほふる。
とそこでドン、とヴェルフの背中にぶつかった。
「うおっ!?」
「わっ!?」
転んでしまい、体勢を崩す。起き上がりながらも後方から続けてくるモンスター達をほふりながら訊ねる。
「何があった!?」
「前からもモンスター!」
「くそっ」
立ち止まり、互いの背中を守るように四角形を作る。
「中層ってのは何でこう、モンスターが寄ってくるのが早いんだ。休む暇がないぞ」
「中層だから、でしょう」
「ちなみにこれより下はもっと多いし、もっと強いぞ」
「今それ関係ないよね?」
軽口を叩く俺だがあんまり余裕はない。知らぬ間に積もってきた精神的負荷に体力が削られていく。
「とりあえずさっきと一緒だ。ベルが先行して片方に突破口を開き、そこに全員で突っ込む」
「いいけど……ヴェルフやリリはどうするの?」
「襲ってくるやつは俺が影で叩き落とす。行くぞ!」
「「「了解!」」」
駆け出そうとした瞬間だった。その音に気づいてしまったのは。
ビキリとひび割れる音がした。慌てて周囲を確認するが壁にひびは入っていない。
しかしビキリ、ビキリと音は次第に大きく、そして増えていく。
いち早く気づいたのはベルだった。弾かれるように天井を向く。釣られて向いたその先におびただしい数の亀裂が入っていた。そしてそこから発生するであろう事態も想像がついてしまった。
「はし──」
その言葉を言い切る前にモンスターが生まれた。数えるのも憶測になるほどのバッドバットが天井を突き破り生まれてくる。
そして、それに伴い脆くなった天井が落ちてきた。
「ぐっ!」
一斉に走り出す仲間の頭上に苦し紛れに影を屋根のように展開する。だが、その重さに足が鈍る。
「くっそぉッ!」
なんとか崩落に巻き込まれないように走り、影に乗った岩を屋根を斜めにすることにより後方に落とす。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
崩落が終わったころ、膝に手をつき、少しでも呼吸を整えようとする。
後ろを振り向くと岩が積み重なり、通路を完全に防いでいた。
前方を見ると荒い息をしているが全員が無事だ。
そのことに安堵していると、さらにその奥からヘルハウンドが複数、姿を現した。
条件反射でナイフを投げる。疲れからか、手が震え目標の右を掠める。
その存在に気がついたのかベル達の表情が凍りつく。
その後ろからさらに投げナイフを投擲。今まさに火炎攻撃をしようとしていたヘルハウンドの目に刺さる。
「諦めるな!」
そこからは正直あまり覚えていない。疲労と混乱でまともでない頭で指示を出しながらなんとか撤退、だが迫りくるモンスターに対応していたら突然、地面の感覚がなくなった。
「あっ」
「トキッ!」
重力に従い落ちていく体、突然の事態に影で上に昇ろうという考えも浮かばなかった。そんな状態だったからしばらく落下した後、まともに受け身も取れなかった。
「がッ!?」
グキリっと足から嫌な音がした。痛みにうずくまるとその上から……ベルが落ちてきた。
「うわっ!」
慌ててそこから退く。ベルはなんとか着地を成功させた。
「トキっ、大丈夫!?」
「お、お前……」
恐らく心配して来てくれたんだろう。だが、それは悪手だ。
「この馬鹿! なんでお前まで落ちてきてるんだよ! 縦穴に落ちたら見捨てるのが普通だろうが!」
「ふざけないで! 仲間を見捨てるなんてできないよ!」
「この野郎っ!」
確かに嬉しい。しかし俺のせいでパーティをさらに危険な目に遭わせたことに怒りを感じた。咄嗟に殴りかかろうとし、足の痛みにうずくまる。
「トキ、その足……」
「うるせえ、いいからとっとと俺を置いて行けっ」
しかしベルは俺に近づき、その肩を持った。
「アホっ、何やってんだっ」
痛みで上手く声が出ない。だがそれでも馬鹿な真似をしようとするベルを罵らずにはいられない。
「……親友を助けられるなら、馬鹿でもアホでもかまわないよ」
さらに先程落ちてきた縦穴からリリとヴェルフが落ちてくる。
「いってー」
着地に失敗したのかヴェルフは尻餅をついていた。
「リリ、ヴェルフ、何で……」
「リリ達だけではあの場から生き残れませんでしたから追いかけてきました」
「ま、仲間を見捨てられなかったってのもあるがな」
疲労が顔に出ながらそれでも微笑む二人に涙が出てくる。
「……本当、お前ら馬鹿ばっかだな……」
顔を引き締める。ベルに肩を貸されながら歩き出す。
絶対に全員で生きて帰るんだっ。
今回の話は最後まで構成を悩みました。トキとパーティを分断しても良かったのですが、やっぱりこっちの方を先に考えていたのでこっちにしました。……批判多そうだな……。
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