冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
ヴェルフがパーティに加わって9日が過ぎた。冒険者2人、鍛冶師1人、サポーター1人の計4人パーティとなった俺達は着々と攻略を進めて行った。
そして--
「せっ!」
紫紺の斬撃が霧の奥から迫るインプを切り伏せる。
「霧、抜けます!」
パーティの最後方、リリの声に前方へ意識がいく。
今俺達がいるのは12階層から13階層に降りる階段があるルームだ。そう、俺達はこれから『中層』の攻略をしようとしている。
はぐれないようにパーティメンバーを意識しつつ、霧の中を進む。
そして視界が一気に開けた。
前方に見える壁には高さ3
戻ってきたぞ……! 今度は先輩達に頼らず、自分達の力で!
今いる位置から『中層』の入り口までにはモンスターが点々と存在している。視界が開けた分モンスターもこちらを視認できる。
だがモンスターがこちらに気づく前にベルが奇襲をかけた。
紅緋の斬撃がアルマジロ型のモンスター『ハード・アーマード』をほふる。さらにベルは止まることなくモンスター達を2本の短刀で始末し、道を作っていく。
「いい使いっぷり……だなっ!」
ヴェルフの大刀がうなり、撃ち漏らしたモンスターを蹴散らす。そのモンスターの後方から
だがヴェルフのさらに後方、パーティの後衛をしている俺の目には別のモンスターが迫っているのがわかった。
暗いダンジョンの天井付近。闇に紛れ迫ってきているのはコウモリ型のモンスター『バッドバット』。それが発する音波は冒険者の感覚器官を狂わせ、平行感覚を一瞬、破壊する。
今、ヴェルフは前方のオークに気をとられていてバッドバットに気づいていない。
それを確認した俺はこの9日間訓練した行動をする。それは手から物質、投げナイフを取り出すことだ。
この投げナイフは先日個人契約をしたスミスさんに量産してもらった
それを1本だけ取り出し、バッドバット目掛けて投げる。
『キィィッ!?』
小さい体の顔面に当たり、バッドバットは灰へと帰った。
「じゃあ、最後の打ち合わせをするぞ」
視界内のモンスターを全て倒した俺達は『中層』へと続く階段の手前で円となり突入の打ち合わせをしていた。
「中層からは隊列を組む。まず、前衛はヴェルフ」
「俺でいいのか?」
「悪いがヴェルフが務まりそうなところがここしかない。次に中衛がベル。攻防を両方担当するから一番大変だ」
「うん、大丈夫」
「俺とリリが後衛を務める。といってもそんなに火力がないから俺は中衛兼後衛って感じだな」
「それではトキ様が一番大変なのでは?」
「兼ねると言ってもベルの手が回らなさそうなところだけだ。基本は後衛。そのための投げナイフだしな」
「ああ、あれってそのために使い始めたんだ」
「まあな」
お陰で最近、モンスターと切り合うことが少なくなり敏捷の伸び具合が心配になってきている。まあ今はどうでもいいな。
「このパーティは圧倒的に後衛の火力が低い。モンスターに囲まれた時に魔法で一掃、というふうにはいかないから十分注意してくれ」
「囲まれたら終わり、か。厳しいのか?」
「上層と違い中層はモンスターの質も量も格段に上がる。気をつけないとあっという間にそういう状態になる」
「尻尾巻いて引き返しますか、ヴェルフ様。今ならまだ間に合いますよ?」
「馬鹿を言え。俺はさっさと
恒例となった二人の言い合いを苦笑しながら見守る。ふと、ベルを見るとその口元が緩んでいるのに気づいた。
「ベル、顔がにやけてるぞ」
「え、嘘……」
「本当だ。まあ気持ちはわからなくもないがな」
生粋の冒険者である俺だから、ベルの気持ちにすぐに気づいた。この高鳴る衝動の正体に。
「何でお前ら笑ってるんだ?」
こちらに気がついたヴェルフが尋ねてくる。リリもコクコクと頷いた。
目線でお前が話せと譲る。渋々ながら、でもまんざらでもなさそうにベルは口を開いた。
「え、えっと……賑やかでいいなぁっていうか……すごいパーティらしくなってきて、嬉しいというか」
始まりは二人だった。
「それに、さ。こういうのワクワクしてこない? みんなで力を合わせて、冒険をしようって」
それが2ヶ月も経たずしてこんなにもパーティらしくなって、今まさに新たな冒険をしようとする。気の合う仲間と『未知』へと挑むのだ。それはまさしく冒険者としての醍醐味だ。
「……くっ、ははははははははっ! そうだよな、こういうの、ワクワクするよな! ワクワクしなきゃ、男じゃないもんな!」
「リリは少し賛同しかねますが……でも、ベル様のお気持ちはわかります」
「俺は言わずもがな」
皆が笑顔になる。
「んじゃ、準備はいいか?」
「ああ、問題ない。行こうぜ」
「バッチリです!」
「うんっ」
立ち上がり列となって13階層、『中層』へ続く入り口に入る。
今回は以前と違い、アスフィさんも【ファミリア】の皆もいない。でも大丈夫だ。こんなにも頼もしい仲間がいるのだから。
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13階層の地形を一言で言えば天然の洞窟。辺りは岩盤で形成されており、空気もなんだか湿っている。
「ここが中層か……」
「話には聞いてましたが、今までの階層より光源が乏しいですね」
ちなみに俺は夜目が効くから暗さはほとんど関係ない。
他にも中層には下の階層へ落ちる穴、縦穴が存在する。これに落ちると下の階層に移動するし、現在地がわからなくなるため見えていても厄介な
「13階層はルームを繋ぐ通路が非常に長い。安定した戦闘を行うためにも最初のルームへ素早く移動するぞ」
その言葉に全員が頷いた。
「モンスターと出くわす前に少しでも移動する。リリこの先の道は?」
「一本道です」
「ありがとう。ヴェルフ、このまま道なりに進んでくれ」
「わかった」
実はというと俺は13階層の正規ルートを覚えていた。しかしリリがこういうのはサポーターの仕事だからとルートの選択はリリが行うことになっている。
「……それにしても、やっぱり派手だよな、コレ」
隊列になって移動しているとふとヴェルフが呟いた。
「『サラマンダー・ウール』のことですか?」
「ああ。着心地は文句ないんだがな」
俺達はこの『中層』進出においてある装備を着ていた。光沢のある鮮やかな赤い生地。『精霊の護符』と呼ばれるこれは精霊が作り出した特別な装備だった。
この『サラマンダー・ウール』は
これは13階層から出現するあるモンスターの対策として着ている。そのモンスターというのは……。
「っと、ちょうど来たみたいだな」
夜目が効く俺が最初にその存在に気づいた。パーティに緊張が走る。
現れたのは犬型のモンスター『ヘルハウンド』。その最大の特徴は口から放たれる火炎放射だ。
上層では殴る、噛みつくといった物理攻撃しかしてこなかったモンスターが中層からは遠距離攻撃をしてくる。中でもヘルハウンドの火炎放射は13、14階層でのパーティ全滅の原因ナンバー1。それを防ぐためのサラマンダー・ウールである。
ちなみにこれすごく高い。ベルと割り勘したがそれでも金額が6桁をいっていた。
「なぁ、この距離はどうなんだ? 詰めた方がいいのか?」
「ヘルハウンドの射程距離は甘くみない方がいい、って
「ヘルハウンドの射程距離は約30~40Mだ。射程ギリギリからスタートすると途中で火炎攻撃を食らう可能性がある」
「なら、叩くぞッ!」
ヴェルフが駆け出し、ベルがその後方に付く。2体現れたヘルハウンドの内、1体がヴェルフに襲いかかる。
その突進をベルが左手に装備したバックラーを噛ませて防ぐ。宙に浮いたヘルハウンドにその横からヴェルフが大刀を振り下ろした。崩れ落ちるヘルハウンド。
『ゥゥゥゥゥツ!』
もう1体のヘルハウンドはその場から動かず、四肢を開き口から炎を漏らしていた。
「シッ!」
投げナイフをヘルハウンドに向けて投擲。その左目に深々と刺さりをその視力を潰す。
すかさずヴェルフが懐に入り大刀を一閃。その顔面を叩き切った。
「よし……幸先は良さそうだな?」
「にわか仕込みの連携も、そろそろ形になってもらわないと困りますからね。このくらいは当然です」
「でも、いい感じだったよ。ねっ?」
「ん? ああ」
中層初の戦闘を無事に終え、パーティの空気が緩む。投げナイフを回収し、血を拭き取った俺は警戒を続ける。
「っと。また来たぞ」
ヴェルフが敵を見つけた。それは……。
「あれは……ベル様!?」
「違うよっ!?」
現れたのは兎型モンスター『アルミラージ』。見た目は兎が二足歩行しその額から1本の角が生えている。それが3体。
「ベルが相手か……冗談きついぜ」
「いや完璧に冗談だから!?」
パーティがコントをしている間にアルミラージ達は手近にある岩を砕き中から石の斧、
「アルミ……ベルの特徴は俊敏な動きとその連携の高さだ。1体ずつ確実に倒していくぞ」
「トキ、ケンカ売ってるの!? 今言い直したよね!?」
「ほらベル、行くぞ」
涙目になりながらベルはやけくそ気味に武器を構える。
襲いかかる3体のモンスターへ俺達は一丸となって迎え撃った。
はい、ついに中層に突入です。まあ、トキがいますし楽勝ですね。……なんてそうは問屋が卸しません。ちゃんとピンチになってもらいますよ。……それが皆様のご期待に応えられるかは別として。
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