冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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サブタイトルを考えるのがこれほど難しいとは……!


夜が明けて

 俺、トキ・オーティクスは朝が早い。これはヘルメス様と一緒に世界を旅していた頃より以前、暗殺者時代からの習慣だ。朝、早く起きて、訓練をする。1日でも早く憧憬(ゆめ)にたどり着きたいが、無理なものは無理だ。だから早起きして健康な体を保ち、訓練によって実力を積み上げる。これが一番早く、かつ確実に夢を叶える方法だと俺は信じてる。

 

 太陽がまだ顔を現さない、午前4時。ベッドから抜け出し、洗面所に向かう。顔を洗い、運動着に着替え、庭に出る。

 

  俺が住んでいるのは【ヘルメス・ファミリア】のホームではない。オラリオ東部にある少し豪華な一軒家(小さな庭付き)だ。ヘルメス様と旅をしていた時、様々なところでお金を稼ぐ機会があり、いろいろやっていたらいつの間にかとんでもない額になっていた。ヘルメス様との旅も終わり、オラリオに根を下ろすようになってから【ファミリア】に還そうと思ったのだか……

 

「いや、いいよ。君はまだ冒険者じゃないだろ? それは君が稼いだ金だ」

 

 と、言われ結局丸々残ってしまい、意を決して購入したのがこの家だ。

 

 閑話休題。

 

 庭に出たら、まずは軽くストレッチ、その後影から短剣を取りだして素振りをする。

 

 俺のスキル【果て無き深淵(インフィニット・アビス)】は無生物なら収納する能力がある。大きさは最大小さな馬車くらいまで。容量は現在不明である。

 

 と言うかこのスキル、俺でもわからない点が数多く存在する。ヘルメス様に聞いてみたがヘルメス様も分からず、いろいろと試行錯誤中なのだ。

 

 再び閑話休題。

 

 一通りの訓練が終わったら家に戻り、朝食にパンを食べながら装備を装着する。

 

ベルの前では今のところスキルは使っていない。同じタイミングで冒険者になった俺がスキルを発現させたとなると怪しまれるかもしれないからだ。……まあむしろ、怪しむ前に目をキラキラさせて根掘り葉掘り聞かれそうだから話してない、というのが本音だけど。

 

 支度を整え、戸締まりの点検をし、家に鍵を掛ける。

 

「いってきます」

 

 返事が帰ってこないことを承知でそう呟いた。

 

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「ん!?」

 

 ベルとの待ち合わせ場所に向かう最中、視線を感じた。しかし……

 

「あそこ、からだよな?」

 

 視線を感じたのは街のシンボル、白亜の塔バベルの最上部からだった。あそこには一部の神が住んでいるだけだが……

 

「あんなところに住む神が俺になんの用だ?」

 

 しばらく考えてみたが……神の考えなんていちいち考えてたら切りがない、と考え直し待ち合わせ場所に急いだ。

 

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「はっ!」

「せあ!」

 

 迫りくるコボルトを右の短剣で葬る。その後ろにまたコボルト。

 

「ああ、もう! なんでコボルトが群れてんだよ!」

「僕が知りたいよ!」

 

 犬頭の人型モンスター、コボルトに囲まれながら愚痴をはく。そもそもコボルトは通常1、2匹で徘徊している。それが8匹も一緒に行動しているんだから何かおかしい。

 

 昨日のミノタウロスといい、やっぱりヘルメス様に拾われた時に人生の運全部使っちゃったかな?

 

 とりあえず、ベルと2匹ずつ倒し、残り4匹。

 

「そっちの2匹頼むぞ!」

「うん!」

 

 しかし俺は1人じゃない。俺もベルも駆け出し冒険者。連携もまだできないけど、それでもこれくらいの相手なら背中を任せられるくらいには強くなったし、信頼している。

 

『シャアッ!』

 

「おっと」

 

 右のコボルトの爪を短剣で防ぎ、連携で迫ってくる左のコボルトに蹴りを叩き込む。運よく顔に当たり、その勢いで首が折れる。

 

『グェ!?』

 

「よそ見禁止だっての!」

 

 仲間がやられたことに動揺した隙を見逃さず、短剣で喉笛をかき斬る。2匹のコボルトが絶命したのを確認し、振り向く。

 

「ふぅ、あ、そっちも終わった?」

「ああ、ちょうど終わった」

「それじゃあ『魔石』の回収しちゃおっか」

 

 そういうと、自分が仕留めたコボルトに向かう。俺も自分が仕留めたコボルトに近づき、その胸をえぐる。この作業も半月もやっていれば慣れたものだ。胸部の『魔石の欠片』を取りだし、腰の袋に入れる。ちなみにこの『魔石』、【果て無き深淵】の中には容れられない。ベルがいないところで試してみたがどうやっても入らなかった。

 

 ふとベルの方を見てみると鼻歌を歌いながら作業をしていた。

 

「なんだか嬉しそうだな?」

 

 作業する手を休めずに声をかける。

 

「うん。僕ってさ【ファミリア】で先輩も仲間もいないから最初は1人でやるんだって思ってたんだ。けどトキのお陰でいろいろ勉強になるし、こう、なんていうの? パーティプレイっていうのが実感できるんだ。ほら、さっきみたいな場面とかさ!」

「ああ、確かに。……お、ドロップアイテム!」

「え! うそ!」

「よっし! いやー、俺の運もまだまだ捨てたもんじゃないな!」

 

 ドロップアイテムにテンションを上げつつ、作業を続ける。すると……

 

『ガアアッ!!』

 

 目の前に新しいモンスターが現れた。

 

「ちっ! ベル! 作業中断!戦闘態勢!」

「わ、わかった!」

 

  急いで立ち上がり、ベルと共にモンスターに突っ込んで行った。

 

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「そういえばさ、トキはなんで僕とパーティを組んでくれたの?」

「ああ、俺の【ファミリア】って俺以外みんな結構実力者ばかりなんだ。だからパーティーを組むとバランスがとれないんだ。ベルとパーティを組んでいるのは……まあ、1人じゃいざというときに対処できないこともあるし、何より一緒にスタートするやつがいるなら一緒ににやりたい、て思ったからなんだ」

「へー…………あ、そうだ。今日、シルさんって人のお店で夕飯を食べるんだけど良かったら一緒に行かない?」

「シルさんって言えば…………ああ、『豊穣の女主人』か! なかなかいいチョイスするな! でもあそこって今の俺達の稼ぎだとちょっと高いぞ?」

「え、そうなの?」

「知らなかったのかよ……まあ、いっか。とりあえずペースあげるぞ!」

「うん!」

 




次はいよいよヒロイン登場! になるかな?

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