冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
ベルがインファント・ドラゴンを吹き飛ばしたその翌日。俺はヴェルフさんとともにベルを待っていた。
先程リリが急いで来て、下宿先の店主の人が倒れたからその看病をする。そのため今日のダンジョン探索に付き合えない、と。
何度も謝るリリから伝言を頼まれ、こうして遅れているベルを待っているのである。
ちなみに今日の予定はリリが去った後ヴェルフさんと話し合い、ベルが良ければベルの装備を新調するらしい。
既にライトアーマーは新調したのだが、他の装備も同様にするそうだ。 確かにこれから『中層』にアタックするのに、それ以前に冒険者として新しい装備を整えるのは重要なことだ。鑑定の技能を持つ俺から見てもヴェルフさんの作るものは決して悪くはない。むしろLv.1の鍛冶師が打ったものの中ではいい部類に入る。彼の腕なら安心だ。
そう考えていると西のメインストリートから見慣れた白髪が見えた。ヴェルフさんと並んでそれに近づく。
「お、本当に来たな」
「今日はちょっと遅かったな。シルさんにでも捕まったか?」
どうやら考え事をしていたようで今俺達が近づいてきたのに気づいたようだ。
「あ、おはようございます。えっと……二人はなんでここに?」
「リリからの伝言。下宿先のノームのお爺さんが倒れたから、その看病をするので今日はダンジョンに一緒に行けません、だって」
「え!?」
「それで、今後の予定なんだけど……」
言葉を切り、ヴェルフさんに引き継ぐ。意図を察してくれたのかヴェルフさんは頷いてくれた。
「ベル、今日1日俺に時間を貸してくれないか?」
「はい?」
……ベルその返事はやめた方がいい。疑問か肯定かややこしくなる。
「約束しただろう? お前の装備、全部新調してやるってな」
------------------
ヴェルフさんに連れられ俺達が向かったのは工業区である北東メインストリートの外れにあるヴェルフさんの工房だった。【ヘファイストス・ファミリア】の団員はそれぞれ個人の工房が【ファミリア】から提供されるらしい。主神であるヘファイストス様の方針なのだそうだ。
俺が行ったことのある【ゴブニュ・ファミリア】は皆が一緒に作業していたからやはり同じ鍛冶系の【ファミリア】でも違うのだな、と思う。
ヴェルフさんの工房は木造の平屋だった。構成している木々が少々黒ずんでいるが、それはこの工房が使い込まれているという証なのだろう。
中はそこそこ広く、【ゴブニュ・ファミリア】で見掛けたことのある道具が並んでいる。こちらもかなり使い込まれているようだ。
「悪いな、汚い場所で。少しだけ我慢してくれないか?」
「い、いえっ、大丈夫です!」
「お気遣いなく」
むしろもっと見学したいです、というのが本音だ。親方さんと打ち合わせで【ゴブニュ・ファミリア】やその他の鍛冶師のところに行くことはあるが、こうやってじっくり見たことはなかった。
ベルがヴェルフさんと話しているのを視界の端に捉えつつ道具をじっくりと見る。
鍛冶系の事に関しては俺は素人同然だ。せめて研磨がちょっと出来るくらい。しかもそんなに上手くない。
トキ・オーティクス
研磨Lv.1
あまり上手くない。精々磨耗した武器の切れ味を少しよくする程度。
「ねえ、トキどう思う?」
「ん? ああ悪い聞いてなかった。何の話だ?」
「新しい装備を作ってもらうんだけど僕に必要なものとかわかる?」
「うーん、そうだな……」
俺とベルは戦闘スタイルが似ているからこの質問をされたのだと思う。だが……言われてみるとぱっと思いつくものがない。
ベルと並んで頭を捻る。とベルが何かを見つけた。
部屋に立て掛けられている武器。その中から大剣を手に取った。
「これなんかどうかな?」
「いいんじゃないか? 作りはしっかりしてあるし、これだったら当分使えそうが……お前大剣なんて使えたっけ?」
「そこは、ほらトキに教えてもらうから」
「……俺もあんまり上手くないぞ?」
「でも僕よりは上手でしょ? ヴェルフさん、これ使ってもいいですか?」
「駄目、ってことはないが……それ、店の方から返された売れ残りだぞ?」
「でも僕、これ使ってみたいです」
無垢な子供のような笑顔でそう告げる。
「お前は、魔剣を欲しがらないんだな」
「え?」
「なに、魔剣じゃなくて売れ残りの剣を要求されるなんて、流石に思ってもみなかったていう話だ」
「えっと、それだったらトキだって」
「おい、そこで俺に振るか」
ヴェルフさんが視線をこちらに向けた。うんまあ、俺も魔剣はねだらないけどさ。
「えーっと、個人的な意見として。魔剣って武器って感じがしないんだよな」
「は?」
「ほら魔剣ってさ、鍛冶師が作って武器の形してるけど、魔法が出て最後には必ず壊れるじゃん。だから武器って言うよりも鍛冶師が作る
魔剣。それは振れば炎や雷などの魔法を放つ強力な代物。だが魔法よりも威力が低いし、使い続けると壊れる。時には1回で壊れるという。それは武器というよりも回数制限のあるアイテムと同じではないか、というのが俺の認識だ。
その言葉にヴェルフさんが笑い出した。
「え、なんか俺、変なこと言いました!?」
「い、いや、そうじゃない。なるほどな。そういう考え方もあるのか」
どうやら試されたらしい。
そこからベルの装備の話になった。そこでヴェルフさんが目をつけたのはベルの腰にある『ミノタウロスの角』だった。
ベルとヴェルフさんは直接契約を結んでいるらしくドロップアイテムとかは依頼すれば武器を作ってもらえるんだとか。……今度スミスさんと交渉してみよう。
その後、ベルはヴェルフさんの作業を見学することになった。俺も知的好奇心から同じ提案をする。
思えばちゃんとした鍛冶師の作業風景を俺は見たことがなかった。自分が知らない未知ということもあり好奇心を抑えられなかった。
許可をもらい見学をする。炉の熱で暑くなる部屋の中、ベルとヴェルフさんが話をする。流石に部外者である俺は(泣く泣く)退席しようと思ったがヴェルフさんは俺の同席を許してくれた。
それはヴェルフさんの話だった。
初代クロッゾはある時精霊を助けその精霊の体を分け与えられた。それ故にクロッゾは精霊の血をひいている。だから魔剣が打てた。
だがその事に調子に乗った子孫達は魔剣を量産し、その魔剣は
クロッゾは魔剣によって貴族となった。それが作れなくなれば当然没落する。故にクロッゾは没落貴族となった。
ヴェルフさんはそんな中、魔剣を打つ事ができたという。だがそれを知った家族はヴェルフさんに魔剣を打て、と言ってきた。一族の英華を取り戻すために、と。
ヴェルフさんはその事を拒否した。先程俺が
……確かに共感はできた。だが、それでもヴェルフさんは己の才能から逃げていた。少なくとも俺はそう感じた。嫌いだから作りたくないからと自分の力から逃げている。そう感じた。
どうやらヴェルフさんとは仲良くなれそうだけど、心の底から分かり合えるというのはなさそうだ。
鉄を打つ音を耳にしながら俺はそんなことを考えていた。
------------------
出来上がった短刀は俺から見てもいいものだった。
「よし。それじゃあ、名前をつけるか」
とヴェルフさんは目を細め、己が作った緋色の短刀を見つめる。
「
「いやいやいやいやいやいやいやいやっっ!? 最初のやつでいいじゃないですか!?」
ベルのその言葉に……俺は反論した。
「いや、どう考えても
「ええっっ!?」
「お、お前わかってくれるか!」
「はい、とてもいい名前だと思います」
がしっと手を取り合う。うん、前言撤回。心の底から通じあえそう。
──この時ベルは嫌な予感がした。それを確かめるためにある質問をすることを決意する。
「ね、ねぇ、トキ。トキがいつも使ってるナイフ。あれはなんて名前なの?」
「ナイフ? あれには特に名前はついていないが……内心では
「き、
「ちなみに今使っているのは8代目だ」
「いい名前だな」
「ありがとうございます」
親方さんが作ってくれた方は真・
ちなみに店の名前である『深淵の迷い子』はアスフィさんを始めとする【ファミリア】の人達が考えてくれた。というより俺の案が全部却下されてその結果考えてくれた。解せぬ。
命名Lv.?
酷い。とにかく酷い。ヴェルフと気が合う。
その後、ヴェルフさんに敬語なしでと言われ、それを直し、ベルは俺達に土下座までして名前を
今回の投稿を持ちましてアンケートの方は終了です。
気になる結果は……フィンが1位でした。……いや、よかった。これでリヴェリアとかアレンとか言われたらまず無理でした。というかフィン人気ですね。原作でも現実でも。
アンケートでも言った通りリクエストは番外編として投稿します。
ご意見、ご感想お待ちしております。