冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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今回から若干ベルが性格改変してます。この作品のベルはこのスタイルでいくのでご容赦ください。


そして『中層』へ
新メンバー


 ベルと仲直り?したその2日後。俺達は11階層に来ていた。新しいメンバーと一緒に。

 

「やってきたぜ、11階層!」

 

 燃えるような赤髪をし、大刀を背負ったヒューマン。それがベルが新しく見つけてきたパーティメンバーだ。……期間限定の。

 

「……新しいお仲間が増えたと聞いてみれば、なーんですか、ただベル様はモノで釣られて買収されただけではありませんか」

 

 リリの言葉による攻撃にベルが空笑いをする。ベルがちらりとこちらを見るが、すまん援護は無理だ、と目で答える。

 ベルの装備は昨日、買い物をした時に一新されていた。なんでも今回同行している鍛冶師の人の作ったもので、新しい物を作ってもらう代わりに今回のパーティ参加を提案されたらしい。

 

「はぁー、リリは悲しいです。とてもとても悲しいです。お買い物に行かれただけなのに、見事にリリの不安(期待)を裏切らず厄介事をお持ち帰りになるなんて……リリは涙が出てしまいます」

「まあ厄介事ってのは言い過ぎだが、アビリティ獲得まで、ていう期間限定の臨時パーティメンバーだからな。それが終われば元の状態に戻るわけだし。……人のことあんまり言えないけど」

 

 リリが爆発する前に要点だけを述べてベルを非難する。俺の口撃は新しい装備でも防げないようだ。後ろでは鍛冶師の人が何とも言えない視線を送る。

 

「トキ様の言う通りです! それにどうしてもリリに何の相談もなしに勝手にパーティの編成を決めたんですか、ベル様!」

「だ、ダメだった……?」

「駄目ではありません、駄目ではありませんがっ」

「報告、連絡、相談は世の中を生きていく基本だからな。勝手にパーティメンバーを増やされるとその人が信用に足りるかわからないからな」

「その通りです! 後、リリはヘスティア様にベル様の事を頼まれているんですから!」

 

 ……ごめん、それはフォローできない。

 信用ないなお前、という目線を送るとベルはガックリとうなだれた。うーん、ここはダンジョンだからこんなコントしていい場所じゃないんだけどな。

 

「何だ、そんなに俺が邪魔か、お前ら?」

 

 ここで鍛冶師の人が話に加わってきた。

 

「ああ、気を悪くしたなら謝ります。ベルはいいやつなんですが、何分人の悪意に疎いのでつい心配になって」

「……僕はトキに心配されるほど子供じゃないよ」

「わかってるよ」

 

 一昨日の事から俺とベルの言動は少し変わった。まず俺の軽口にベルが反論するようになった。妙なところで子供っぽい。

 俺もベルを無意識に謗るような言葉を使わなくなった。まあ小さな変化だがより親友ぽくなったと俺は思う。

 

「そういえば自己紹介がまだでしたね。【ヘルメス・ファミリア】所属、Lv.1のトキ・オーティクスです」

「トキ・オーティクス? どっかで聞いたような……ああ、思い出した。スミスのやつの客か」

「スミスさんをご存じで?」

「あいつとは同期でな。この前【ランクアップ】したって鼻高々に自慢してたぜ」

 

 口では悪態をついているが、顔は自分のことのように嬉しそうだ。なるほど鍛冶師さんとスミスさんは俺とベルのように親友でライバルなのだろう。

 

「……リリルカ・アーデです。よろしくお願いします」

「おう、よろしくな、リリスケ」

「なっ!」

 

 リリスケ? ……ああチビスケとリリだからリリスケか。なるほど、分かりやすい。

 

 色々と文句を言ったリリだが相手にされず、そのまま歩いていってしまう。はぁ、先が思いやられる。

 

「……えーと、二人とも。今更だけど紹介するよ? この人はヴェルフ・クロッゾさん。【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師(スミス)なんだ」

「クロッゾっ?」

 

 鍛冶師の人……ヴェルフさんの家名にリリが過剰に反応した。

 

「呪われた魔剣鍛冶師の家名? あの凋落した鍛冶貴族の?」

 

 その言葉にベルが疑問の声を上げ、ヴェルフさんが苦虫を噛んだ顔をする。

 

「あ、あの……『クロッゾ』って?」

「何も知らないんですか、ベル様……?」

「ええっと、その……う、うん」

 

 これは……まずいかな?

 

「『クロッゾ』とは-」

「リリ、そこまでだ」

 

 説明しようとしたリリの言葉を遮る。

 

「……なぜ止めるのですか、トキ様」

「ここはダンジョンだ。どんなことが起こるかわからない。だからパーティの雰囲気を悪くするような言動は控えるべきだ。ベルの事を思って言っているんだろうが、ヴェルフさんの機嫌が悪くなり、結果的にパーティ全体の雰囲気が悪くなる」

 

 ちらりとヴェルフさんの方を見る。彼は驚いたような顔をしていた。

 

「だから今その説明は控えるべきだ。その説明なら地上に戻った時に、ベルと、二人きりでやるべきだ」

「ねぇ、なんで二人きりのところを強調したの?」

「年上の女性と合法的に二人きりになれるチャンスを作ってやったんだよ」

「そんな気遣いいらないよ!?」

 

 途中から始まった俺とベルのコントに二人が吹き出す。どうやら上手くいったみたいだ。

 

 その時、ビキリとルームの壁にひびが入った。

 

「う、わっ、……!」

「……でけえな」

「『オーク』、ですね」

 

 くすんだ緑色の体、足が短く、胴長の人型モンスター。『オーク』。スピードはないがその分一撃が重いモンスターだ。

 

「……まだ続く、と。これがあるから10階層からは怖ぇよな」

 

 さらに壁が次々と突き破られる。何もいなかったルームはあっと言う間にモンスターに囲まれた。所謂『怪物の宴(モンスター・パーティー)』なんだけど……24階層のを経験しているからか全然危機感がない。かと言って慢心しているわけでもないから、純粋に力が上がったおかげかな? と自問する。

 

「まぁ、そこまで悲観することはないでしょう。幸いこのルームでは霧が発生しませんし、面積も広いです。すぐに囲まれる心配はありませんし、いざとなれば10階層に引き返せます」

 

 さすがリリだ。肝が据わっている。状況判断も的確だし、やはり彼女は優秀なサポーターだ。

 

「よし、オークは俺に任せろ」

「えっ、いいんですか?」

「むしろ大歓迎だろ? 動きはトロいし的はでかい。俺の腕でも楽勝で当てられる」

 

 そんな風に考えられるんだ……という風な顔をするベルに少し補足しよう。

 

「戦闘スタイルの違いだな。ベルは一撃離脱(ヒット&アウェイ)、ヴェルフさんは一撃に重きを置いてる。だから考え方が違うんだ」

「あ、そうなんだ」

「まあ、経験の差もあるだろうけど」

「……やっぱりそこなんだ」

「お前、まだ冒険者になって1ヶ月半しか経ってないだろ。そんなやつが経験を積めるか」

 

 軽口を叩きつつ、この場の対処法を考える。チラリとリリを見るが、どうやら俺に任せてくれるみたいだ。

 

「ベル、好きに動いてくれ。ヴェルフさんのフォローは俺がする」

「わかった」

「了解」

「リリ、念のため全体の動きを見ていてくれ」

「わかりました」

 

 各々武器を取りだし、構える。

 

「戦闘開始!」

 

 俺の号令と共にベルとヴェルフさんが駆け出した。

 

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 戦闘は何も問題がなく終わった。やはり戦闘が出来る者が3人いると動きが違い、その分個人の負担が減る。パーティの利点の1つだ。

 で、俺達は何をやっているかというと、

 

「ねぇ、トキ。さっきの動き、何?」

 

 リリが魔石回収をしている間、ベルに問いつめられていた。

 

「いや、この間【ステイタス】を更新したんだよ~」

「それにしても動きが違いすぎない?」

 

 どうやらこの親友はこういう時鋭いようだ。さっき自分で言った通りパーティの雰囲気を悪くするのは良くないし、ベルとヴェルフさんだけなら問いつめられることもないだろう。それに、これからパーティを組むんだ。情報は正確な方がいいだろう。……なによりベルに嘘をつきたくなかった。

 

「実はその……【ランクアップ】して……」

「いつ!?」

「お前の1週間前くらいに……出来れば内緒で頼む」

「……わかった」

「ヴェルフさんもお願いします」

「わかった。でもギルドに申請しなくていいのか?」

「……さすがに世界記録(ワールドレコード)更新とかして注目されたくないですし。ヘルメス様に止められてますし」

「そうなんだー」

 

 ベルはあははははと笑っていた。俺も笑っていると思う。

 

「ところでトキ……なんかムカついたから殴ってもいい?」

「ここはダンジョンだから駄目だが……地上に戻ったらいくらでもケンカを買うぜ?」

 

 親友なら時にはぶつかり合うことも大事だと、ヘルメス様に教わったことがある。その意味が何となくわかった瞬間だった。

 

 ヴェルフさんに仲裁されて矛を納める。まあベルも本気じゃなかったみたいだしな。

 

「ところで、他の連中も増えてきたし、どうする? 場を移すか?」

「うーん、そうですね……」

 

 今ルームの中には俺達以外に他の冒険者達がちらほらと見掛けられた。このルームは10階層とを結ぶ階段の前にあり、霧も発生しないことから多くの冒険者がここを狩りの拠点とする。人が集まりやすいこのルームではパーティ間のトラブルが発生する可能性がある。

 

 どうする? というベルの視線に影から懐中時計を取りだし、時間を確認。それをベルに見せる。ベルは頷いた。

 

「どうせなら、ここで昼食取りましょうか? 沢山の人達がいるから、モンスターを警戒することもないでしょうし」

「なるほどな、ただ場を譲るのも癪だし、利用させてもらうか。いいぞ、俺は賛成だ」

 

 どうやら意図を読み取ってくれたようだ。なら早く昼食にするためにリリの手伝いでもするか。そう思いリリの方に向かおうとする。すると、リン、リン、という音が聞こえてきた。音源は……ベルの右手。そこに小さな光の粒が集まっていた。まるで川辺に集まるホタルのように点滅している。

 

「……おい、ベル。それ、何だ?」

 

 ヴェルフさんも同じことを思ったのだろう。ベルに訊いている。ベルは己に起こっている現象に今気づいたのか、困惑した顔をする。

 

「……詠唱はしてないから、魔法じゃないな。となるとスキルだろうな」

「いや、そういうことじゃなくて」

 

 冷静に分析していたところにヴェルフさんのツッコミが入る。うん、わかってて言いました。

 さらに続きを言おうとした時だった。

 

『------オオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

 すさまじい雄叫びが聞こえた。弾かれるようにそちらを見る。

 

 そこには竜がいた。

 

「『インファント・ドラゴン』……」

 

 名も知らぬ冒険者の呟きが聞こえた。

『インファント・ドラゴン』。11、12階層に希に出現する希少種(レアモンスター)。その戦闘力はミノタウロスには届かないが、それでもLv.1の冒険者の一団を全滅させるだけの力がある。

 そしてその目線の先に……リリがいた。

 

「リリスケェッ、逃げろっ!?」

 

 ヴェルフさんが悲鳴に近い声で叫ぶ。リリは迫る竜に立ちすくんでいた。

 

「ベル、牽制してくれっ!」

 

 言うと同時にスタートをきる。【ランクアップ】し、強化された今の俺ならベルが牽制するだけでリリを確保できる。

 俺の指示を待つまでもなく動いていたベルは右手を突きだし、叫んだ。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

 直後、俺の隣を純白の閃光が追い抜いていった。

 

「えっ?」

 

 思わず声が漏れた。そのまま閃光はインファント・ドラゴンの頭部に命中し、それを突き抜ける。頭部を失った体はそのままぐらりと傾き、灰となった。

 走る勢いを弱め、振り返る。ベルは己がやったことに呆然としていた。

 

 さっき放ったのは間違いなくベルの魔法、【ファイアボルト】。だがあれは威力が低いし、インファント・ドラゴンの鱗は耐火の能力があったはずだ。それを【ランクアップ】したとは言え、いとも簡単に倒すのはどう考えても無理だ。

 となるとあの威力の原因はあの光の粒子だろう。あの光がベルの【ファイアボルト】を強化したのだ。

 

 とりあえずなんか呆然としているベルに近づき、意味もなくコツンと殴った。

 

「いたっ」

 

 再起動したベルは少し恨めしそうに俺をにらんできた。




ベルがあんな態度をとるのはトキ限定なのでご安心? を。

さて、アンケートも明日が閉め切りです。明日の投稿と同時に閉め切りたいと思います。その後作者が寄せられた意見の中から採用するものを決め、出来上がったら番外編として投稿します。

ご意見、ご感想お待ちしております。また、アンケートの方もよろしくお願いします。

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