冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
ゴライアスに向けて【ステイタス】が欲しかったのです。
『
トキ・オーティクス
Lv.2
力:I0→F323 耐久:I0→D531 器用:I0→D512 敏捷:I0→F345 魔力:I0→B745
暗殺:H
……言葉になりませんでした。どうやら【
まあ、今回のようなことは滅多にないのでこれ以降これほど大幅に上昇することもないだろう。……うん、そう思いたい。そして相変わらず魔力の伸びがおかしいです。
ヘルメス様はまた旅に出るみたいだった。当然アスフィさんもついていくから今度は【ヘルメス・ファミリア】の書類仕事もしなければならない。……まあ今回のギルドの仕事のようにはならないと思うが。
そういえば気になることを言っていた。なんでもヘルメス様がいない間、ベルについてのレポートを作っておいて欲しい、とか。さすがに【ステイタス】を盗み見るような事はできません、と言ったら見聞きしたことで構わない、と言われた。
主神の命令なので逆らえない俺はとりあえず頷いておいた。
それでも時間が余ったので、仮眠を取り、目覚めた俺は……激しい憂鬱と自己嫌悪に陥っていた。
冷静に考えると俺は3日前、自分にベルの親友でいいのか? と問うたはずだ。だが、今日ベルと会った時は普通に接していた。自分で決めたことを3日も持たずにやめていたとか子供か! と思ってしまった。
さらにこれからベルの【ランクアップ】を祝したパーティーに行くのだ。どんな顔して会いに行けばいいんだ……って思いながらホームを出て、あっと言う間に『豊穣の女主人』についた。
中には既にリリがいた。同じ席にはシルさんとエルフのリューさんがいる。
「あれ? ベルは?」
「まだ来てません」
……さてはホームを出たところを神達に追いかけられているな? それはそれで面白そうだ、と考え、直後不謹慎だと再び自己嫌悪。やばい、今日の俺、なんだか調子悪い。
しばらく待っているとベルがやって来た。入り口で
ベルに気づいたリリが椅子の上に立ってベルを呼んだ。その様子はとても嬉しそうだ。
それに反応したのはベルだけでなかった。ベルの名前を聞いた店内の人達がざわめきだした。それに感づいたベルは姿勢を低くしながらこちらに来る。いや、だからそれだと余計に目立つんだって。
「一躍人気者になってしまいましたね、ベル様」
「そ、そうなのっ? 何だかすごく落ち着かないんだけど……さっきも、知らない神様達に追いかけ回されちゃって……」
「ま、名を上げた冒険者がいずれも通る道みたいなものだ。ベルに限った事じゃないから、しばらくの辛抱だ」
なるべく不自然にならないように話す。今日は祝いの席なのだ。暗い気持ちで臨むのはベルやリリに失礼だ。
「ふふ、ベルさんもいらっしゃったことですし、始めましょうか」
「あの、シルさん達お店のほうは……?」
「私達を貸してやるから存分に笑って飲めと、ミア母さんから伝言です。後は金を使えと」
ちらりとミアさんの方を見る。彼女は不敵に笑いながらぱっぱっと手を振った。こういうところがこの店が冒険者に人気の秘密の1つだと思う。
それから各々グラスを持ち、カンっと乾杯する。ベルはジョッキのエール、シルさんは柑橘色の果実酒、リリはジュース、リューさんは水。ちなみに俺はシルさんと同じ果実酒である。……酒は苦手なんだ。【
「さぁ、ベルさん。沢山お飲みになってください。今日はベルさんが主役なんですから。それとも、何かお食べになりますか?」
「あ、ありがとうございます……」
いつの間にかベルの隣に移動しているシルさんがいろいろと世話をしている。反対に座っているリリの笑顔が怖い。
「何だか……すごく機嫌が良さそうですね、シルさん」
「そう、ですか? 私のお手柄というのはおこがましいんですけど……あの本を渡して、ベルさんのお役に立てたのかな、って。そう思ったら、何だか嬉しくて」
あの本? といぶかしむがここで茶々をいれるのは無粋だと思いとどまる。それに聞いたら頭痛がする予感がした。
それにしてもなぜかベルの表情が引きつっていた。テーブルの下で何が起こっているのだろう?
「ですが、本当におめでとうございます、クラネルさん。よもやこの短期間で【ランクアップ】を成し遂げるとは……どうやら、私は貴方のことを見誤っていたようだ」
俺の隣に座るリューさんからも祝いの言葉を受け、照れるベル。なんだか1週間前の自分を見ているようだった。
「い、色々な人に助けてもらったおかげですよ。リューさんにだって、僕は……」
「謙遜しなくていい。Lv.2にカテゴライズされるモンスターの中でも、ミノタウロスを倒したことは快挙と言うべきです。クラネルさん、貴方はもっと誇っていい」
「それに助けてもらったとしても成し遂げたのはお前自身だ。胸を張れ」
「う、うん。トキもありがとね」
……その言葉を素直に受けとることが出来なかった。
なぜかここにいるのが酷く場違いなような気がする。まるで今の自分が自分でないかのようだ。
そのまましばらくボーッとしてしまった。
「……トキ。……トキ!」
「わっ、び、びっくりしたー」
「大丈夫? ボーッとしてたみたいだけど」
「あ、ああ。ギルドの資料作りで3徹したからな。その疲れが出てるのかもしれない」
俺の言葉に、しかしベルは怪訝そうな顔を浮かべた。
「で、何の話だ?」
「あ、うんパーティの話なんだけど……」
「ああ、そういうことか。欲を言えばもう1人欲しいな」
「やっぱりそう思う?」
俺達のパーティは一応
「でも、リュー? ベルさん達なら逃げ出すことは簡単なんじゃないの? 人数が多いと、逃げ遅れる人も出てくるんじゃあ?」
「いえ、シルさんの言うことも一理ありますが、そういった状況にならないのが最善です。そうならないためにも人数は多い方がいい」
「なんだか詳しいですね」
「アスフィさん……【ファミリア】の団長に色々と教わったからな」
その後、酔っ払った冒険者の人達に絡まれたが、リューさんを始めとする『豊穣の女主人』の人達に追い払われていた。
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祝賀会が終わった後、俺はベルに無理を言って時間をとってもらった。場所は北西区画にある城壁の上。なんでもアイズさんと訓練していた場所らしい。
「それで話って?」
「ああ」
勢いよく頭を下げる。ベルの困惑する声が聞こえた。
「すまなかった」
「ど、どうしたのっ?」
「俺は、お前の事を見下していた。今になって思えばお前とパーティを組んだのも、自分と比較したいやつが欲しかっただけなんだっ。そんな事に先日まで気がつかなかったっ。だからすまなかったっ!」
気づけば、泣いていた。なぜかはわからないけど泣いていた。ベルはしばらくだまった後、
「顔を上げてよ」
と静かに言った。
「僕ね、君に親友だって言われた時、すごく嬉しかったんだ」
その声はとても穏やかで。その顔には怒りも失望もなく、ただいつも通りだった。
「僕はずっとお祖父ちゃんと一緒だったけど、友達がいなかったんだ。だから僕よりも色々なところですごい君に親友だって言われた時、涙が出るくらい嬉しかったんだ……だから、謝らないで」
……ああ、くっそ。本当に俺が女だったら絶対今ので惚れてたぜ。
涙を拭う。息を吐き、頭を整理する。
「わかった。だけどそれだと俺の気持ちが収まらないから一個だけ頼みを聞いてくれ」
「頼み?」
「俺を殴ってくれ」
その言葉にベルがポカンとした表情になる。
「……な、なんで?」
「ヘルメス様に聞いたんだがこういうけじめをつける時は1発殴られるとすっきりするらしい。だから頼む」
「わ、わかった」
と言ってベルは拳を握る。
「……本当にやるの?」
「ああ、頼む」
ベルの右の拳が唸る。反射的に避けようとする体に制止の命令をし、そのまま殴られる。痛かったが、どこかスッキリした。
「これでいい?」
「ああ、ありがとう」
この日俺達は本当の意味で親友になった。
……すいません。調子が悪かったのか今回はとにかくぐだぐだでした。書きたかった場面もあるのに何やっているんでしょうね、作者は。
次からいよいよ新章突入です。
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