冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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『神会』

「じゃ、始めるでー」

 

 間延びした声が響き、ざわついていた円卓が静まる。

 

「第ン千回神会(デナトゥス)開かせてもらいます、今回の司会進行役はうちことロキや! よろしくな!」

 

『イェー!』

 

 喝采と拍手に顔に笑みを浮かべ手を上げて答えるロキ。彼女は手元にある分厚い資料を取り、仇敵ロリ巨乳ことヘスティアを一瞥する。いつもならここですぐに突っかかるのだが、それは後にしておこうと思い、役目を果たす。

 

「よぅし、サクサクいくで。まずは情報交換や。お前ら、資料作製者が見つけられなかったであろう特ダネ、見つけてきたかー?」

 

 ロキのその言葉に神々が表情を引き締める。

 

「え、なんだい? この空気は?」

 

 神会(デナトゥス)初参加であるヘスティアが突如変わった空気に戸惑う。その疑問に答えたのは隣に座る赤髪の片眼の女神、ヘファイストスであった。

 

「前々回に資料を作ったギルドの子がこの情報交換で上がるネタを全部資料に書き込んでいたのよ。役に立ったけどこれじゃあ情報交換の意味がない、てことで前回リベンジしようとしたんだけどそれも全部載ってたの。それで変なところで対抗心を持ったやつらが躍起になってこの空気になったってところよ」

「な、何者なんだ、この資料を作った子は……!」

 

 ヘスティアは手元にある分厚い資料を持って戦慄する。この神会(デナトゥス)に参加している神の数は約30柱ほど。その全ての情報を先取りするとはそれは本当に人間()の力なのか……! とヘスティアは震えた。

 

「まずは俺からだっ! ソーマ君がギルドに警告食らって、唯一のご趣味を没収されたそうです!」

 

『なんだってぇーーーーーーーー!?』

 

「ロキ、今の情報は!?」

「……13ページにある」

「ち、ちくしょーーーーーーーーっ!」

 

 悔しがる報告した神を他所に他の神々は言われたページに目を通す。ヘスティアも同じく目を通し始めた。

 

「以前から活動が問題視されていた【ソーマ・ファミリア】の主神、ソーマ様が10日ほど前、ギルドによって趣味である酒作りの停止を言い渡された……」

 

 資料にはことの発端から詳しい内容、そのオチまで丁寧かつ面白く書かれていた。その結果、それを面白がった神々のテンションが上がった。

 

「すまない。真面目な話、王国(ラキア)がまたオラリオに攻め込む準備をしているらしい。ロキ、何ページ目だ?」

王国(ラキア)の話やったら5ページ目や」

 

 その言葉に資料に目を戻す神々。予測期間は2ヶ月~半年以内、予測規模は2万~5万と書かれている。

 

 またかー、という反応が飛び交う。王国(ラキア)は今までにも5回、オラリオを攻めてきている。そのすべてがオラリオ側の圧勝で終わっているのだ。今回も同じだろ、という神々の呆れ声が漏れる。

 

 その後も多くの神が情報を出し、撃沈していく。それほどまでにこの資料は作りこまれていた。

 

「あ、うちからも1つ情報や。……この資料の製作者がわかった」

 

『な、なんだってぇーーーーーーーー!?』

 

「誰なんだ!?」

「教えろっ!?」

 

 最早必死というレベルでロキを問い詰める神々。超越存在(デウスデア)である自分達の上を行く子の存在の発覚は神々にとってこの神会(デナトゥス)の最大の情報となった。

 

「ヘルメスんとこの【シャドー・デビル】や」

 

『なにぃーーーーーーーー!?』

 

「おい、まじかよ!?」

「まあ【シャドー・デビル】なら仕方ない」

「おいヘルメスっ! まさか力を使ったんじゃないだろうな!?」

「ハハハ、そんな訳ないだろう。あの子の才能さ!!」

「うわ、ドヤ顔ウゼエエエエエっ!」

 

 口々に飛び交う罵声や文句をドヤ顔で受け流しながらヘルメスは愉悦に浸っていた。

 

「じゃあオレからも。その【シャドー・デビル】が正式にオレの【ファミリア】の一員となった!!」

 

『な、なんだってぇーーーーーーーー!?』

 

「今までもチートなのに恩恵まで受けたらそれこそ(俺ら)越えるんじゃね?」

「ありそうで逆に楽しみすぐる」

 

 その情報にさらにテンションを上げる者と逆にテンションを落とす者。トキを狙ってない者と狙っていた者の違いだ。

 

「うっし。まとめとくと、今気にしとかなあかんのは王国(ラキア)やな。一応ギルドにも報告しとく。まぁ資料見る限り必要なさそうやけど。ここにいるもんの【ファミリア】は召集かけられるかもしれんから、よろしくな?」

 

『了解』

 

 ロキのまとめに他の神々が頷く。その後も資料のせいもあってかスムーズに会は進み……一拍あけて、ロキがニッと口端を吊り上げた。

 

「なら、次に進もうか。命名式や」

 

 場に緊張が走る。ロキの発言にそれまで口を閉ざしていた数名の神が顔色を変えた。

 

 一方神会(デナトゥス)常連である一部の神々がニマァ、とゲスな笑みを浮かべる。ここから神会(デナトゥス)の目玉、命名式という悲劇()の始まりである。

 

「資料の26ページ目からやでー。お前ら、いいかー? んじゃあ、トップバッターは……セトのとこの、セティっちゅう冒険者から」

「た、頼む、どうかお手柔らかに……!?」

「「「「「「「断る」」」」」」」

「ノォォォォォォォォォォォォ!」

 

 神と子。その感性に大きな違いはない。だが、命名の感覚だけは違った。神が前衛的すぎるのか。地上の者達が時代に追い付けていないのか。子が目を輝かせる裏で神達が身悶えてしまう『痛い名前』が確かにあった。

 

 さらにそれに拍車をかけたのがトキが作った資料だ。【ランクアップ】した子供のインタビューや主神の一言により、より細かくその子供の性格がわかりその子が望み、神が悶える名前が続出した。

 

『──決定。冒険者セティ・セルティ、称号は【暁の聖竜騎士(バーニング・ファイティング・ファイター)】』

 

「イテェエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!?」

 

「酷すぎる……」

「あんたの気持ちはよーくわかる……。私も最初はそうだったし。この資料もこの時だけは恨めしいわね」

「ほい、次。タケミカヅチんとこの……おおぅ、めっちゃ可愛えぇ、この子。えーと、極東の方の生まれで名前が後やから……ヤマト・命ちゃんやな」

「ほぅ?」

「こいつは……レベル高いぞ」

「やっぱ黒髪はいいなー」

「うーん、流石にこの子にはちょっと……」

「そうだな、こんないたいけな()に残酷な真似をすると……胸が熱くなる、じゃなかった、良心が痛むな」

「ほ、本当かっ!?」

 

 神会(デナトゥス)で酷い二つ名を回避する方法はいくつかある。その内の1つが構成員の人物像がよっぽど神達に気に入られる場合だ。

 

「だが、タケミカヅチ、てめーがダメだ」

「備考のとこにちゃんと書いてあんな。主神のことをどう思いますか? という質問に顔を真っ赤に染めてあたふたしていたっと」

「ちっ、やっぱりか!」

「このロリコンめッ!」

「な、なに言ってんだ、お前ら!?」

「ああ、この想い届かぬというならいっそこの手で……フヒヒ」

「てめぇ等ぁ……!?」

 

 だが、神が思い付くような考えをトキが考えつかないはずもなかった。

 

「よし、命ちゃんに引導を渡すのらオレだ!【 未来銀河(フォーチュンギャラクシー)】!」

「ミコトちゃん、君はいい女の子だったが、君の主神がいけないのだよ。【零落聖女(ラストヒロイン)】」

「おい、よせっ、止めろ! 命はっ、命は手塩にかけてここまで育ててきたんだぞ!?」

「知ってる。だって主神の一言のとこに書いてあるもん」

「【天使(テ・シーオ)】」

「「「「「それだ」」」」」

 

 少数のまともな意見も出るが全く相手にされなかった。

 

「じゃあ、命ちゃんの称号は……【絶†影】に決まりで」

『異議なし』

「うわぁ、うわぁあああああああああああああああああっ!?」

 

 その後も新参の【ファミリア】の眷族の命名が続き、その度に神が崩れ、笑いが溢れる。

 

 その後は都市上位の【ファミリア】の構成員の番となる。その間美の神2柱による不毛な茶番があったが、ロキは気にせず会を進めていく。

 

「今度の冒険者は……ぬふふっ、大本命、うちのアイズや!」

「【剣姫】キタァー!!」

「姫は相変わらず美しいな」

「ていうかもうLv.6かよ……」

「インタビューは……遠征時期と被り、できませんでした? なんだこれ?」

「なんでもこの資料、3日で作ったらしいでー」

「嘘、だろ……」

「これを3日で?」

「じゃあ仕方ない、のか?」

「ていうかこの主神の一言。『結論。アイズたんはうちの嫁っ!!』てのはなんだ?」

「馬っ鹿、裏とその次のページにびっしり書いてあるだろっ?」

「あ、本当だ」

「ていうかアイズちゃんは別に無理に変えなくていいんじゃないか?」「だな」

「変えるとしたら、【剣聖】とか?」

「アイズたんのイメージとはちょっと違うだろ、それ」

「まぁ、最終候補は間違いなく【神々(オレたち)の嫁】だな」

「「「「「「「だな!」」」」」」」

「殺すぞ」

「「「「「「「すいませんでしたぁぁぁ!!」」」」」」」

 

 そんなやり取りがありつつも、命名式は最後の冒険者に差し掛かった。【ヘスティア・ファミリア】所属、ベル・クラネル。

 

 その名前を呼んだ後、ロキは静かに立ち上がった。

 

「……ロキ?」

「二つ名決める前になぁ、ちょっと聞かせろや、ドチビ。1ヶ月半で『恩恵』を昇華させるちゅうのは、一体どういうことや? 」

 

 そこから始まるロキの詰問にヘスティアは汗をだらだらと流す。ベルの成長の秘密、成長促進スキル【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】は間違いなくレアスキルだ。さらに資料には本人は成長スピードの秘密を知らないと言っている、とまで書かれている。

 

 言葉巧みに誘導され、万事休すか、と思ったその時、

 

「あら、別にいいじゃない」

 

 思わぬ方向から援護が来た。声の主、フレイヤはさらにベルを弁明していく。さらにそれを裏付けるかのように資料にもベルの【ランクアップ】に関する考察が書かれていた。

 

 結果、ベル・クラネルの実態を無理に暴く必要はない、というのが、一部を除いたこの場の総意となった。

 

「あれ、フレイヤ様帰んの?」

「ええ。今から急用があるから、失礼させてもらうわ」

「せっかくだし、ロリ神の眷族()の二つ名決めてからにしない? 最後の最後だしさぁ」

「ふふ、悪いけれど、そういうわけにもいかないの。でも、そうね……どうせなら、可愛い名前を付けてあげてね?」

「「「「「「「「オッケーッ!!」」」」」」」」

 

 女神の今日一番の微笑みに男神達が清々しい笑みを浮かべた。

 

「よし、ちょっと本気出して二つ名決めるか」

「おうとも」

「しかしこのヒューマン……完全にノーマークだったなぁ」

「その割には資料にはそこそこ書いてあるな」

「ヘルメス、どういうこと?」

「ああ、資料を作った子はこのベル君とパーティを組んでいるんだ」

「あー、なら納得だわ」

「ていうかオレらすら注目してなかったのに先取りとは……」

「本当に何者なんだ、【シャドー・デビル】……!」

 

 トキに対する神々の感心がさらに高まった。ちなみに【シャドー・デビル】は正式なトキの二つ名ではない。トキの噂を聞いた人達が勝手に呼び始め、それが神々に伝わった結果だ。

 

 あーでもないこーでもない、と論じ合いが続いていく。過去最長に議論されているのではないかというくらい真剣に話し合われる。そして、

 

『『『『『『『決まったぁー!!』』』』』』』




最後の方はけっこうはしょりました。原作通りだったので。

作者の進みたい方向とキャラの心情が一致していないという指摘を受けました。確かにご都合主義になってしまったり、発想力を言い訳にする作者の設定の練り込み不足もあります。

ですが前回のトキがベルに対する態度に関してだけは言い訳させて下さい。あの時のトキは(ダジャレじゃないよ!)3徹明けのテンションだったんです! なので意識が若干曖昧だったり、一方的に気まずいはずなのにベルに普通に接したのです!

はい、言い訳終わりです! 不満があったら感想欄で批判してください! できればどうすればもっとよくなるかも付け加えて下さい! 他力本願で本当にすいません!

ご意見、ご感想、ご批判お待ちしております。またアンケートの方もよろしくお願いします。

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