冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
というかサブタイトルの適当感が半端じゃない……。本当にサブタイトルって難しいですね。
『深層』のモンスター、『
そんな俺にかつてない強敵が立ちはだかった。この敵の前では俺は、いや第一級冒険者でさえも手も足も出ないだろう。さらにこの敵の前では俺のスキル、【
戦いは3日3晩続いた。何度膝を折りそうになったことか。何度諦めようと思ったことか。だが、俺はトキ・オーティクスの名にかけこの敵に負ける訳にはいかなかった。
あらゆる知識を、あらゆる技を、あらゆる力を、それこそ14年間生きてきた全てを出しきり俺は敵に立ち向かった。
そして今、ようやく勝機を見いだすことができた。さあ、後はこれを……
「あれ? トキ、何してるの?」
突如声をかけられた。振り返って見ると、私服姿のベルがいた。
「よお、3日ぶり」
「うん。で、なんでその格好をしているの?」
「これか?」
己の体を見下ろす。今の俺は私服姿でも、冒険者の鎧姿でもない。
ギルド職員が着るスーツ姿なのだ。自分ではなかなか似合っていると思うのだが、どこかおかしいだろうか?
「なんでと言われると……今俺ギルドの手伝いをしてるからな」
「ギルドの手伝い?」
「ああ、ほら今日って3ヶ月に1回行われる『
「へ~」
「そういうお前はなんか嬉しそうだな」
声をかけてきたベルはどことなく嬉しそうな顔をしている。
「あ、わかる?」
俺が指摘するとベルは満面の笑みを浮かべた。訂正、ものすごく嬉しそうだ。
「なんかいいことあったのか?」
「うん、えーっとねぇ……」
少し考えた後、
「やっぱりギルドで話すよ」
と珍しくもったいぶった。
「なんでだよー」
「エイナさんに報告するからそのついでに教えてあげるよ」
……なんだろ今ものすごく嫌な予感がした。
ベルと並んでギルドまで歩く。心なしか俺の足取りが若干早歩きになる。
ギルドにたどり着くと中は大勢の冒険者で溢れていた。
「す、すごい人だね」
「『
俺の言葉にベルが顔を引き締める。ミノタウロス。3日前俺とベルが倒したモンスター。だがその1ヶ月前にもミノタウロスは上層に進出している。
Lv.2のミノタウロスが上層に進出したら、上層を主な活動場所にしている多くのLv.1の冒険者にとっての死活問題となる。
故に冒険者達はこうしてギルドで情報を集めているのだ。
「で、でもこれじゃあエイナさんのところにいくのも難しいね……」
「何を言ってるんだ? 人の動きを読み、流れを見出だせば簡単に行けるぞ? 戦いと同じだ」
「えっ、そうなの?」
「今のお前ならできる。自信を持って飛び込むぞ!」
「え、あ、ちょっと、待ってよー!」
するすると冒険者達の間を抜け、カウンターまでたどり着く。
「ミィシャさん、ヤマト・命さんへのインタビュー、終わりました」
「御苦労様。なんとか間に合いそうだね」
「あ、エイナさん。さっきベルに会いましたよ」
「え、本当に!?」
「ええ、もうすぐ来ると思います」
後ろを見るとちょうどベルが人混みを抜けて来るところだった。
「や、やっと出られた……」
「こんなことで苦戦しているようじゃまだまだだな」
「トキと同じにしないでよー」
ベルの文句を受け流し、ミィシャさんに持っていた資料を渡す。受け取ったミィシャさんはそれを確認したあと、小山になっている書類の上に乗せてそれを抱え立ち上がる。
「じ、実はですねっ……」
「うん」
隣ではベルが満面の笑みでエイナさんに先程もったいぶった話をするところのようだ。
「僕、とうとうLv.2になったんです!」
足元が崩れる音がした。頭に衝撃が走る。
「え、だ、大丈夫、トキ!?」
ベルが何か言っているが、耳に入ってこない。今俺は必死にベルが言ったことを理解しようと頭をフル回転させていた。
ベルが、Lv.2になった? つまり、【ランクアップ】した?
ばっとギルドにかけてある掛け時計を見る。午前8時37分。『
まだだ。まだ終わらないっ!
「ベル、この後の予定は!?」
「え、えーっと、エイナさんに発展アビリティについて相談したあとホームに戻る予定だけと……」
「ならエイナさんに相談したあとここに残っていてくれっ! すぐに戻る!」
カウンターを飛び越え、奥にある紙を取る。それは今日の『
「ミィシャさん、神ヘスティアへのインタビュー、行ってきます!」
カウンターを飛び越え、さらに冒険者の人混みを影を用いた三角跳びで飛び越える。
慢心していたっ。まさか
ギルドを跳びだし、【ヘスティア・ファミリア】のホームへ向かう。今日は『
屋根に跳び移り、そこから一直線に目的地へ向かう。
まだ負けた訳じゃない。俺は
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「ぐ、時間をかけすぎたか」
さすがはベルを溺愛しているヘスティア様。一言と言ったのに30分もベルについて語ってくれた。いや、俺が途中で止めなければもっとかかっていただろう。
情報は多い方がいいが、今回ばかりは勘弁して欲しかった。時刻は9時17分。来るのに10分ほどかかったから帰りはもっと急がなくてはならない。
教会の屋根に跳び移り、ギルドに向けて一直線に移動する。そもそも、なぜこんなに忙しいか。それは一重にミィシャさんが資料を3日前にまっっっっったく作っていなかったからだ。
俺はこの資料作りの仕事をする時、いや『
いくら信頼されても、仕事を疎かにするとその信頼は直ぐ様崩れてしまう。しかも今回は冒険者やダンジョンを管理する
死力を振り絞り、ギルドにたどり着く。行きと同じ要領でカウンターの前に着地する。突如現れた俺にミィシャさんと、彼女と話している冒険者が驚くが、そんな事を気にしている余裕はない!
「ミィシャさん、ベルは!?」
「エ、エイナと一緒に面談室に……」
「ありがとうございます!」
人混みを飛び越え、面談室の前に着地。ノックする。中からエイナさんが出てきた。
「エイナさん、今いいですか!?」
「ト、トキ君。お、落ち着いて。ね?」
エイナさんに言われて気づく。今の俺は息が乱れ、スーツのネクタイも曲がっている。とてもギルド職員には見えない。
ネクタイを引き締め、呼吸を整える。……よし、完璧だ。
「エイナさん、ベルは?」
「うん、今終わったから」
「わかりました」
エイナさんとすれ違いに面談室に入る。そこにはベルが難しい顔で悩んでいた。
「ベル、今いいか?」
「あ、トキ。うんいいよ」
ベルの許可をもらい向かいの席に座る。ここからはギルド職員としての仕事だ。
「ベル・クラネルさん、この度は【ランクアップ】おめでとうごさいます」
「……何? その喋り方?」
「……ギルド職員としての口調だ。暫く付き合ってくれ」
「わ、わかった」
影から用紙とペンを出し、机に置く。
「今回は初の【ランクアップ】となりますからいくつか質問をさせていただきます。答えたくなかったら拒否しても構いません。よろしいでしょうか?」
「う、うん」
「ありがとうございます。ただしこの質問は今回の『
「わ、わかった」
「ではまず最初に。貴方が冒険者になったきっかけはなんですか?」
「き、きっかけっ?」
「はい」
「えーっと」
しどろもどろしながらベルは考える。まあ、ロマンを求めてー、なんて言えるわけないもんな。
「祖父が……育て親が、亡くなる前に言ってて……『オラリオには何でもある。行きたきゃ行け』って」
「ふむふむ」
「オラリオにはお金も、その、可愛い女の子との出会いも、何でも埋まってる……何だったら
……ベルのお祖父さんいったい何者だっ。
「英雄にもなれる。覚悟があれば行け。そう言われたんだ」
「なるほど。それでオラリオに来て冒険者になったと」
一語一句間違わないように書き写す。後で見やすいようにまとめるものも作るが、こうした本人の言った言葉も『
「それでは次に【ランクアップ】した今の心境をお聞かせください」
「えーっと、とにかく嬉しい、かな? ようやく目標に明確に1歩近づけたっていうか……」
「その目標とは?」
「えーっと……ノーコメントで……」
「わかりました」
まあ、知ってるんだけどね。すらすらと書いていく。テンプレートは一応終わりだ。ここからはギルド職員として俺が疑問に思ったことをきく。
「クラネルさんは1ヶ月半という驚異のスピードで【ランクアップ】を果たしましたがその成長に秘訣とかはありますか?」
「特にはないけど……強いて言えば努力かな?」
「わかりました」
やっぱりベルは自分の成長スピードの速さの秘密を知らない。となるとヘスティア様が意図的に隠しているようだ。資料に書いておこう。
「これにて質問は終りです。御協力ありがとうございました」
「な、なんか疲れた……」
「そう言うな。俺はこれからこの資料のまとめ、印刷の作業が残っているんだからな」
そう言って立ち上がる。
「あ、そうだ。今日【ランクアップ】のお祝いを『豊穣の女主人』ですることになっちゃったんだけど、トキも来ない?」
「なっちゃった、ってことはシルさんに押しきられたな?」
「……うん」
「わかった。その頃には仕事も終わっているだろうから行くよ」
「ほ、本当!?」
「俺が行かないと男がお前一人になりそうだからな。じゃあ今日の夜な」
そう言って面談室を出る。
時計を見る。9時39分。
さあ、最終決戦だっ!!
次回は『神会』の話をします。お楽しみに。
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