冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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予告通りベルsideから。

ところで今日書店に行ったらもうダンまち8巻が発売しておりました。分厚っ、と思いながら読破した感想は……やば、これリリの話出来なくね? です。……本当にどうしましょうか?


意地

 ベルside

 

 体が動かなかった。トキにはああ言ったけど、やっぱり怖かった。

 何度他のモンスターにその姿を重ねたであろう。何度夢に出てきただろう。何度アイツを怖がっただろう。

 それほど僕にとってミノタウロスは悪夢の象徴だった。

 

 けどトキが言った言葉、リリが死ぬ。それだけはもっと怖かった。魔法で牽制し、なんとかリリを行かせた後、僕はアイツが振るった大剣に捕まった。

 

 アイズさんとの訓練のおかげで生き残った僕は、それでもそこから動けなかった。

 

 そこに現れたのはトキだった。トキは僕の心配をして、外傷がないことに安堵すると、ミノタウロスに向きあった。

 

「待ってろ、ベル。俺が、必ず守る」

 

 守、る?

 

 誰が? ──トキが。誰を? ──僕を。

 

 そう考えた瞬間、頭が真っ白になった。次いで湧き起こってきたのは、自分への怒り。

 

 誰かに守られたい。誰かに助けて欲しい。

 

 トキは確かに強い。僕よりもはるかに強い。

 

 けど、だけど、ただ守られるのは嫌だっ! 僕は、トキの親友なんだっ! 対等な存在なんだっ!

 

 なによりトキだけには、親友(トキ)だけにはただ守られるのは嫌だっ!

 

 いつまで寝てるんだっ。立ち上がれっ。立って戦えっ。僕は、冒険者だろっ!!

 

 四肢に力を入れ、立ち上がる。僕と同じくらいの腕を掴む。驚愕するトキに向けて声を絞り出す。

 

「……いかないんだっ」

 

 自分を鼓舞するように叫ぶ。

 

「君だけには、助けられる訳にはいかないんだっ!」

 

 トキの前に出てミノタウロスと対峙する。プロテクターに収納していた《バゼラード》と腰の《神様のナイフ(ヘスティア・ナイフ)》を抜刀する。

 

「勝負だッ!……」

 

 地面を蹴り、ミノタウロスに向かって駆け出す。

 

 冒険をしよう。譲れない思いのために。

 

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 最初は羨ましかった。自分と仲間。同じ歳なのに経験してきたものが違った。

 

 僕の世界はあまりにも狭かった。彼と一緒にいるとそう痛感させられる。

 

 だからあの日、親友だ、ライバルだって言われた時、本当に嬉しかった。同じ冒険者だって言われた時は涙が出るくらい嬉しかった。

 

 だから僕は、英雄になりたい。

 

 妄想とか虚栄心とか不相応な願いなんかじゃない。

 

 コイツを倒せるような、ライバル(トキ)と並び立てるような、そんな英雄になりたい。

 

 弱い自分を奮い立たせ、強い英雄みたいな男になりたい。心の底からそう思った。

 

 僕は、英雄になりたい。

 

 Sideout

 

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 剣撃が鳴り響く。一方的ではない、お互いの命をかけた真剣勝負。それは僅かにベルの方が優勢だった。

 

(図体に、騙されるな!)

 

 恐怖を振り払ったベルはその目からあらゆる情報を読み取っていた。

 

 頭は今まで以上に鮮明であり、体は自分のものではないのではないか、というほど軽い。

 

(ただでかいだけだ! よく見ろ、目を瞑るな!)

 

 多少の知性はあるようだが常に全力で動く相手はベルでも先読みできてしまうほど雑だった。

 

(コイツより速い相手と、コイツより巧い相手と、何度も戦ってきただろう!)

 

 相手の動きを予測し、どう弾くか、どう移動するか。トキとの対人訓練がここに来て力を発揮した。

 

『相手の思う通りに攻撃させない。相手の思う通りに動かせない。潜在能力(ポテンシャル)で上回られてる相手と戦う時の基本みたいなものだ』

 

 僅かでもいい。相手が振りにくいように弾く。相手が動こうとする位置に移動する。徐々に自分のペースへと持っていく。

 

 しかしベルは攻めきれていなかった。《バゼラート》ではミノタウロスの大剣を弾けないため、必然的に大剣の迎撃は《ヘスティア・ナイフ》で行う。隙を見て《バゼラード》を叩き込むも弾かれる。

 

 徐々に焦りが込み上げてくる。

 

『対人戦にとって一番重要なのは冷静であることだ。己を律し、冷酷なまでに冷静でいろ』

 

 親友に言われたことを思いだし、焦りを抑える。

 

 体力は自分も向こうもほぼ万全だ。持久力はあちらが上だろうが、常に全力で動いているから体力が尽きるのはほぼ同時だろう。

 

(まだ勝負に出るのは早いっ)

 

 相手を観察し、体力の消耗を抑える。今は耐える時間だ。チャンスは必ずくる。ベルはひたすら大剣を弾き続けた。

 

 

 

  一方、トキのもとへアイズとリリが到着していた。正確には助けに入ろうととしたアイズをトキが止めた。

 

「どうして止めるのですか、トキ様っ! このままではベル様が──」

「よく見ろリリ」

 

 アイズの視線の先、ミノタウロスと戦うベルは決して劣勢ではなかった。

 

 一撃でも食らったら沈むであろう大剣による攻撃を、己のナイフで弾き、回避する。

 

「あれは、ベルの『冒険』だ」

 

 真っ直ぐに戦況を見つめるトキ。それを聞いてリリは言い返せなくなった。

 

「これだから冒険者は……」

 

 口癖で悪態をつき、心配するようにその目をベルに向けた。

 

 暫くすると今度はティオナを始めとする【ロキ・ファミリア】の幹部の面々が現れた。ただベートだけボロボロだったが。

 

「よお蛇野郎。生きてやがったか」

「どうしたんですか、その傷? 転んだんですか?」

「ちげえよ」

 

 目線を逸らさず悪態を付き合う。自然と【ロキ・ファミリア】の面々の視線も繰り広げられるベルとミノタウロスの攻防に向いた。

 

「おい」

「なんですか?」

「あれは、何が起こりやがった」

 

 ベートが声に動揺を乗せながら訊ねた。

 

 ベートは戦っているベルに見覚えがあった。今から1ヶ月前、アイズが助けた駆け出しだった。ムカつくやつ(トキ)と違って正真正銘の素人だった。

 

 1ヶ月。たった1ヶ月である。どんなに才能があっても1ヶ月という期間はあまりにも短い。

 

 だが、目の前で攻防を繰り広げている少年は紛れもない新人冒険者(ルーキー)だった。

 

「どういうこと?」

 

 トキとベートのやり取りを見ていたティオナが訊ねた。

 

「あの白髪、1ヶ月前にアイズが助けたトマト野郎だ」

「え、で、でも」

「それって……」

「僕の記憶が正しければ……」

 

 ベートは動揺を必死に隠し、背後を見る。フィンが得物である槍を担ぎながら隣に立った。

 

「1ヶ月前、ベートの目にはあの少年がいかにも駆け出しに見えたんじゃなかったのかい?」

「だからそこの野郎に聞いてんだよ」

 

 ベートの視線がトキに向く。

 

「ええ、あいつは1ヶ月半前に農民から冒険者になった正真正銘の駆け出しですよ」

 

 その言葉に【ロキ・ファミリア】の面々は息を飲んだ。

 

「証拠は?」

「俺が冒険者登録をした時に一緒に手続きしましたから。ギルドに確認すればわかりますよ」

「んなこと聞いてねぇよ」

 

 誰もが動揺する最中、ベートだけが鋭く突っ込んだ。

 

「あれに何が起こったのかって聞いてんだ」

「それは俺にもわかりません」

 

 ただ1度も目を逸らさず、淡々と答える。その目にはある種の憧憬が混じっていた。

 

「まあ俺から言えることは。あり得ないほどの成長スピードをひっくるめてあいつの才能ってところですかね」

 

 トキの言葉にベートは口を閉ざした。そして精鋭である【ロキ・ファミリア】の冒険者達はその戦いを見守った。

 

 確かに拙い戦いだ。彼らと比べるのもおこがましいほどレベルが低い戦い。だが、それでも彼らの足を止める何かがそこにはあった。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオッ!』

「あぁあああああああああああああっ!」

 

 一人と一体が吠える。戦局が動く。

 

「『アルゴノゥト』……」

 

 ふとティオナが呟いた。

 

 その名は1つのおとぎ話に出てくるものだった。

 

 英雄になりたいと夢を持つ青年が、牛人によって迷宮に連れさらわれたとある国の王女を助けに向かう物語。

 

 滑稽で、カッコ悪くて、英雄譚ではなく、喜劇として有名な童話だ。だが、それでも、アルゴノゥトは確かに英雄だ。

 

「あたし、あの童話、好きだったなぁ……」

 




中途半端ですがここまでにします。

ちなみにアイズとリリが早くこられたのはベートがかんばって3人を相手どったからです。具体的には、分身とかして。リクエストをくれればそのうち書きます。

ご意見、ご感想お待ちしております。また、アンケートの法もよろしくお願いします。

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