冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

41 / 98
今回は短めです。


訓練終了

 夕日が射し込む倉庫内に激しい剣撃音が響く。

 

「うおぉおおおおおおおおおおおっ!」

「せあぁあああああああああああっ!」

 

 目にも止まらぬ速さで動く何かに影が縦横無尽に襲いかかる。しかし移動する何かは捕まらず、影の中心にいる少年に襲いかかる。一瞬の交差。その間に10もの斬撃が放たれ、内7を少年が捌く。

 

 さらに反転し、強烈な蹴りが放たれる。だがその蹴りは影によって補強された少年の後ろ回し蹴りに相殺される。

 

 距離を取る。互いににらみ合う。両者ともその格好はボロボロで、肩で息をしている状態だ。

 

 ふと、少年が呟く。

 

「この辺にしておきますか?」

「……ちっ、そうだな」

 

 互いに構えを解く。少年、トキは影から高等回復薬(ハイ・ポーション)を2本取り出し、内1本をベートへ放る。ベートは何も言わず高等回復薬(ハイ・ポーション)を掴み、蓋を開け、煽る。

 

「結局、殺せませんでした。やっぱり腐っても第一級冒険者ってところですか」

「けっ、よく言うぜ。その第一級冒険者の訓練についてこれるてめえは一体なにもんだって話になるが?」

「それはほら、企業秘密です♪」

「……ぶっ殺すぞ」

「あれれ~? いいんですか~? 【ロキ・ファミリア】の幹部ともあろう人が遠征前に疲れを残すようなことをして~」

「くそっまじでムカつくっ」

 

 煽るトキとそれを睨むベート。実際に先ほどまでふたりは訓練という名の殺し合いをしていた。しかし、やはり訓練だと思っていたようで、第一級冒険者とそれに準ずる力を持つ冒険者の殺し合いにも関わらず、ふたりとも存命していた。

 

「んじゃ俺はもう行く。疲れを残したくねぇし、てめえの顔もしばらく見たくねぇ」

「それはこちらの台詞です」

「けっ、やっぱりてめえは気に食わねぇ雑魚だ」

 

 そう言ってベートは倉庫を出ていこうとする。

 

「ベートさん」

 

 その後ろ姿をトキが止めた。顔をそちらに向けず、ベートは立ち止まった。

 

「ご武運……いえ、俺に殺されるまで死なないでください」

「はっ、てめえこそ俺に殺されるまでくたばんじゃねぇぞ」

 

 今度こそベートは倉庫から出て行った。

 

 ------------------

 

 日が完全に沈んだ頃、トキはレフィーヤと共に自宅にいた。今日は【ロキ・ファミリア】の遠征前日と言うこともあり、夜の訓練は休みだ。その辺はベルにも伝えてある。

 

「ていうかここにいて良いのかよレフィーヤ」

「うん、ロキや団長にも許可は取ってあるし、遅くならなきゃ大丈夫だよ」

 

 前回もこんなやり取りしたなー、とボーッと考える。

 

「明日は見送りに行こうか?」

「ううん、見送りに来られるとみんなにからかわれそうだし、それに……」

「それに?」

「トキと会っちゃったら遠征前の緊張感がなくなっちゃいそうだから」

「なんだよそれ」

 

 苦笑するトキに微笑むレフィーヤ。前回とは違う桃色の空気が部屋を充満していた。

 

「それじゃあそろそろ帰るね」

「送ってくよ」

「ううん、それもいい。今みんな遠征前でピリピリしてるから」

「……そっか」

 

 玄関まで送り、レフィーヤが家を出る。

 

「じゃあまたね」

「ああ」

 

 踵を返し立ち去ろうとするレフィーヤ。

 

「レフィーヤ」

 

 素早くその背後に立ち、振り向かせる。

 

「え?」

 

 疑問を浮かべるその唇に己のそれを重ねる。少し歯が当たったが、柔らかい感触がした。

 

 呆然とするレフィーヤから離れる。トキの顔は真っ赤だった。

 

「……がんばれよ」

 

 短くかつ小さく激励の言葉を言い家に戻るトキ。レフィーヤはトキと同じように耳まで真っ赤に染め、しばらくボーッとしていた。

 

 ------------------

 

「ベート、いったいどんな自主練したんや?」

「いいから【ステイタス】を教えろ」

「熟練度上昇トータル120くらいやなー」

「ちっ、そんなもんか」

「いやいや、そのレベルでこんだけ上がんのはむしろ異常や。さあ、どんな自主練したんや?」

「ぜってー教えねぇ」

「なんやなんや! ベートのいけずー!」

「勝手に言ってろっ!」

 

(次に機会があったらぜってー殺してやる)

 

 ------------------

 

「ふー」

 

 レフィーヤに不意打ちでファーストキスをしてしばらく経った後、トキは先ほどとは打って変わって凍えるような目をしていた。

 

 その脳裏にあるのは3日前に出会ったかつての育て親。あれの目的が何なのかであった。自分が目的ならそれはそれで面倒だが、もし違う目的ならやっかいだ。いずれにせよ後手に回る可能性が高い。

 

 一応昨日の仕事の日にオラリオ全体に捜索を要請したが、効果はまずないと見ていいだろう。あれはクズだが、エルフであり、トキに暗殺の手解きをしたプロだ。そうそう見つかるとは思えない。

 

 更に、来たばかりで準備をすると言っていた。あいつの準備は短くても3週間、かかって半年と意外と長い。

 

 だからしばらくは大丈夫。その間にできるだけ強くなる。どんな()()を作ろうとも全て破壊する。この6年間で培ったものを、手に入れたものを、愛する人を守るために。

 

 トキは決意を新たにした。




「緊急アンケートッ! 皆さんこんにちはトキ・オーティクスです。いつも『冒険者に憧れるのは間違っているだろうか』を御覧いただきありがとうございます。
今回、感想にあるリクエストが入りました。それは……俺と第一級冒険者が灰になるまで燃え尽きるような熱いバトルが見たい、という内容です。……ぶっちゃけて言いますと冗談じゃないですよ。普通に死にます。もう帰ってもいいかな……? ……え、だめ? いやそこを何とか……わかったよ。やるよ、やればいいんでしょ。というわけで今回のアンケートでは対戦する第一級冒険者を募集します。
ちなみに断りを入れておくと、作者はダンまち7巻、ソード・オラトリア4巻までの情報しかありませんのでそこのところよろしくお願いします。
アンケート締切は6月20日までを予定しています。ぜひ活動報告の方にコメントしてください。また、リクエストに関してはいただければできるだけ応えていきたいと作者は言っています。
その際、今回のようにアンケートをとる場合があるかもしれませんがご協力してくださるとありがたいです。……ていうか協力してくれないと考えられないんだよ、作者は。ほんと発想が貧相なんだよなー。

また、ご意見、ご感想お待ちしております。以上、【ヘルメス・ファミリア】所属、第三級冒険者、トキ・オーティクスでした」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。