冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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【ステイタス】

 それなりの広さを持ちそれなりに外観を飾りそれなりに存在感を放つ石造りの館。それが俺が所属する【ヘルメス・ファミリア】のホームだ。

 

 総合するとそれなりの建物という評価が付くが、実は造りはしっかりしていて、小さな砦くらいの頑丈さがある。一見大したことなさそうだが中身はとんだ食わせもの。まさにこの館の主神みたいだなー、という感想を持ちながら、ホームに入っていく。

 

「あ、おかえり。早かったね」

 

「ただいま、メリルさん」

 

 ホームに入ってばったりと、 小人族(パルゥム)の女性と出くわした。メリルさんはこの【ファミリア】に所属する人で俺の先達の1人。魔法の威力ならこの【ファミリア】1、2を争うほどの実力者だ。

 

「ヘルメス様は?」

「奥の部屋にいるよ」

「ありがとございます」

 

 メリルさんにお礼を言い、早速奥の部屋に向かう。

 目的の部屋の前にたどり着き、ノックする。

 

「ヘルメス様、トキです」

「ん? ああ、入っていいよ」

 

 木製の扉を開け、中に入る。そこに目当ての(人物)はいた。

 

 この部屋を一言で表すのなら地図の部屋。様々な地図に囲まれながら目的の人、ヘルメス様は1人チェスをしていた。その手を止め、彼は俺に向き直る。

 

「早かったね、何かあったのかい?」

「5階層でミノタウロスに追いかけ回されました」

 

 空気が、凍った。

 

「……ミノタウロスって、あのミノタウロス?」

「はい、牛面、人型の魔物で本来なら『中層』に出てくるミノタウロスです」

 

 あ、来るな、と思いながら自分が体験したことの端的を話す。予想を裏切らず、ヘルメス様は大笑いしだした。

 

「ははははは、ははははは! ミ、ミノタウロスって、ははははは、ははははは!」

「わ、笑うのはいいですけど、こっちは死にかけたんですからね!」

 

 急に恥ずかしくなり、主神に言い返す。ヘルメス様はひとしきり笑うと目に涙をためながら、席を立つ。

 

「なるほどねー。それでこんなに早かったんだ。じゃあ今日の【ステイタス】更新しちゃうか」

「はい、お願いします。今日はさんざん走り回ったから敏捷の伸び具合には自信がありますよ」

 

 上着を脱ぎ、部屋にあったソファに寝そべる。ヘルメス様が懐から針を取りだし、自らの指を刺す。すかさず俺の背中に指を滑らせ、刻印を施していく。

 冒険者は少なくともどこかの【ファミリア】に所属し、そこの主神に【ステイタス】-『神の恩恵』を授かる。この地上にて神々が唯一行使することを許される『神の力』。授けた者の歴史を刻みその経験にあった能力を引き出す奇跡の力。

 

 ……どうでもいいけど初めて【ステイタス】を刻まれた時、神様の血も赤いんだなー、て思った。ヘルメス様とか見てるとなんか黄色とか緑色とか想像してたから地味に驚愕だった。

 

【ステイタス】を更新させられながら今日あった出来事の詳しい内容を話す。こういった話はヘルメス様の、というか神々の大好物だ。俺も話すのが好きだ。俺の中ではヘルメス様は恩人であり、恩師であり、父親みたいな存在だ。絶対口では言わないけど。絶対。

 

「終わったよ。んー、やっぱり敏捷が凄いなー」

 

 上着を羽織、ヘルメス様が用意した俺の【ステイタス】が写された用紙を見る。ちなみに共通語(コイネー) ではなく神々が使う【神聖文字(ヒエログリフ)】で書かれている。理由としては【神聖文字】の読みの練習だ。人間学んだことがいつ役に立つかわからないから出来るだけ多くの経験をしとけ、というのがヘルメス様の持論だ。

 ちなみに他の人はこういったことはしてないらしい。つまりこんなことされるのはこの【ファミリア】で俺だけだ。解せぬ。

 

 まあそんな事より、【神聖文字】を解読した俺の新しい【ステイタス】は……

 

  トキ・オーティクス

  Lv.1

  力:H103→H105 耐久:I15→I16 器用:H126→H130 敏捷:H130→H154 魔力:G214→G225

《魔法》

【インフィニット・アビス】

 ・スキル魔法。

 ・『神の力』の無効化。

 ・詠唱式【この身は深淵に満ちている 触れたものは漆黒に染まり 映るものは宵闇に堕ちる 常夜の都、新月の月 我はさ迷う殺戮者 顕現せよ 断罪の力】

《スキル》

【果て無き深淵】

 ・スキル魔法。

 ・『神の力』の無効化。

 

 まあ、順当な【ステイタス】だ。若干魔力の伸びがすごいが。

 

「君を見てると本当に飽きないな」

 

 ヘルメス様がニコニコしながら言ってくる。まあ理由はわかっているが。

 

 スキル魔法。スキルと魔法の欄を1つずつ埋めているものだ。

 

【インフィニット・アビス】、【果て無き深淵】。この2つは実際には同一のものだ。ただ【インフィニット・アビス】は詠唱すると威力や質量が10倍ほどに跳ね上がる。物心つく前から持っていたスキル魔法。これの最大の特徴は『神の力』の無効化。つまり、相手の【ステイタス】を無視して攻撃することができる呪いの加護。俺が暗殺者時代に冒険者を殺すことができた最大の理由だ。

 

 ちなみに無効化であって無力化ではない。無力化だとそもそも俺に【ステイタス】を刻むことすら出来なくなる。

 

 こんな【ステイタス】だから俺はいつまでたってもベルの前で本気が出せない。出してしまうとベルが不信に思い、そこからこのレアスキルが露見してしまう可能性があるからだ。……まあ、あいつに限ってそれはないと思うけど。

 

「では、ヘルメス様。失礼します」

「ああ。君の成長、楽しみにしてるよ」

 

 ヘルメス様にお辞儀し、部屋を出ようとする。

 

「ああ、そういえばトキ」

 

 扉に手をかけたところでヘルメス様に声をかけられた。

 

「なんですか?」

「君とパーティを組んでいる子、なんて名前だったかな?」

 

 ヘルメス様は俺に対しては何かと過保護だ。俺の身の安全をそれとなく気にかける。その理由が親心なのか、俺に何かしらの価値を見出だしているのかはわからないが。

 

「【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネルというヒューマンです。」

「……ベル・クラネル?」

 

 すると、ヘルメス様の雰囲気が変わった。

 

「間違いないのかい?」

「はい」

 

  返事をするとヘルメス様は何やら考え出した。ベルを知っているのか?

 

「トキ」

「はい」

「その子、絶対に手放すなよ」

 

  いつになく真剣に下される、主神の命令。それに対し俺は口端を釣り上げ……

 

「もとよりそのつもりです」

 

 と返答する。ヘルメス様もその言葉に口元を緩めた。

 

「それは良かった。そうそうついでにアスフィを探して来てくれ」

「どこかに出かけるんですか? 確か次の『神会(デナトゥス)』には出席するって言ってましたよね?」

「今回はすぐ戻ってくるさ」

 

  そういうとヘルメス様は何やら準備を始める。この人の行動(わがまま)はいつも突然だ。そしてそれに付き合わされるのが我が【ファミリア】団長、アスフィ・アル・アンドロメダだ。

 

  心の中で彼女に同情しながら俺は部屋を後にした。




【果て無き深淵】は鋼の錬金術師に登場するホムンクルス、プライドの能力をイメージしました。まああんなにチートではないですけども。というかそれをしてしまうとただの俺TUEEEE! になってしまいますから。ちなみに弱点もあります。それはまた後の話で。

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