冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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今回の話は書くか迷いました。書かなくても問題ないし、むしろ書かないほうが今後の展開的には楽なのですが、やっぱり書くことにしました。

それではどうぞ。


相談

「それではヘスティア様、ベルに伝言お願いします」

「ああ、わかってるさ」

「では。朝方から失礼しました」

 

 ヘスティア様にお辞儀し、【ヘスティア・ファミリア】のホームである教会を出る。

 

 ベートさんとの訓練2日目の朝。ベートさんとの訓練のため、1週間ほどダンジョンに潜れないのでベルにそのことを報告しようと、不躾を承知で訪ねてみたのだが、ベルは既に出た後だった。

 仕方なくいらっしゃったヘスティア様に伝言を頼み、家に戻る。

 

 時刻は7時過ぎ。既に太陽が顔を完全に出しているが、ベートさんとの訓練の時間にはまだ余裕がある。今から戻れば朝食を食べて倉庫に向かっても十分余裕があるだろう。……いや、あんまり食べ過ぎると吐く可能性があるからパン1個にしておこう。

 

 そう思いながら歩いていた時だった。中央広場で肩を落としながら歩いているレフィーヤを見つけた。昨日のこともあり、とりあえずお詫びと食事の約束を取り付けておこう。

 

「おーい、レフィーヤ」

 

 俺の呼び掛けにピクリ、とエルフ特有の耳が動き、こちらを向く。振り向いたその顔は絶望、という表現しかできないほど落ち込んでいた。

 

「ど、どうした!?」

 

 慌てて近より彼女にそんな顔をさせる原因を聞く。

 

「アイズさんが……」

「アイズさんが?」

「男と抱き合ってた……」

「……え?」

 

 アイズさんが、男と抱き合ってた?

 

「ええええええええ!?」

 

 早朝の中央広場に俺の絶叫が響き渡った。

 

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 いったん家に帰り詳しい話を聞く。

 

 レフィーヤによると、いつも通り詠唱の練習と魔法の勉強のために早起きした時にアイズさんがホームの塀を飛び越えて行くのを目撃。自分も塀を飛び越えて後を追った。

 

 北西区画まで追いかけられたのだがそこで見失い、途方にくれていたところに一人の冒険者と衝突。その冒険者にアイズさんのことを聞いてみると即座に逃げられたらしい。

 

 相手はLv.1だったようだがダイダロス通りで鍛えられていたのか、逃げるのがとても上手かったとか。

 

 それでも後3Mのところまで迫ったのだが途中で見失ったとのこと。その後、数時間探し回ったが見つからず、ふと気配を察知し路地から顔を出してみると……抱き合っているアイズさんと先程の冒険者を見つけたとのこと。

 

「……」

 

 なんて言うか……。

 

「なあ、レフィーヤ。本当にアイズさんはその冒険者と抱き合ってたのか?」

「……どういうこと?」

「話を聞いている限り、アイズさんと冒険者を見た時のレフィーヤは平静を失っていた。もしかしたら抱き合ってたように見えただけで本当は違うんじゃないか?」

「そう言われてみると……」

 

 レフィーヤが必死にその時の光景を思い出そうとしている。

 

「じゃあ具体的にどんな感じで抱き合っていたんだ?」

「えーっと……」

「正面からか?」

「……ううん、違う」

「じゃあ横から?」

「……うん」

 

 横から抱き合うって、何?

 

「……それって肩を貸してたんじゃないか?」

「肩を貸す?」

「そう。動けなくなったそいつにアイズさんは肩を貸していたんじゃないか?」

「……言われてみれば、そうかもしれない。ううんきっとそう。そうに違いない!」

 

 立ち上がり、拳を握りしめ顔を明るくする。よかった、気は晴れたみたいだ。

 

 それにしてもアイズさんが朝早くから抜け出したのはその冒険者に会うためで間違いないだろう。レフィーヤの話だとLv.1らしいし、一体どんな冒険者なんだ?

 

「なあ、レフィーヤ。その冒険者ってどんなやつだったんだ?」

「え? ちょっと待って。えーっと、確かヒューマンで……」

「ヒューマンで」

「髪が白くて……」

「髪が白い」

「目の色は深紅(ルベライト)で」

「ん?」

「後はそうそう、なんか兎っぽかったかな?」

「……あれ?」

 

 なんか俺の記憶の中に該当する人物が1名、存在した。

 

「もしかして……ベルか?」

「え、トキ、あの冒険者のこと知ってるの?」

「知ってるも何もいつもパーティ組んでるし」

「……え?」

 

 それから俺はレフィーヤに俺とベルとの関係を簡単に話した。その結果、

 

 ゴンッ。

 

 机が叩き壊されました。……あれれ?

 

 見るとレフィーヤは見るからに怒っていた。……どうでもいいけど端正な顔立ちをしているレフィーヤは怒っていても綺麗だな。

 

 

 

(う、羨ましいっ)

 

 その時、レフィーヤの中にあった感情は嫉妬であった。

 

(私だってトキと冒険したいのにっ)

 

 聞いた話だとトキとそのベルというヒューマンは同じファミリアではないらしい。

 

 やはりLv.か。Lv.が違うのがいけないのか。3日に1回は会えるが、逆にそのヒューマンはそれ以外でトキと会っているということだ。

 

 しかも今朝に限ってはアイズとまでいっしょにいた。憧憬と想い人。ふたりと密接に関わっているベルなる人物に怒りが沸いてくる。

 

(ベル・クラネル。確かに覚えたっ!)

 

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「は、はっくしょん!」

「……大丈夫?」

「は、はい、大丈夫です!」

 

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 ふと時計を見る。午前8時15分。ベートさんとの待ち合わせは9時。……ちょっとまずいかな?

 

「レフィーヤ、わるい。今日これから人と会う約束があるんだ」

「……さっき言ってたベル・クラネル?」

「いや、別の人」

 

 そう言いながらパンを口の中に放り込み、着替える。念のため回復薬(ポーション)精神力回復薬(マジック・ポーション)も余裕を持って影の中に入れておく。

 

「じゃあ悪いけど俺出るから」

「わかった」

 

 レフィーヤが立ち上がり玄関に向かう。……さて、机直しておかないとな。

 

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 太陽が顔を沈め、西の空がまだ若干明るいくらいの時刻。俺は体を引きずって帰路についていた。

 

 今日の訓練も死ぬかと思った。と言うか途中で足を折られかけたし。まあギリギリで回避したし、こっちも腕を折ろうとしたが。こっちも失敗したが。

 

 明日はどんな攻め方をしようか? いっそのこと新魔法を試して見るか? けどあれいまいち威力がなぁ。

 

 そんな事を考えながら家に近づいた時だった。見たことある人物が家の前に立っていた。あれ? なんか今既視感を感じたのだが?

 

「ここ、だよね?」

 

 というか、ベルだった。家の前でオロオロしている。

 

「何やってんだ、お前?」

「あ、トキ」

 

 困った顔から一転、ぱあぁっと笑顔になる。

 

「実はトキに頼みたいことがあるんだ」

「……とりあえず、中に入るか 」

「うん」

 

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 ベルの話によると彼は今日から1週間、アイズさんに冒険者としての戦い方の教授をしてもらうことになった。だがやはり第一級冒険者の指導はベルの想像をはるかに超えたものでボロボロにされてしまったらしい。

 

 そんな自分が惨めでとりあえず、アイズさんの指導とダンジョンにもぐる以外にも訓練しよう、と思ったらしい。

 

「で、俺のところに来たと」

「うん」

 

 確かに俺は冒険者に成り立てのころ、ベルに教授をしたことがある。

 

 しかしそれは簡単な短刀の振り方だけで、それ以外はなにも教えていない。というのも。

 

「なあ、ベル。俺言ったよな。俺の戦い方は冒険者の戦い方と違うからお前が望んでいるものじゃないって」

 

 いくら暗殺者を辞めたと言ってもその技術までは捨てていない。要するに俺の戦い方は根っこのところが暗殺なのだ。

 

「うん。でも、君しか頼れそうな人がいないんだ。それに-」

「それに?」

「……親友である君になら話せると思ったんだ」

 

 親友。その言葉に始めて損得なしに頼られているんだ、てことを意識した。

 

「……わかった」

「本当!?」

「ああ、とりあえず庭に出よう」

 

 庭に出た俺達はとりあえず軽く準備運動をした後、向き合っていた。

 

「前にも言った通り俺の戦い方は冒険者のものじゃない。暗殺者の戦い方だ」

「うん」

「だから戦い方はアイズさんに任せるとして、俺は人との戦い方を教える」

「人との戦い方?」

「そうだ。この戦い方は人間だけでなく、人型のモンスターにも有効になる場合がある」

「人型のモンスター……」

 

 その言葉にベルが反応する。おそらく、思い出しているのは……1ヶ月前のミノタウロス。

 

「そうだ。じゃ、早速始めるぞ。とりあえず短刀の鞘を構えろ」

「短刀の鞘?」

「ああ、鞘は短刀自体と違って武器として持ちにくい。それで武器を落とさない訓練をする」

「わかった」

 

 漆黒色の短刀を腰から抜き、家の壁に立て掛けるベル。俺も影から短刀の鞘を取りだし、構える。

 

「明日もアイズさんの指導があるからそれに疲れを残さない程度にやるぞ」

「わかった」

「ただ真面目にやらないとその分回復薬(ポーション)を使うはめになるから金が飛んで行くぞ?」

「その辺は大丈夫だよっ」

「じゃあ始めるぞ」

「うんっ」

 

 そうして、夜の訓練が始まった。

 

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「ところでトキ、1つ聞いていい?」

「なんだ?」

「あの真っ二つに壊れている机は何?」

「……諸事情で壊れたんだ」




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