冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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【ファミリア】

 怪物の宴(モンスター・パーティ)。突発的に起こるモンスターの大量発生。それにより冒険者達を絶望に突き落とす迷宮の罠(ダンジョン・ギミック)

 

 人生初となるそれにトキは一瞬思考が停止し、瞬間、

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 全方位から一斉に襲いかかられた。

 

「くっ……!?」

 

 襲撃者の方を見ると既に大空洞から離脱したようでその姿はない。

 

「無理無理無理っ、無理だってぇ!?」

「離れるなァ、潰されるぞ!?」

 

 咄嗟に集まっていたことが幸いしたのかパニックになるルルネをファドガーが一喝。なんとかそれ以上バラバラになることを防ぐ。

 

「どうするアスフィ!?」

 

 襲いかかってくるモンスターを迎撃しながらルルネが悲鳴に近い声で団長に指示を仰ぐ。

 

「この陣形のままモンスターを迎え撃ちます!」

 

 現在、トキを始めとする後衛を中心とした円陣を組み、モンスターを寄せ付けないようにしている。

 

「メリル、詠唱を始めなさい!!」

「で、でもっ!」

「これだけ密集していれば詠唱しようがしまいが変わりません!」

「わ、わかった!」

 

 メリルがアスフィの指示により短文詠唱を開始する。ネリーも武器を壊れた端から取り換え、円陣の中を走り回っている。

 

(俺だけ、何もしていない……)

 

 その事に腹を立て、震える手で腰のハルペーを持つ。

 

「ネリーさん、高等回復薬(ハイ・ポーション)を下さい。俺も戦い──」

「いえ、貴方はそこで休んでいなさい」

 

 ネリーに声をかけようとした瞬間、それをアスフィに止められた。

 

「な、なんでですか!? これだけの数です、戦えるやつは多い方がいいでしょう!?」

「確かにそうですね」

 

 モンスターの声が響く中、決して大声ではないアスフィの声が自然とこの場にいる全ての者の耳に入った。

 

「ですからこれは私の意地です」

「ど、どういうことですか!?」

「この食料庫(パントリー)に入ってから私は、私達は貴方に助けられてばかりでした」

 

【ヘルメス・ファミリア】の団員の頭にこの大空洞に来てからの光景が甦る。

 

 最初の死兵に始まり、モンスター、オリヴァス・アクト、巨大花。戦闘面で、精神面で自分達はトキに助けられぱなしだった。

 

「それは当然でしょう!? 仲間なんですから!!」

「ええ、私達は同じ【ファミリア】の仲間です。ですがそれ以前に貴方の先達です。いつまでも後輩に頼りすぎてばかりではいられません」

 

 団長(アスフィ)の言葉に【ヘルメス・ファミリア】全員の目の色が変わる。武器を力一杯握り、詠唱の声を張り上げ、激しくなるモンスターの攻撃を押し返す。

 

「で、でも!」

「でもじゃねぇ!!」

 

 反論しようとしたトキをファドガーが一喝した。

 

「お前は黙ってそこで見ていろ!! 俺達はお前に守られるだけの弱い奴等じゃねぇ!!」

「そうだ、俺達は冒険者だ!!」

「後輩に助けられっぱなしで終われるか!!」

 

 ファドガーが、セインが、ルルネが、ネリーが、メリルが、【ヘルメス・ファミリア】全員が叫ぶ。

 

「全員、気合いを入れ直しなさいっ!! 後輩(トキ)に先達の意地を見せつけるのですっ!!」

 

『おうっ!!』

 

 その背中は、まさしく子供(トキ)が憧れた冒険者の背中だった。

 

「……やっぱり、冒険者ってかっこいいなぁ」

「なに言ってるの?」

 

 トキの呟きに今までずっと付き添っていたレフィーヤが反論した。

 

「トキももう冒険者でしょ?」

 

 その言葉をトキはすぐに理解できなかった。

 

 いや、確かに自分は冒険者になった。だが、冒険者とは一体なんだったか。どうすれば本物の冒険者になれるのか、わからなかった。

 

「なあ、レフィーヤ」

「なに?」

「本物の冒険者になるにはどうすればいいのかな?」

「うーん、そうだね……」

 

 質問の意味を誰よりも理解しているであろう先輩(レフィーヤ)後輩(トキ)に向けて彼に学んだことを口にした。

 

「冒険……ううん、挑戦することかな?」

「挑戦?」

「そう。強敵に、未知に挑戦する。私は貴方にそれを教わったの」

 

 挑戦。その言葉にある光景、トキ・オーティクスが生まれかわった時の光景が頭をよぎった。

 

 そうだ、挑戦だ。もう一度、今度は正々堂々と。あの人に手を伸ばすんだ。

 

 そのためにただ憧れるのはやめよう。ただ上を見るのはやめよう。これからこの胸の憧憬を闘志に変えて、この夢を目標に変えて!

 

「レフィーヤ、ありがとう」

「うん、じゃあ私も行くね」

「ああ、仲間を、先輩達を頼む」

 

 トキの言葉に一瞬驚き、そして頬を染めるレフィーヤ。トキから離れ、その瞳をモンスターに向ける。

 

「私を守って下さい!」

 

 杖を握り締め、突き出し、魔法行使の構えを取る。アスフィはそんな彼女の様子を見ると団員に指示を出した。

 

千の妖精(サウザンド)に全てを委ねます! 全員、死ぬ気で守りなさい!」

 

『了解!』

 

 決して手を止めず、しかし力強い返答にレフィーヤは続けて声を飛ばした。

 

「2分、いえ1分半持たせてください!」

 

 全精神力(マインド)を練り上げる。高まる魔力にモンスターの攻撃が激しくなる。

 

「【凶狼(ヴァナルガンド)】! 貴方は【剣姫】の援護に向かって下さい!」

「……だから指図するんじゃねえっ!」

 

 アスフィの指示にベートは一瞬迷ったが、レフィーヤとアスフィ達の様子を見てアイズの元に駆け出す。

 

「【ウィーシェの名のもとに願う】!」

 

 Lv.4の最高峰の魔力が一気に高まる。展開される山吹色の魔法円(マジック・サークル)は円陣より二回り以上巨大になり、膨れ上がる魔力光は目の前が眩しくなるほど光輝いていた。

 

「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来たれ】」

 

 彼女の胸に広がるのは歓喜。想い人に真っ直ぐに純粋に頼まれそれに応えようという乙女心。

 

「【繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ】」

 

 最強の魔導師(リヴェリア・リヨス・アールヴ)に迫ろうかというその魔力にフィルヴィスを始めとする魔導師が言葉を失う。

 

 前にティオネから聞いたことがある。想い人のためなら戦闘力が5割増しになると。その時はよくわからなかったが、今ならわかる。恋はこんなにも人を強くするんだ!

 

「【至れ、妖精の輪】」

 

 彼が見ていてくれる。ただそれだけで力が沸いてくる。最高のパフォーマンスができる。

 

「【どうか──力を貸し与えてほしい】」

 

 全方位から迫るモンスターをルドガーとドワーフのエリリーが吹き飛ばし、スィーシアが双剣を振り回し、ルルネとアスフィが頭上のモンスターを切り伏せ、メリルが短文詠唱にてモンスターを焼く。【ヘルメス・ファミリア】は怯むどころか徐々にモンスターを押し返していた。

 

「【エルフ・リング】」

 

 山吹色の魔法円(マジックサークル)が翡翠色に変化した。召喚した魔法、リヴェリアの全方位殲滅魔法の詠唱に入る。その時、

 

「大型!? しかもあの数、ヤバいぞ!?」

 

 通路の奥から巨大な食人花の塊が現れる。その速度は他の食人花を圧倒し、メリル達魔導師は今しがた魔法を放ったため今から詠唱しても間に合わない。

 

「退くんだ!」

「お、おいっ!?」

 

 盾を構えるルルネ達を押し退け、フィルヴィスがモンスターの前に出た。同胞(レフィーヤ)の詠唱が終わるまでもう間もなく。その最後の最後でやらせるものかと彼女は己が有する第2の魔法を唱えた。

 

「【盾となれ、破邪の聖杯(さかずき)】!」

「【ディオ・グレイル】!!」

 

 それは白い輝きを放つ、巨大な聖なる盾。眼前で閃光(スパーク)を放ちながらモンスターの群れをまとめて受け止めた。

 

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 アイズは苦戦を強いられていた。レヴィスとモンスターの挟撃により剣を飛ばされ、『風』のみの戦闘。しかし、それでは大剣を振り回すレヴィスには勝てなかった。

 

 そんな時だった。

 

「【──間もなく、焔は放たれる】」

 

 モンスターの咆哮を縫ってアイズの元にレフィーヤの詠唱が聞こえた。

 

「っ!」

 

 リヴェリアの玲瓏な詠唱を彷彿させる力強い響きに目を見開き、チラリとそちらを向いて……別の意味で目を見開いた。すなわち、

 

 -何、あれ?

 

 レフィーヤが詠唱をしているであろう方角。白い光を放つ巨大な盾の向こうで……それに負けないくらい光輝いている魔力光を見た。

 

 その光は第一級冒険者であるアイズでも見たことないほどの光だった。

 

「な、なんだあれは!?」

 

 レヴィスもその存在に気づいたのか一瞬だけその手を止めて驚愕の声を漏らす。

 

「失せろ!!」

 

 そこにベートが疾走してきた。

 

「よこせ、アイズ!」

「!」

 

 突っ込んでくるベートの要求にそれだけで全て理解した。

 

「風よ!」

 

 アイズの風をメタルブーツが吸い込み、埋め込まれた黄玉が輝く。ベートの両脚に凄まじい風が宿る。

 

「【忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包む】」

 

 ベートに『風』を渡したアイズは全力で離脱。吹き飛ばされた剣の元に向かう。そしてベートはレヴィスに真っ向勝負を挑んだ。

 

「なにっ」

「大人しくしてろ、化物女!!」

 

 アイズを追おうとするレヴィスをベートが全力で足止めをする。

 

「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火。汝は業火の化身なり】」

 

 舌打ちをするレヴィスは食人花をアイズの足止めに向かわせたが、あまりの魔力に食人花は命令より本能を優先させた。

 

「馬鹿なっ」

 

 驚愕するレヴィスの隙を突き、ベートが風を纏った一撃を入れる。

 

 いくらアイズに風を受け取ったベートでもパワーアップしたレヴィスの能力には勝てない。それをわかっていながら彼は全力でレヴィスを足止めしていた。

 

「どけ、狼人(ウェアウルフ)!!」

 

 焦ったレヴィスが攻勢に出る。大剣の速度を上げ、ベートを沈めようとする。

 

「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

 防戦一方となるベートの耳に聞こえてくるのはレフィーヤの詠唱、そしてその脳裏には強敵を相手どるトキの姿があった。

 

 雑魚のくせに、身のほどもわきまえずに、無謀とも言える相手に立ち向かい、勝利に貢献してきた少年。

 

 その端麗な顔を歪め、吠える。

 

「てめえに、負けてたまるかあぁあああああああああああああッ!」

 

 無理矢理押し返す。攻守が逆転したレヴィスは苛立たしげに大剣を振りかぶる。ベートもまた踏みしめた地面を割り、風を纏った足を振り上げる。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

 激突し、砕ける足。灼熱の痛みが足から、体、脳へ到達し、その顔を歪めさせる。

 

「【焼きつくせ、スルトの剣──我が名はアールヴ】!」

 

 そして、レフィーヤの詠唱が完了した。大空洞を翡翠色の魔法円(マジックサークル)の光が余すとこなく包み込む。

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

 召喚された巨炎が大空洞を焼く。それはベート達を避け─ようとして髪や服の一部を焦がし─て天井まで昇る。対象になったモンスターは魔石も死骸となる灰さえ、残らない。

 

「──後でぜってーぶん殴る」

 

 愚痴りつつも潰れた足を無理矢理動かし、吠える。

 

「るォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

「なっ!?」

 

 大剣を蹴り飛ばされ、レヴィスは大剣ごと上体が仰け反る。そこに、金色の閃光が駆け抜ける。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!!」

 

 袈裟斬り、斬り上げ、そして

 

「-ああああああああああああッ!!」

 

 振り下ろし。

 

「ッッッ!!」

 

 袈裟斬りによって大剣を粉砕され、斬り上げによってさらに体勢を崩し、振り下ろしを両腕で防いだレヴィスはそれでも吹き飛ばされ、大主柱(はしら)に叩きつけられた。

 

「はぁ、はっ……」

 

 肩で息をするアイズはそれでもレヴィスの方に足を向ける。

 

 レフィーヤの魔法により大空洞はまるで地獄のようだった。火の粉と熱気が満ち、巨大花によって覆われていた組織も完全に焼け落ち、本来の岩肌も熱を帯びていた。気のせいか天井の壁が貫通し、23階層の通路が見える気がする。

 

「……今のお前には、勝てないようだな」

 

  レヴィスがアイズに向けて呟く。その後ろでピキッピキッと嫌な音がしている。

 

「この大主柱(はしら)食料庫(パントリー)中枢(きも)だ。これが壊れるとどうなるか……知っているか?」

「っ!?」

 

 止めようとするアイズより先にレヴィスがコンッとあまり力を入れずに石英(クオーツ)大主柱(はしら)を叩いた。

 

 それだけで蜘蛛の巣のように罅が広がっていく。

 

 考えてもみればレヴィスが大主柱(はしら)に激突する前にオリヴァスがベートによって大主柱(はしら)に叩きつけられていたのだ。それが今の一撃で完全に止めを刺された。

 

 音を立て崩れていく大主柱(はしら)。それと連動するかのように食料庫(パントリー)の天井が崩れ始めた。そのことにモンスターの猛攻を退け、座り込んでいた【ヘルメス・ファミリア】とレフィーヤ、フィルヴィスが慌てて立ち上がる。

 

「荷物を俺の方に投げて下さい!」

 

 トキが叫び、全員の装備とネリーのバックパックを影にしまう。

 

「怪我人には手を! 一刻も早く脱出します!!」

 

 ベートと彼に肩を貸したルルネが言い合ったりしているがそんな事を無視して、出口に急ぐ。

 

 ふと見るとアイズとレヴィスが何か会話していた。

 

「おい、【剣姫】!」

「アイズ、急げ!」

「アイズさん、早く!」

 

 最後にもう一度レヴィスと視線を合わせ、冒険者達のもとへ向かう。

 

 

 

 

 ややあって、あれほどの激戦を繰り広げた冒険者達は、それでも一人も欠けることなく、生還することができた。




うーん、けっこう書きたかったところなのにそんなにクオリティが高くない……。文才が欲しい今日この頃です。

さて、24階層での戦闘も無事終了。ちょっと原作を改変しつつ、さらにフラグも立てる。なかなか大変でした。

見所はやはりトキの意志の改変とレフィーヤのドジっ娘発動。トキに関してはここでやらなきゃいつやるの? というわけで前々から決めていました。レフィーヤに関しては……うん、特に言うことありません。いつも通りです。因みにあの後レフィーヤはベートに殴られ、アイズに少し引かれました。まあ、それはトキに慰めてもらうのですが。おそらく書かないのでここで書いておきます。

次はいよいよまとめに入ります。長かった24階層も次でラスト……になるハズ! うん、ハズ!あと、新スキルも出します!

ご意見、ご感想お待ちしております。

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