冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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まずは報告を。感想にてご意見があり、いろいろ考えた結果スキル【憧憬一途】の消去、それに関する記述の改変、タグ:多才チートの追加をいたしました。
はい、という訳で作者もようやくトキがチートであることを受け入れました。それならいっそよりチートらしく【憧憬一途】を削除し、才能と経験のふたつによるチートという路線でいきたいと思います。
また、【憧憬一途】に代わる新たなスキルも考案中ですのでベルとかレフィーヤに置いてけぼりにされることはないと思います。……多分。…………まあ【憧憬一途】の記述を消去する作者は涙目でしたが(小声)

そんなわけでトキの大活躍回改めチート回始まります!


奇妙な共闘

【ヘルメス・ファミリア】団長、アスフィ・アル・アンドロメダは目の前の光景に歯噛みしていた。

 

 繰り広げられる戦闘。白ずくめの男と『透明状態(インビジリティ)』を利用したトキとの一騎討ち。端から見ると白ずくめの男が何もない場所で踊っているかのように見える。

 

 しかし実際行われているのはあまりに不条理な戦いだ。圧倒的潜在能力(ポテンシャル)を誇る白ずくめの男に対し、トキは可能な限り己の気配や殺気を消し、暗殺者時代に培った全ての経験を活かし、戦っていた。

 

 だがそれは戦えているだけに過ぎない。食人花を欺くために魔力の濃霧を発生させ続けているため魔法は使えず、トキ自身の打撃では歯が立たない。唯一【ゴブニュ・ファミリア】の親方が授けたナイフだけが白ずくめの男にダメージを与えている。

 

 白ずくめの男の攻撃は最初の一撃以来当っていない。なぜなら当たった瞬間にトキの敗北が決定するからだ。圧倒的な潜在能力(ポテンシャル)の差により白ずくめの男の攻撃は軽いものだとしてもトキにとっては致命傷(必殺)になりかねない。

 

 ゆえにトキは折れた左腕を強引に動かし、敵の攻撃をコンマ1秒単位で予測し、そこから男の性格を読み取り、さらに予測の精度を上げていく。

 

 一方、白ずくめの男は本当に自分があの冒険者と戦っているのか、本当はいない敵と戦わされているのではないか、という錯覚に陥りそうになる。こちらの攻撃は当たらず、殺気も音もなく、ただ自らの直感だけを頼りに回避を行う。本当は幻覚魔法か何かに踊らされているのではないかという思考が頭をよぎる。

 

 しかし現に自分の体は少しずつだが傷ついている。いるのは間違いない。だがまるで空気を相手にしているようだ。

 

 対するトキも苦渋の表情を浮かべていた。確かにナイフで傷は与えている。しかし与えた端から治っていくのだ。人間離れした能力に加え、折れた左腕と予測のし過ぎで起こる頭痛の痛みを抑えこみ標的に向かう。

 

『標的に対するいっさいの常識は捨てなさい』

 

 暗殺者時代に教え込まれた言葉が頭をよぎる。

 

 トキは暗殺の知識を教えた育て親が大嫌いだ。暗殺をしていた頃の自分が大嫌いだ。かといってそれを使わないのは愚の骨頂。知識や経験を毛嫌いし使わないのはただの愚か者がすることだ。

 

 暗殺をしていた頃の自分も自分。その経験すらも糧とし、標的に向かう。全ては仲間を守るために。

 

「なにやってんだ、アスフィ!? 早くトキの援護に向かえよ!!」

 

 ルルネが声を張り上げる。こちら側には未だ食人花が襲いかかってくるが、ほとんどがトキの魔力の濃霧により混乱している。今ならアスフィがいなくても十分戦えた。しかし、

 

「いえ、できません」

 

 アスフィは頭を横に振った。

 

「どうして!?」

「援護に向かえば、トキの足を引っ張ってしまうからです」

 

 歯を食い縛り、まるで射殺さんばかりに一騎討ちを見るアスフィ。その言葉にルルネを始めとする【ヘルメス・ファミリア】の面々が絶句する。

 

 確かにアスフィはLv.4。トキよりもはるかに潜在能力(ポテンシャル)が高いし、経験も豊富だ。しかし白ずくめの男の潜在能力(ポテンシャル)はそれを上回っていることをアスフィも気づいていた。さらにアスフィはトキよりも対人戦闘が得意ではない。今の状態のトキとアスフィが一騎討ちした場合、トキに軍配が上がる。

 

 それほどトキの対人戦闘能力は秀でており、この状況でもっとも適切な行動だとアスフィは理解していた。例えどんなに残酷なことかわかっていても。

 

 故にアスフィは己の無力さを呪う。自分の弟分が必死になって頑張っているのにそれを手助けできない自分に腹が立っていた。

 

 その時、食料庫(パントリー)の入り口から声が聞こえてきた。

 

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢をつがえよ】」

 

 もはや早口言葉ではないか、というような速度で紡がれる詠唱()。その存在を目にし、アスフィの胸にかすかな希望の光が灯る。

 

「【帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢】」

「ったく、どういう状況だっての!」

 

 山吹色のポニーテールを揺らすエルフの少女とそれを守護する黒髪のエルフ。さらに高速で自分達の回りの食人花を撃破する狼人(ウェアウルフ)

 

「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】!!」

 

『高速詠唱』による詠唱の完成に伴い、足元の山吹色の魔法円(マジックサークル)が強い光を放つ。注がれた精神力(マインド)は魔力の濃霧をはるかにしのぐもので食人花が一斉にそちらを向いた。

 

 装填された魔力にメリルがばっと振り向き目の色を変えて叫んだ。

 

「み、みんなっ、逃げてっ!?」

 

 警告により退避した冒険者のパーティを確認し、エルフの少女レフィーヤは己の砲撃魔法を解放した。

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」

 

 火炎の豪雨と表現することすら生ぬるい災厄が降り注ぐ。射程距離を最大に設定した最高出力。それは食料庫(パントリー)の7割、それこそ退避したはずの冒険者達を巻き込まん勢いで炸裂した。それまで無数にいた食人花が全滅する。

 

 その光景にレフィーヤは、

 

「また、やり過ぎちゃった……」

 

 遠くから狼人(ウェアウルフ)が殺す気かっ!! と叫んでいる。

 

 触らぬものに祟りなし、と彼女は小声で呟くと臨時パーティメンバーであるフィリヴィスを伴い冒険者の一団に近づく。

 

「なっ」

 

 その光景に白ずくめの男は驚愕し、

 

「ぬっ!?」

 

 トキの不意打ちを手でガードした。ガードした手から赤い血が流れる。初めてのまともなダメージ。

 

(よし)

 

 トキはレフィーヤ達の援軍に心の底から感謝していた。今の一撃でわずかながらこちらに流れがよる。

 

 焦らず、じわじわと。トキは蛇のように白ずくめの男を追い詰める。

 

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「お前……確か、レフィーヤ!?」

「えっ、ルルネさん!?」

 

 レフィーヤは冒険者達に近づいてみると見知った顔を見かけた。リヴィラの事件の際に面識を持った相手は、仲間と共に全身を傷だらけにして……その時、ふとあることを思い出した。

 

 ルルネの所属【ファミリア】は【ヘルメス・ファミリア】。そして想い人(トキ)からの伝言によると【ファミリア】メンバーとダンジョンに行くと言っていた。

 

「ルルネさん、トキは─」

「おいっ、アイズはここにいねえのか。答えろ」

 

 詰め寄るレフィーヤの横からベートが割り込んで来る。むっとしながらやはりレフィーヤもアイズのことが気になりベートの邪魔をしない。

 

「け、【剣姫】はさっきまで私達と一緒に……」

「後にしなさい、ルルネっ」

 

 ルルネの言葉をアスフィが遮った。

 

「【剣姫】については後程説明しますっ。今はトキを、私達の仲間を助けてくださいっ」

「あぁ? どういう-」

「トキがどうしたんですか!?」

 

 訝るベートに今度はレフィーヤが横から割り込む。

 

 アスフィは視線を奥へと移す。レフィーヤは弾かれるように、ベートは心底どうでもよさそうに、フィリヴィスはゆっくりとその視線を追う。

 

 そこには白ずくめの男がまるでなにかと戦うように右へ左へと動いていた。

 

「誰もいねぇじゃねぇか」

「現在、彼は私が造った魔法具(マジックアイテム)により『透明状態(インビジリティ)』となっています。ですがあの男相手ではそれでも攻めきれていません。この食料庫(パントリー)の状況も、あのモンスターもあの男の仕業と推測しています」

「……!」

「私達の事情や【剣姫】については後程全て説明します。ですからどうかトキを……」

 

 捲し立てるようにアスフィが状況を説明する。その説明を裏付けるかのように白ずくめの男がさらに複数の食人花を呼び出す。しかしその目線は見えないトキに向けられていた。

 

「おい、剣を寄こせ」

「はいっ!」

 

 白ずくめの男とそれと戦っているであろうトキから目を逸らさず、ベートはレフィーヤに告げる。レフィーヤは筒型のバックパックを開け、中から50Cほどの双剣を取りだし、自身も杖を構える。

 

「……気に入らねぇ」

 

 そんな中ベートは苛立っていた。白ずくめの男に、アイズのことが聞けないこの状況に、何よりトキに対して。あの蛇のような殺気を出す雑魚のことをベートは覚えていた。雑魚のくせに【ファミリア】の、なによりアイズの前で恥をかかされたのだ。その事を思い出すだけで頭に血が登る。

 

 双剣を装備した途端、食人花が動き始める。その狙いはトキ。魔力の濃霧は先程のレフィーヤの砲撃魔法によりなくなっていた。

 

「トキッ!」

 

 ルルネの悲鳴にも似た叫びとベートが駆け出すのは同時であった。瞬く間に食料庫(パントリー)を突っ切り、食人花を始末する。

 

「「なっ」」

「退いてろっ、蛇野郎っ!!」

 

 続けて白ずくめの男への攻撃。トキは突如割り込んできたベートに驚愕しつつ、その場から跳び退る。

 

「つまらねえ芸を見せびらかしてんじゃねえぞ!!」

「次から次へと、冒険者め!」

 

 放たれる上段蹴りを、白ずくめの男はなんなくかわす。背をさらしたベートに攻撃しようとするが、ベートはそれ以上の速度で回転、回し蹴りを繰り出す。驚愕する男は右手でそれを防御する。

 

「ぐっ!?」

 

 先程までの攻撃とは違う威力に白ずくめの男は呻き、

 

「ちッ!?」

 

 ベートも相手の反応速度と強固な腕の固さに舌打ちした。

 

「【凶狼(ヴァナルガンド)】……そうか、【ロキ・ファミリア】! 【剣姫】を追ってきたか!!」

「っ! てめえ、アイズをどうした!?」

 

 先程のこともあり、白ずくめの男に歯を剥いて襲いかかるベート。双剣の斬撃を紙一重でかわしながら相手は返答する。

 

「私の同志が相手をしている。なに、今頃はぐっ!?」

 

 しかしその返答(挑発)は下から飛来した黒い触手によって最後まで言われることはなかった。そもそも、しゃべるなどの行為()を彼が逃すはずなかった。

 

 ベートは背後を振り返る。そこには兜を外し、ふてぶてしく立っているトキの姿があった。

 

「てめぇ、蛇野郎っ。邪魔すんじゃねえ!!」

「邪魔をしてきたのはそっちが先でしょう?」

 

 喰ってかかるベートに睨み付けながら返事するトキ。さらに雰囲気が険悪となる。

 

「それにさっきの攻撃を見る限り、貴方の攻撃、効いてないようでしたが?」

「はっ、さっきまで散々苦戦していた奴の言うことかよ! 雑魚は引っ込んでな!」

「できない見栄は張らない主義なんでね。貴方こそ退いててください」

 

 そんか険悪なふたりをレフィーヤは不思議そうに見ていた。トキの【ロキ・ファミリア】に対する確執は怪物祭(モンスターフィリア)の夜に終わっていると思っていた。事実、先日会った時もそんな事は欠片も気にしていない様子だった。

 

 しかしベートを前にしてトキは駄々をこねるように言い合う。賢い彼ならばベートの方が相手と戦えるとわかるはずだ。

 

「う~ん」

「ウィリディス、何を悩んでいる! 早く奴の援護を─」

 

 フィルヴィスが隣で何か言っているが、戦闘しながら言い合うふたりを観察し……ある可能性が頭をよぎる。

 

 ベートは普段の言動から誤解されがちだが、何かと仲間を気遣い、他人でもピンチになれば見捨てない性格だ。一方トキも言葉には出さないが仲間を思いやり、他人との繋がりを大切にする。

 

 一見まったく違うように見えるふたりだが、

 

「実は似た者同士?」

「「誰が似た者同士だ!!」」

「貴様らっ!! 戦闘中にも関わらずよそ見とは余裕だなっ!!」

 

 激昂する男が攻撃を仕掛け、それをトキが死角から触手による攻撃で体勢を崩し、ベートが攻撃を重ねる。

 

 戦況は圧倒的にふたりが有利であった。

 

「ぐっ、食人花(ヴィオラス)!」

 

 男の呼び掛けに天井の蕾が複数開花する。

 

「あれは俺が引き受けますからベートさんはこっちをお願いします」

「なんだ? さっきとは言ってることが違うじゃねえか」

「貴方が相手した方が早く倒せるのは事実ですからね。さっさと倒してアイズさんを助けにいきますよ」

「てめえがアイズを名前で呼ぶんじゃねえっ!!」

「勝手に援護するんで思う存分戦ってください」

 

 ベートの言葉を無視しトキは上空に向けて跳ぶ。そんな彼に舌打ちしつつ、ベートは白ずくめの男に向かって駆け出した。




はい、と言うわけで今回はベートとの共闘です。まあやり方は白ずくめの男を相手していたときと同じで今度はベートの動きを予測し、隙になりそうなところに触手を叩き込むだけですが。

それとトキとベートが仲悪いのはレフィーヤが言った通り同族嫌悪です。レフィーヤが思った理由もありますが、マンガソード・オラトリアで幼いベートが【ロキ・ファミリア】の面々に拾われるような描写がありました。そして、トキはヘルメスにその命を拾われます。
つまり、冒険者になるきっかけもちょっとだけ一緒なのです。

という訳でトキとベートの共闘、まだまだ続きます。

ご意見、ご感想お待ちしております。


そういえばレフィーヤの砲撃魔法で生かしておいた色違いのローブの方が上手に焼けましたっ‼ 状態に。レフィーヤちゃんまじドジっ娘。

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