冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
「せあっ!」
迫る剣角を左手のナイフで弾き、その隙に雄鹿のモンスター、『ソード・スタッグ』の側面に回り込む。
「ふっ」
右手に持つハルペーで首を切り裂く。音を立て地面に横たわるモンスター。
「ひゃ~。すっげーひやひやした~」
「あはは、すいません」
アイズさんを含めた臨時パーティは階層ごとに強さも量も増えるモンスターを蹴散らしながら、目的地である24階層に足を踏み入れた。
やはりと言っていいのか上層や今までの中層と違い、通路やルームがとても広く、それに伴ってか遭遇するモンスターも増えていた。
しかしそんなモンスター達を先輩達は苦戦せずに片付けていた。
「でも、良い動きだったよ」
「ありがとうございます。ですがやはりみんなと比べるとまだまだですよ」
「伊達にLv.偽ってた訳じゃないからなぁ。私はともかく、アスフィや他の連中は素っ惚けた顔して結構な武闘派だよ」
「そんなことを言うルルネさんも武闘派ですよね」
「お前もな」
前進します、というアスフィさんの指示のもとダンジョンを進み出す。
実際、俺なんかと比べるとみんな強く、上手い。アイズさんを大量発生するモンスターに温存するために先程は俺がソード・スタッグの相手をしたが、俺の出番はそれだけだ。
特にアスフィさんの短剣捌きはLv.が1つ飛び抜けているからか、一段と素晴らしかった。
「ん、アスフィが気になるのか?」
一瞬ドキっとなったが、ルルネさんが問いかけたのはどうやら俺じゃなくアイズさんのようだ。
「……ルルネさん、アスフィさんのLv.っていくつ?」
「ルルネ、でいいよ。私達、結構年近いだろ? アスフィはLv.4だよ」
アイズさんの問いかけにあっさりと返答するルルネさん。……まあ、これくらいならいいだろ。
「【ファミリア】の到達階層は?」
「37階層。モンスターがえらい強いし、流石に深入りはしてないけど」
いつか俺も参加したいなぁ、到達階層更新の遠征。……まあ、まだまだ先の話だろうけど。
「よくそんな深い階層に潜って、他の冒険者達にバレないね……?」
あ、これはまずい。
「うちの--」
「それはですねっ!」
大声でルルネさんの声をかき消す。これ以上は本当にまずい。
「企業秘密です。ルルネさん、口が軽すぎます」
「その通りです」
余計なことは言わなくてもいい、と半眼で釘を刺すアスフィさん。他の面々もうんうん、と頷く。
「ご、ごめん。アスフィ。あと助かった、トキ」
「全く……」
「いえいえ」
そんなやり取りの後、アスフィさんがアイズさんに近づく。
「【剣姫】。貴方の率直な意見が聞きたいのですが、この依頼についてどう思いますか?」
「……どういう、意味ですか?」
「リヴィラ襲撃の件に関してはルルネと情報を集めたトキから経緯を聞いています。謎の宝玉に執着する、黒いローブなる人物の依頼……今回の騒動も危険なものだと思いますか?」
アイズさんはしばらくなにか考え間を置いて頷いた。その反応にアスフィは溜め息を堪えるような表情を浮かべる。
「本当に、厄介なことに巻き込まれてしまいましたね……」
「あ、アスフィさん。これ、ハーブティです」
「気遣いありがとう。いただきます」
「ほら、ルルネさんも」
「あ、ああ。さんきゅー」
「アイズさんもいかがですか?」
「……いただく」
他のみんなにも配る。この階層、というより『中層』から俺ができることは少ない。パーティの連携に入れるほどの力もないし、戦闘の時はアイズさんとネリーさんと一緒に観戦しているくらいだ。
せいぜい
「しかし凄いですねー。本当に木の中にいるみたいだ」
「そっかトキはここまで来るのは初めてなんだっけ」
「はい」
一方で出現するモンスターも上の階層以上に厄介なものであり、24階層ともなれば、Lv.2の最上位の【ステイタス】、何よりパーティの密度が求められるようになる、とか。
……やっぱり、なんで俺ここにいるんだろう?
「あのアスフィさん」
「必要だからです。貴方がいるといないとでは私や他のみんなの負担が大幅に変わります」
力強く頷くみんな。いや、そこは誰か反論して欲しい。
「なんせ、トキがLv.4になったらアスフィ、団長を譲るって言ってたもんな~」
「えっ!?」
「事実です。貴方の力量なら私以上に【ファミリア】をまとめ上げ、より良い方向に導いてくれるでしょう。既に引き継ぎの資料は作ってあります。ですから早く強くなってください」
「えっ、ええっ!?」
トキは【次期団長】の称号を手に入れた。
そこからしばらくアスフィさんに考え直してもらうよう説得したが、アスフィさんが意固地になり、他の人達からの支援もあって結局決定を変えることはできなかった。いや、しかしまだ時間はある! その間に説得しよう!
「お、
「止めなさい。取りに行ってモンスターに囲まれるのが落ちです。依頼前に無駄な労力を費やさないでください」
「今はどこの
ルルネさんの尻尾が名残惜しそうに揺れる。通路の先のルームの奧。白い大樹が生えているのが見えた。
そういえばメルクリウス様や【ディアンケヒト・ファミリア】のアミッドさんが今品薄だって呟いてたっけ? ……ここからならギリギリ届くかな?
大樹に向けて影を伸ばす。あの食人花でもないかぎり魔力に反応するモンスターなんていないだろう。
大樹の枝を1本切り落とし、それを影に収納。よし。
「トキ、何をしているのですかっ。早く来なさい」
「は、はい!」
いつの間にかパーティから離れていたようだ。慌てて戻る。やっぱり団体行動に慣れていないとこういうことが起こるんだな。今度から気をつけよう。
しばらくすると今度は赤や青の美しい宝石の実をつけた樹を発見した。それを見てパーティがざわつく。
「ルルネさん、あの樹はなんですか?」
「宝石樹っていう滅多にお目にかかれない樹だよ! くっそ~こんなときじゃなかったら取りに行ってたんだけどな~」
「そうですね、前進……いえ待ってください」
泣く泣く素通りしようとしたアスフィさんが待ったをかけた。そして、俺の方を向く。
「トキ、あそこまで届きますか?」
「えーっと、多分」
「ノルマ10個です。やりなさい」
「……あい」
なぜかアスフィさんは俺に対する時だけ若干口調が砕け、時々横暴になる。まあ、やりますけど。
「あのアイズさん、あのドラゴンに睨みを効かせていてください」
「……倒してこようか?」
「そこまではしなくていいです」
こちらを見ているドラゴン─後で聞いたが
「あ~怖かった」
「よくやった!」「よし!」「わーい!」「よっしゃ!」
「上出来です」
そんな一幕がありつつも俺達は先に進んだ。
ソード・オラトリア3巻を読んでやりたかったことができました。ここで終わってもいいかもしれない。……まあ、嘘ですけど。
トキが自分は連携ができないというのは強さ的な問題ではなく、単にパーティに慣れていないだけです。ちょっと先輩達に囲まれて緊張しちゃっているだけです。←親バカならぬ作者バカ
さて、書いていて思ったのですがこの話、意外に長くなりそう。ある程度で切っていきますが、いつもより長くなるかもしれないのでそこのところはご了承ください。
ご意見、ご感想お待ちしております。