冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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感想の返信で少しだけ話していましたが、今回からソード・オラトリア第3巻の話に入ります。


24階層への遠征
準備


「あーどうするかな?」

 

 ロキ様達の襲来から2日が経った。あれ以来、寒気と胃がキリキリ痛むのでアスフィさんも使用している胃薬を購入した。というかメルクリウス様のところで開発されたものだった。

 

 さて、俺が絶賛悩んでいるのはベルとリリの事である。あの二人は最近段々と仲が良くなってきている。というよりリリの毒気が抜けて来ている。パーティの雰囲気も段々と良くなり、稼ぎも安定してきた。

 

 そんな中、ささいなことであの二人がこじれた。いや、気持ちがすれ違ったと言うべきか。とにかく今日は微妙な雰囲気になった。一応フォローはしてみたが、こればかりは本人達の問題なのでしばらく様子を見てみることにした。

 

 そんなことを考えながら明日の仕事のために自宅に戻ろうとしたところを同じ【ファミリア】のエルフのセインさんに呼び止められた。

 

「なにか用ですか、セインさん?」

「アスフィから君に召集がかかった。すぐに来てくれ」

 

 ……? 召集? 一体何の用件だ? 書類ならこの前手伝ったし、【ファミリア】に納める上納金も納めた。うーん、わからん。

 

「わかりました。すぐに行きます」

 

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「アスフィ、トキを連れてきた」

「ご苦労様です。あなたもかけてください」

 

 セインさんに連れてこられた場所はアスフィさんの団長室ではなく、【ファミリア】ホームにある会議室だった。中には俺以外に15名ほどいた。……あれ? て言うかここにいるのこの【ファミリア】の主力達じゃね?

 

「何をしているのです、トキ。早く座りなさい」

「は、はいっ」

 

 一番後ろの席に座る。このメンバーの中で一番レベルが低いのは俺だ。やはりここは年功序列ならぬ強者序列に従うべきだろう。ちなみに隣にはヒューマンでサポーターのネリーさんがいた。

 

「それではこれよりルルネが持ってきた依頼について話します」

 

 あ、なんか嫌な予感。

 

「依頼の内容は現在24階層で起きているモンスターの大量発生の原因の調査、およびその解決です。援軍もいるそうですがどこまであてにできるかわかりません。ここにいるメンバーでこれの解決に当たります。何か質問は?」

「あのー、アスフィ……」

「なんですか、駄犬」

「うぐっ。えっと、なんでトキがいるんだ?」

 

 会議室全体がざわめく。それはそうだろう。俺は一月ちょっと前に冒険者になったLv.1だ。今回の依頼に関して俺はあまり役に立たないと思う。隣のネリーさんもなんでいるの? と聞いてくる。俺が知りたいです。

 

「今回の依頼はあらゆる場合が想定されます。彼は万が一今回の件が人為的なものだった場合、これに対処してもらいます。この【ファミリア】で一番対人戦に長けているのは彼ですから」

 

 その言葉を聞き会議室が納得の雰囲気になる。いやいや違うでしょ。こういう時って誰か反論するところでしょ。後、ネリーさん、よろしくね、じゃないですよ。

 

「また今回、彼にはサポーターとしてついてきてもらいます。なので皆さん、余分に準備して来て構いません。念には念を入れて準備してください」

「あの、アスフィさん。やっぱり自分、皆さんの足手まといになりそうですし、同行を拒否……」

「だめです」

「いや、ですから……」

「だめです」

「あの……」

「では出発は明日の夜11時。闇に紛れてダンジョンに向かいます」

 

 ……無視された。ちょっとショックだ。

 

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 翌日。うじうじ言っても仕方ないので今回の依頼を遠征と受け止め、その準備に取りかかる。

 

 まず、自宅に戻り看板に本日一身上の都合により休み、と貼り紙をしておく。

 

 次に先日行ったばかりの【ゴブニュ・ファミリア】に赴く。朝早かったがホームである『三鎚の鍛冶場』には金属を叩く音が響いていた。

 

「おはようございます!」

「いらっしゃい! お、何でも屋の坊主じゃねえか! 親方!」

「おう、今行く」

 

 親方さんは他の団員の指導をしていたのか、作業している人に一言二言話した後こちらに来た。

 

「坊主、今日はどうした? 例の女ならまだ見かけてないが?」

「いえ、別件です。【ゴブニュ・ファミリア】に俺の武器を打ってもらいたいんです」

「ほう」

 

 親方さんの目が職人のそれに変わった。あらかじめ影から出しておいたハルペーと短刀を見せる。

 

「注文はこのハルペーと短刀と同じ形のものを作ってもらいたいんです。それも20階層以降でも使えるものを。期限は今日の夕方位まででお願いします」

「は、いきなりだな」

「できますか?」

「誰にものを言っている?」

「よろしくお願いします」

「おう、いつも世話になってる坊主の頼みだ! 一級品を作ってやるよ!」

 

 ……あの、やり過ぎないでお願いします。

 

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  で、その後は……

 

「あれ? 確か『深淵の迷い子』の……」

「はい、メルクリウス様にはいつもお世話になっております」

 

【メルクリウス・ファミリア】の売店に来ていた。

 

「いやいや、こっちこそ。おかげであの解毒高等回復薬(ハイ・ポーション)、微妙な味と匂いに関わらずけっこう売れてるんだよ」

「それはなによりです」

「あ、メルクリウス様に用事? なら今から呼んで来るけど?」

「いえ、そうではありません。今日は別件です。普通に買い物に来ました」

「そうなんだ、いつもありがと。また回復薬(ポーション)かい?」

「いえ、今回【ファミリア】の皆さんの到達階層更新にサポーターとして同行することになりまして、それでそのための道具を買いにきました」

 

【ヘルメス・ファミリア】の公式到達階層は19階層。今回行くのは24階層だがら筋道としてはあっている。ちなみに本当の到達階層は37階層である。

 

「そうかい、なら何を持っていく?」

「そうですね、えーっと……」

 

 その後、この団員はメルクリウスになぜトキが来ていたことを話さなかったのか、と小一時間怒られるのだが、いつものことなので、気にしなかったとか。

 

 ちなみに、必要な道具の他に頭痛薬と胃薬を買っておいた。

 

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 次に俺が向かったのは【ロキ・ファミリア】のホーム、『黄昏の館』だ。見張りの人にレフィーヤへの伝言を伝える。ちなみに俺は見張りをやっている【ロキ・ファミリア】の団員全員と面識がある。主にレフィーヤを送る時とかに会うから。

 

 それと、フィンさん宛に先程買った頭痛薬と胃薬を贈るよう頼んだ。先日来た時に少し言っていたからごますりしておこう。

 

 次に向かったのはベルのいる【ヘスティア・ファミリア】のホームだ。

 

 コンコンコン。

 

「神様? 忘れ物ですか……あれ? トキ?」

「よ、ベル」

 

 ベルの性格から昨日あった件で今日はダンジョン攻略を休むと思っていたが当たってよかった。外れたらエイナさんに伝言を頼むだけだが、エイナさんだといろいろと説明が面倒になる。

 

「どうしたの?」

「実は【ファミリア】の先輩のサポーターとしてダンジョンに行くことになってさ。どれくらいかかるか分からないから一応の報告」

「そうなんだ。なんなら上がっていく? お茶出すからさ」

「いや、すぐに別のところに行くからいい。それよりもベル」

「ん? 何?」

「リリのこと。頼むぞ」

「あっ」

 

 その一言にベルの表情が陰る。まあ、昨日の今日だしな。

 

 しかし、俺が次の言葉を言おうとした瞬間、ベルは表情を引き締めた。

 

「うん、任せてよ。トキが帰ってくるまでには解決してみせるからさ」

「お、言ったな?」

「言ったとも」

 

 お互いに笑い合い、ぷっと吹き出す。そうだこいつは俺の親友なんだ。何も心配いらない。

 

「じゃ、頼むぜ」

「うん、いってらっしゃい」

「いってくる」

 

 俺達は互いの拳をコン、とぶつけあった。

 

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 それから昼食を食べ、午後はアスフィさん監修で24階層までのモンスターを徹底的に頭に叩き込む。今回はサポーターとして行くが、どうせ荷物は影の中だし、手は空くので俺は中衛としてサポートすることになった。

 

 それを夕方まで続け、その後武器を取りに行く。

 

「こんにちは」

「いらっしゃい! お、来たな。親方、坊主が来ました!」

「おう」

 

 親方さんは手に俺の武器と見るからに業物の武器を持ってきた。……あれ? ていうかハルペーと短刀だ。

 

「できたぞ」

「え、いえ、あのこれって……」

「なに、少しばかりはりきっちまった」

 

 いや、どうはりきったらこんな業物になるんですか。

 

「それに言ってただろ? 20階層以降で使える武器って」

「いや、でもこれ明らかに俺のレベルと釣り合ってませんよね」

「は、テメエが武器に溺れる玉かよ。そういうのを見越してこの武器を打ったんだぜ?」

「でもお代は……」

「10万でいい」

「じ、10万ヴァリス!? 安すぎますよ!」

「いつも世話になってる礼も込めてだ。どうした、払えないのか?」

「いや、払えますけど……」

 

 渋々ながら持ってきたへそくりから10万ヴァリスを渡す。50万は覚悟していたから少し拍子抜けだ。とぼとぼと『三鎚の鍛冶場』を後にする。

 

「坊主!」

「?」

「生きて帰ってこいよ!」

「……はい!」

 

 そうだ、なによりもまず生きて帰らなければ。

 

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 夜11時。辺りにはまばらな明かりが点いているばかりの街中を足音を消しながら走る。

 

 俺達【ヘルメス・ファミリア】の主神であるヘルメス様の方針は、『台頭を好まず中立を気取る』というものだ。そのためこのような、主力が集まってダンジョンに向かう、なんて場面をそうそう見られる訳にはいかない。

 

 まあ俺は何人かに遠征に行くと言ったが、その人達は俺が遠征に行っても気にしないであろう人達なので、まあ大丈夫だろう。

 

 また、万が一姿を見られないように俺達はある魔道具(マジックアイテム)を使っていた。『ハデス・ヘッド』。漆黒色の兜のその能力は『透明状態(インビジビリティ)』。あらゆる者から姿を確認されなくなるアスフィさんの傑作の1つ。

 

 ちなみにこれ、この遠征の間俺はその1つを貸し出されている。もし問題のモンスターの大量発生が人為的なものでその犯人がいた場合、隙をついて取り押さえろとのこと。まあ、できなくはないけど。

 

  いつも通っている『はじまりの道』が違って見える。さあ、『未知』への冒険のはじまりだ。

 

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  一方そのころ。

 

「フィンさん、プレゼントです」

「ん? 誰からだい?」

「団長に贈り物!? どこの女狐よ!」

「レフィーヤの彼氏からですよ」

「これは……頭痛薬と胃薬?」

「……彼にまた借りができたようだ」




この話を始めた理由はふたつあります。

1つはヒロインがレフィーヤだから24階層の事件は参加させないと、と思ったから。

もう1つベルがリリを堕とすところに邪魔を入れたくなかったから。あのシーンにポツンと登場させるとか作者には無理です。

ですから決してこの後の展開が思いつかなかったとかじゃありません!

ご意見、ご感想お待ちしております。

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