冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
【メルクリウス・ファミリア】はポーションやダンジョンで使うアイテムなどを売る商業系の【ファミリア】だ。商業系で有名なところを挙げると【ディアンケヒト・ファミリア】などがあるが、【メルクリウス・ファミリア】はそれほど大規模ではない。
しかし、【メルクリウス・ファミリア】の最大の特徴は変わり種の商品が多いところである。特定のモンスターしか誘き寄せられない
「それで今回はどのような商品なのですか?」
「うむ、実はな」
そう言ってメルクリウス様が取り出したのは先程、ちらりと見せたポーション瓶だった。中に入っているのは……
「なんやそれ? 見た目ただの
「ちっちっちっ。違うんだなそれが。これは! 我が【ファミリア】が開発したその名も! 解毒
立ち上がり、ポーション─メルクリウス様曰く解毒
「あの、座ってください」
「うむ、失礼した」
俺の催促に素直に応じるメルクリウス様。
「解毒
「うむ。お主のあのアドバイスから早1年。ついに完成したのだ!」
「おめでとうございます」
「うむ、ありがとう」
一年ほど前、俺はどこからかここの噂を聞き付けてきたメルクリウス様にヘルメス様との旅の途中で見つけた様々な素材の話をした。そしたらなんと、メルクリウス様は【ファミリア】の団員の一部を率いてその素材を取りに行き、新商品を次々と開発。知る人ぞ知る名店となったのだ。
「では、少し効果を試してみてもいいですか?」
「うむ」
メルクリウス様からポーション瓶を手渡される。瓶を開け、中の液体を1滴手に垂らし、匂いを嗅ぐ。……あれ?
「あのー、メルクリウス様?」
「なんだ?」
「なんですか、この匂い?」
臭くはない。しかし、いい匂いでもない。かといって無臭とも違う。なんとも表現しがたい匂いが漂っていた。
「うむ、匂いについては未だ改良中なのだ!」
いや、それ威張っていうことじゃありません。
気を取り直して雫を舐めてみる。……うん。
「メルクリウス様」
「味も改良中だ!」
だから威張って言うことじゃありません。
「それで、どう思う?」
「そうですね……ちなみに生産費用は?」
「ちょっと待て、確かこの辺りに……と、あったあった。えーと……」
------------------------
「なあ、レフィーヤ」
「なんですか、リヴェリア様?」
「あれはいったい……?」
「あれはメルクリウス様の新商品をどれくらいの値段で売れば一番売れるか、って話しあっているんです」
「はぁ? 高けりゃいいんじゃないの?」
「私も最初はそう思っていたんですけど……例えば極端な話、
「そんなの買うわけないじゃない」
「そんな風に、ものにはそれぞれ売る適正価格? っていうのがあるらしいんです。それをメルクリウス様はトキに相談しに来たんです」
「えーと、それってすごいの?」
「せやな、自分の【ファミリア】の構成員ならともかく他の【ファミリア】の人間に話すことやないなぁ。それで適当な額を言われたら商売に失敗してまうからなぁ」
「トキはそんなことしませんよっ」
ロキの言葉にレフィーヤが少し強めの声で反論した。
「だってトキは、この仕事に誇りを持っていますから」
そういう彼女の顔は正に恋する乙女の顔だった。
------------------------
「ではこの価格で様子を見ましょう。また何かあったら来て下さい」
「うむ、この度も助かったぞトキよ!」
そう言ったメルクリウス様はポーションをしまうと懐から大きな袋を取り出す。
「ではこれは今回の相談料だ!」
「あの、メルクリウス様。毎回言いますが俺は相談料をもらうために相談にのっている訳では……」
「わかっておる。しかしお前のおかげで利益が上がっているのは確かなのだ。何も言わず受けとれい!」
「は、はい」
ちなみにこれ、渋ると翌日あたりに倍額で押し付けられる。しかも外で、大声で。さすがに近所迷惑の元となるのでおとなしくもらっておく。
「それでトキよ、我が【ファミリア】に入る気にはなったか?」
「あ、なにしとんのや、メルクリウス! 少年を勧誘してんのはウチやぞ!」
「笑わせるでない! こっちは1年前から勧誘しておるのだ!それでなくともトキは倍率が高いのだ! こんな面白く、有能な子は滅多にいないからな!」
「あの、そのことなのですがメルクリウス様。自分は一月ほど前に正式に【ヘルメス・ファミリア】の団員になりましたので……」
「うむ、そうだったか。では勧誘は諦めよう」
ほっ、よかった。これで勧誘してくる神様が一人減った。
「ではトキよ、我が【ファミリア】に
「いや、それ意味同じですから!!」
断るのに30分かかった。
------------------------
さて、そんなこんなで時間が過ぎていき、昼食の時間。しかし、食材がないためどこか食べに行こうとしたのだが……
「大丈夫、私がすぐに買って来て作るから!」
というレフィーヤの意見に押され、【ロキ・ファミリア】の面々は買い物に出てしまった。というか一緒に行こうとしたら断られた。解せぬ。
ということで、同じく留守番しているロキ様と暇つぶしにチェスをすることになったのだが……
「いやー強いですね、ロキ様」
「にゃはははは! そういう少年も強いやないか」
「さっきから思っていたんですけどその少年っていうの呼びづらくありませんか? トキでいいですよ」
「そうか、なら今度からそう呼ばしてもらうわ」
「ただいまー……て何、この空気?」
ちなみに俺、自覚があるくらい負けず嫌いである。
「あ、お帰りなさい」
「おかえりー」
そう言いながらもお互い視線をチェス盤から離さない。
「むむ、これは……」
「両者互角。一歩も引いてないね」
帰ってきたフィンさんとリヴェリアさんが近づいて盤を覗き込んでくる。
「これでどうや」
「甘いです」
「なんと」
「ふふふふ」
「ねぇティオネ、チェスってあたしやったことないけどこんな雰囲気でやるものなの?」
「私もやったことないけど多分違うわ」
それからずっとお互い喋らずチェスを続ける。
「皆さん、昼食ができました」
「はーい」
「ほら、二人とも。ご飯よ」
「待って、この勝負が終わってからや」
「譲りませんよ」
「それはこっちの台詞や」
「はい、没収」
突然レフィーヤにチェス盤を取られてしまった。
「「ああ~!!」」
「なにすんやレフィーヤ!?」
「そうだぞ! いいところだったのに!」
「ご・は・ん・で・す!」
「「……はいぃ」」
「なんか最近のレフィーヤ、ときどき怖いよね」
「……フィンのことが関わるティオネみたい」
「……私、あんなに怖い?」
「「うん」」
「くっ、この勝負はいつか付けたるからな!」
「ええ、望むところです!」
「二人とも! 早く食べちゃってください!」
「「は、はい!」」
そんなこんなで昼食は無事? 終わった。
------------------------
昼食も終わり、いよいよ赤髪の女の調査に出る。
「それで、どうするんや?」
「取り敢えず聞き込みと協力の依頼ですね。まあ協力と言っても見かけたらこちらに連絡をするよう言うだけですが」
まずはダイダロス通りからだ。
------------------------
「この人なんですが……」
「うーん知らないね」
「そうですか。実はですね、この人……」
------------------------
「こんにちはー」
「お、坊主じゃないか! 親方! 何でも屋の坊主が来ました!」
「おう、よく来たな……げえぇ
「ごめんくださーい」
「ああ、今日彼女達は俺の仕事の見学だそうです」
「なんだ、違うのか。てっきりこの前作ったばっかの
「ん? どういうこと?」
「この坊主はな、お前が武器を壊す度に俺の愚痴と相談にのってくれる、言わばもう一人の
「そんな大げさですよ。それで今日なんですけど……」
------------------------
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。あらトキ君。それに【ロキ・ファミリア】の皆様も」
「こんにちは、アミッドさん」
「今日はどうなされましたか?」
「実はですね、この人を探しているんですが……」
------------------------
「あれ? デメテル様?」
「あら、トキ? 久しぶりね」
「こんにちは」
「よーデメテル。先日ぶりや!」
「あら、ロキも」
「こんなところでなにをなされているのですか?」
「実はね、あのヘスティアに男ができたらしいの!」
「はあ? あのドチビに男?なんの冗談や」
(あ、ベルのことだ)
------------------------
「この人なんですけどね?」
「うーん見たことないわね」
「そうですか」
「ねぇ、そんな女のことより私と遊んでかない?」
「ははは、けっこうです。それでは」
------------------------
「しっかし、彼、顔本当に広いわね」
「そうだねー。私達が知ってるところなんかほとんど行ったんじゃない?」
「それだけやないでー」
「? どういうこと?」
「あの子の調査を見て何か気づいた点、ないか?」
「えーなにー?」
「あの赤髪の女を悪く言っている点だな」
「その通りや。行くところで言ってる内容はまちまちやけど、共通する点はその女に悪い印象を与える点。しかもただ言ってるだけやない。聞く子が強く印象を持つように内容を変えとるんや」
「これは、【シャドー・デビル】の噂は本当だったようだね。しかもさっきティオナが言った通り僕達がいつもお世話になっているところはほとんど顔見知りだ。つまり……」
「あの子はその気になればほんまにウチの【ファミリア】を潰せるちゅーことや」
「ごくり……」
「ええなー、トキ。ますます欲しぅなってきたわ」
------------------------
結局、オラリオ中の知り合いに尋ねても何も手掛かりが見つからなかった。
「すいません、フィンさん、ロキ様」
「ええよええよ」
「朝も言ったけどこれは君に義務があるわけじゃない。むしろ、こんなに協力してくれて感謝しているよ」
「そう言ってもらえると助かります」
「ところでトキ。やっぱりウチの【ファミリア】に入らんか?」
「先日も言った通り、自分は【ヘルメス・ファミリア】に入ってますから」
「さよか。なら今日のところは帰るわ。ほな帰るでー」
「え、ロキ。私まだ……」
「いいからいいから。帰るでレフィーヤ」
「うう、じゃあまたねトキ」
「ああ、またな」
【ロキ・ファミリア】の皆さんを見送る。さて、明日もダンジョンだ。
------------------------
「レフィーヤ」
「……なんですか?」
「あの子絶対落としや」
「……え?」
「色仕掛けでも、胃袋掴むでもなんでもして絶対落とすんや! 主神命令や!」
「は、はい!」
------------------------
「はっくしょん!! うー、寒気が……」
ご意見、ご感想お待ちしております。