冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
兎と共に
迷宮都市オラリオ。ダンジョンと呼ばれる地下迷宮の上に築き上げられたこの街は様々な人がいる。
しかし、今俺がパーティを組んでいるベル・クラネルという少年ほど変わった人はいないだろう。
冒険者登録の時にたまたま同時に申請し、ダンジョンに潜るのもたまたま一緒になる、不思議な少年だ。白髪に赤目、そしてその雰囲気から兎を、連想させる彼はダンジョンに出会いを求めているらしい。
内心はあ? とか思ったけど話を聞いてみると、どうやら育ての親が原因らしい。曰くハーレムだの、男のロマンだの、とおおよそ普通の人が抱かないような夢を持っている少年だ。
そんな夢を持っているくらいだから相当のスケベなのかと言われるとそうでもない。むしろウブなくらいでいかにこの少年がチグハグな存在かわかると思う。
ちなみにこういった情報は全て本人の口から聞いた。というか聞いたら答えてくれた。とても素直な少年だ。素直すぎて真っ先に詐欺とかに引っ掛かりそうだけど。
さて、そんなベルと俺、トキ・オーティクス、14才は現在……
『ヴヴオオオオォォォォォォッ‼』
「ほぁああああああああああっ‼」
ミノタウロスに追いかけ回されています。
念願の冒険者になって半月、調子に乗って5階層まで降りて来たのが間違いでした。
「と、いうか何でミノタウロスがこんなところにいるのかなぁ? ミノタウロスって確か『中層』で出てくるモンスターだよね、ベル」
「そんな事はいいから走って‼」
おっしゃる通りです。
そしてそんな事をしてたら重要なことに気がついた。
「ベル……」
「何っ!?」
「今の曲がり角、曲がらないと行き止まりだ……」
「えっ?」
果たして、本当に行き止まりに追い詰められてしまった。
「くっ!」
身をひるがえしミノタウロスと相対する。改めて敵を確認する。2Mを超える体格、強靭な筋肉の鎧、頭部の角、ミノタウロスが所持する武器は主にこの3つだ。しかし、膨大な【ステイタス】の差により俺達の攻撃では傷1つ付かない。
そう普通ならば。
俺にはこいつを傷つけられる武器がある。というかスキルがある。しかし問題は……
(スキルだけで足りるか?)
そう思考仕掛けたところで、ミノタウロスが動き始めた。蹄が俺達の命を狩ろうと振り上げられる。
(迷っている時間はない!)
足元に魔力を集中させ……
その瞬間、ミノタウロスの胴体に一線が走った。
「「え?」」
『ヴぉ?』
俺とベル、ミノタウロスが間抜けた声。
さらに線は胸、腕、ふくらはぎ、足、肩、首と次々に入っていく。そして、俺が決死の覚悟で討伐しようとした怪物は、あっさりとその命を終えた。
次いでミノタウロスの大量の血しぶきが襲いかかってくる。
「うわっ!」
咄嗟に先程中断した行動を再開、影で血しぶきから身を守る。
そして身を守ったところでスキルを解除し、改めてあの怪物を倒した人を見る。
「……大丈夫ですか?」
そこにいたのは冒険者に成り立ての俺でも知ってる人物だった。
艶やかな金髪、しなやかな肢体、綺麗な金眼。【ロキ・ファミリア】所属、二つ名【剣姫】、その名は……
「アイズ・ヴァレンシュタイン……」
「あの……大丈夫、ですか?」
再び声をかけられ現実に意識を戻す。
「あ、はい。大丈夫で……」
「ほおぁあああああああああああああっ!?」
ビュッ! と俺の横を何かが通り過ぎていった。
「………………はぁ?」
その物体はなにやら赤かった。その物体は人の形をしていた。横を見てみる。先程まで一緒にいた友がいなくなっていた。
Q.あの赤かった物体はなんですか?
A.友達のベル・クラネル君です。
「ヴァレンシュタインさん、助けていただいてありがとうごさいました! 失礼します!」
体を直角に折り、お辞儀をし、その後全力でベルの後を追う。
今ならまだ間に合うはずだ!
主人公のスキルについては次の話で出したいと思います。
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