冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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成果

【ステイタス】を更新した翌日。俺達は早朝からダンジョンに赴いていた。さらにリリから特に期限を設けずに契約したい、と言われた。……やっぱり強引すぎたか。

 

「ベル様、トキ様、改めてリリを雇って頂いてありがとうございます。お二人に見捨てられないよう、リリは鋭意努力しますよ」

「見捨てるって、そんなことしないよ。僕達はリリ以外のサポーターの当てなんてないし。ね、トキ」

「俺ははなからリリを逃がすつもりはない。……まあ、昨日はちょっと強引すぎた。すまなかった」

 

 頭を下げる。どうもベルに手を出そうとしていたから気づかぬうちにかなり頭に血が上っていたらしい。

 

「昨日の金は謝罪料としてリリの懐に納めてくれ」

「わかりました。それに昨日はリリも少し強引だったと反省しています。ですから頭を上げてください」

「わかった」

 

 まあ、昨日の事でベルも最低限は警戒しているようだし、俺も気をつけておれば大丈夫だろう。

 

「それでお二人とも、本日の予定を伺ってもよろしいですか?」

「えっと、今日も7階層に行って夕方まで粘ろうと思ってるんだけど。リリとトキは平気?」

「俺の方は問題ない」

 

 ダンジョンに潜る時の予定は基本的にベルが立てることになっている。理由としては俺とベルとでは経験の差があるため、ベルのペースに合わせることになっているのだ。……まあそれで一週間とちょっと前にミノタウロスに追いかけられる羽目になったのだが。

 

「お二人がお決めになられたのならリリはそれに従いますよ。でも、いいんですか? リリはご覧の通りサポーターですから、戦力としてはお役に立てません。お二人はずっと連戦することになりますよ?」

「それは大丈夫。ずっと二人で戦って来たし、それに僕、今日は溜まっていた【ステイタス】を神様に更新してもらったから」

「奇遇だな、実は俺も昨日、【ステイタス】を更新してもらったんだ」

「へー、どれくらい上がったの?」

「具体的には言えないがかなり上がった、と言っておこう」

「実は僕もなんだ!」

 

 こいつの言うかなりは本当にかなりだから俺も油断できない。

 

「それより、リリの方に負担をかけちゃうことになると思うんだけど大丈夫? 二人分だし、ドロップアイテムが立て続けに出たら荷物がすごいことになるし……」

 

 そう、リリはしっかりしているし、盗みを働くようなある意味賢い性格だが、その種族は犬人(シアンスロープ)、しかも子どもだ。ヒューマンよりは体力があるだろうがその小さい体にはとても体力があるようには見えない。

 

「心配はご無用ですよ、ベル様。リリも『神の恩恵(ファルナ)』を授かっている身ですからね、荷物がかさばったくらいでへばったりしません」

「そういえば【ファミリア】の団員から聞いたことがある。スキルの中には一定の装備過重時に補正がかかるスキルがあるって。まさかリリはそれを発現しているのか?」

「はい、お察しの通り、リリにはそのスキルが発現しております」

「ええっ! リリ、スキル発現してるの!?」

 

 おい、ベル。顔が羨ましいって言ってるぞ。

 

 そんなベルの様子にリリは苦笑して顔を振る。

 

「持っているだけマシ、というような情けないスキルです。ベル様が考えているような『恩恵』ではありませんよ?」

「それでもいいよ。僕なんてまだ1つもスキル持ってないし……。同時に冒険者になったトキはもう発現してるし……」

「いや、聞く限りだとお前はずっと農民だったんだろ? 経験の違いだ。俺はヘルメス様に世界中引っ張り回されていろんな経験したからな」

 

 尤もベルの成長スピードは異常だからなんらかのスキルを発現していてヘスティア様がそれを本人に教えていないっていう可能性もあるが……まあ、俺には関係ないか。

 

「やっぱり羨ましいなぁ。スキルも魔法もそう滅多に手に入るものじゃないんでしょう? 僕なんて魔法だってないし……あ、そういえばリリは魔法も発現してるの?」

「……残念ながらリリも魔法は発現していません。一生自分の魔法を拝めない人は多々いると聞きますので、リリも例に漏れずそのケースかと」

 

 ……嘘だな。僅かだが声が震えていたし、声のトーンが落ちていた。まあ、【ステイタス】を隠すのは当然の事だが。

 

「おい、ベル。あんまり【ステイタス】の内容に大きく踏み込むのはマナー違反だぞ。エイナさんに教わっただろ?」

「あ、ごめんリリ。ついトキに聞くような感覚で聞いちゃった」

「いえ、問題ありません。ベル様がそういう人だっていうのは昨日から何となくわかっていましたから」

「あとさ、本当に契約金とか前払い金はいいの? まあこれは僕が言えることじゃないけど」

「そうだぞ。金額を指定してくれれば昨日とは別のをベルと検討して払うから。あんまり法外でなければ」

 

 これは今日、改めて契約する時に儀式した際、リリに言われたことだ。報酬はダンジョン探索での収入の分け前だけでいいと。いくら疑わしくてもそれはそれ、これはこれと反論したのだが、結局俺が折れることになった。リリ、意外と強情だった。

 

「ええ、構いません。トキ様がしっかりなさっているので配分はきちっとしてくれるでしょうし。……それに」

「それに?」

「……それに、そちらの方がお二人にも都合がよろしいでしょう?」

「え?」

 

 先程までの朗らかな態度とは違い、嘲りと自嘲を滲ませた声。そんな一瞬の彼女の言葉に少し動揺する俺達。

 

「さぁ行きましょう。お二人が頑張ってリリの食いぶちをふやしてくれれば、何も問題はありませんから!」

「う、うん……」

「……わかった」

 

 今の態度……。

 

「ベル」

 

 リリに聞こえないようにベルに小声で囁く。

 

「な、何?」

「今の言葉、おそらくリリの本心だ」

 

 ──お前達も他の冒険者と同じなんだ。

 

 俺にはそう聞こえた。

 

「リリの抱えている問題はけっこう根深いかもしれないぞ」

「う、うん。でも……」

 

 先程までとは違い、ベルは決意の眼差しでリリを見ていた。

 

「それならいっそう、リリの力になりたい」

 

 やっぱりこいつ、いいやつだ。

 

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「はあ!!」

「せい!!」

 

 襲いかかってくるモンスターを倒していく。今の群れはこれで最後だ。

 

「ねぇ、けっこういい感じだよね」

「そうだな、順調だな」

 

 リリが魔石を回収してくれる間、ベルと二人でそんなことを話す。

 

「……ねぇ、トキ」

 

 突然、ベルが声を低くする。このトーンは、なにかを聞く時のトーンだな。

 

「8階層まで行ってみない?」

「は?」

「ほら、僕もトキも【ステイタス】が上がった所為かこの階層でもけっこう余裕あるじゃん? だからさ今日はこれから8階層に挑戦してみない?」

「お前なぁ、それで一週間とちょっと前にミノタウロスに追いかけ回されたのおぼえてないのか? 7階層だって3日前に到達したばっかだぞ」

「で、でも……」

 

 おい、目を潤ませるな。いじめているみたいじゃないか。

 

「はあ、しょうがない。リリ、ちょっといいか!」

「はい! なんですか!」

 

 と、リリは作業の手を止めて、こちらに振り返る。

 

「作業中すまない。一つ聞きたいんだがリリの到達階層ってどこまでなんだ?」

「えーっと、11階層までですが?」

「じゃあリリから見て今の俺達は8階層で通用するか?」

「そうですね……はい、問題ないと思います」

「よし、いくぞベル!」

「ええ!? なんで僕の時は渋ってリリの時は何も言わないの!?」

「馬鹿、お前は素人、リリは先輩。どっちの言うことを聞くかなんて考えるまでもないだろ」

「ぐ、それはそうだけど……」

「あ、あの……」

 

 なんか納得いかない、と言っているベルを無視し、リリの方を向く。その顔は驚いていた。

 

「リリの言葉を信じるのですか?」

「当たり前だろ。ここで嘘をついてもリリにはメリットがないだろ?」

「それは……そうですが……」

 

 それにこれはベルが突発的に言ったことだ。リリがなにか罠を仕掛けているとは考えにくい。

 

「それじゃあ、8階層まで行くぞ!」

「あの、まだ作業が残っているんですが……」

「……すまん」

 

 ……ちょっとはりきりすぎました。

 

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 やはりリリというサポーターの存在は劇的であった。

 

 まず、彼女がバックパックを持っていてくれるため、俺達は溜まってた戦利品をいちいちギルドに換金する必要がなくなった。戦闘した階層から地上までけっこうあるし、バベルの換金所は混んでいるからギルドまで移動しなければならなかったが、(まあ、俺が影の中に入れてもよかったのだが俺の影はなぜか魔石は入らないから結局あんまり変わらなかったりする)今日はその手間がなくなり、ずっとダンジョンに潜っていられた。

 

 さらにバックパックを背負わなくてよくなったため、俺もベルも戦闘に集中できるようになった。

 

 俺とベルが素早くモンスターを倒し、リリが魔石と時折出るドロップアイテムを回収していく。

 

  その結果、ギルドの換金所から受け取った今日の稼ぎは……

 

「「「……」」」

 

  口が開いた袋の中身を三人で頭をくっつけ一緒に覗き込む。その中身は、ぎっしりと金貨だった。大金を見るのは初めてではないが、いつもより眩しく見える。

 

「「53000ヴァリス……」」

 

  ベルとリリが呟き、三人一緒に顔を上げる。そして次の瞬間、

 

「「やああーーーーーーっ!!」」

「っしゃあっ!!」

 

 歓喜に声を上げ、文字通り飛び上がった。

 

「すごい、すごいですっ! ドロップアイテムはそこそこ出ましたが、それでもお二人で50000ヴァリス以上稼いでしまいました!!」

「わっ、わっ、わっ! 夢じゃないよね! 現実だよね!? 一日でこんなにお金が手に入るなんて……これもリリのおかげだよ!」

「まったくだ! ありがとう、リリ!」

「馬鹿言っちゃいけないです、お二人ともっ。モンスターの種類やドロップアイテムにもよりますけど、Lv.1の五人組パーティが一日かけて稼げるのが25000ヴァリスちょうどくらいなんです。つまり、お二人は彼等の2倍以上の働きをしたことになりますっ!」

「いやあ、ほら、兎もおだてりゃ、木に登るって言うじゃない! それだよ、それ! ね、トキ!」

「何言ってるか全くわからんがここは便乗しておく! うん、ベルの言う通りだ!」

「では、リリも便乗しておきます! お二人ともすごい! まだまだ上を目指せますよ!!」

「誉めすぎだよぉリリ!」

 

 周りの迷惑も気にせず三人ではしゃぎまくり、イエーイ、とハイタッチする。

 

「……では、お二人方、そろそろ分け前をいただけませんか?」

「うん、はい!」

 

 どばっっ、とベルがリリに袋を渡す。その額、18000ヴァリス。

 

「…………へ?」

「あ、これ俺から」

 

 自分の袋から1000ヴァリスを渡す。これで分け前はベル17000、俺17000、リリ19000だ。

 

「ちょ、ちょっと!」

「あぁ、これだけあれば普通に神様へ美味しいものを食べさせてあげられる…!」

「今度ヘルメス様に何か……いや、ここはお疲れであろうアスフィさんか……?」

 

 これだけ稼いだんだ。貯金じゃなくて日頃お世話になっている人にささやかながらプレゼントを渡したい。

 

「お、お二人とも、これは……?」

「分け前だよ、きまってるじゃん!」

「俺からはまあ、初日だし少し色をつけた。まあ契約金も払わなかったしこれくらいはいいだろ?」

「あ、そうだ! せっかくだし、良かったらこれからみんなで酒場に行かない? 僕、美味しいお店知ってるんだ!」

「お、いいね! リリの分は二人で割り勘して、今日の稼ぎとリリとの契約を祝していっちょやるか!」

「じゃあ、行こうリリ!」

「お、お二人とも!」

 

 善は急げと荷物をまとめ出した俺達にリリが叫んだ。

 

「ん? どうかしたか? 言っとくがこれ以上は分けられないぞ?」

「そ、そうじゃなくて……ひ、独り占めしようとか……お二人は、思わないんですか?」

「え、どうして? 僕達だけじゃこんなに稼げる筈なかったよ。リリがいてくれたから、でしょ?」

「正当な働きに正当な報酬を支払う。冒険者の前に人間として当然だろ?」

「「だから、ありがとう。これからもよろしく(ね)」」

 

 俺達は上機嫌でそう言った。

 

「リリに会えて本当に良かったよ」

 

 と、ベルは付け加えた。

 

「なんだ~ベル。告白か? 口説いてんのか?」

「ち、違うよ!」

 

 とテンションが上がりっぱなしの俺達。

 

「……変なの」

 

 だからその言葉を見事に聞き逃した。

 

 




うーん、稼ぎすぎたかな? ベルの【ステイタス】はトキと一緒に冒険している分、原作よりも少し低いですが、単純に二人がそれぞれ戦うので2倍くらいかな? と思ってこの額にしました。
……いや、トキがいる分モンスターの倒す回数と負けたくないという競争心で原作と同じくらいかな? どう思いますか? よかったらご意見ください。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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