冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
ダンジョンからギルドに戻ると既に日が落ち始めていた。ギルドで治療してもらい、一旦三人でロビーに集まる。
「リリ、今日はありがとう」
「はい、こちらこそありがとうございました」
「それで契約の方なんだがどうする?」
正直、彼女は信用できない。盗みの腕を見るにやり始めたのはここ半年くらいだろう。それくらいだったら俺がついていれば問題ないが、パーティーに盗人がいるというのはあまり気持ちのいいものではない。
「そうですね今日だけではやはり判断しづらいですから、一週間ほど契約しましょう」
「そうか、助かるよ」
お互い握手を交わす。しかしリリ、そんな眼をしてたらいかにも何かたくらんでます、って教えているようなものだぞ。目星をつけるなら笑ってつけられるようにならなくちゃ一人前とは言えないな。
「じゃあ、とりあえず。はい」
リリの死角からコインが入った袋を取り出す。ジャラッと大量のコインが擦れる音がした。
「へ?」
「なに驚いているんだ?」
「いえ……その……多くないですか?」
「そうか?」
戸惑いつつもリリは袋を受けとる。その袋の中を見てさらに驚愕する。
「あの、これ間違いなく10000ヴァリス以上あると思うのですが!」
「足りなかったか? 一応一日2000ヴァリスの計算で14000ヴァリス入っているんだが?」
これはリリと話し合ってそこから俺が独断と偏見と今日の働きぶりを見て決めた額だ。
「多過ぎます! リリ達サポーターがトキ様達冒険者様と同格であろうとするのは傲慢です! こんなことをされては……」
「んなこと知らねぇよ」
捲し立てようとするリリの言葉を遮り、低い声で脅すように言う。
「いいか、俺はリリがこれまでどんな目に会ってきたか知らない。だがそんなこと抜きにして俺は俺が見たリリを評価してこの額を出した。上げることはあっても下げることはない」
「そ、それでは困ります!」
「他の冒険者と一緒にダンジョンに潜れないってか? 当たり前だ、俺はお前を逃がすつもりはない」
「え?」
「こんな駆け出し二人に付き合ってくれるサポーターなんか少数だ。リリほどの腕ならなおさらだ。正直俺はお前を他の冒険者に渡したくない。だからお前を逃がさない」
腕のいいサポーターとしても、盗人としても。
ゴンッ!
「痛ったー!」
突然後ろから頭を殴られた。見るとベルのげんこつをもらったらしい。
「そこまでにしなよ。まるで脅しているようじゃないか」
「脅しているようじゃない。脅してるんだ」
「なおさら悪いよ! リリは女の子なんだからもっと優しくしないと!」
「いや、これはビジネスの話で……」
「あーもう! トキは黙ってて!」
ベルの気迫に圧されてしまった。こういう時のベルは妙に頑固だ。
「えーっと、その……」
「あ、リリごめんね」
「いえ、それでこのお金は……」
「ああ、その額については僕も賛成。本当は僕も支払わなくちゃならないんだろうけど僕、そこまでお金持ってないから。その代わり明日からはリリの分まで一杯稼ぐからさ。だから、僕達とまたダンジョンに行ってくれない?」
「……はい、わかりました。このお金は貰っておきます。それではまた明日」
リリはバックパックを背負い直し、帰っていった。
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「ベル、ちょっといいか?」
「ん? なに?」
リリに続いて帰ろうとするベルに先程ダンジョンでの窃盗未遂を話す。
「そんなことが……」
「どうする? 俺は利益だけを見て契約したが、お前が嫌なら本当に一週間だけの契約にするが……」
「……トキはどう思う?」
ベルに尋ねられ、考える。思い出すのはダンジョンでのベルの答えに対するリリの動揺。
「……同情の余地はあると思う。なんらかの目的のために金が必要なんじゃないかな?」
「なら大丈夫だよ」
「お前なぁ、自分の武器がスられそうになったんだぞ?」
「でも結局、盗られなかったじゃん。それにトキがそう言うなら信じても大丈夫だよ」
「いや、俺は信じるなんて一言も……あーもういいや。じゃあリリの契約金は俺が払うから、そのかわりリリ自身の問題はお前に任せる」
「えっ」
「おそらくリリが抱えている問題は金なんてシンプルなものじゃない。俺は盗みを働くようなやつに親身になるなんてできない。だからお前がリリの問題を解決してやれ」
「……そういうことなら任せて」
あー、やっぱりこいつ底抜けのお人好しだ。ま、そこがこいつのいいところでもあるが。
「じゃあ、頼むぞ」
「うん」
ベルは力強く頷いた。
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ベルと別れた後、俺は【ヘルメス・ファミリア】のホームに向かっていた。現在、団長であるアスフィさんが留守のため、【ファミリア】の事務仕事を手伝っている。というか任されている。曰くトキがやるのが一番速くて正確だ、とか。こっちとしては堪ったものではないが。
トキ・オーティクス
事務Lv.3
大抵の事務仕事をこなすことができる。団長や主神が眼を通さなければいけないものは不可。
で、ホームに帰ってみると。
「あ、アスフィとヘルメス様帰ってきてるよ」
と団員の人に言われ、急いで団長室に向かう。
扉をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
中に入ると、アスフィさんが書類に目を通していた。
「ああ、トキ。お帰りなさい」
「ただいま戻りました。そしてお帰りなさい、アスフィさん。随分早かったですね」
「……ええ」
あ、これすごく面倒くさいやつだ。
「えーっと、俺でよければ愚痴に付き合いますよ」
「ありがとう。では……」
そこから延々と続くアスフィさんの愚痴。どうやら今回は何か目的があったらしいが、ヘルメス様の勘とかで急遽戻ってきたらしい。
俺はその話を書類を手伝いながら聞き、時折相づちを打った。
「ふー。今回はこんなところですかね。いつもありがとう」
「いえ、【ファミリア】の末端である俺にできることと言えばこれくらいしかありませんから」
「他の団員もあなたを見習って欲しいものです。と、これでとりあえずは終わりです。ご苦労様でした」
「はい。じゃあこっちの書類は俺がヘルメス様に渡してきます」
「では私は少し休ませてもらいます」
書類を持ち、部屋を出る。
ヘルメス様は旅好きで俺もいろんなところに連れていってもらった。そのヘルメス様の我が儘に付き合わされているのが団長のアスフィさんだ。神の気まぐれに振り回される彼女を少しでも休ませようとこういった雑用は今でも続けている。
そんなことを考えているとヘルメス様の部屋にたどり着いた。ノックをする。
「どうぞー」
「失礼します」
中に入るとヘルメス様は何かメモのようなものを書いていた。
「ヘルメス様、書類を持ってきました」
「わかった。本当はアスフィが全部処理してくれればいいのに」
「無理を言わないでください。アスフィさんでも全部が全部、処理できるわけではありません」
「はいはい。こういうところはアスフィに似ちゃったんだよなー」
「誉め言葉として受け取っておきます。ついでに【ステイタス】の更新もお願いします」
「よし、きた!」
「そっちは喜ぶんですね……」
若干あきれつつ、上着を脱ぐ。いつも通りヘルメス様の指先が走り【ステイタス】が更新され……その手が止まる。
「? どうかしましたか?」
「トキ、一体なにがあった?」
…どうやらすごい数値になっているらしい。
でその数値がこちら
トキ・オーティクス
Lv.1
力:H105→F341 耐久:I16→F327 器用:H130→E439 敏捷:H154→E461 魔力:G225→D523
《魔法》
【インフィニット・アビス】
・スキル魔法。
・『神の力』の無効化。
《スキル》
【果て無き深淵】
・スキル魔法。
・『神の力』の無効化。
………………え、何これ? 熟練度上昇トータル1100オーバーって……。
「ヘルメス様、写し間違えてたりとかしませんか?」
「君の気持ちはよくわかる。しかし現実を受け止めるんだ!」
そういうヘルメス様の顔はとても嬉しそうだ。
「それで? なにがあったのか言ってごらん?」
まあ、こんな値になることなんて一つしか心当たりがない。俺はヘルメス様に
「しかしこれでロキに借りができてしまったね」
「申し訳ありません」
「いいよいいよ。無事でなによりだ」
しかしあの食人花、すごく強かったけどそのおかげでこんなに成長するとは思わなかった。どうやらやつの
……これじゃあしばらく【ステイタス】を交渉材料にすることはできないな。こんなの見せられないよ。
「ではヘルメス様、俺はこれで失礼します」
「ちょっと待ってくれ。この書類の処理を……」
「手伝いません」
後ろでさらに何か言っている主神の声を無視し、俺はホームの部屋に戻っていった。
うーん、リリのところが強引すぎたかな? しかし自分にはこれ以上書けませんでした。すいません。
そしてひさびさ……というかこの作品2回目の【ステイタス】更新です。上がりすぎな気もしますが、あの食人花を相手どったんだからこれくらいは上がるかな? って思いながら書きました。
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