冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
ご意見をくださった、みそじ様、熾火の明様、本当にありがとうございました。
そしていつの間にかお気に入り200件、UA10000突発! こんな作品を見くださる皆さま、本当にありがとうございます! 拙い作品ですができるだけ皆さまのご意見を聞きつつ、少しでも良い作品にしようと努力いたしますのでどうぞこれからもよろしくお願いします。
長々と語ってしまいましたがそれでは本編の方をどうぞ。
「よし……」
ベルがデートしていたであろう日から1日明けて、俺は昨日届いた新しい防具を身に着けていた。
ちなみにベルがデートしていたであろう、というのは昨日仕事があったのだ。それさえなければ普通に尾行して後でからかうネタにできたのに……。本当に、本っ当に残念だった。
いつものように家を出て、鍵を閉める。約束はしていないがだいたいこの時間に行けばベルがいつもの広場にいるはずだ。道すがら昨日のことを振り返ってみる。
昨日はこの防具に加えて、レフィーヤから興味深い話が聞けた。なんでも
事件と言えばもう1つ。【ガネーシャ・ファミリア】のハシャーナ・ドルリアさんが赤髪の女性に殺されたらしい。ハシャーナ・ドルリアと言えば【剛拳闘士】の二つ名で知られているLv.4で、なんでも頭をもぎ取られたらしい。直接面識はなかったが
レフィーヤによると他にもいろいろあったようだがまだ後始末が残っているらしい。そんな忙しいなか、会いに来てくれる彼女には本当に感謝している。俺も人脈を使って犯人に該当する人物がいないか調査するつもりだ。
そんなことを考えていると、いつもの広場に到着し、見慣れた頭を見つけた。
「おーい、ベル」
「あ、トキ」
と振り向いた彼は新しい防具を身に着けていた。鉄色のライトアーマーに左手には
「わぁ、トキもこの前言ってた防具できたんだ!」
「ああ、これでやっと冒険者らしくなったって感じがするな」
「うん!」
「しかし、お前……」
先程から気になっていたことを口にする。
「より兎っぽくなったな」
「なっ」
ベルが着ると鉄色が白色に見えて彼の雰囲気と相まって本当に兎ぽく見えた。
顔を赤くし襲いかってくるベル。ふっ、このくらいアスフィさんに鍛えられた俺にとってはまだまだぬるいわ!
「あのー、ベル様?」
とふざけているところに声がかかった。
「そちらの方が先程おっしゃっていた……」
「ああ、ごめん」
声の主はクリーム色のローブを身に着けた、100
「ベル、彼女は?」
「えーっと、さっきそこで会った……」
「リリルカ・アーデです」
「【ヘルメス・ファミリア】所属、トキ・オーティクスです。よろしく」
と右手を差し出す。アーデさんは少し驚いた顔をしたがちゃんと握手に応じてくれた。しかし、その眼は獲物の様子を伺うような、そんな感じがした。
「で、どういった経緯でこんなことになったんだ? まさかベル、お前……ナンパか?」
「違うよ! さっきトキを待ってたら声をかけられたんだよ。サポーター、要りませんか? って」
なるほど、逆ナンか。
「そういうわけですので、よろしければ同行させていただけないでしょうか?」
「構いませんよ。むしろこんな駆け出し二人と一緒でいいんですかアーデさん?」
「トキ様、リリのことはリリと呼んでください。さん付けもダメです。あと、敬語もなしです。ベル様もですよ?」
「え、でも……」
「なるほど、冒険者とサポーターの区別をキチンとするわけか。わかった。そういうことならそうしよう」
「えっ、トキ!」
「いいか、これはチャンスだ。今までのバックパックいっぱいになったらギルドまで戻ってまたダンジョンに往復するという工程が一気に改善される。しかもこれは彼女なりのけじめだ。つまり、彼女はプロだ。サポーターのプロ。そんな人が俺達みたいなひよっこに同行してくれるって言うんだ。ここは彼女の言うこと聞いておこう。な?」
「う、うん。わかった」
「ご理解いただけたようでなによりです。それじゃあ行きましょうか」
------------------------
「じゃあ、君は
「そうですよ、リリはちゃんと【ファミリア】に入っています」
ダンジョンでモンスターを倒す道すがら、ベルとリリはなにやら話をしていた。まあ、この辺は俺一人でなんとかなるし、そもそも俺の一存でリリの同行を決めてしまったのだ。ベルもリリを見極めるつもりなのだろう。
階層を下りずにぐるぐると回る。
「【ファミリア】の名前は?」
「【ソーマ・ファミリア】ですよ、ベル様」
……早まったかもしれない。【ソーマ・ファミリア】はけっこう有名な派閥で探索系の【ファミリア】だが、お酒も販売している特殊な【ファミリア】だ。そのお酒は物凄く高値であり、俺とベルの装備の総額よりも高い。
そんな【ソーマ・ファミリア】だが、所属する冒険者はいろいろと面倒なことを起こすとしてちょっと有名だ。そしてそのことに共通するのが、金。1ヴァリスでも多く稼ぐ、というのが【ソーマ・ファミリア】の傾向だ。
そんなことを考えながら後ろのベル達を見てみると……ベルがリリの両耳をいじっていた。……何これ?
「ベル、何やってんだ?」
「……はっ! ご、ごめんっ!」
「あぅぅ……」
リリは両耳をペタリと押さえつけ、ほんのり頬を赤く染め、上目遣いで、意地悪そうに笑った。
「男性の方にリリの大切な
「がんばれよー、ベル。ヘルメス様曰く結婚ってのは人生の墓場らしいぞー」
「話が飛躍しすぎだよ!」
とベルをからかいつつ、ゴブリンを蹴散らす。うん、これくらいなら問題ないな。
「リリもそんなことは要求しません。ただトキ様と同じようにベル様もリリの同行を認めてもらえませんか?」
「……わかった。ひとまずお願いします」
「ありがとうございます!」
「えっと、こういう場合は契約金とか、そういうのは必要なんですか?」
「その場合もありますが、今日はお試しという形なので……」
「契約金については俺が払うよ」
と横から声をかけた。
「え、いえ、でも……」
「これでも店をやっている身でな、そういった契約とかはきっちりしてないと気が済まないんだ。とりあえずそのことについて詰めたいから今度は俺と話してくれ。ベル、護衛任せた」
「うん。こんなことならバベルの食堂とかで話せばよかったね」
「言うな、俺もさっき気づいた」
だって早く防具の性能見たかったんだもん。
------------------------
ダンジョンはある階層を境に地形や性質が変わってくる。1~4階層はモンスターの種類も少なく、能力も高くない。しかし5~7階層は上に比べて一気に変わってくる。
モンスターの種類が一気に増え、さらに産み出される間隔が短くなる。通常、これらの階層はある程度経験を積んだ下級冒険者が三人以上必要になってくる。だが、
「ふッッ!」
「よっ、と!」
俺達の場合、少し事情が違った。ベルの爆発的な成長スピードと俺の戦闘経験により問題なく戦えていた。
『ギシャアアッ!?』
『ビュギ!?』
上空から降下してきた『パープル・モス』を仕留め、着地。ベルと並んで突撃する先には2体のキラーアント。
「右任せた!」
「わかった!」
打てば響くような相棒の声に若干にやけつつ、キラーアントの甲殻の隙間をナイフで刺し仕留める。
「いっ!?」
と、横から変な声が上がった。見てみると、ベルの武器が絶命したキラーアントの体に挟まって抜けなくなっていた。
「何やってんだ、次いくぞ!」
「わ、わかってるよ!」
言い合いつつ残存するモンスターの群に駆け出す。
「お二人ともお強い~!」
俺達がモンスターを蹴散らす傍ら、リリは俺達が仕留めたモンスター達の死骸を1ヶ所にまとめていた。
これまでの彼女の動きは本当に見事なものだった。俺とは違う警戒の仕方でモンスターとの鉢合わせを引き起こさず、今もこうしてモンスターの死骸を集めて戦闘の邪魔にならないようにしてくれる。
「シッ!」
『ギギッ!?』
ベルは基本に忠実に、仲間を呼ぶキラーアントから倒していく。殻の硬いキラーアントは俺だと倒すのに若干時間がかかる。そこで俺よりも攻撃力が高いベルがキラーアントを片付け、他のモンスターを俺が優先的に受け持つ、という連携が言わずともできていた。
『──グシュ……ッ! シャアアアアアアア!!』
「わああっ! お、お二人ともーっ、また産まれましたぁー!?」
「ベル、お前の方が近い!」
「任せて!」
ベルが壁から出てこようともがくキラーアントに疾走していく。その間に残っているモンスターを片付ける。
「あ~ぁ……どうするんですか、ベル様? このキラーアント、壁に埋まっちゃってますよ?」
「ど、どうしようかっ?」
そんなやり取りが聞こえた。見ると壁面からキラーアントが中途半端に垂れ下がっており、リリがピョンピョンと跳び跳ねている。
思わずプッと吹き出した。
「相変わらずどっか抜けてるな、お前」
「わ、笑わないでよ!」
「そうですね、ベル様はお強いのに、どこか変わっています」
「り、リリまで……」
リリの笑い声に先程まで情けない顔をしていたベルはゆっくりと苦笑した。
その後リリによってモンスターから魔石が回収される。これはリリの独壇場で俺達は警戒することくらいしかやることがなかった。
「はぁ~、上手いもんだねぇ……」
「リリはこのくらいしか取り柄がありませんから。このモンスター達を倒したお二人の方がずーっとすごいですよ」
「いや、逆に言えば俺達にはそれくらいしかできないからな。リリの細かなサポートは本当に助かるよ」
「またまた、ご謙遜を」
「本心だよ」
リリの技術は本当に洗練されていた。モンスターにわずかな穴を開けてそこから魔石を取りだす。俺やベルと比べたらその作業効率は雲泥の差だった。
「ところで話は変わりますが……本当にお二人は駆け出し冒険者なのですか? こんな数のモンスターをお二人だけで倒すなんて……」
「あーそれについてはちょっとした秘密があるんだ。悪いが詮索しないでくれ」
少しきつめに言い含めておく。これに関しては踏み込まれるとベルがボロを出しかねない。
「そうですか……。まぁ、ベル様の場合、そのお強さは【ステイタス】以外にも、武器によるところも確かにあるのでしょうが」
リリの雰囲気が変わった。その目線がベルのナイフに注がれる。
「やっぱりそうだよね。僕もちょっとこのナイフに頼っちゃってるんだ。こんなんじゃ本当に強くはなれないかなぁ。それより、トキの方がすごいと思うよ」
「いや、俺の場合昔いろいろあってそのおかげもあるからな。それに比べればベルの成長スピードは羨ましいくらいだぜ」
「そう、かな」
今、俺達はリリに背中を向けている。しかし、俺はモンスターのそれよりも人間の動きの方が敏感である。
「そういえばベル様。そのナイフは一体どうやって手に入れたのですか?」
「神様に……僕の【ファミリア】の主神様に頂いたんだ。トキから聞いたんだけど僕の
「……それは、良い神様ですね」
その声に動揺と僅かな嫉妬が含まれていた。どうやらわけありみたいだな。
「ベル様」
「あ、終わった?」
「あの壁に埋まっているキラーアントの魔石も取っちゃいましょう、せっかくですから」
「そうだね。トキ」
「ああ、警戒は任せとけ」
「うん、お願い。でもどうやろっか?」
「あの細い胴体を切っちゃえばいいと思います。魔石は胸の中にあるんですし。後はリリがやっちゃいます」
「なるほど。じゃあ……」
「はい、ベル様」
「え……あ、うん」
仕掛けてくるか? と背後の警戒を強める。ベルはつま先立ちになり、キラーアントの胴体を切ることに夢中だ。
リリから殺気にも似た気配がする。その気配が最高点まで上がる……前に俺は振り向いた。
「そういえばベル」
「っ!」
慌てて手を引っ込めるリリ。俺からは角度的に死角になっているが気づいている。
「何? 今ちょっと集中してるんだけど」
「この前の『豊穣の女主人』の支払い。そろそろ返してくれ」
「あ、ごめん。忘れてた」
「やっぱりな。今回の稼ぎから返してくれればいいから」
「うん、わかったっと。はい、リリできたよ」
「えっ、は、はい」
その後俺達はパープル・モスの毒鱗粉による『毒』の治療のため、バベルに戻った。
切りがいいのでここまでにします。もしかしたら次回は短いかもしれません。
ご意見、ご感想お待ちしております。