冒険者に憧れるのは間違っているだろうか 作:ユースティティア
プロットに若干の修正を入れましたが、大きな変更はありませんでした。良かったです。
さて、いよいよトキの見せ場です!
アイズは目の前の光景に驚愕していた。
「【触れるものは漆黒に染まり】」
その後、新たな食人花が3体現れ、いざ戦おうとし--自分の得物が壊れた。
打撃は効かず、ティオナ達の援護でなんとか少年から引き剥がそうとして、誘導していたその時だった。逃げ遅れた獣人の子供を見つけたのは。
とっさに庇おうとして、子供に近づき食人花に捕まろうかというときに……いきなりすべての食人花が一斉に別のある方向を向いた。
そのままそちらに突撃していく食人花。子供を逃がし、食人花が向いた方向を見て、驚愕した。
アイズの目に写ったのは、彼女が助けた少年が食人花を相手しているところだった。しかもただ相手している訳ではない。
「【映るものは宵闇へ堕ちる】」
すべての食人花の触手を避け、手に持つ
同じく、ティオネ達も驚愕していた。
『並行詠唱』。攻撃、移動、回避、詠唱の4つの行動を高速かつ同時展開する、上級冒険者の中でも限られた者しかできない高等テクニック。
そして彼は、レフィーヤの友人である彼は。自分はLv.1の下級冒険者と言っていなかったか?
「【常夜の都、新月の月】」
さらに驚くべきことに彼はそれだけでなく、足下の影から触手を出し、食人花の触手を逸らし、弾いているのだ。影の触手は先程のような先が鋭いものではなく、拳のようなもので食人花を叩き反らしていた。
つまり、彼は一般の『並行詠唱』の上にスキルの同時行使まで行っているのだ。
「【我はさ迷う殺戮者】」
確かにティオネ達が思っていることは正しい。トキは紛れもなくLv.1であるし、そもそも彼はこのスキルに詠唱があることを知らなかった。
しかし、天は彼に二物だけでなく三物も与えていた。明晰な頭脳、暗殺のための第一級冒険者すらしのぐ空間把握能力。そして生まれながらのスキル。
「【顕現せよ】」
トキにとってこのスキルは手足と同じであり、魔力は生まれながらに暴れまわる自分の体の一部だった。そしてその
「【断罪の力】!」
その膨大な
「【インフィニット・アビス】!」
瞬間、トキの影から全方向に12の漆黒の大蛇が奔り、触手に噛みつく。
大蛇は触手よりも一回り大きく長さも長い。しかし、大蛇の歯は触手に食い込んではいなかった。
(やっぱりか……)
その結果をトキは予想していた。スキルから魔法に変わったそれにさらに
いくら魔法になって威力が高くなっても
しかし、
「【ウィーシェの名のもとに願う】!」
今の彼には充分だった。
「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来たれ】」
トキが詠唱し終わるまで、レフィーヤは詠唱できなかった。『高速詠唱』があるからこそ、トキが詠唱し終わる前にレフィーヤの方が詠唱を終えてしまう。そうするとトキが囮を引き受けた意味がなくなってしまうのだ。
だからこそ待っていたのだ。いくら自分が速く詠唱できても、結局は動けない砲台だ。その悔しさに涙しながらレフィーヤは『高速詠唱』により歌を歌う。
「【繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ】」
唱えるのは彼女が最後に習得した魔法。それはまるで彼に捧げるラブソング。
「【至れ、妖精の輪。どうか──力を貸し与えてほしい】」
魔力が集束する。それに伴いトキも影に
「【エルフ・リング】」
魔法名が紡がれ、山吹色であった魔法円が翡翠色に変化した。しかし、食人花は見向きもしない。
未だトキは危なげなく食人花を相手どっていた。積極的な攻撃こそしないもののまるで上から見えているかのように全方向から迫る食人花の触手を己の武器と12の大蛇を操り捌いていく。
「【--終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け】」
そして第二番が歌われる。同胞の魔法に限り、詠唱及び効果を完全に把握したものを己のものとする前代未聞の
「【閉ざされる光、凍てつく大地】」
二つ名【
「【吹雪け、三度の厳冬-我が名はアールヴ】!」
その詠唱を聞き、少年の動きに固まっていたティオネが慌てて警告する。
「トキ、詠唱が終わる! 早く離脱しなさい!」
言い切る前に、大蛇が霞のように消えた。否、大蛇を構成していた魔力が空気中に霧のように分散した。
突如として己の標的を見失う食人花達。そして、気づいたときには遅かった。
「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」
三条の吹雪が、大気をも凍てつかせる純白の細氷が食人花達を襲う。全身が凍りつき、完全に動きが停止する。
「ッッ!!」
「いっっくよおおおぉーーーーッ!」
待っていたかのように──実際待っていた──ティオネとティオナが一糸乱れぬ回し蹴りを叩き込み、2つの氷塊を砕く。
「アイズー」
「……ロキ?」
いつの間にかいたロキに剣を渡されるアイズ。
「これは……」
「ん、そっから、ちょちょっとな」
その剣はアイズが今朝見回っていた際に見つけた剣だった。
(いつの間に……)
そう思いながらも剣を抜き、最後の氷塊を細切れにした。
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「おーい、彼氏くん! 大丈夫?」
モンスターを退治したあと、トキはレフィーヤの魔法の射程外ギリギリのところに座っていた。ティオナ達が駆け寄り、安否を心配する。
「ええ、大丈夫です」
トキは平然と立ち上がり、笑顔を向ける。その髪が若干凍っているが。
「やるやないか、少年」
とティオナ達の後ろからロキが現れ、声をかける。
「うちの子が世話になったな」
「いえ、たまたま居合わせて、たまたまお力になれただけですよ」
「なんや、えらい謙虚やな」
「事実ですから」
と二人は笑顔のまま言葉を交わす。しかしその目は笑っていないようだった。
「トキ、大丈夫!?」
そしてレフィーヤがトキに近づいてくる。
「ああ、レフィーヤだいじょ……」
と、手を挙げたところで、トキは倒れた。
「あ、れ?」
続いて襲ってくる強烈な睡魔。抵抗むなしく彼はそのまま眠りについた。
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「そういえばフレイヤ」
「あら、何かしら?」
時刻は夕方まで進み、2柱の女神が一室にいた。
先程までお互いを脅し合い、結局ロキが負けた。話し合いが終わり、さてそろそろ帰ろかな、とロキは立ち上がり、部屋を出ていこうとした時だった。
「朝言っていたもう一人ちゅうのどないな子や?」
それは今朝のことだった。ロキはアイズを連れて敵対【ファミリア】の主神と密会していた。そのときフレイヤが言っていたのだ。一人は、と。
つまり、最低でももう一人
「そうね……」
フレイヤは朝と同じように顔を緩ませながら言った。
「あの子の場合見初めたというより、興味が湧いたと言った方がいいかしら」
「興味?」
「ええ、あの子の魂は2色に別れていた。それ自体は珍しいことだけど全くいない訳じゃない。けど、その子の色はちょっと変わっていたのよ」
さながら玩具を見つけたような顔でフレイヤは微笑んだ。
「1つは黒。それもとびっきりの純粋な黒よ。これ自体も珍しくはないのだけど、問題はもう一方」
「何色なんや?」
「透明よ。何色にも染まる純真なあの子と同じ透明。その2色が交わることなく、一緒に存在してるの」
フレイヤはオラリオのどこかにいるであろう二人を想いながら微笑んだ。
「ふふ、だから下界は興味が尽きないわ」
日付を跨いでしまった……。すいません。
さて、いかがだったでしょうか? 正直、これチートだろって作者自身思ってしまいましたが、レフィーヤがヒロインだとやっぱりある程度反則級に強くないとうまく展開できないのでこんな感じです。
次話でダンまち原作小説1巻の内容は終わりです。それを投稿したあとちょっとしたアンケートを取りたいと考えていますので出来ればご協力、お願いします。
ご意見、ご感想お待ちしております。