冒険者に憧れるのは間違っているだろうか   作:ユースティティア

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明日はソード・オラトリア4巻の発売日! そしてGA文庫の6月の新刊情報にダンまち8巻の文字が! 心の中で狂気乱舞だ、ヒャッホーイ!!

てなわけで戦闘シーン、前回から引き続きレフィーヤサイドからどうぞ。


食人花

「うわー、本当に出番なさそー」

 

 家屋の屋根伝いに移動していた私達は足を止めた。見るとアイズさんは的確にモンスターをほふっていた。これなら私達の出番は無さそうだと心の中で安堵する。

 

「餌を用意されておいて、そのままお預け食らった気分ね」

「あ、わかるかも」

「お二人とも、武器もないのによくそんなこと言えますね」

「そういうレフィーヤも平然としているように見えるけど?」

 

 ティオネさんの問に私は微笑み、頷き返す。

 

「はい。杖がなくても魔法は使えますし、それを発動する時間もお二人がいれば安心できます」

「お、言うようになったわね」

「うんうん、最近のレフィーヤ随分頼もしくなったよね!」

 

 二人に誉められて少し照れ臭くなる。そして考える。

 

 もしも、あの時彼に出会っていなかったら、こんなこと言えただろうか? 仲間と自分を信じる。単純で、それでいて難しいこの事を気づかせてくれた彼と……。

 

「で、あんたはなんでついて来てるの?」

「いやー、さすがにあのまま避難するっていうのも嫌だったので。大丈夫です。せめて魔法を詠唱するレフィーヤの盾くらいにはなりますから。まあ、この分だと出番無さそうですけどね」

 

 彼……トキはそうおどけながら周囲を見渡している。その目はピリピリとしていた。その時……

 

「……?」

「ティオナ?」

「どうかしたんですか?」

 

 突然ティオナさんが周囲を見渡し始めた。

 

「地面、揺れてない?」

「……本当、ね」

「地震……じゃないですよね」

「むしろ……」

 

 地震というにはあまりにもお粗末な揺れ、そしてトキの言葉に不穏なものを覚えた。

 

 

 

「何かが地面を掘り進んでいるような揺れですね」

 

 

 

 トキが言った直後だった。通りの一角が爆発した。

 

「!?」

 

『き──きゃああああああああああああ!?』

 

 女性の金切り声が響き渡る。

 

 次いで石畳を押しのけて地中から長大なモンスターが現れた。ぞっっ、と首筋に悪寒が走る。

 

「ティオネッ、あいつ、やばい!!」

「行くわよ」

 

 全員一斉に飛び出し、屋根の上を跳んで一直線に突き進んだ。

 

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 悲鳴を上げて逃げ惑う市民の中、アマゾネス姉妹は通りの真ん中に、だんっ、と勢いよく着地した。

 

「こんなモンスター、ガネーシャのところはどっから引っ張ってきたのよ……」

「違います」

 

 答えたのはトキだった。

 

「ギルドの人に逃げ出したモンスターの他に今回ショーで使われるモンスターの種類を聞いてきました。その中であのモンスターと特徴が一致するものはありません。つまり、完全な異常事態(イレギュラー)です」

「そう、笑えないわね」

「新種、これ……?」

 

 細長い胴体に滑らかな皮膚組織。体の先端部分に顔はなく、わずかな膨らみを帯びた形は何かの種を連想させた。全身の淡い黄緑色は、ティオナ達に遠征中に出会った新種のモンスターを連想させた。

 

「ティオナ、叩くわよ」

「わかった」

「レフィーヤは様子を見て詠唱を始めてちょうだい」

「はいっ」

「君は──」

「お二人の邪魔にならないようにレフィーヤの護衛に入ります。それとトキでいいですよ」

 

 目付きを鋭くするティオネの指示に他の面々と、件のモンスターが反応した。

 

 地面から生える体をたわませ、力任せの体当たり。それを回避したアマゾネス姉妹が死角から拳と蹴りを叩き込んだ。

 

「っ!?」

「かったぁー!?」

 

 しかし、その攻撃はモンスターの皮膚に阻まれた。アマゾネス姉妹の、第一級冒険者の渾身の打撃が阻まれた。並みのモンスターならばそれだけで粉砕される強撃が表面をわずかに陥没させるだけにとどまり、逆にティオナ達の手足にダメージを与えていた。

 

『───────!!』

 

 ティオナ達の攻撃に怒ったのか、モンスターは体を蛇行させ、押し潰そう、あるいは蹴散らそうと苛烈にティオナ達に攻め立てる。もらえば一溜まりもないモンスターの攻撃をティオナ達は危なげなく回避し、すかさず打撃を叩き込む。

 

「打撃じゃ埒が明かない!」

「あ~、武器用意しておけば良かったー!?」

 

 しかし、結果は等しくただ表面を陥没させるのみ。互いに決め手が見出だせないまま膠着状態に陥った。

 

 その戦闘の外でレフィーヤは詠唱を始めた。

 

「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり】」

 

 その速度は明らかに他の冒険者よりも速かった。

 

『高速詠唱』。詠唱はただ速く言えば良いものではない。体を暴れる魔力を制し、コントロールすることにより、初めて魔法は完成する。詠唱を速くすればその分だけ、魔力のコントロールが難しくなる。それを可能としたのが『高速詠唱』だ。

 

『並行詠唱』と比べ、派手さはないが難易度はほぼ同じだ。それをレフィーヤはこの3年間の地道な努力により完成させていた。今のレフィーヤは通常、詠唱にかかる時間の約3分の1以下で完了させる。

 

 さらに唱えているのは速度に特化した短文詠唱。出力は控えめな分、高速戦闘にも対応できるものだ。

 

 モンスターはティオナ達にかかりきりで、レフィーヤのことを歯牙にもかけていない。

 

 山吹色の魔法円を展開しながらレフィーヤは魔法を構築していく。

 

「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】!」

 

 詠唱を完了させ、魔力を集束した直後……

 

 ぐるんっ、とモンスターがレフィーヤの方を振り向いた。

 

「──ぇ」

 

 体に走る悪寒、そして……

 

 

 

 横から伸びる手に体を突き飛ばされた。

 

 

 

 次いで横にいた誰かが地面から生えた黄緑色の触手により、吹き飛ばされる。ぐしゃり、という音が聞こえた。

 

「ぇ?」

 

 吹き飛ばされた誰かは壁にぶつかる前に()()()()に受けとめられた。地面から生えた触手が不気味に震え、一方ティオナ達と交戦しているモンスターにも変化が現れる。

 

 先端部分を空にもたげたかと思うと、ピッ、ピッといくつもの線が走り、次の瞬間咲いた。

 

『オオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 咆哮が轟き渡る。極彩色の花弁、中央にいくつもの牙の並んだ巨大な口、そこからは粘液が滴っている。

 

「蛇じゃなくて……花!?」

 

 正体を現したモンスターにティオナが驚愕の声を漏らす。

 

 花はトキに目標を絞ったのか、そちらの方を向く。胴体から派生する何本もの触手を周囲の地面からどんっどんっと突き出させ、本体は蛇のようにトキのもとに這っていく。

 

 トキは倒れた体勢のまま影から同じく触手のようなものを出し、花の胴体を攻撃する。しかし……

 

 キンッという音ともに弾かれた。

 

 トキのスキル魔法、【果て無き深淵(インフィニット・アビス)】の影の正体は彼の体から出る魔力が具現化したものである。そして、あまり知られていないが()()()()()()()()()()()()。モンスターとは魔石の魔力によって産み出された生物だ。

 

 

 

 つまり、トキの【果て無き深淵(インフィニット・アビス)】はモンスターに効きづらい。

 

 

 

 もちろん、全く効かない訳ではない。今の彼であればコボルトやゴブリンはもちろんのこと、『中層』に出現するモンスターにもダメージを与えられるし、時間をかけ精神力(マインド)を注ぎ込めばこのモンスターにもダメージを与えられる。

 

 しかし、相手は第一級冒険者でも苦戦するモンスター。今のトキのスキルでは、威力が不足し、精神力(マインド)を注ぎ込む時間もない。

 

 しかしなおもトキは影による攻撃をやめない。

 

「トキ、逃げなさい!」

 

「あーもう、邪魔ぁっ!!」

 

「トキっ、お願い逃げてっ!!」

 

  駆けつけようとするレフィーヤ達を触手の群が行く手を阻む。レフィーヤ達の叫びもむなしく食人花はトキの眼前に迫る。

 

「トキッ!!」

 

 レフィーヤの悲鳴にも似た絶叫。食人花が襲い掛かるその時……

 

 金と銀の閃光がモンスターの首をはね飛ばした。

 

「えっ?」

 

 みたび驚愕の声を漏らすレフィーヤ。彼の窮地を救ったのはレフィーヤの憧憬(あこがれ)、アイズ・ヴァレンシュタインだった。

 

  崩れ落ちる食人花。

 

「アイズ!」

「アイズさん!」

 

 レフィーヤ達を襲っていた触手もまた、力を失ったように地面に落下する。

 

「トキッ!」

 

 レフィーヤがアイズの横を通りすぎ倒れているトキに駆け寄る。トキは必死に起き上がろうともがいていた。

 

 アイズは自分に駆けよってくるティオナ達を視界に入れつつ、レフィーヤと少年のところに歩み寄ろうとする。

 

 だがそれは、アイズを取り囲むように現れた食人花に阻まれた。

 

「ちょ、ちょっとっ」

 

「まだ来るの!?」

 

 ティオナ達の悲鳴を聞きながらアイズがモンスターに斬りかかろうとした瞬間だった。

ビキッ、と前触れなく彼女が持つレイピアが粉砕した。

 

「──」

「なっ──」

「ちょ──」

 

 突如壊れた得物にアイズだけでなく、ティオナ達も言葉を失った。

 

 -----------------------

 

「大丈夫!?」

 

 その頃、トキとレフィーヤにエイナが近寄ってきた。

 

「はあ……はあ……はあ……」

 

 トキはレフィーヤとエイナに支えられながら立ち上がる。

 

「歩ける? 治療のためにここから離れるから」

 

 しかし、トキはエイナの言葉を無視し、状況を見て瞬時に判断を下した。

 

「レフィーヤ、あいつらを倒せるだけの魔法、あるか?」

 

 戸惑いながらもレフィーヤは答える。

 

「う、うん。有るけど……」

「なら準備してくれ。詠唱が完了するまで俺が囮をやる」

「「なっ」」

 

  二人は同時に言葉を失った。エイナはベルの友人として、レフィーヤはトキ自身の友人として、彼がLv.1の冒険者であることを知っていた。

 

「だ──」

「駄目! さっきだってあいつの攻撃を受けてたじゃない!」

「あれは影で間一髪防いだ。衝撃も逃がしたし、大したことない」

「ウソ! ふらふらじゃない! そんな体で……」

「レフィーヤ」

 

 激昂するレフィーヤにトキは優しく語りかける。

 

「頼む、信じてくれ」

 

 真っ直ぐに見つめられる。その目はレフィーヤが惚れた理由の1つ、戦士の目をしていた。

 

「……わかった」

「なっ」

 

 今度はエイナが驚愕をあらわにした。

 

「駄目だよ! 君はまだLv.1なんだからここは【ロキ・ファミリア】の人に任せて……」

「あいつらはどうやら魔力に反応してます」

 

 その目を戦闘に戻し、息を吐く。

 

「あいつらを倒す魔法となると、ヴァレンシュタインさんが発動している魔法では引き寄せられない可能性が高いです」

 

 言いながらトキは影から1つの武器を取り出した。それは剣ではあったが異様な形をしていた。刀身が湾曲しており、その内側に刃があった。

 

 それは、トキが主神ヘルメスから冒険者になった際に送られた、Lv.1の冒険者には不相応な武器、ハルペー。ヘルメスから唯一教わった武器であった。

 

 しかもその大きさは普通のハルペーよりも大きく、先程アイズが持っていたレイピアほどの長さがあった。

 

「大丈夫です。これでも魔力には自信があるので」

 

 彼はそう言って駆け出し……

 

「【この身は深淵に満ちている】」

 

 同時に詠唱を開始した。




戦闘が盛り上がっていますがここで切ります。続きはまた明日。

この小説レフィーヤはLv.4なので若干改造しております。なおレフィーヤの『高速詠唱』はこの小説、オリジナル設定です。

また、魔力で魔力を防ぐ云々もオリジナル設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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