新・うっかり女エミヤさんの聖杯戦争(完)   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
今回でうっかり女エミヤさんの聖杯戦争という話はこれにて終幕となります。
これまでご覧頂きありがとうございました。
この話は2011年春時点で自分なりに考えた「アーチャーを救うにはどうしたらいいか?」という答えの物語ですので、それ以降に判明した設定などは反映されていませんので悪しからず。
楽しんでいただけたら幸いに存じます。


エピローグ

 

 

  エピローグ

 

 

 

 

 

 ――――――永い、夢を見ていた気がした。

 

 何故そう思ったのかはわからない。

 そもそも、此処は抜け道などなき永遠の牢獄で、私もまた、死もなく終わりもなく、ずっとこの場所に固定され、世界の抑止力として使われる時のみ駆り出されるだけの存在でしかないというのに。

 ただ、世界のためだけの奴隷、こき使われ磨り減っていくだけの体の良い掃除屋。

 それがオレだというのに。

 夢など見るはずが無い。そんな現象起こるわけがない。

 なのに、何故かこの胸を満たす暖かい気持ちはなんだろう。

 何故こんな懐かしさに胸が締め付けられるのだろう。

 覚えていない夢が胸を満たすのだろう。

 此処は、永遠の牢獄だというのに。

 意思すら必要ないと踏みにじられ、風化していくのを待つだけのオレがどうしてこんな暖かさを覚えるのか。

 わからない。

 わかれない。

 答えなどないのかもしれない。

 でも妙に胸が締め付けられて、そんな息苦しささえ心地良かった。

 この感情は一体なんだろう。

 

『……○○○○……』

 

 ふと、誰かに呼ばれた気がして、顔を上げる。

 此処は牢獄、オレのための守護者の座。

 赤き丘と剣だけの世界。

 其処にはオレしかいない。

 他の不純物なんているはずがない。

 だというのにオレは、何故かその『誰か』を不思議にも思わずに受け入れていた。

 そう、そこには1人の男が立っていた。

 いつからいたのかなんてわからない。

 一瞬前まではいなかった気がするのに、どうしているのか。

 理由もわからずに、ただ其れを見た瞬間、頬に熱い雫が流れ落ちた。

 永遠に変化など起こるはずのないこのオレのための座に、確かに其れはいた。

 

 ―――自分(オレ)だ。

 まるで砂のように白い髪、赤い外套ではなく赤いケープに黒と茶を基調にした衣服を身に纏っている。背丈も顔立ちも間違いなくオレと同じそれで、けれど肌は褐色ではない自分。

 否、あれはオレなのか。

 オレはあんな顔をしない。

 あんな、陽だまりのような柔らかい微笑みなど、オレは浮かべない。

 あんなふうにオレは笑えない。

 滂沱の如く次々と涙が溢れる。

 何故、オレは泣いている。

 ふと目が合う。

 男は優しく微笑みながら、一歩ずつ歩み寄ってくる。

 太陽のような匂いがした。

 ツンと、鼻の奥が痛む。

 意味も理由もわからぬまま。

 そして、ピタリと、オレの目の前で男は立ち止まり、それから優しく暖かな声で一言放った。

『迎えに来た』

 言葉と共に男は手を差し伸べる。

 彼は太陽のように微笑みながら、オレがその手を取るのをまっていた。

 その手を、オレは取る。

 まるでその事が当然のように、自然と手を伸ばし、重ねた。

 

 ガラガラと、オレが崩れる。

 取った手の先から、溶ける。融ける。同化する。

 2人のエミヤシロウは今1つへと還っていく。

 一瞬で駆け巡る情報は、走馬灯のようにオレの全てを走り抜けていく。

 ―――嗚呼、これは夢なのか。

 

 見たのは一人の男の記録。

 黄金の王を倒し、黒髪長髪の赤いコートを着た男と共に大聖杯を解体し、白い少女と共に旅に出た男の記憶。

 世界中をまわって、危険に身を晒したことなんて何度もあった。

 時には炉心融解をおこしかけているそれを止めに向かって、そうだ。何万もの人を救った。

 そうして男は世界中を回っていた。

 けれど、男は自分とどこまでも似ているようで違った。

 彼はいつも微笑みを絶やさなかった。

 わかりあえぬことはないと、根気良く対話を諦めることはなかった。

 たとえどんな命であれ、手を差し伸べることを諦めることはなかった。

 そして、其の隣には白い雪のような女性がいつもいた。

 彼女はいつだって、誤解されそうになる男を支え続け、道を誤ったりしないようずっといつも傍にいた。

 そうして、永い旅路の果ての臨終の地で、いつしか彼は『英雄』だと呼ばれていた。

 その姿はまるで、いつか夢見たヒーローのように。

 彼はいつだって眩しい笑顔で輝いていた。

 

 嗚呼、これは消滅の間際に見る夢なのか。

 それとも真なのか。

 既に融け出している自分には最早わからない。

 けれど、それはどっちでもよかった。

 夢か真かなんてそんなことはどっちだってよかった。

 やっとオレは眠りにつけるのだ。

 この胸の温かさと満ちた心を抱いて、終わることが出来るのだ。

 なら、これが消滅の際に見る夢なのか、現実かなどとそんなことはきっと些細なことだ。

 永い永い時を経たこの時空の果てで、私は漸く終われる。

 こんな幸せで暖かい気持ちを抱いて。

 だったらどちらでもいい。

 

 

 

 融ける自我。

 融合する身体。

 そうして終わりの間際、かつて守護者エミヤと呼ばれた彼の口元は、安らかな笑みを浮かべていた。

 

 

 『うっかり女エミヤさんの聖杯戦争』完

 

 

【挿絵表示】

 

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